NOVEL 1-5(First)

ソクトア第2章1巻の5(前半)


 5、ギルド
 冒険者が、集う国ストリウス。ここが、冒険者にとって住みやすい街であるのは、
既に周知の事実なのだが、何故かと言えば、やはり宿の多さとギルドの多さからだ
ろう。
 「ギルド」と言うのは、一般的に集まりの事で、グループみたいな物だが、他の
国では、大して認められて無いため、独立団体としての意味合いが強いが、このス
トリウスでは違う。国としてギルドを認めている国なので、ギルドが出来ると言う
事は、組織が出来る事と同意なのだ。そして、組織同士の争いなどが生じる事もあ
るが、あらゆるギルドが、冒険者に対して無償でサポートするので、ギルド会員は
毎日のごとく増えている。
 ストリウスの中でも、最高のギルドは、今3つある。一つは盗賊などを主に雇っ
ている「闇帽子」、そして、一般的に秩序を守る役目を担っている「光同志」、そ
して修行をする者を多く雇っている「気闘園」の3つである。それぞれ最初の文字
を取って呼び捨てにされる事が多いようだ。闇帽子は「闇」、光同志は「光」で気
闘園は「気」である。
 ジーク達は、ミリィに案内されるまま冒険者としてギルドの登録をしようと思っ
た。ジークは、ストリウスで何をするか?と言うトーリスの答えに、「冒険者」に
なると言う答えを導き出したのだった。冒険で、さまざまな経験を経て、自分を高
めようとしていたのだ。
「で?どうするネ?「闇」か「光」か「気」か、選んだ所に案内するヨ。」
 ミリィは、ジークにストリウスの案内を頼まれていた。ミリィは、珍しく喜んで
引き受けたのだった。この前のジークとの手合わせの後から、妙に緊張が解れたら
しく、ジークに懐いていた。
「俺的には「気」には、興味あるけど・・・なぁんか違うんだよなぁ。」
 ジークは、考え込んでいた。ジークは、冒険者になりたいのだが、どうにも血生
臭い闘争とかは、好きでは無かったので、3つの組織の事を聞くと、少し気が引け
た。いざと言う時に、乗り込まなければならないのかと思うと憂鬱になるからだ。
「こう言っちゃなんだけど、他に有名な所は無いヨ?」
 ミリィは、少し心配していた。自分の案内が、悪かったかもしれないと不安がっ
てるのだった。
「闘争なんて見たくないなぁ・・・。」
 ゲラムは、争いとかを見るのは好きでは無かった。
「平和的に解決を望めないのは愚か者のする事ですからな!ハッハッハ!」
 サイジンは、相変わらず馬鹿笑いをしている。しかし、どこにその3つのギルド
の人間が居るかも分からないのに、良い度胸である。
「おい。あんたら、誰が愚か者だって?」
 妙な格好をした男が5人、ジーク達に近寄ってきた。どうやら、サイジンの言う
事が聞こえたらしい。
「あれは、「闇」の人達ネ。」
 ミリィは、臨戦態勢を作る。「闇」の5人組は、ケンカ売る気マンマンだった。
「フッ。あなた達は、耳が遠いらしい。あなた達を含め人間同士で争いをするなど
無益な事だと、言っているのだよ。」
 サイジンは更に挑発する。両手を外側に開く馬鹿にしたポーズをする。
「あの人たち、何かやだなー・・・。」
 ツィリルも険悪な雰囲気を、感じ取ったらしい。男達を睨みつける。
