NOVEL 1-7(Second)

ソクトア第2章1巻の7(後半)


 プサグルの王宮。その構造は1階と2階からなる、内壁と外壁とその手前に立ち
塞がるかのような城門があり、中は、攻めやすいようで攻めにくい分譲構造で出来
ている。更に中庭から見た景観は、見事としか言いようが無い。ルクトリアの王宮
と勝るとも劣らない建築であった。
 しかし、これらは、ここ20年の内に出来た物で、ヒルトが、直接思案して作っ
た物であった。そのせいか、ルクトリアの王宮に、かなり似ている。更に城内は訓
練場、食堂、魔法研究所、武器防具開発局と揃っており、機能としても充分だ。
 ここにお忍びで来ていたミクガードは、ミックと名乗り働いていたが、勤めれば
勤める度に、このプサグルの強大さを思い知る。
(こりゃ俺達の国が、攻められたらアウトだな。)
 冷静に判断すると、そう思わざるを得ない。
 戦力的に見ても、とても平和ボケしたようには見えない。それも、あの近衛団長
であるドランドル=サミルのおかげであろう。彼の鋭い考察力や指摘が随所に見受
けられる。
(しかし、ここは本当に、あのプサグルなのか?)
 ミクガードは、信じられずに居た。プサグルは、元ルクトリアの王子であったヒ
ルトが、侵略して奪った国だとされている。しかし国民と、この兵士達の目を見て、
考え方が変わった。
(まだ表面上しか見てないから、何とも言えないがな。)
 ミクガードは、あくまでプサグルは、侵略者の国だと考えている。
「おい!ミック!ボーーっとしてるんじゃねぇよ。」
 後ろから声を掛けられた。ドランドルだ。
「これは、近衛兵長。失礼したな。」
 ミクガードは、軽く答える。
「気にすんな。今日は、おめぇをヒルトに紹介しようと思ってな。」
 ドランドルは、気さくに言う。しかしミクガードは、ビックリした。
「おいおい。良いのかい?」
 ミクガードは、まだ雇われて2日くらいしか経っていない。そんな人物に、王た
る者が会うと言うのは、中々軽率な事だと思った。
「おめぇの国は、どうなってるかは知らんが、この国は、いつも王が先頭にたって
物事を進めるんでな。ヒルトが会いたいと言うんだから会わせる。それだけの事さ。」
 ドランドルは、軽く言い放つ。
(デルルツィアでは、考えられない事だ。絶対の自信の表れ・・・なのか?)
「俺に会いたいって、何でだ?」
 ミクガードは、自分の存在がバレたのかと思ったが、もし、そうだとしたら、ド
ランドルに、ひっ捕らえられるのが普通だ。
「ヒルトは、例え新兵であっても一度は会っておくんだ。顔を覚えるためだそうだ。」
 ドランドルは、そっけなく言う。
(随分と、フリーな国だな。)
 ミクガードには、信じられなかった。そして、そんな王が何故、侵略を犯したの
かも分からなかった。
(これは、会ってみるしかないな・・・。)
 そして、隙あらばミクガードの手で、討ち果たそうと思っていた。
「おいおい。警戒するなよ。うちの王は、何も取って食おうって訳じゃねーぜ?」
 ドランドルは、笑い飛ばす。恐らくミクガードが、秘めていたはずの殺気を感じ
取ったのであろう。恐ろしい嗅覚だ。
(プサグル王に会うまでは、抑えなくてはな。)
 ミクガードは、落ち着きを取り戻した。しかし、これだけ鋭ければ、ヒルトも警
戒は、あまりしなくて済むのだろう。口では、何だかんだ言ってもドランドルの近
衛兵長振りは、凄まじい物がある。
「こっちだ。気負うなよ。」
 ドランドルは、苦笑しながらも案内する。
 プサグルの王室は、非常に珍しい所にあった。ソクトアでは、普通、王の間と言
うのは、最上階と言うのが定番だった。しかし、プサグル宮殿は、4階建てなのに
も関わらず、2階にバルコニー及び王の間があった。
