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TOMOKI NIMURA's home page


「夏の夜」

 私は時々通信販売を利用する。だから今年もカタログの夏の号が送られてきた。今は何処の通販会社も苦しいと聞く。今月末までの10%オフの見出しにつられてパラパラとページをめくっていると蚊帳の写真が出ている。ナチュラル志向の快眠用品として見直されているとのキャッチコピーがついている。本当か嘘かは分からないが、その涼しげな写真を見ていたら懐かしい夏の思い出が沸き上がってきた。
 私は生まれも育ちも東京近郊だが、父方の実家は、豊川にある。姫街道が前を通る古い家屋は今だ健在で、裏に新しい家を建ててもう生活はしていないがまだまだ現役である。その裏の家を建てる前のこと、中学に上がる頃までは毎年夏休みになると弟と一週間ほど遊びに行くのが恒例だった。昼間は畑でスイカ取りやトマトきゅうりの収穫に、豊川で水遊び、前の雑貨屋でプラモデルやアイスクリームを買ってもらったりと遊んで過ごした。そして夜も9時を回れば、子供達だけで居間の隣の部屋で寝かされた。勿論木枠ガラス戸の家だから隙間だらけ、必ず蚊帳を吊って寝た。寝る時間が近づくと布団を敷き、下手に張ると虫が最初から入ってしまうからと大人だけで、上手に吊ってゆく。鴨居には蚊帳用のフックがあって、そこに紐を掛けていき、部屋の中にもうひとつ部屋が出来上がっていくのを飽きもせず眺めていた。入る時は虫が一緒に入らないように小さく広げてさっと入るんだよと、いつも注意されながら床に就いた。明かりを消されてまだ昼間の興奮も冷めやらずに横になっていれば、やがて暗がりに目も慣れて、夏の匂いを香らせる蚊遣り線香の煙の上がるがうっすらと見えてき、蚊帳の小宇宙に閉じ込めらた私はそっと蚊帳に触れてみる。ふすまの隙間から茶の間の明かりと共にの大人の声が洩れてくる。姫街道を行き交うダンプの音と振動に虫の音が重なる調べ聞くひとときが今も五感に焼き付いている最高の夏の原風景のひとつだ。その感覚がおぼろげに遠くなりいつしか寝りに沈んでゆく。今でも夏の夜の夢のような私の体験である。


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