NOVEL 1-3(Second)

ソクトア第2章1巻の3(後半)


 朝のゲラムとの対決を終えて、ジークもライルも家に戻って、皆を迎える準備を
していた。朝ご飯も食べ終わった頃合なので、そろそろ集まっても良い時間だ。
ライル達は、家の中だけでは15人を越える人数は、とても捌ける物ではなかった
ので、外にテーブルを出した。やはり、この土地柄を利用するには、外でのキャン
プ状態で騒ぐのが一番と踏んだのだろう。
 幸いこの所、晴れ続きの天気だったので心配は無い。中央大陸は晴れの天気が多
い。フラルとゲラムも気分良く率先して手伝いをしていた。
「ジーク!椅子は全部で20個程、用意しておこう。何があるか分からんからな。」
 ライルは、張り切って指示を出していた。無論自分でも用意はしてるのだが、他
の所にも目を配りながら、的確に指示を出していたので、この分だと、あと10分
もすれば用意は終わるだろう。
 あとは、料理の用意だが、朝の対決の後、ちゃんと魚を取りに行っていたため、
材料は足りている。あとはマレルとレルファ、そしてフラルの3人が調理の方をや
るだけだ。フラルもここ5日間、料理の事ばかり勉強したせいか、かなり様になっ
てきていた。この成長振りにはレルファも驚くほどだった。
「レルファ!この魚、これでよろしいかしら?」
 フラルは捌き終わった魚をレルファに見せる。ところどころ皮に身が残ってはい
たが、かなりの上達振りだった。
「うん。大体OK!フラルさん、すごーい。」
 レルファは隠さず褒める。
「フフ。きっと今まで、やらなかっただけで、才能はあったのよ。」
 マレルも素直に感心していた。それだけ、フラルの成長を認めていたのだ。
「なんか楽しいわ。やっとけば良かった!」
 フラルは楽しそうに料理を作っていた。他にもレタスを中心としたサラダや、ス
ープにパンを油で揚げた物を入れたりして、工夫をしていた。
(料理は、楽しく、そして真心を込めて作る。手抜きをしなければきっと良い料理
が出来るはず。フラルは、本当に才能あるのね。)
 マレルは、レルファ以外にも後継者が出来たような気分になっていた。
 外はと言うと、ゲラムとジークが食事も出来るように日除けの屋根らしき物を作
っていた。木の支柱に布を張るという簡単な物だったが、あると無いでは全然違う。
支柱に使う木も結構な大きさの物を使っていたので、ちょっとの風じゃ微動だにし
ない物になっていた。
「よし!ゲラム!これで最後の支柱だ。」
「うん!じゃぁ僕は布を張るね。」
 ゲラムもジークも、さっきの対決が嘘のようにピッタリと息が合っていた。その
間にライルは、馬とペガサス達に餌をやっていた。ユード家の裏には意外と大きな
厩舎があるので、結構スペースが空いていた。ペガサス達は、伸び伸びと餌を食べ
ていた。世話をしていると情が移る物で、ライルは、ペガサス達の頭を撫でたりし
てやる。すると、嬉しそうに首を摺り寄せてきた。可愛い物である。
 やがて、修道院の方から音が聞こえた。どうやら、馬車の停車場に何か来たらし
い。間違いなく今日のジークを祝いに来た誰かだろう。
「一番乗りは誰だ?」
 ライルは、停車場の方へと向かう。すると、懐かしい面々が見えた。
「やっとついたな。」
 前に居る男が、荷物を引きながらやってきた。
「おーい!ルース!」
 ライルは名前を呼ぶ。そう。最初に来たのは、ルース達だった。ルクトリアから
来ただけあって、さすがに着くのも早かったのだろう。
「お?ライル!久しぶりだな!」
 ルースのほうも気付いたようで、手を振る。
「ライル?あら。マレルさん達は?」
 ルースの後にアルドが続いてやってきた。
「ああ。マレル達なら、今料理を作ってる最中さ。ゆっくりしてきなよ。姉さん。」
 ライルは、家の方を指差すと状況を教える。そして、その後に2人の子供がやっ
てきた。
「ライルさん!ライルさんですね!お久しぶりです!」
 先に挨拶したのは、アインだった。アインも剣士なので、英雄ライルは憧れの的
だったのである。無論父親の事も尊敬しているが、それと同じくらいライルのこと