(攻め込まれないと言う、安心感からか、それとも撹乱するためなのか・・・。)
 ミクガードは、腑に落ちなかった。最上階にする理由は分かる。少しでも多く敵
を進入させないためである。しかし、2階に作る意図が分からない。
「王の間は、本当にここなのか?」
 ミクガードは、ドランドルに尋ねてみる。
「不思議に思うか。まぁ無理もねぇな。」
 ドランドルは、口元で笑う。
「俺も最初は、不思議に思って聞いてみた。お前も聞いてみろ。」
 ドランドルは、ミクガードの背中を叩いてやる。
「おう!ヒルト!ドランドルだ。」
 ドランドルは、豪快に声をあげる。それにしても王を呼び捨てとは、他の国では
考えられない事だ。
「来たか。入るといい。」
 ヒルトの声が聞こえてきた。案外普通だ。
「おう。失礼するぜ。」
 ドランドルは、一声掛けると、扉を開け放つ。ミクガードは、その時、ヒルトに
戦慄した。ヒルトは、とても王とは思えないほど筋肉が発達していたからである。
ライルと比べれば、そうでも無いのかも知れないが、ヒルトも、元は剣術を習って
前線に出た事がある。その軌跡を表しているかのようだった。
「ほう。一昨日に、我が国に志願したと言うのは君か。」
 ヒルトは、気さくに声を掛けてきた。その顔は、穏やかだが凛として隙が無く、
とても襲い掛かろうなどと言う気には、なれなかった。
「お初にお目に掛かります。ミックと申します。」
 ミクガードは、偽名を使ったが、危うく本名を言いそうになった。
(これが、王としての資質を兼ね備えた者のオーラか・・・。)
 ミクガードは、自分の父や皇帝などから、ある種の王としてのオーラを感じた事
がある。皇太子である、ゼイラーからも多少感じた事があるし、自分も、そのオー
ラを放つようになったと、父から誉められた事もある。しかし、このヒルトのそれ
は、格が違っていた。真の王たる者のオーラとは、このような物なのであろうか。
「どうも緊張しているのでは、ないか?」
 ヒルトは、ミクガードが感じている事が分からず、不思議そうに髭を弄っていた。
ミクガードは、悟られてはならないと思い、緊張感を和らげる。
「ええと、ミック。君は、どこから来たのだ?」
 ヒルトは質問してみる。
「・・・デルルツィアですね。」
 ミクガードは、言うのを一瞬、躊躇ったが、嘘をつけばボロが出るので、本当の
事を言った。
(さて、どういう反応をしてくるか・・・。)
 ミクガードは、気づかれないように緊張していた。
「デルルツィアか。確か、皇帝と王の二元政治を引く共和国だったな。」
 ヒルトは、思い出したかのように言う。
「皇帝とは、良く会うんだがな。王とは、ほとんど会って無いんだが、何故だか教
えてくれるか?」
「彼の国は、皇帝が外交を、王が内政を努めるからだと、聞いた事があります。」
 ヒルトの質問にミクガードは、正直に答える。だが、あくまで第3者を貫くつも
りだった。
「それは、面白いな。デルルツィアは、結構あれで特殊な国でな。私も行って観光
したいのだがなぁ・・・。そうも行かないのが現実でな。」
 ヒルトは、ニッコリ笑う。
(か、観光!?・・・本気か?読めん・・・。)
 ミクガードは、驚いていた。敵対とまで行かなくても、かなり険悪であるデルル
ツィアに対して、この言葉が出るとは思わなかったからである。
「デルルツィアと、和平を結ばなければ無理だと思われますが?」
 ミクガードは、挑発のつもりで仕掛けてみる。
「良い事を言う。私は、そのつもりだ。だが、いきなり和平交渉じゃ、怪しまれる
のが辛い所だな。」
 ヒルトは、ミクガードを誉めた。ミクガードは、呆気に取られていた。まさか、
プサグルに来て、この台詞が聞けるとは思わなかったからである。
「おいおい。ヒルト。そこまで言って良いのか?」
