5.6.     補習(2回目)

2回目の補習は、木曜日の18:40からだった。出張先から着替えを抱えて直行した。この日、私が引き当てたのは、あのカリスマ講師だった。出たー、という感じだった。

二輪教習の集合場所でバイクの準備をしていると、少し離れたところに班長がいた。私を見つけると、しかめっ面であごをしゃくって怒るしぐさを見せる。ずいぶん前に見極め出したのに今ごろ何をやってるんだ、と言っているらしかった。頭を下げたら、たぶんまだ歯が1本足りないままの顔で笑っていた。

満月の下、遠くに稲光を見ながら補習がスタートする。

「左折小回り下手な人は、コース1苦手なんですよ。」

ミもフタもない、という感じだが、図星である。やはり、カリスマ講師はすごい。

平均台の通過では、ハトポッポを懸命に口ずさむが、うまくいかない。10秒以上かけて通過するためには、少なくとも、「みんなで仲良く」までは平均台の上にいなきゃならないのに。

カリスマ講師によると、私は基本どおりに平均台に進入しておらず、補習1回で直すのはムリらしかった。

「それは、誰かから教わりましたか?自分でアレンジしましたか?」

ぎくり、としてしまう。いつの間に、正しくないやり方になっていたんだろう?

「まだ1段階とか、2段階なら、直していけばいいんですが。見放すということではないんですよ。やりやすいようにやってください。課題で減点されても法規走行で失敗しない、という方法もありますからね。」

ショックだった。なんでこういうことになっちゃったんだろう。しかし、カリスマ講師がこう言うのだから、やりやすいようにやっても、合格の可能性はある、ともとれる。というわけで、私は最後(になるはず)の戦術を取ることにした。

私の戦術、それはリソースの追加投入である。要するに、別料金払って、自主練習をすることにしたのだ。結局、一番安直な解決策か。自主練習とは言っても、指導員はつくし、バイクも借りられる。

補習の最後に、おそるおそる、カリスマ講師に声をかけた。

「何ですか。」

とても優しい口調だったので、思い切って切り出してみた。

「あの、実は、今、事故で、自分のバイクが無くて、卒検の前に、自主練習を受けたいんですが、どうすればいいでしょうか。」

「それはフロントで聞いてみてください。」

・・・何だか、最後まで、この指導員とは、お互いに気分のいい会話ができなかったような気がする。事故なんて単語出してまずかったな。ここで、テクニカルな質問をできれば、いい感じで終われたんだろうな。

軽くめげそうになったが、まだ自分には、自分でやると決めたことがある、と気持ちを奮い立たせて、フロントへ向かった。

Previous Next

本文目次へ

 トップページへ戻る