は尊敬していた。
「おお。アイン君か。長旅ご苦労だったな。あの日除けの所にジークもいる。ゆっ
くりしてきなさい。ゲラムも居るしな。」
 ライルは、父親の口調で言った。アルドは、それを見て、ライルもすっかり父親
が板に付いていると思った。アインは、早速ジークの所に行った。
「ライル叔父さーん!ジークお兄ちゃんの誕生日おめでとーう♪」
 底抜けの明るさで挨拶して来たのはツィリルだった。
「おお!ツィリルちゃんか。大きくなったな!」
 ライルは、ツィリルを見て本当にそう思った。ツィリルに前に会ったのは、2年
も前の事なので、その時は、まだ子供っぽさが抜けてなかったのだが、今では少女
らしい成長をしていた。
「エヘヘッ!わたしも16歳になったんだもーん♪」
 ツィリルは、にっこり笑った。笑顔が可愛い。ふと、ルースの方を見るとスッカ
リ親馬鹿の顔になっていた。まぁこの娘を見れば、親馬鹿になる気持ちも分からな
くも無い。ライルもレルファに対しては、そう見られてるのかもしれない。
「そうかそうか。あっちにジークも居る。お祝いはジークにも言ってくれないか?」
「うん!ジークお兄ちゃんにも言ってくるねー!」
 ツィリルは、駆け足で日除けの方へと行ってしまった。
「ハハハッ。娘には弱そうだな。ルース。」
「フッ。お前も人の事言えないんじゃないのか?ライル。」
 ライルとルースは軽口を叩いていた。お互い娘には弱いのである。
「私は、手伝ってくるわ。マレルさん1人じゃ大変でしょう?」
 アルドは、家のほうに向かった。
「それが1人じゃないんだよ。レルファと、何とフラルが手伝ってるもんでね。」
「あらあら。尚更見たいわ。あの2人も料理するようになったのねぇ。」
 アルドは、意外そうな顔をしていたが、2人の料理が、どんな物か見てみたい気
持ちの方が勝っていた。主婦の性であろう。
 日除けの方にも人が集まってきた。
「ジーク!誕生日おめでとう!」
「アインさん!ありがとうございます!」
 ジークとアインが、握手を交わす。そして、アインが袋から首飾りを渡す。良く
見るとネームプレートになっているようだ。
「ジークお兄ちゃん!誕生日おめでとう♪これねぇ、わたしが掘ったんだよー。」
 ツィリルは、笑顔でネームプレートの説明をする。アインが精製して、ツィリル
が掘ったのだろう。アインは昔から凝り性で自分の剣も自分で作成したくらいだ。
「そうか。ありがとう!ツィリル!」
 ジークは、その気持ちが嬉しかった。アインにしろツィリルにしろ、お手製で渡
してくれると言うのが、心に染みた。
「ジーク兄さん、今日は、プレゼントだらけだね!これ、僕と姉さんからだよ。」
 ゲラムが、渡すタイミングを計っていたのか、袋から懐中時計を出す。良く見る
と、プサグルの紋章が描かれている。
「これ、姉さんが作ったのを僕が紋章を描いたんだ。大事にしてよね。」
 ゲラムは、軽そうに言うが、なかなか大変な作業だ。ジークは握り締めると、深
く頷いた。
「ゲラム君か!いやぁ、大きくなったなぁ。俺が、最後に見たのは、もう3年前に
なるか?それに見ない内に腕を上げたな?」
 アインは、ゲラムの雰囲気や体格を見て判断する。
「久しぶりだよねー!ゲラム君と会うの。」
 ツィリルもマジマジと見ていた。ゲラムは、さすがに恥ずかしそうにしていた。
「2人共からかわないで下さいよ。僕なんか、まだ姉さんにいじめ・・・。」
「ゲーーーラーーームーーー?」
 後ろから突然声がした。それも少し脅しの掛かった声だった。
「ね、姉さん?料理は・・・?」
「1段落したのよ。それより誰が、いじめてるのかしら?人聞きが悪いわねぇ?」
 フラルが、ゲラムの首根っこを掴む。妙に似合うポーズだ。
「はははは・・・。ごめんなさーい!」
 ゲラムは、脱兎のごとく逃げ出した。
「こら!逃げ足速いんだから!待ちなさい!ちゃんと誤解を解いてから逃げろ!」
 フラルが、それを追いかける。
「ハハッ。凝りもせず、またやってるよ・・・。」
 ジークは、苦笑していた。
「アハッ!楽しそう!・・・あっ!レルファちゃんだー!」