 ドランドルは、苦笑している。ヒルトの性格上、言うだろうと予測はしていたみ
たいだ。しかし、ヒルトは笑顔で返す。
「別に良い。和平したいのは、本当の事だ。嘘をつくつもりは無い。」
 ヒルトは、真っ直ぐな目をしていた。それと同時に、深い目をしていた。ミクガ
ードは、またしてもヒルトの懐の深さを知った。
「少しお聞きして、良いでしょうか?」
 ミクガードは、ヒルトに質問を投げてみる事にした。
「私に答えられる程度の物なら答えよう。」
 ヒルトは、怯む様子は無かった。
「このプサグルは、デルルツィアではルクトリアが、侵略して取った国だと聞かさ
れてきた。それは、真実なのですか?私には、とても信じられない。」
 ミクガードは、既に吹っかけようと言う気は無かった。この男に策略は通用しな
い。ならば、本気をぶつけるのみである。
「信じられないか?これでも修羅場は、潜って来ているつもりだ。まぁその質問に
対しては真実と答えておこう。」
 ヒルトは、目をつぶる。
「だが、プサグルは、君も知っての通りあの戦争の折に、王と王子を失っていた。
この国をこのまま放って置いたら、どうなると思う?」
 ヒルトは、少し間をおく。
「新しい指導者が、出て来ると思いますが・・・。」
 ミクガードは、自分の国を見てるから、こういう発言が出て来るのである。
「なるほどな。堅実な意見だ。だが甘い。指導者を失った民衆は、暴徒と化す。君
は、中央大陸が何故無人か、考えた事はあるかね?」
 ヒルトは、尋ねてみた。
「単に山が多いからでは、無いのですか?」
「そう考える者は多い。だが、あの戦争の舞台となった平地は、どうなる?人が住
んでいたと考えるのが普通では無いか?」
 ヒルトは、説き伏せる。
「私は不思議に思い調べてみた。・・・あそこは血塗られた大地だと知ったのは、
それから、すぐの事だ。」
「血塗られた大地・・・?」
 ミクガードは、少し恐怖する。
「そうだ。あそこには、元々とてつもない強さを持った豪族が領地としていたのだ。
しかし、その豪族は強欲でな。従える人々を圧政によって苦しめていた。その苦し
みに耐えかねた民衆は、一人のリーダーを立ててクーデターを起こしたのだ。」
 ヒルトは、昔話を話すような口調で言う。
「そのクーデターは成功した。しかし、運悪くリーダーも命を落としたのだ。」
 ヒルトは、また目をつぶる。
「その時に残された人々が取った行動は・・・残虐の限りを尽くして、争いあう修
羅のごとき様だったと言う・・・。」
 ヒルトは、目をあける。
(そんな歴史が、あったとは・・・。)
 ミクガードも、初めて知る事実であった。
「文献では、中央大陸は、大災害が起きて飲み込まれたとある。しかし、現実は甘
く無い。人々の業が招いた人災だったと言うわけだ。ルクトリアの古い文献から極
秘文書として残されていた。」
 ヒルトは、溜息をつく。
「しかし、それは一時的な物なのだ。どこかの歯車が狂わない限り、人々は幸せで
居られるはずなのだ。私はそう思って、この国の王となった・・・。ミック。私は
な。妖魔が出る、この時代に無くてはならない物は、人としての団結だと思ってい
るのだ。国として纏まるのではない。人として・・・な。」
 ヒルトは、そう言うと笑ってみせる。ミクガードは、その姿にある種の感動を覚
えていた。しかし、素直に信じる訳には行かない。自分は、デルルツィアの王子な
のだ。
「素晴らしい話だ。しかし、私が信じると思いますか?」
 ミクガードが、絞り出すような声で言う。ささやかな抵抗であった。
「信じる信じないは、君の自由だ。しかし、君は私の目を見ていた。私は、君が理
解してくれたと思っている。」
 ヒルトは、信じて疑わないようだった。
「まったく、お人好し野郎が。その話、俺も初めて聞いたぜ?」
