#28 涙のスポライ
私を先へと誘うものを追いかけたい。
追いつけなくても、あきらめずに、ずっと。
私の2005年は、そんな渇望とも言えるような思いでスタートした。
じゃあ、具体的に何をするか、と考えて思い浮かんだのが多摩テックで開催されている「Hondaスポーツライディングスクール」。
聞くところによると、このスクール、慣熟走行とかタイムトライアルとかが充実しているようだ。
慣熟走行といえば、追って追って追いまくるイメージ(あくまで主観)。
追いかけたいの!という切ない気持ち(?)にしっくりくる気がしたのだ。
最初は1月15日の会に参加予約をしていたのだが、会場の都合でその日は中止、29日に変更したら、今度は私が風邪を引いてしまうという段取りの悪さ。
しかも当日、午後から雨になると天気予報が言う。
でも、「多摩テックのスポライ」は今年の3月で終了、土日開催は1月が最後なのだ。
これは、ちょっとぐらいムリしてでも、行くしかないだろう。
とはいうものの、ホントに大丈夫だろうか、とかなりの不安を抱えつつ、最近マイブームになっている府中街道を走った。
たどり着いた会場では、素敵な出会いが待っていた。
昨年の二輪車安全運転神奈川県大会で知り合った、気のいい指導員さんと、奥さんの桃子さん。
あちこちのBBSで何度もお話しした、運転免許全制覇だがペーパーライダーだという「としちゃん」。
知り合いに会えるのが講習会の大きな楽しみですよ、と桃子さんが教えてくれる。
バイクは、転倒した時の出費がコワイので、レンタル車両を利用した。
選択肢は、CB400SF、Hornet250、VTR250。
なるべくM800とエンジン特性が似ている方がいいと思い、ツインのVTR250を借りたのだが、あまり似ていなかった(当たり前か)。
午前中は個々の課題をじっくり練習する。
急制動・コーナリング・コーナーパイロンの順なのだが、これが実にうまい順番なのだ。
私の弱点にスポットを当てて説明すると、こんな感じである。
急制動:下半身がしっかりしていないと、停止した後、自分が吹っ飛ばされそうになるから注意。
コーナリング:下半身を意識するようになったら、次は身体の3次元的な動きでコーナリング。
コーナーパイロン:3次元的な動きがわかったからって、いつでもどこでもバイクをなぎ倒せばいいわけではなく、街走りを考えて、ハンドリングで通過すること。
何という精緻なカリキュラムなんだろうか、と言うより、私って、ホント、どこにでもいる普通のへなちょこなのだな…。
昼食後は、コーススラロームのタイムトライアルである。
コースは、コーナリングパイロン、小さなシケイン?のあるコーナー(民家前コーナー)、上り坂、ミニサーキット(コンテナ前コーナー)、下り坂、オフセット、最終コーナリングでゴールとなる。
最初はウォーミングアップということで、全員でコースをぐるぐる回る。
この時、コーナリングパイロンとオフセットの前で身構えているインストラクターがいろいろアドバイスをしてくれるのだが、私の時は、ひと味違った。
ちょっとこっち来て!とばかりにコースから引っぱり出され、徹底的に指導されてしまったのだ。
「バイクだけ倒し込んで、身体が逃げているため、リーンウィズになっていないです。」
「カーブは出口まで姿勢を崩さずに。」
いちいち納得できる指摘で、身に染みた。
貧相で非力な私だけれど、軽いバイクに乗ると、やっぱり力でこじってしまうのか。
そうだとすると、練習はなるべく重たいバイクでやるといいのかもしれない。
小手先の細工なんかできないように。
そういう点では、VTRという選択はイマイチだったかも。
ウォーミングアップの列に戻るため、右ウィンカのスイッチを入れるが、ウィンカが出ない。
「ウィンカが出ないんですけど!!」
焦ってインストラクターに訴えると、ウィンカは外してあるから出ませんよ!と笑顔で説明されてしまった。
そしていよいよ、タイム計測。
計測は3人ないし4人が一組となり、順番にライダー・計測員を務める。
走行は、各組が順番に、つまり、A組の1番ライダー、B組の1番ライダー…A組の2番、B組の2番、という順になる。
私の組はゼッケン4、11,19、26の4人。
26人中26番のゼッケンを付けた私は「大トリ」、25番のとしちゃんの次を走ることになった。
計測スタートの合図として、ライダーは、後ろの走者(要するに次の走者)が出すじゃんけんを見て、大声でそれを計測員に告げる。
私はVサインの意味を込めて「チョキ」を出した。
振り向いたとしちゃんが、大きな声で宣言する。
「パー!!」
…え?
