5.5.     卒検(2回目)

水曜日。年休を取り、2回目の卒検を受けに行った。私は小心なところがあり、試験などというと、つい、会場に早く着きすぎてしまう。この日も、教習所の玄関が開くか開かないかというような早い時間に到着してしまった。

玄関までの最後の数メートルをノロノロと進んでいくうち、どこかで見たような、それもかなり頻繁に見たような、長身の人影と出くわした。誰だっけなあ、と視線をちらちら投げると、相手も同様に記憶を辿っているらしく、不審そうにこちらを見ている。

 !わかった、普通二輪の指導員だ。私服なので、通りすがりの学生みたいに見えるが、間違いない。・・・が、それがわかったからって、ここでどうすればいいのだろう。顔はお互いよく見かけるが、話したこともない先生と生徒、そこはかとなく緊張感を漂わせながら、それぞれ朝一番の校舎に入った。

この日の検定は、私の苦手な「コース1」だった。しかも大型二輪の受検者は私一人。ここで落ちたら、今日の大型二輪の合格率は0%になってしまう。落ち着かない気分のまま、検定が始まってしまった。

この日の大型二輪の検定員は、「大きい先生」だった。あの彼女を一度不合格にした先生だ。重たい影を引きずっているような圧迫感を味わいながら検定を受ける。

急制動の後、優先道路に入る。少しもたついていた普通二輪の教習生を先に行かせることができない。そして波状路からUターンしてスラロームに入るところで、バランスを崩しそうになる。エンジンに頼って、何とか通過する。

失敗した!ゴールする前にはっきりわかった。それも、相当ひどい。前回より悪い結果だろうと確信した。

この時の合否発表も、廊下で行われた。大きい先生は、優先道路で二輪車を行かせなかったこと、スラロームに8.4秒もかかっていること、平均台であまりに時間が足りないこと、などを説明した後、だめだと思ったでしょう、というようなことを言った。

「それとね、右左折で、大回りになりすぎます。体をひねるようにして。腕短いからね、反対側が引っ張られて大変だと思うけど、こうっ!うん!切って、うん!」

言われるままに、動作を真似た。大小2匹のヤモリのように、両腕で壁に張り付いて、右に曲がったり左に曲がったり。大きい先生の所為で不合格になったわけではないのに、なぜか必死の形相で教えてくれる。まだ合否発表の途中なのだが、廊下で左折小回りの指導なんか受けていていいのだろうか。

そんな調子で、2回目の卒検は終わり、私は平日真昼間の街に放り出された。

Previous Next

本文目次へ

 トップページへ戻る