 ドランドルは、少し不機嫌そうだった。自分に知らない話を、ミクガードにした
のが、気に入らなかったのだろう。
「隠すつもりは無かったがな。何故かな。ミックの目を見ていたら、話したくなっ
てな。君は傭兵の出で立ちをしているが、どこかしら何か惹きつける物があるな。」
 ヒルトは、不思議そうにしていた。
(ヒルト王は、俺が王子だと言う事を本能的に見切っていたのか・・・。)
 ミクガードは、覚悟を決めた。そしてヒルトの偉大さを知った。
(親父。もしかしたら俺はデルルツィアの血判を、破る事になるかもな。)
 ミクガードは、親指の切り傷を見た。
「ヒルト王。もう一つ聞く。ここは、何故2階に王の間があるのですか?」
 ミクガードは、この答えが自分の思った通りなら、ヒルトに真実を言おうと思っ
た。その決意の目だった。
「私は高いところが苦手でな。それにあまり高い所に、居座って兵士達の顔が見れ
ないのは嫌いなんだ。それだけの事だ。」
 ヒルトは、ミクガードが思った通りの答えを言った。ヒルトは、自らが王だと言
う証に、より身近に接するために、2階に王の間を作らせているのだった。
「今日は、話し込んでしまったな。」
 ヒルトは、王座に座る。これほど王座が似合う男は、居なかった。
「ヒルト王。それにドランドル近衛兵長。」
 ミクガードは、神妙な声になる。
「おいおい。何を気負ってるんだ?」
 ドランドルは、不思議に思った。さっきと雰囲気が、まるで違う。
「あなた方の広い心に、俺は打ち震えました。俺は、この場で嘘を釈明したい。」
 ミクガードは、目を閉じる。すると、ゼイラーや父、皇帝の顔が浮かぶ。
「嘘・・・か。」
 ヒルトは、どこと無く気づいている様子だった。
「俺の名はミクガード=フォン=ツィーア。デルルツィアの王子だ。」
 ミクガードは、そう言うと無防備になる。それが、ヒルトが示してくれた王とし
ての在り方に応える礼儀だと思った。
「・・・なる程な。どうりでな。」
 ドランドルは、只者ではないと思っていた。身のこなしは、傭兵の物だったが、
どことなく、高貴な感じのする男だと思っていたのだ。
「俺は、この国の実情を探りに来た。プサグルと戦争をするためだ。」
 ミクガードは、包み隠さず言う。
「しかし・・・俺達は間違っていた・・・。プサグルは、侵略した後に奪った国と
して見ていた。そして、何より貴方達の事は、敵としてしか見ていなかった・・・。
俺は、人として纏まるなんて考えた事も無かった・・・。」
 ミクガードは、次第に涙を流す。自分に対しての怒りで、拳がワナワナ震える。
「ヒルト王。俺は、どんな罰も耐える。命じてくれ。」
 ミクガードは、後ろに持っていた槍を、前に差し出す。そして、座って目を閉じ
た。最大級の敵意の無い構えであった。
「ミクガード、ならばプサグルの王として命じよう。」
 ヒルトは、剣を抜く。
「おい!ヒルト!」
 ドランドルは、ビックリする。ヒルトは、剣を抜くと自分の親指を傷つけた。
「確か、デルルツィアの血判は、これで親指を合わせるのであろう?これに誓って
くれ。ミクガード。君が、和平の使者として働く事を・・・な。」
 ヒルトは、ニッコリ笑って見せた。ミクガードは、そのヒルトの様を見て、自分
も親指を再度切る。そして、ヒルトの親指に合わせる。
「俺の出来る限りの尽力を果たす事を、ここに誓おう!」
 ミクガードは、そう言うと目を閉じた。
「2日だけでは、この国は分からないだろう?しばらく滞在して行ってくれ。」
 ヒルトは、そう言うと、ニコリと笑う。ミクガードは強く頷いた。
 ドランドルは、その様を見て、王族と言うの物の凄さを感じていた。
 これよりミクガードは、プサグルとデルルツィアの和平に最大の力を使う事にな
るのであった。