 ツィリルはレルファを見つけて、声を掛ける。なるほど、フラルが来たって事は、
レルファも手が空いたのだろう。
「あ!ツィリルちゃん?うわー!久しぶりー!それにアインさん!久しぶりです!」
 レルファは、嬉しそうに2人と握手する。ツィリルとレルファは歳も同じなので
友達感覚だった。従兄弟の中でも大の仲良しだった。
「久しぶりだなぁ。2年ぶりだな。」
 アインは、レルファを見て綺麗になったと思う。ツィリルもこの頃、少女らしい
体になったと思ったが、レルファは更に可憐さを増していた。
(サイジンが惚れこむ訳だ。)
 アインは、ルーン家のお調子息子の事を思い出す。サイジンは、かなり前からレ
ルファの事になると、騒ぎ出す男であった。レルファも悪い気はしないのだが、あ
まりにも褒めるので、少し頭が痛い所であった。気恥ずかしいのだろう。
「レルファちゃーん。わたし、もう少しで17になるんだよー。」
「本当?じゃぁ、その時には、私、地味な兄さんと違って、今日と同じくらいに祝
っちゃうよー。期待しててね。」
 ツィリルとレルファは仲良さそうに話していた。しかし、言うに事欠いて地味は
無いだろう・・・とジークは思った。
「お前は、ホント俺には容赦ないなー・・・。」
 ジークは、ジト目でレルファを見ていた。
「そういえば、兄さん。継承者になったってホントなの?」
 レルファは、ライルから聞いてビックリしていた。
「継承者?ってジーク。お前、不動真剣術のか!?」
 アインもビックリした。不動真剣術と言えば現在の最強の剣術として名高い剣術
である。それの継承者に20歳になったばかりのジークがなると言うのは、とてつ
もない名誉だ。
「へー!すごーい!ジークお兄ちゃん。」
 ツィリルも、不動真剣術は聞いたことがあった。さすがに親がルースだと剣術の
事にも、かなり詳しくなる。
「ハハッ。まだ成り立てだけどな。でも俺はなったからには受け継いでみせる!」
 ジークは拳を握る。その仕草に決意が、見え隠れしていた。レルファもその変わ
りようにはビックリしていた。いつもの兄には無い何かを感じた。
「すごいな。俺も負けてられんな!」
 アインは、力がこもる。同年代のジークが垢抜けて強いのは知っているが、アイ
ンだって負けたくは無いのだ。そしてルース流剣術だって最強を狙える剣術だと信
じている。それだけに、ジークには多少ライバル心が芽生えていた。
「でも、父さんを超えるって大変よ?出来るの?」
「レルファ。俺の父さんは、凄い人だったよ。「怒りの剣」が教えてくれたよ。」
 ジークは背中に背負っている「怒りの剣」を指差す。普段の剣は、腰に下げてい
るのだが、いざと言う時のために「怒りの剣」は背中に背負っているのだった。
「俺は、怒りの剣から俺の父さんの若い頃の姿を見せられた。正直凄いと思ったよ。
でも、それだけ超える甲斐ってのが出てきたよ!」
 ジークは、嬉しそうに話した。なるほど。不動真剣術の魂は、もう持っているみ
たいだ。レルファもジークの口調から、それは感じ取っていた。
「へぇ。父さんの若い頃かぁ。良いなぁ。私も見たいなー。」
 レルファは、そっちのほうも気になっていた。
「わたしも見たいなー。」
 ツィリルは、ただ単に見たいだけであった。
「参ったなぁ。じゃぁ怒りの剣に聞いてみるしかないな。」
「何?その剣って生きてるのか!?」
 アインは更に驚く。剣に聞くなどという事は、信じられる事では無いだろう。
「うん。何度か会話もしている。」
 ジークは怒りの剣とは何度か交信していた。いろいろ剣のアドバイスなど聞いた
りしていた。慣れると意外と楽に話せるのだ。
「すっごーい!わたしも話したーい!」
 ツィリルは、興味津々だった。
「悪いな。これは俺しか触っちゃいけないんだよ。」
 ジークは困ったように頭を掻く。
「そうなんだー。じゃあしょうがないね♪」
 ツィリルは残念そうにしていたが、素直に従った。この素直さがツィリルの美点
でもあった。
「触る以外にも方法が無いかどうか、今度聞いてみるよ。」
 ジークは何かを隠す性格ではない。凄い体験をしたら、他の人にも体験してもら
いたいと思うような性格なのだ。