「てめぇ、命が無いと思えよ!」
 男達は、それぞれナイフを握る。盗賊たちは、ダガーやナイフを好むと言うが、
小回りが利くからだろう。それに、ちょっとした脅しにはなる。
「フム。短気なお方達だ。私が、お相手してあげよう。皆さん下がって。」
 サイジンは、仕方ないと言う風に剣を抜く。ジーク達は、言われた通りに少し下
がった。周りに居た一般人も険悪な雰囲気に巻き込まれないように下がった。
「なんだ?おめぇが犠牲になって、仲間をに逃がそうってのか?」
 男達は、勘違いをしていた。
「思い上がってますねぇ。あなた達のお相手など私1人で充分だと言う事です。」
 サイジンは、言い放つ。レルファが少し心配していたが、トーリスやジークが安
心して見ている辺り、サイジンの言う事は本当なのだろう。
「その言葉、後悔させてやるぜー!」
 男達の1人が、飛び掛る。
「フム。ボキャブラリーが少ないのは、哀れな事ですなぁ。」
 サイジンは、まだ余裕を見せている。飛び掛った男のナイフが鼻先に来た瞬間、
男は、いきなり吹き飛ばされた。
「何だ!?」
 男達が、一瞬怯む。サイジンは、剣すら使わずに、ただ思いっきり蹴りを入れた
だけだった。
「ゲフォ!」
 蹴り飛ばされた男は、腹を押さえながら、蹲る。もう、戦闘意欲は無いだろう。
中々良い蹴りであった。
「てめぇ!・・・くそ!纏めてやんぞ!」
 男達のリーダー格が、他の者に合図をする。すると、サイジンを4方向から囲む。
サイジンは、一瞥して、男達を見渡すと、ゆっくりと剣を抜く。
「良い機会です。あなた達にも「死角剣」を見せて差し上げましょう。」
 サイジンは、剣を片手で握る。そして、手を交差するような構えは、「死角剣」
独特の構えだった。こうする事によって、あらゆる死角を攻める幅を作るのだ。こ
れこそ、サイジンが幼い頃から習ってる剣の極意だった。
「うるせぇ!掛かれー!」
 リーダーの合図で男達は、一斉に飛び掛る。
「フッ。」
 サイジンは、髪を掻き揚げながら、余裕しゃくしゃくで後ろにひとっ飛びする。
そして、男達が振り向いた瞬間、男達の間を駆け抜ける。
 シュンッ!
 サイジンは、通り抜けると、指をパチンと鳴らす。
「ギャアアア!」
 男達は、その合図でリーダー以外バタバタと倒れる。リーダーは、オロオロして
いた。サイジンが通り抜ける間、男達は、まるで剣先が見えなかったのだ。それこ
そ、正に「死角剣」の真髄だった。
「安心しなさい。峰打ちです。」
 サイジンは、剣の背を指差す。
「へぇ・・・。サイジンって意外と強かったんだ。」
 レルファは感心していた。いつものサイジンを見てると、とてもそうは思えない。
「見てくれましたか!レルファ!ハッハッハ!」
 相変わらず馬鹿笑いをしていた。これが無ければ、レルファも見直す物を・・・。
「チッ!」
 リーダーは舌打ちすると、サイジンがレルファを見ている内にナイフを投げる。
 カキィン!
 サイジンは、それを見もせずに剣で弾き返す。相変わらずレルファに馬鹿笑いを
していた。
「ば、化け物が!・・・なら、これならどうだ!」
 リーダーは、レルファに向かってナイフを投げる。レルファは、ビックリしたが、
すぐさま魔法で防御する構えを見せる。
 バシィ!