 『人は纏まりあえる。』ヒルトの言葉が、ミクガードの胸に突き刺さった。


 ストリウス国の中でも、最南端にある離島キーリッシュ。そこは、ガリウロルの
ような国家になるほどの力は無いが、この島独自の文化を作りあげてきた。その背
景にあるのが、竜神信仰だろう。
 この島は別名『龍の顎』と呼ばれていて、ソクトア大陸の最南端であるストリウ
スの岬と、くっ付いている事から、そう呼ばれている。と言っても、実際は1キロ
程だが、離れている。ただ浅瀬のまま、くっついているのが、その名残だろう。
 竜神信仰は、この島の伝説から作られている。この島は、元々龍達の巣穴であっ
た。現在もその巣穴は残っていて、実際に龍が眠っている。その龍達の下に、異変
が起こった。およそ300年前に、この巣穴に天より落雷が起こったのだ。
 その落雷の先に、何と人間の赤ん坊が居たのだ。その赤ん坊は、龍達に引き取ら
れ育てられた。不思議に思われるかも知れないが、龍達は高い知性を持っている。
人間の姿に化ける事も出来るし、普段は、この方が動きやすいと言う話だ。
 その赤ん坊は成長した。その成長速度は著しく、ただの赤ん坊で無い事は、一目
瞭然だった。と言うのも、その赤ん坊は天界の金剛神と蓬莱神の息子だったからで
ある。何故起こったかは、天界の、その時の事件と関わりが合ったらしい。天界で
は、その時、謎の失踪が起こっていた。そして、それは『転生』が繰り返し起こっ
ているのが原因であった。その原因が突き止められるまで、失踪は、多々起こった
が、その内の一つの事例が、この赤ん坊であった。
 そして赤ん坊はやがて成長し、青年となった。その時に、自分が天界からの迷い
人と知る。その頃、青年は、ガリウロルに渡って自らの成長を促していた。その時
に、起こったガリウロルの闘争劇を、青年は力と知性を持って正してみせた。その
最中、青年は、ある女性と知り合う。その女性の剣の冴えは素晴らしく、神業と言
うべき物があった。その女性も、また運命を背負って降り立った子であった。
 そして、自分の力を知った青年は、再びキーリッシュの地で祈りを行った。ガリ
ウロルで知り合った女性と共に、神に祈りを捧げた時に、奇跡は起こった。
 キーリッシュの地に金剛神が降り立ったのだ。その光景は今でもキーリッシュ博
物館に絵として収められている。その金剛神から青年と女性は試練を与えられた。
その試練を、見事に突破して、その青年は竜神。そして女性は剣神として生まれ変
ったのだった。その功績と島の誇りとしてキーリッシュの人々は竜神信仰を始めた。
 それが竜神信仰の全てである。不明な点が多いのは、既に300年経っていて、不明
な点が多いからであろう。どちらにしろ、この島の人々にとって、龍は竜神の使い
であって化け物では無い。まして逆らう事など恐れ多い事なのだ。
 しかし高い知性を持ったはずの龍が、ここ2ヶ月程は、暴れ回っている。その原
因が分からないので、冒険者に依頼をすると言った行動を取っていた。
 ジーク達は、その依頼を受けたのであった。そして今、正にキーリッシュに向か
おうとしていた。
「やっと岬まで、辿り着きましたか。」
 トーリスは、溜息をつく。と言うのも訳があった。最南端の岬を目指したはずな
のに、ジークの手違いで、最東端の方に着いてしまったから、慌てて進路を変更し
たため、時間が掛かってしまったのだ。
「わりぃ・・・。」
 ジークは、皆からの冷たい視線に少し萎縮していた。
「はっはっは!誰にでも、失敗はある物だ!今度から気を付けたまえ!」
 サイジンが、馬鹿笑いしながら慰めていた。
「アンタが、励ますなんて珍しいじゃないの。」
 レルファは、興味を示したようだ。
「はっはっは!レルファ、ジークは私の義兄!助けるのは当然のこ・・・」
 ゲシッ!