「おーい!お前達!用意は出来たのか?」
 ライルの声がした。ルースと一通り話し終えて、こちらに来たのだろう。
「お?ジーク君か?大きくなったなぁ!久しぶり!誕生日おめでとう!」
「ルースさん!お久しぶりです!わざわざ来て頂いて光栄です!」
 ルースとジークは握手をする。その時、ルースは、ジークの力を知った。ライル
が継承者にした事を話してくれたのだが、これで理解できた。
「用意は出来てるな。よし。後は待つだけ・・・ん?ゲラムはどうした?」
 ライルはキョロキョロ見渡す。
「ゲラムなら、もうちょっとで来ますわ。」
 いつの間にかフラルが戻っていた。捕まえて散々怒ったらしい。
「ふえーーー。姉さんの馬鹿ー!」
 ゲラムは、あちこち傷を作りながら帰ってきた。
「またやってたか。しょうもないなぁ。」
 ライルは、苦笑する。もうライルにとっても、慣れっこだった。
「おい。ライル。なんだあれは?」
 ルースが空を指差す。皆その方向を見る。
「ん?あれは、ペガサス!?に何だあれは!?」
 ライルは、さすがにビックリする。ペガサスと見た事も無い生物が、空からやっ
て来たのだ。しかし、害を及ぼすような雰囲気は無かったので、見ている事にした。
「おーーい!ライルー!久しぶりだな!」
 ペガサスから声がした。いや、実際はペガサスに乗っていた人物が挨拶したのだ。
「フジーヤか?それにルイシーさんにトーリス君!それにスラートじゃないか!」
 ライルは懐かしい面々につい声を弾んでしまう。フジーヤ達が空から降りてくる。
「久しぶりだな。お?ルース一家は、もう来てたのか!負けちまったなぁ。」
 フジーヤは、豪快に笑う。やはり嬉しいのだろう。
「お久しぶりですね。皆さん。」
 トーリスは降りて挨拶をする。
「みんな、元気にしてたかなー?」
 ルイシーも挨拶をした。
「賑やかになって来たじゃないのよ。こりゃ俺っちも嬉しいぜ!」
 スラートも調子よく挨拶する。
「ハハッ。相変わらず派手だな。まぁゆっくりしていってくれ。」
 ライルは、半笑いで答えた。相変わらず派手な一家である。
「ああ。さすがに空の旅は疲れたからな。それとジーク!誕生日おめでとうな!あ
とプレゼントだけどな。おーい!グリード!」
 フジーヤは、合図をする。するとグリフォンが擦り寄ってきた。
「新しく開発したグリフォンのグリードだ。可愛がってやってくれ。」
 フジーヤは、グリフォンの頭を撫でてジークの方を見させる。さすがのジークも
少し後さずっていた。
「可愛い!グリードって言うんだ!」
 ツィリルが、間髪居れずにグリードの頭を撫でていた。グリードは、気持ち良さ
そうにしていた。なるほど、かなり人間慣れは、しているようだ。それにしても、
ツィリルは、度胸がある。いやこの場合、本能かもしれない。
「ありがとうございます。いやぁ、グリフォンか。また凄い物もらってしまったな
ぁ。餌はペガサスと一緒で良いんですか?」
 ジークも慣れてきたのか、グリフォンの飼い方を尋ねる。フジーヤはグリフォン
の取り扱いの紙を手渡す。ジークは、それをマジマジと見ていた。
「私、マレルさんの手伝いしてくるね。」
 ルイシーは、皆にウィンクすると家の方へと向かっていった。
「若いねぇ。ルイシーさんは。」
 ルースが老けた事を言う。フジーヤは、恥ずかしそうにしていた。
「俺っちも手伝いに行ってくるぜ!」
 スラートも手伝いに行った。あれで世話好きなので、充分戦力になるだろう。皆
スラートの事は知ってたので、猿がしゃべっても、不思議がってなかった。ツィリ
ルなんかは、最初はスラートの口を引っ張ったりして困らせていた物だが。
「ジーク。私からは、これです。気に入ってもらえるか、どうか分かりませんが。」
 トーリスは、袋の中から剣を取り出す。
「ありがとう!トーリスさん!ってこれ、魔法剣じゃないですか!」
 ジークの目が輝く。トーリスは、ジークのそんな顔を見れて満足だった。
「1日で作った物なので、少し自信は無いのですがね・・・。」
 トーリスは帽子をつまむ。トーリスが恥ずかしい時にする仕草だ。