 しかし、その前にサイジンがナイフを掴んで止めた。しかし、手からは少し血が
滲み出た。
「・・・レルファを狙いましたな?」
 サイジンは、いつもの馬鹿笑いが一瞬にして消える。とてつもなく恐ろしい形相
に変わった。ナイフを捨てると、リーダーの方に一歩ずつ近寄る。
「あ、あ、あうあうあう・・・。」
 リーダーは、声にならない悲鳴をあげていた。サイジンの目は据わっていた。
「馬鹿な奴だ。サイジンを本気で怒らせやがった。」
 ジークは、さすがに止めに入ろうと思ったが、サイジンは、来ないように目で訴
える。顔は笑っていたが、目は本気だった。
「来るな!来るなぁ!」
 リーダーは、ナイフをブンブン振り回す。それをサイジンは冷静に弾き飛ばす。
「さて、少し痛い目を見てもらいましょうかね?」
 サイジンは、リーダーの襟を掴む。リーダーは、既に失神寸前だった。
「サイジンさん、怖いよぉ・・・。」
 ツィリルが、泣きそうな声で言った。
「そこまでです!」
 何か上の方で声がした。どうやら建物の上に人が立ってるようだった。
「このストリウスの秩序を乱してはならない!我々「光」が、その男の身柄を預か
ろう!あなた達は見たところ被害者のようなので拘束は致しません!」
 どうやら、秩序を守る「光」のギルドの者だったらしい。それにしても、勝手な
言い草である。
「フム。なるほど。助かったねぇ?あなた。次やったら命はありませんぞ?」
 サイジンは、奥から捻り出す様な声でリーダーに告げる。リーダーは、既に失神
していた。サイジンは襟を離す。
「ご協力感謝します。「闇」の者の暴挙は、目に余る者がありまして・・・。」
 今度は「光」のリーダー格が挨拶をする。敵意は無さそうだ。
「サイジン!・・・あんまり無茶したら、駄目だよ?」
 レルファは、少し涙ぐみながらサイジンの手の治療をする。「治癒」の魔法を使
っているようだ。この魔法は人間の回復力を増してくれる。
「申し訳ない。私は、レルファを守ろうと思った故の行動です。お許しを。」
 サイジンは、相変わらず深く頭を下げる。いつもの調子に戻ったようだ。レルフ
ァは安心する。
「もう・・・馬鹿!」
 レルファは、恥ずかしくなって顔を赤らめた。しかし、少し嬉しかった。
「ふーむ。しかし「闇」の者を、これだけ早く仕留めるとは・・・。あなた方は、
かなり見込みが、ありそうだ。「光」に来る気は無いでしょうか?」
 「光」のリーダー格が勧誘に来た。これだけ強いと、スカウトもしたくなるのだ
ろう。しかし、ジークの答えは決まっていた。
「サイジンも言ったはずだ。あなた達も「闇」とやらも一緒だとな。悪いが、他を
当たってくれ。俺たちは、闘争に加わる気は無い。」
 ジークは、そう言うと、サイジンにも合図をして、ここから離れようとする。
「あなた達なら優遇しますが!」
 リーダー格は、まだ勧誘する。これだけの逸材だと、しつこくもなるのだろう。
「フッ。しつこいと嫌われますよ?」
 トーリスは、冷ややかな目を向ける。リーダー格は、少したじろぐ。
「私達が何で拒否しているのか、理由が分からない内は、誘わないで下さいね?」
 トーリスは、そう伝えておいた。トーリスも表情には、全く出ていないが、怒っ
ていた。この勝手な事を言うリーダー格にも、もちろん手を出した「闇」のメンバ
ーも。ジークの言った通りの事もあるが、さっき「光」のリーダー格は、「闇」の
メンバーを仕留めるのが早いと言っていた。
 これで、トーリスは気づいて、皆に耳打ちしておいたのだ。それは、この「光」
のメンバーは秩序を守ると言いながらも、自分達の実力を測るために、わざと「闇」
の者を放っておいた事にだ。そして、わざとらしく助けに入る。それが、シナリオ
だったのだろう。それを知って、ジーク達は虫酸が走っていたのだ。
 さすがに「光」の者達もそれを聞いては追って来れなかった。
「ジークさん、ごめんなさいネ。」
 ミリィは、少し暗い表情をしていた。
「どうしたんだよ?ミリィさん。」
「このストリウスの街、私好きネ。でも、ああ言う連中のさばらせているの、私も
許せないノ。なのに、今まで見過ごしていたって思うと、悪いネ・・・。」
 ミリィは、ストリウス人なだけに、今の醜い争いと虫酸が走るような行為に耐え
られなかったのだろう。
「ミリィさん。深く考えすぎだよ。あの連中とミリィさんは違う。そうだろ?」
 ジークは、この上なく優しい目をしていた。ミリィは、その目に吸い込まれそう
になった。しかし、マジマジと見ると、嬉しくなって涙ぐんでいたが笑顔を見せる。
「弱気になってたヨ!ありがとうネ!」
 ミリィは、気恥ずかしそうにジークにお礼を述べる。
「しかし、こうなると残りの「気」も、たかが知れてるよねー。」
 ゲラムは、ため息をつく。闘争を起こしている連中と組むのは、真っ平だった。
「む!お前さん達強いの!」
 いきなり、変な爺さんが声を掛けてきた。格好からして、どこにでも居そうな爺
さんだが、妙な威勢を感じた。
「お、俺達ですか?」
 ジークは、少し面食らった。
「あーあー!何も言わずとも分かるぞ!お前さん達、ギルドを探しておるじゃろ?」
 爺さんは、勝手に納得しながらウンウン頷いていた。しかし、ジークはビックリ
していた。
(何でこの爺さん、分かるんだ!?)