 最後まで言い終わる前に、レルファのローキックが炸裂していた。
「島まで、1キロちょっとありますね。船を借りましょうか。」
 トーリスが、早速、船の手配をしに行った。
「あそこの島に行くんだ〜。楽しみだな♪」
 ツィリルが、浮かれている。船に乗るのが、初めてなので嬉しいのだろう。ここ
で、兄のアインが居れば、青ざめていた事だろう。
「雲の流れが速いネ。もしかすると、嵐になるかもしれないヨ。」
 ミリィが、方角士らしい観察力を見せる。実は、この最南端に思ったよりも早く
着いたのは、このミリィのおかげでもある。最東端に向かっていると、早めに気づ
いて、進路を変更する手際は見事だった。最初から、ミリィに任せていれば、最短
の時間で着いただろう。
「みんなには、迷惑掛けちまったなぁ。」
 ジークは、頭を抱える。分かれ道で、トーリスとミリィは、正しい道筋を示して
いたのだが、ジークは間違った方向を示していた。自分の勘だけで、進む物じゃな
いと痛感してしまった。
「気落ちしなくて良いネ。ジークには、戦闘で活躍してもらうヨ♪」
 ミリィは励ましてやる。意外とフォローの仕方も上手い。
「それにしても・・・随分と大きい島ねぇ。」
 レルファが、キーリッシュの全貌を見渡す。ここからだと全貌が見渡せるのだ。
「大陸と繋がってただけあるネ。」
 ミリィは、すかさず地図を見渡していた。方角士と言うのが、如何に役立つかが、
分かる場面でも合った。
「センセーが、戻ってきたよ〜。」
 ツィリルが、トーリスを指差す。
「どうだった?トーリス。」
 ジークが、船の事を聞く。
「参りましたね。ここの人たちは、竜神信仰のキーリッシュの事を、良く思ってな
いみたいです。あそこに行くと言っただけで、反対されましたよ。」
 トーリスは溜息をつく。この頃、龍が暴れ回ってると言うだけあって、警戒して
の結果だろう。住民達を責める事は出来ない。
「仕方がありませんね。この方法は、あまりお勧め出来た物じゃ無いのですが。」
 トーリスは、そう言うと目を閉じて、瞑想状態に入る。トーリスが、瞑想すると
は珍しい。良く魔法を使う際に、魔力が足りないと思った時に瞑想は使う。しかし、
トーリスは、並の魔法使いでは無い。そのトーリスが、瞑想をしなければならない
ほどの魔法を使おうとしているのだった。
「まさかトーリス先生は、アレをやるつもりなのかしら?」
 レルファが、ハッとした。
「アレ?ってなんだよ。」
「兄さんだって見たでしょ?ジュダさんが、やってた『浮遊』よ。」
 レルファが答える。確かに『浮遊』ならば、キーリッシュまで簡単にいける。し
かし、あの魔法は、自分だけならまだしも、他人も浮かすとなれば、絶大な魔力が
要る。そのせいだろう。
「うーーむ。魔法とは神秘な物ですな。」
 サイジンが頭を掻く。自分は素質も無いし、学ぶ気も薄かったので、どうにも苦
手なのである。
「ハハッ。拗ねないの。アンタには、剣の才能があるじゃないの。」
 レルファは、サイジンの様子を見て励ましてやる。
「もったい無い言葉!うう。感動ですぞー!」
 サイジンは、本気で感動していた。
(これさえ無けりゃあねぇ・・・。)
 レルファは、目を細くして頭を掻く。レルファは、サイジンの事を嫌っている訳
ではない。ただ、オーバーな所は、少し付いて行けなかった。
「すごーい。センセーの魔力、いつもより凄いよー。」
 ツィリルは、トーリスの魔力を肌で感じ取っていた。
「・・・ふう。」
 トーリスは、しばらく目を開けると魔力を解放する。いつもより気合充分だった。
「みなさん。荷物をしっかり持っていて下さいね。」
 トーリスは、そう言うと各人に目で合図する。皆、無言で頷く。
「行きますよ・・・。『浮遊』!」
 トーリスは、両手を掲げるように、上げると魔力の解放と共に『浮遊』を唱える。
すると、皆の体が、1メートルくらいだろうか?フワッと浮いた。
「うわわわわ。な、慣れませんねぇ。この感覚は。」
 サイジンは、初めて味わう感覚にオロオロしていた。
「一気に行きます・・・。『飛翔』!」
 トーリスは、同時に『飛翔』を唱える。『浮遊』では、ただ浮いて移動するだけ
だが、『飛翔』を唱えると鳥のように素早く移動出来るのだ。
 ビュン!