「いや、この輝きを見れば分かる。良い剣だ。」
 ライルが、冷静に分析する。しかしライルの言うとおり輝きはなかなか凄く、切
れ味は自然と想像出来るくらいであった。
「そうそう。ライル!今日は俺たちだけじゃないぜ?きてるのは。」
 フジーヤが、もったいぶっていた。こう言う台詞を言う時は大体、皆を驚かせる
時だ。
「誰か来てるのか?」
 ライルも調子を合わせる。こう言うと、大体フジーヤは喜んで紹介する物だ。
「そろそろ出て来て下さいよ。」
 フジーヤが誰も居ない所に親指を突き出す。すると、そこから2人の人物が空間
を割って出てきた。さすがのライルも、これにはビックリした。今日はビックリす
ることだらけである。
「久しぶりだな。ライル。それにジーク!20歳おめでとさん!」
「うわぁ!久しぶりです!ジュダさん!」
 ライルは改まって礼をする。
「久しぶりだな。皆、元気なようで安心したぞ。」
「赤毘車さん!久しぶりです!」
 ライルはこの赤毘車には、頭が上がらなかった。何せ女性なのにライルが一本も
取れなかった相手だ。それにジュダも恐ろしく強い事は知っている。
「い、今の、どうやったんですか?」
 レルファは、ビックリしていた。空間から出て来るなんて芸当は、今の魔法研究
では有り得ない事だったからだ。
「次元の扉を開いたんだ。『転移』。聞いた事はあるだろ?」
 ジュダは、そう言うと実際にもう一回やってみせる。今度はジーク達の後ろに扉
を作ってやってみせた。
「うわー!わたしも覚えたいなー!」
 ツィリルは、もう好奇心で、いっぱいだった。
「そうだな。ツィリルなら覚えられるだろうな。そのうち教えてやるよ。」
 ジュダは、ツィリルの才能は、いち早く見抜いていたので嘘は言ってなかった。
「む?ほう・・・。ジーク。もう不動真剣術を受け継いだのか?」
 赤毘車は、ジークが怒りの剣を背負っているのに気がついた。そしてその意味も
理解していた。
「ジュダさんや、赤毘車さんには隠せませんね。昨日に受け継ぎました。」
 ジークは素直に答える。ジークも、昔会った時に、この2人の実力は知っていた。
そして、その洞察能力もとんでもない事を。
「頑張れよ?応援してるぜ?」
 ジュダは、ジークに笑いかけて握手する。こう言う仕草が似合う男でもあった。
「皆、それなりに成長しているようだし、私達も楽しみだ。」
 赤毘車は、嬉しそうに言った。一目で、皆の今の実力を見抜いたのだろう。
「でも、ジュダさん達って何歳なの?」
 ツィリルは疑問に思ったことを口にした。中々聞きづらい事でも、難なく聞いて
しまう。素直な性格なのだろう。この外見の変わって無さを見れば、誰でもそう思
ってしまう所だが、中々聞き出すのは怖い事でもあった。
「今は、ちょっと話せないな。時期が来たら、ちゃんと話すから安心しな。」
「うん。分かった!楽しみにしてるね!」
 ジュダと対等にしゃべってる。ある意味ツィリルは、凄いのかも知れない。あの
ライルやフジーヤですら、どこか畏敬の念を感じる男に、堂々と話していた。
「お?誰か来たようだな。」
 ジュダは停車場の音を察知した。結構離れているのに凄い耳だ。
「あれは・・・。げ!」
 レルファは、少し青くなる。気恥ずかしそうにジークの裏に隠れる。レルファが
苦手としている人物だった。
「グラウド!それにエルディス!良く来てくれたな!」
 ライルは、手を振る。
「ライル。久しぶりだな。それに、お!凄い集まってるじゃないか!」
 グラウドが珍しく声を弾ませる。いつもは物静かなだけに意外だった。
「すげーな・・・おい。こりゃ盛大になるなぁ。」
 エルディスも同調する。
「あらー。凄い人数ねぇ。ジーク君、今日は疲れそうねぇ。」
 繊香がクスクス笑う。ジークは今日は色々言われてる事を察したのだ。
「凄い人。楽しそうですわ〜。」
 麗香がノンビリ答える。相も変わらずマイペースらしい。
「おお!すげぇぜ!達人集まる!って感じで燃えるぜーーー!」
 レイリーは無意味に燃えていた。確かに、ここに居るのは達人ばかりだが、別に
レイリーが燃える理由は、どこにも無い。
「また、なんとも特徴のある人が・・・。」