「しかも、あの3ギルドじゃあ面白う無いと思っとるじゃろ!言わんでええ。」
 爺さんは勝手に捲くし立てていた。
(この爺さん、もしかして心が読めるのか!?)
 ジークは、ひたすらこの爺さんの気迫に押されていた。
「ちょっと兄さん、何を驚いてるのよ。」
 レルファが、ジト目でジークを見ていた。
「だって、何で俺達の事、そんなに見抜けるんだ!?」
 ジークは、ひたすら恐れおののいていた。
「だって、この爺さん。さっきサイジンの闘いの辺りから見てたじゃない。」
 レルファが、言うとジークは赤面した。皆、笑いを堪えようと必死だった。皆、
気が付いていたらしい。
「ああ!どうせ、俺は信じやすいですよ!単純ですよ!」
 ジークは、歯軋りしながら、ひたすら赤面していた。
「ほっほっほ。精進が足りんのう。」
 爺さんは、抜け抜けと、こんな事を言う。
「大体爺さん!俺達に何の用だ!」
「フッ。おぬし達、ギルドを探しておるのなら、良い所を紹介しようと思っての。」
 爺さんは、ニヤリと笑う。この上なく怪しい笑顔だった。あんまり信じたくは無
かった。しかし、皆を見ると、興味津々そうだった。
「どうせ、これで「気」の使いとかって、言うんじゃないだろうなぁ?」
 ジークは、すでに疑心暗鬼になっていた。
「あんな所と、一緒にするな。わしの所は最高のギルドじゃぞ?」
 爺さんは、憤慨していた。
「わしの所?」
「・・・ほっほっほ。聞き流して下され。」
 爺さんは、冷や汗を掻きながら笑っていた。
「どういうギルドなのヨ?」
 ミリィが、興味津々になっていた。
「良くぞ聞いてくれた!そのギルドはなぁ。冒険者の基本道具を、ただで貸してく
れる!しかも、それだけではないぞ?名前もその名の通り「希望郷」じゃ!ええ名
じゃろう?入らなきゃ損するぞい?」
 爺さんは、ペラペラよくしゃべる。良くこんなに動く物だ。
「現在のギルドは、全て基本道具の貸し出しは、していますよ?それプラス何かの
特典ってのが普通なのでは無いでしょうか?」
 トーリスは、下調べしてあったので、爺さんに突っ込む。
「ああ!持病の癪が!」
 爺さんは、明らかに誤魔化していた。かなり白々しい。
「おじいちゃん。だいじょーぶ?」
 ツィリルだけ本気で心配しているようだった。純粋と言うか何と言うか・・・。
「フゥ。年寄りは大事にするもんじゃぞい?」
 爺さんは、横目でチラリとジークの方を見る。わざとらしい仕草だった。
「ミリィさん。ストリウスって、いつもこんなか?」
「偏見ヨ。この爺さん変わってるだけネ。」
 2人共、呆れていた。2人だけでなくツィリル以外は皆だ。
「冷たいのう。わしゃ65年生きてて、こんなに冷たくされるのは初めてじゃ。」
 爺さんは、わざとらしく涙を見せる。
「ねぇ。ジークお兄ちゃん。可哀想だよー。」
 ツィリルは、かなり騙されているようだ。
「お嬢ちゃん!何て優しいんじゃ!わしにも譲ちゃんのような孫が居てのう。」
 爺さんは、関係の無い事まで言い出す。
「ねぇ。その子可愛い?」
 ツィリルが、目を輝かせながら言う。
「も、もちろんじゃよ!嬢ちゃんに似てるからのう!」
 爺さんが顔が引きつってたのを、ジークは見逃さなかった。
「ジーク。これでは話が進まぬようですぞ?」
 さすがのサイジンも、頭が痛くなってきた。ちなみにサイジンは、レルファから
釘を刺すかのように、ジークの事を「義兄」と呼ばないように言われていた。
「ジークお兄ちゃん!ここにしよう♪」
 ツィリルが、さらに目を輝かせて言う。
「ツィリル・・・簡単に決めちゃ駄目だよー?」
 ジークは、さすがに声が引きつっていた。
「えー?でもジークお兄ちゃん1人で全部決められるのー?そうには見えないなー。」