 確かに速かった。今まで、岬だったのに、いきなり海上へと飛び出した。
「す、凄いネ!」
 ミリィも興奮した。体が浮く事自体、信じられなかったのに、物凄いスピードで
移動しているのだ。これこそ神秘である。
(向こう岸まで、もって欲しい物だが・・・。)
 トーリスは心配だった。調子良く飛んでいるが、6人ともなると、さすがに負荷
が段違いなのだ。一歩間違えば海上に落ちる事になる。それだけは避けたかった。
「・・・!!」
 トーリスの嫌な予感は当たった。向こう岸近くまでは、来たのだが、やはり失速
してきた。いつもの6倍の魔力を使うので、トーリスと言えど、さすがに無理があ
ったのだ。しかし何とか、もたせようと気力を振り絞っていた。
「トーリス!顔が青いぞ!無理するな!」
 ジークは、トーリスの様子が変なので、思わず声を掛けてやる。
「そうは行きません!向こう岸までは!」
 トーリスは、青い顔をしながらも魔力を出し続ける。
「センセー!水臭いよー!わたしも協力するもーん!」
 ツィリルは、いつになく真剣な顔でトーリスに魔力を分け与える。
「そうだよ。トーリス先生!私達を忘れちゃ困るわよ!」
 レルファも、トーリスに向かって魔力を与え続ける。
「ツィリル!レルファ!・・・よし!」
 トーリスは、2人の魔力を受けて魔力が回復してきた。その内に、向こうの海岸
まで辿り着かせた。
「ハァッ!」
 トーリスの掛け声と共に、ゆっくりと地面に着く。やっとキーリッシュに着いた。
「センセー!だいじょーぶ?」
 ツィリルが、心配そうに駆け寄ってきた。
「ふう。貴女とレルファのおかげで、助かりました。私もまだまだですね。」
 トーリスは額に汗を浮かべていたが、何とか大丈夫だったようだ。
「しかし・・・魔法とは、ここまで出来る物だとは・・・。」
 サイジンは、驚かずには、いられなかった。確かに、ほんの少し前までは、大陸
の方に居たのだから不思議と言えば不思議である。
「トーリスもツィリルもレルファも、ご苦労様。今日は、ここでキャンプにしよう。」
 ジークは、労いの言葉を掛ける。3人とも頷いた。傍目から見れば、そうでもな
いが、レルファやツィリルも、魔力を与えた分、疲れているはずである。この3人
無しでキーリッシュを探索するのは無謀とも言えた。
「今日は、私が腕によりを懸けるネ!」
 ミリィが、ニッコリ笑う。食事は、主に女性3人が担当してたが、一番筋が良い
のは、元宿屋の娘のミリィだった。ストリウスの郷土風の味付けは、さすがだった。
「俺が獲物を取ってくる。サイジンは、携帯コテージを張ってくれ。」
 ジークは、指示をする。サイジンは、頷くと早速コテージを作り始めた。
「3人共、休んでると良い。たまには、見せ場をもらわないとね。」
 サイジンは親指を立てると、さっさと3人のために椅子を用意して座らせてやる。
「今日は、頼むとしましょう。」
 トーリスも、言葉に甘えて休み始める。さすがに、余裕が無いらしい。
「センセー、さっきの『飛翔』はどうやるの?」
 ツィリルは、さっきの『飛翔』について興味津々だった。『浮遊』の上位魔法で
ある『飛翔』は、遥かに高い難易度を誇っているのだ。
「前に『浮遊』を教えた時は、物を持ち上げるイメージを描くように言いましたね。」
 トーリスは、手で物を持ち上げる仕草をする。
「うん!それは、わたしもやってみてイメージ出来たんだよね。」
 ツィリルは、結構飲み込みが速い。ツィリルは、実は『浮遊』は既にマスターし
ていた。一方のレルファは、『浮遊』などの物をイメージする魔法は苦手だったが、
人を治す力や助ける力に関しては、トーリスをも凌ぐほどの力を秘めていた。