 ライルは、これだけ居るのに、皆が皆、濃い面子なので今日、無事終わるかが、
かなり心配だった。しかし、もう1人何とも特徴のある奴が居なかった。
「おーい。グラウド。サイジンは、どうした?」
「ああ・・・。あいつか・・・。まぁ見てれば分かる。」
 グラウドは、何だか疲れ切っていた。また何かを、しでかしたんだろう。
「あいつは、やめとけって言ってるのに、聞かねー野郎だ。俺は知らんぞ。」
 何だかレイリーが怒っていた。何かロクでも無い事をしてたのだろう。
「楽しい方ですわー♪」
 麗香は無意味に楽しんでいた。
 レルファは、何やら自分に身の危険を感じていた。いつもサイジンが来るとこう
だ。自分の2年前の誕生日の時には、「永遠の愛を誓います」などと大声で叫ぶ。
前に初めて会った時は、「美しい女神」扱いされるわで、かなり恥ずかしい思い出
しかない。今回も何かやらかすのであろう。
「お前も災難だなぁ。ハッハッハ。」
 ジークは、毎回毎回サイジンの事は、インパクトあるので良く知っていた。何せ
ジークにも「お義兄さん」と呼ぶくらいである。騒がしい男であった。
「おい!お前、本当にジークさんを祝う気あんのか!さっさと出て来い!」
 レイリーは、イライラしながら叫ぶ。レイリーは、ジークの事を尊敬していたの
で、おざなりにされてるのを見るのが我慢出来なかったのだ。
「待たせたね!いやー、用意に時間が掛かってしまったよ!申し訳ない!」
 サイジンは、大声で言う。しかし、皆は、それに驚いたのではなく、サイジンの
格好に驚いた。どこから購入してきたのか、貴族の服に身を包んでいた。そして、
ジークの前に来た。
「ジーク義兄さん!20歳おめでとう!私からの、ささやかなプレゼントだ。」
 サイジンは、そう言うと貝殻の細工を渡す。サイジンは器用な男だったので結構
この手の物を持ってくる事が多い。
「ハハッ。ありがとう。大事にするよ。」
 ジークは、照れながらプレゼントを受け取る。
「だーれーが、義兄さんよ・・・。」
 レルファは、ボソボソと言う。はっきり言って呆れていた。
「おお!これはレルファ!私の目には眩しすぎる女神よ!」
 サイジンは、相変わらずの反応を示していた。
「ちょ、ちょっと!誤解を招くような言い方は、辞めてよね!」
 レルファは、本当に恥ずかしそうにしていた。別に悪い気はしないのだが、さす
がに、こんな大勢の前では恥ずかしかった。
「私の気持ちを、この花細工に込めてあります。お受け取りください。」
 サイジンは、綺麗な花細工をレルファに手渡す。レルファは細工の腕は、認めて
いたので素直に受け取る。
「あ、ありがとう。でもさ。兄さんの誕生日なんだから、兄さんより綺麗なのはち
ょっとねぇ・・・。」
 レルファは、顔が引きつっていた。いつもながら、サイジンの相手は苦手である。
「なんと言うお優しいお言葉!このサイジン、精進致します!」
 サイジンは、ひれ伏して、レルファの手に忠誠を誓っていた。
「オホン!サイジン君。君の気持ちは、ありがたいが、皆の目の前だぞ?」
 ライルは、レルファが恥ずかしそうにしているのを察知して注意する。
「これは義父上!申し訳ございません!私が、レルファを想うが故の行為。お許し
下さい!」
 相変わらず、よく恥ずかしげも無く良く、こういう事が言える物だ。さすがのラ
イルも呆れていた。
「だから辞めろって言ったじゃねぇか?俺の言うことは聞く物だぜ?」
 レイリーは、ニヤニヤしながら冷やかした。
「フッ。君には理解できまい。この崇高なる志が!」
 サイジンは、前髪を撥ねる仕草をする。
「何が崇高だ!お前なぁ。もうちょっと常識を知れ!」
 レイリーは、ジト目でため息をつく。どうにもこの2人はウマが合わないらしい。
「おいおい。やめておけよ。今日は、ジークの誕生日だぞ?」
 アインが止めに入った。さすがに、ここは年配の意地を見せたか、本来、サイジ
ンの方が年上なのに、妙な物である。
「す、すまねぇ!ジークさん。そう言うつもりは無かったんだよ!」
 レイリーは、ジークに謝る。平謝りとでも言うのだろうか?