「ウグッ!」
 ジークは、ツィリルに痛い所を突かれて胸を押さえる。
「ジーク。あなたの負けですよ。」
 トーリスが、ジークの肩を優しく叩いてやる。
「ああ!分かった!分かった!ここにしよう!ここにするさ!爺さん案内!」
 ジークは、ヤケクソになっていた。爺さんは、ジークの肩をバンバン叩く。
「それでこそ!わしの睨んだ男じゃ!ほっほっほ。」
 調子の良い事ばかり言う。面の皮の厚さでは、サイジンに引けを取らないだろう。
「それとな、わしの名はギルドマスターのサルトリア=アムル言う名前が、あるの
じゃ。そちらで呼ぶようにの?」
 サルトリアは、そう言いながら、大声で笑っていた。
「不安だ・・・。この上なく不安だ・・・。」
 ジークは、泣きそうな顔になって、そう言っていた。しかし、その心境は、ジー
クに限った事ではなく、ツィリル以外の全員の気持ちでもあった。


 西に大国あり。その名も軍事国家プサグル。そう言われてきた。そして、プサグ
ルとルクトリアが競う事で、他の国から脅威と思われ続けて来たのである。
 しかしプサグルは、ルクトリアの王子が継いでしまった。前プサグル王のルドル
フが、狂王と化してしまって英雄に討ち取られてしまったし、さらにはルドルフに
息子が出来なかったためである。よって、ルクトリア王子のヒルトが、ルクトリア
と協力する事はあっても、競い合う事は無かったので、共和国デルルツィアが着々
と強国の座を狙うようになった。デルルツィアからしてみれば、今のプサグルは、
牙の抜け落ちた獅子のような物なのである。
 デルルツィア共和国。その街と城の全てを、強力な壁で覆った国。それによって
強国プサグルからも、過去侵攻を受けた事が無い国。また、その全てが謎に包まれ
た都市でもあった。分かっているのは、王と皇帝が居る事。それが、共和国と呼ば
れる語源になった事。くらいである。
 デルルツィア王ルウ=フォン=ツィーアは、今年で50歳になる。デルルツィア
国民の評価は高く、内政のほとんどは、ルウが行っている。見事な内政の力なのだ
が、この頃、多少強引な手腕が目立って来ているため、国民も不安がっている。体
型も昔は、筋肉もあり素晴らしい体系を維持していたが、現在は、少し小太りして
いる。髪は、少し青み掛かっていた。
 デルルツィア皇帝シン=ヒート=ツィーアは、今年で48歳。その外交の手腕の
見事さは、ソクトア屈指だと言われている。今まで、デルルツィアが壁に覆われて
いても、外交が続けられたのも、この皇帝のおかげだと言われている。皇帝は、身
長が高くヒョロッとしているが、いざという時には、頼りになる存在である。髪の
色は、少し赤く、茶髪に近い色であった。
 この王と皇帝が居て、初めて国と言えるのだった。そして、この2人の頂点は、
それぞれ一人ずつ、息子が居た。それが、王子ミクガード=フォン=ツィーアと、
皇太子ゼイラー=ヒート=ツィーアの2人である。この2人は、実は兄弟である。
デルルツィアには、1人の美しい妃が居た。妃は王と結婚し、ミクガードを産んだ。
しかし、皇帝シンは、その妃に惚れてしまっていた。それが災いの元であった。シ
ンはルウが、街に視察に行ってる隙に妃と関係を持ってしまったのだ。そして、2
年後に産まれたのがゼイラーであった。もちろん、その事はルウにも耳に入り、当
時デルルツィアでは、勢力が完全に2分されていた。しかし、ルウとシンのどちら
も選べなかった妃は、心労の末、ゼイラーを産んで1年後に他界してしまった。
 この事により、大いに嘆き悲しんだ2人は、その後、妃の意を汲み取って和解し、
