6.2.     河川敷

あれから数週間。会社からの帰路、電車の窓から、河川敷の教習所を見下ろすと、「課題走行のエリア」に教習生と指導員がいるのが見えることがある。指導員は雨でもないのに雨合羽を着ていたりする。風が冷たいのだろう。秋なのだ。あの場所に私のいた夏は過ぎ、あそこは私の居るべき場所ではなくなった。今はすでに懐かしい、思い出の河川敷なのだった。

とはいうものの、免許取得後1年以内に、交通違反点数が3点たまると、「初心運転者講習」を受講しなければならない。どこの教習所で受けるかは警察から指定されるが変更できるそうだ。もしも私が受講することになったら、通いなれた、この河川敷の教習所に来るだろう。そして、

「こんにちは、つるばらです。去年の夏、中免持ってるのに27時間も教習受けて、2回卒検に落ちた、平均台が苦手で、波状路が好きな・・・。」

とかなんとか自己紹介して、指導員に思い出してもらうのだろうか。

実は、教習開始直前に、通行区分違反で既に1点ゲットしているのだ。県警のウェブサイトを読んだが、大型自動二輪免許取得で、この1点がチャラになったかどうか、私にはよくわからなかった。「免許取得後」の点数でないことだけは確かなので、カウントされないような気もするが。

いずれにせよ、人並み以上に安全運転を心がけなければ、思いっきり情けない未来が待っている。

さて。

私は新しいバイクに少しずつ慣れてきた。ドゥカティのモンスター800S.i.e。800CCだが、400CCのバイク並みの軽い車体が体になじんでとても扱いやすい。シート高を下げ、ハンドルもイージーポジションに換えてあるが、153cmの身長では、足の指しか地面に着かない。それでも、不安はあまり感じない。

教習生活が長かったおかげか、バイクの反応に敏感になったような気がする。エンジン音、フロントフォークの動き、リアサスペンションの沈み、ひとつひとつが、私にいろいろなことを語りかけてくるように思える。

「半クラッチを長引かせるんじゃなくて、丁寧につないでくれ。」

「ブレーキはもっと、優しくかけてくれ。」

バイクが言葉を話すとしたら、こんな風だろうか。

夫は私の教習所の話を聞いてから、信号待ちの度に、なぜか必ずステップの上に立ち上がるようになった。やっぱりこれは信号待ちの技だったのだろうか。でも、確かに、全ての信号をスタンディングスティルでやり過ごせるなら、足は地面に着かなくてもいい。私は野心を隠した目で、そんな夫の、ではなくてGSの後姿を眺めている。

END

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