「おいおい。気にするなって。今日は楽しく行こう!」
 ジークはレイリーの肩を叩く。レイリーは訳も無く感動していた。
「私としたことが、何たる不覚!レルファ。許してください!」
 サイジンは、こんな時でもレルファに謝っていた。中々良い度胸である。
「楽しく行こうよ。ね?」
 レルファは飛びっきりの笑顔を見せる。苦手な相手でも、好感を持って無い訳で
はない。ただ気恥ずかしいだけなのだ。その笑顔で、サイジンは、更にのめりこむ
のだろう。
「はっはっは!相変わらず楽しい奴らだな!」
 ジュダは豪快に笑う。それにつられてみんな笑い出した。
「お?最後の客人が来たのではないか?」
 赤毘車は停車場のほうを見る。
「お?あれは・・・兄さん!」
 ライルは停車場の方に気づいて手を振る。
「おお!ライル!久しぶりだ!」
 ヒルトであった。普段はプサグル王の格好だったが、今は、かなりラフな格好を
していた。ヒルトとディアンヌとゼルバは向かってきた。
「ひさしぶりですね。ライル。」
 ディアンヌも優しい笑顔で挨拶する。
「ライルさん久しぶりです。凄いですね。今回は20人以上集まってるんですか?」
 ゼルバが挨拶しながら周りを見渡す。
「お?ほんとだ。我がお転婆娘も無事着いたようだな。」
 ヒルトは、苦笑しながらフラルとゲラムの姿を確認する。
「げげ!父上!」
 フラルは、愛想笑いをしていた。
「お前、父に向かって「げげ!」はないだろう?」
 ヒルトは、フラルの頭を軽く小突く。
「だってぇ。ねぇ?ゲラム?」
「姉さんは、いつもだもんね!」
 ゲラムは笑顔を見せながら、反撃をする。
「あんた!後で覚えてなさいよ?」
 フラルが、笑いながら怒っていた。いつもながら迫力のある笑顔だった。
「まったく、心配かけちゃ駄目よ?」
『はーい!母上!』
 フラルとゲラムが声を揃えて言う。ディアンヌには2人とも弱いようだ。
「まぁ無事に着いて何よりだよ。それより、ジーク!おめでとう!」
 ゼルバは、ジークと握手をする。
「ありがとう!ゼルバ兄さん!」
 ジークは、このゼルバの事は、尊敬していた。若くしてヒルトの才能を受け継ぐ
才覚を持ち合わせている。この男は、王子というに相応しい男だった。
「全員揃ったようだな。まったく、揃っただけで疲れるなんてな。」
 ライルは、空笑いをする。
「もう!みんな、私達を無視して盛り上がってるじゃないの?」
 マレルが、家の中から料理を運びつつ文句を言う。
「あーら、兄さんまで来たの?こりゃ後片付けも大変そうねぇ。」
 アルドは主婦の顔になっていた。だが嬉しそうだった。
「みんな集まるって、楽しいから良しとしましょ!」
 ルイシーがフジーヤの隣に行く。
「じゃあみんな!料理もあることだし、乾杯するか!」
 ライルが、皆に合図をする。皆、好き好きに飲み物を持った。
「ジーク!お前が合図しろ!」
「え?俺?・・・何か恥ずかしいけど・・・。」
 ジークは、これだけの面々に囲まれたのは初めてであった。個々の家に行った事
はあるが、これだけの面子が、一度に介したのは初めてである。
「じゃぁ、みんな!俺の誕生日に来てくれて本当にありがとう!心からの感謝をす
るよ!・・・乾杯!」
 ジークは飲み物を上にかざす。
『かんぱーい!』
 みんな声を揃えて言った。そして飲み物を上に翳す。
 ジークの忘れられない思い出に20歳の誕生日は、刻まれるのであった。
 そして、平和と言うのが本当に大事であった事をジークは知る。ジークにとって
幸せとは何か?と聞かれたら、間違いなく、この瞬間を思い出す事であろう。
 中央大陸の春の訪れを感じて、皆、楽しむのであった。



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