そりゃ、私、パーかもしれないけど、それは違うだろう!!
一瞬の沈黙の後、周囲にいたインストラクターや計測係が一斉に笑い転げた。
としちゃんのおかげですっかりリラックスした私だったが、走行はやっぱりヘタクソだった。
何と言ってもオフセットが苦手で、オフセットと言うより、「細長8の字」になってしまうのだ。
シケインやミニサーキットで一生懸命タイムを短くしても、オフセットで全て帳消しになってしまうようだった。
せめてパイロンを小回りできるよう、一瞬クラッチを切るワザにも挑戦してみたが、バランスを崩して地面をキックするハメになってしまった。
桃子さんが撮ってくれた写真には、全然ニーグリップのできていない、情けないオフセット姿?がしっかりと記録されていた。
途中、雨もぱらついたけれど、私にとって最初で最後のスポライは、ほぼつつがなく終了しつつあった。
閉講式では、タイムに応じて、「コーススラローム・タイムトライアル・プライズ」というカードが渡される。
上から順にプラチナ、ゴールド、シルバー、ブロンズとなっていて、何だか聖闘士星矢のようである。
私のタイムは1分35秒4、プライズは「ブロンズ」だった。
参考として、各プライズの対応タイムを下表に示す。
プライズ認定の基準は、鈴鹿サーキット交通教育センターのスーパーインストラクター(素敵な響きである)を基準(ハンディ0)として、タイムがどれくらい離れているかをハンディキャップに換算するものだそうだ。
(スーパーインストラクターはこのコースを0秒で走破する、という意味ではないらしい)
Table プライズ一覧(「多摩テックスポライコース図」より転載)
女性 |
DRY |
WET/シニア |
シニア&WET |
男性 |
DRY |
WET/シニア |
シニア&WET |
プラチナ |
0.00〜1.07.9 |
0.00〜1.12.9 |
0.00〜1.17.9 |
プラチナ |
0.00〜1.07.9 |
0.00〜1.10.9 |
0.00〜1.15.9 |
ゴールド |
1.10〜1.14.9 |
1.13〜1.17.9 |
1.18〜1.21.9 |
ゴールド |
1.08〜1.11.9 |
1.11〜1.14.9 |
1.16〜1.19.9 |
シルバー |
1.15〜1.19.9 |
1.18〜1.23.9 |
1.22〜1.27.9 |
シルバー |
1.12〜1.15.9 |
1.15〜1.18.9 |
1.20〜1.23.9 |
ブロンズ |
1.20〜 |
1.24〜 |
1.28〜 |
ブロンズ |
1.16〜 |
1.19〜 |
1.24〜 |
シニア・・・男性35歳以上、女性30歳以上
最初にも書いたけど、多摩テックでのスポライはこの3月で終了する。
これは、小学生以下を対象とした遊園地という本業に徹したい、という多摩テック側の考えらしいのだが、少子化の進む今日、あまり良い戦略には思えなかった。
それより、中高年のリターンライダーを狙って、スポライをウリにした方がいいんじゃないだろうか?
スポライの会員カードか何か作って、ライダーのパパママやジジババが子どもや孫を連れてきたら、遊園地半額にするとか。
スポライの時間中、子どもを預かって遊園地で遊ばせてくれるサービスも導入すれば、ママさんライダーも思いっきり練習できるぞ。
という話は、システムアナリストの国試に落ちた私が書いても、全然説得力が無い(勉強はそれなりにしたけど)。
帰り道は雨だったし、その夜はカゼが一気に悪化して、高熱を発してしまったが、気分は爽快だった。
だって、自分の目指すこと、やってみたいことをひとつ、実現したのだもの。
だが、ちゃんとオチは別にあったのだ。
後になってわかったことなのだが、あのゼッケンは、慣熟走行の後、インストラクターにより、実力順に割り振られていたそうだ。
すると、26人中26番だった私は、ペーパーライダーよりレベルが下、ということである。
今まで、自分では、少しずつ上達しているつもりでいた。
でも、現在の実力は、プロのインストラクターが客観的に判断すると、ペーパーライダーにも劣るレベルということだ。
桃子さんは、最初に発見したときより、100倍くらい上手くなってますよ、と言ってくれたけれど。
かなり真剣に悩んでしまった。
教える側にしても、教え甲斐のない生徒なんだろうな。
どうしたら、自己満足でなく、本当の意味で上達できるんだろう?
いずれにせよ、さらばスポライ、痛い現実を見せてくれてありがとう。
そんなわけで、私にとっては一期一会、文字通り涙のスポライになってしまったのだった。
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