現在に至ると言われている。よってミクガードとゼイラーは異父兄弟なのである。
この兄弟は、それぞれの出生を認め合い、非常に仲が良かった。それが、ルウとシ
ンの2人の心を癒している。
 ミクガードは、今年で23歳。若い頃のルウに似ていて、筋肉質である。それも
そのはずで、ミクガードは、デルルツィアの傭兵を束ねる長をしている。傭兵を実
力で認めさせるだけの強さは持ち合わせているのだった。髪は少し青く、少しボサ
ボサしているが、そのワイルドさが国民には受けていた。
 ゼイラーは、今年で21歳。こちらも父譲りで背が高い。しかし、筋肉質と言う
程でも無いので、主に軍略の方を学んでいる。魔法も多少使えるらしく、そちらの
方面で噂を聞くことが多い。髪は茶髪で後ろを少し弁髪っぽく纏めている。
 そんな4人が、会議のために集まっている。
「それでは、プサグルを攻めると言うのですか?父上。」
 ゼイラーが、父のシンに尋ねる。
「フム。私の考えでは、プサグルは、今は戦うような状態では無いと見立てている。」
 シンは、ちらりと他の3人を見る。
「わしは、少し反対じゃな。」
 ルウが意見をする。
「何でだ?親父。」
 ミクガードは、腰に差した剣を触りながら尋ねる。どうやら、プサグルを攻める
かどうかと言う話らしい。
「プサグルは人材の宝庫じゃ。例え、今は戦える状態で無くとも、いざ戦争となれ
ば、どれだけの強さの者が集まると思う?いくら数の上で我らのが上であっても、
負ける可能性は大いにあると言う事じゃ。」
 ルウは、慎重だった。しかし、ルウの言うとおりであった。プサグルと言うのは、
ただの負けた国ではない。ルクトリアの王子が継いだ国なのだ。と言うことは、激
しい戦乱を戦い抜いてきた猛者達が、まだプサグルには居るはずなのである。特に、
数々の特異な戦略を練りだしていった軍師フジーヤが、プサグルの近くに住んでい
ると言う情報がある。そう簡単に攻めるわけには行かなかった。
「しかし、このままでは、後世まで大国は、あのルクトリアとプサグルと言う事に
なってしまう。それでは私達の子孫が恥を掻く事になる。」
 シンは、歴史の事まで視野に入れていた。確かに、このまま甘んじるのも一つの
手だろう。しかし、デルルツィアが強国足りえるには、何かをしなければ・・・。
「同盟という考えは、無いのですか?」
 ゼイラーが、意外な事を言う。
「同盟?フン。プサグルを奪ったような連中を、信用は出来ねーな。」
 ミクガードは、そっぽをむく。他の国からしてみれば、プサグルは、最終的にル
クトリアに侵略されて奪われたような物なのである。実際は、ヒルトが継がなけれ
ば、プサグルは滅びていただろう。だが、他の国が都合良く解釈する訳が無かった。
「ミクガードの言う通りだな。私も信用出来ぬ。」
 シンも同調した。皇帝と言う立場上、外交を行う機会はあるので、プサグルが、
どう言う国かは分かっていたが、過去を見ると、おいそれと信用する訳にも行かな
かった。むしろ警戒しながらの外交が多い。
「ルウよ。お前は、どう思っているのだ?」
 シンが、王の意見を聞く。
「わしは、むしろルクトリアを狙うべきじゃと思う。」
 ルウは、ルクトリアを攻める事こそ強国への道と考えていたのだ。
「ルクトリア?馬鹿な。お前は、英雄ライルの力を侮っているのか?あそここそ、
人材の宝庫であろう?」
 シンは、落胆する。ルクトリアには「疾風」のルースが居る。それに、かの英雄
ライルも、ルクトリアの危機となれば駆けつけるだろう。それに、現在はライルは、
ルクトリアに向かっている。しかし、この4人は、そこまでは知らなかった。
「シンよ。お主こそ情報不足じゃぞ?英雄ライルは、中央大陸に在住していると聞
