- Interface -

Beginning

Brownie

◇2310 - 第3惑星

 林立するビルの背後に、眩い光をまとった塔が一際高くそびえている。
 その先端は夜空に隠れ、およそ地上からでは窺い知れぬ高さを思わせた。
 都市の彩りが、最も目立つ星の煌めきさえも呑み込んでゆく。
 ここは地球の玄関口。名も知れぬ人々の行き交う、失意と希望のクロスポイント。

・追跡者

 切羽詰まった足音が、暗い幹線を駆け抜けてゆく。
 行き場を失った足音は、絶望的な逃避行を思わせた。
 慌ただしい騒音が鳴り響く中、哀れな逃亡者は逃げ道を求めて街を彷徨う。
 しかし無情にも、前方のゲートが音もなく 26 番線の封鎖を始めた。
「あっ!!」
 声を漏らして、足を緩める。自然と顔が横を向き、執念深い追跡者の姿を認めた。

 青い髪が、風をはらんで僅かにそよぐ。
 逃亡者の、紛うことなき女性の顔が、はっきりと見てとれた。

 だが、次の瞬間、彼女のおよそ人間にはあるまじき異様な容姿に愕然とさせられる。
 青い髪の不自然な光沢。生気の感じられぬ、白すぎる肌。心の深淵すらも見通すような、正視に耐えぬ凶器に似た眼差し。
 およそ目につく限り、あらゆる特徴が著しく人間を逸脱しているのだ。

「速やかに、抵抗を止めて投降せよ。速やかに・・・。」
 街に響く警告も無視して、逃亡者は忌ま忌ましげにゲートを見上げる。
 ゲートの頂上まで、およそ 10 m。
 周囲を一通り見回すと、瞬時に硬い地面を蹴った。
 そして驚くべき事に、軽々とゲートの頂に着地する。
 追跡者の動向を確認。ゲート突破の知らせを受けてか、26 番線には続々と追跡者が集結している。
「(跳ぼう。)」
 彼女は決意した。常人には全く考えもつかぬ行動である。
「(無茶だ、ナイン。)」
 不意に、別の意識が彼女の意識に割り込んでくる。
「(心配しないで。)」
 心で返すと、26 番線に視線を向けた。
「(生きて帰れたら、二度とこんな危険は冒さないわよ。それまで、少し黙ってて、テン。)」
「(君が成功を仮定で話すのは、これが初めてじゃないかな?・・・無事を祈ってる。)」
「(柄でもない事言うんじゃないの。あなたは静かに待っていなさい。・・・じゃあね。)」
 別れの挨拶と同時に、彼女は決死のダイビングを決行した!
 プラスティックの硬い地面が恐ろしい勢いで迫り、唖然となった追跡者の姿が弾丸のように過ぎ去ってゆく。有能な何名かはとっさに凶弾を放ち、その1発が危うく脇をかすめた。
 しかし、そんな攻撃は気にもかけず、着地体制から一気に着地すると、そのまま猛烈なダッシュをかける。
 その頃ようやく体勢を立て直した、無能な追跡者が車に乗り込んでいる間に、彼女は追跡者の目から完全に姿を消していた。

「(うまくいったわ。でも、脱出までは長いわね。)」
 そっと横目で背後をにらむ。追いつかれるのは時間の問題だ。
 直後、妙に人気の少なくなった道に、追跡者のものとおぼしき不穏な動力音が響きわたった。
 26 番線を抜けて、外縁環状線に入る。閉鎖準備に入っていたゲートを再び突破し、スピードを保ったまま一気に脱出路を目指す。
『30 番出口、4km』
 目指す標識を見つけて、彼女は微かに笑みを浮かべた。
 気を取り直して、再び前方を真っ直ぐに見据える。

 その目に、猛スピードのエアカーの姿が飛び込んできた!

 フラフラッと、左に避ける。
 防護壁の冷たい感触が、背中に伝わってきた。
 空虚な視線を、上に向ける。
 車体の銀色が、視界を覆った。

・逃亡者

「ナイン!!」
 弾かれたように、顔を上げる。
 その顔は、彼が逃亡者の同類であることを如実に示していた。
「所長!ナインからの視覚が途切れました。」
 直通回線に叫ぶと、青年の顔をした者は席を立つ。
 背後の扉が慌ただしく開き、初老の男が強張った表情で青年に向かい合った。
「直前の状況は?」
「再生します。」
 震える手つきでコンソールを操作すると、微かな高周波の響きと共に、先刻の情景が浮かび上がった。
「何という事だ・・・。」
 左手で、軽く額を押さえる。
 視界を覆い尽くす銀の車体が、逃亡者の運命を非情にも物語っていた。

− 続く −






撰者から:

 Interfaceシリーズは、Brownieが思い描く未来?世界で起こる断片的エピソードの集まりである。このエピソードは'94に書かれて未だに続きが書かれていないので何とも論評しがたいが、話の雰囲気は好きである。