く。そして、残るはルースのみであろう?現在ルクトリア王は68歳の高齢だと聞
く。プサグルよりは、数段攻めやすいと思うのじゃがな。」
 ルウは、ちゃんと計算が合って言ってたのだ。しかし、それは甘い考えだと3人
は思った。目立たないがルクトリアには、ルースだけではなく戦乱を勝ち抜いて来
た強者が、いっぱい居る。それを、計算に入れないのは良い事では無かった。
「ルウ。ルクトリアは、中央大陸を抜けなければ、辿り着けないのだぞ?それも、
計算に入れているのか?」
 シンは、ため息をつく。ルクトリアに行くためには、デルルツィアからは海路で
は無い限り、中央大陸を渡らなければいけない。その間に、ライルに気づかれる可
能性は十分にある。戦局を1人の英雄が、打開していったという噂は強大である。
そのライルと戦って、勝ち目が高いと言えば嘘になるだろう。
 それにいくら外交をしていると言っても、結局は内情を知るわけではない。よっ
てデルルツィアは、情報量が少なすぎるのだ。
「シン叔父さんよぉ。なら、俺がプサグルに偵察に行くってのは、どうだ?」
 ミクガードは、自分の腰の剣を、また触る。今度は、決意をするために握った。
「お前を、そんな目に合わす訳には、いかぬ!」
 ルウが、真っ先に反対した。
「親父!結局内情を知らねぇで、敵を倒すなんてのは不可能なんだよ。それに、俺
の腕が信用出来ねぇのか?俺が行くってんなら下手な傭兵より信用出来るだろ?」
 ミクガードは本気だった。プサグルの内情を知るためには行くしかない。敵地へ
行くと言うのは相当の覚悟が必要だった。だが、ミクガードは鈍る様子は無かった。
「・・・ならば、一つだけ約束するが良い。」
 ルウが、ミクガードを睨み付ける。
「何だよ。親父。」
「お主は、死んではならぬ。デルルツィアの血判をして約束せよ。」
 ルウは、厳しい目付きで言った。デルルツィアの血判とは、自分の指を切って自
分の指の血と相手の指の血を合わせることによって、血の盟約を結ぶという事だっ
た。これは、絶対に違わない約束と言う意味があって、決意を示す意味でもあった。
「なら、約束するぜ。俺は、生きてこのデルルツィアに戻ってくる。」
 ミクガードは、そう言うと自分の親指を剣で少し切った。すると、今度は、ルウ
の方が、自分のナイフで親指を切りつける。そしてミクガードの親指と合わせて血
が交差する。これで完了だった。簡単な儀礼ではあるが、この約束は、紙でする約
束より重い。守らなかった場合、デルルツィアの祖先の呪いが降りかかるとも言わ
れていた。それだけ重大な約束だったのだ。
「じゃぁ、行ってくるぜ!」
 ミクガードは、ニヤリと笑う。しかし、これは決意を込めた笑いだった。
「待つのです!ミクガード!」
 ゼイラーが、ミクガードを止める。
「今更止める気か?ゼイラー。」
 ミクガードは、ゼイラーの方を向く。すると、ゼイラーも親指を切っていた。
「私とも、血判をして行きなさい。」
「私ともするのだ。ミクガード。」
 何と、ゼイラーに続いてシンまで親指を切っていた。ミクガードは、交互に血判
を済ませる。
「ここまでやったんじゃぁ、命に未練が、出来ちまうな。」
 ミクガードは笑っていた。期待が重い。しかし、やりがいのある仕事だと思った。
そして、文字通り命を懸ける事を、この時誓った。
「行ってくるぜ!」
 ミクガードは、そう言うと会議室を出て行く。
 ミクガード=フォン=ツィーア。王子とは思えぬ風貌だが、その心は、常に王と
共にあると言う。勇猛果敢な傭兵王子。その名に間違いは無かった。



ソクトア1巻の5後半へ

NOVEL Home Page TOPへ