(まったく、凄い素質を持ってる物です。)
 トーリスは、嬉しくなる。自分が教えた事で、2人の力は格段にアップして来て
いるのだ。こんなに嬉しい事はない。
「それに比べ、『飛翔』はこうです。」
 トーリスは、手で水平より少し斜め上に押すような仕草を見せる。
「ふーん。より飛びたい!って気持ちが強い感じだねー。」
 ツィリルは直感で答えたが、ズバリ的を射ていた。魔法に関する感性の鋭さには、
目を見張る物がある。
「よし。コテージ出来ましたよ。」
 サイジンが、いつの間にかコテージを作り終えてきた。
「こっちも今、獲物が取れた所だ。」
 ジークも、いつの間にか帰ってきた。手には野生の豚と食べられる野草を持って
いた。中々仕事の速い事である。
「豚とは、中々豪勢ネ。腕を振るえるヨ♪」
 ミリィは、そう言うと、早速、エプロンを身に着けて料理をし始めた。
「ミリィさんも、サマになってるなぁ。」
 ジークが思わず頷く。実際ミリィは、中々スムーズな手付きで、豚を解体してい
く。剣術と料理は全く関係無い事を思い知らされる図だ。
「そう言ってもらえると嬉しいネ♪」
 ミリィは上機嫌で料理を進めていった。
(ジークは、ミリィの気持ちに気づいてるんでしょうかねぇ。)
 トーリスは、ジークが、そんな様子を微塵も見せてない様子に、少し呆れた。ミ
リィは、間違いなくジークに惚れている。しかし、当のジークは無関心のようであ
った。そう思っているトーリスこそ、自分の事は気づかない物である。
(この冒険で、何かが変わるのかも知れませんね・・・。)
 トーリスは、ふとそう思った。それは近い将来何かが起こると言う直感だった。
 いつの間にか、パーティーらしくなった6人は、それぞれの思惑を胸に仕舞いこ
むのだった。


 プサグルの王宮は、大きい。鳥にでもならなければ、全景を見渡す事など不可能
だろう。横に、そして縦に長い。しかし、広い分良い所かと思えば、そう思わない
者も居る。しかし、普通の者ならば、そうは思わないだろう。
 だが、プサグル王女のフラル=ユードなら話は別だ。見慣れている王宮。そして、
いつもと代わり映えのしない景色。その割には、とてつもなく大きい王宮。刺激的
な事が大好きな、この王女にとって、この景色は耐え難い物があった。それでも、
いつもならば、優しい兄、気の合う弟が居たので、そう退屈する事も無かった。
 しかし、弟のゲラムは、ジークに付いて行ってしまった。そして、自分の目標を
定めて、頑張っていると言う手紙が、この前着いたばかりだ。そうなっては、内心
この王女の胸の内は快くない。
(あのゲラムが、そんな事やるなんて・・・。)
 フラルは、そう言う気持ちで、いっぱいになった。何よりも負けず嫌いで自由気
ままに育った彼女にとって、ゲラムの成長は嬉しくも悔しくもあったのだ。
 フラルは、また、この束縛された王宮から、どうやって抜けようか考えていた。
何不自由無い生活。誰もが、憧れるプサグル王女と言う座は、彼女にとっては、不
自由そのものに感じられていたのだ。
(私だって、旅をすれば、何だって出来るんだから!)
 フラルの心は、そう言う気持ちで、いっぱいになっていた。
「フラル。何を急いでいるんです?」
 兄のゼルバが、フラルのそんな様子を見て、呼びに掛かった。大股で王宮の廊下
を歩いていれば、それは目立つ事だろう。
「外が見たくなったんですわ。お兄様。」
 フラルは、苦しい言い訳を言う。
「自分の部屋だって窓はあるでしょう?またゲラムの事を気にしているのですか?」
 ゼルバは、溜息をつく。妹は、ここ数日そんな様子が続いている。ジークの誕生
日から、ジークが旅立って、ライル達が、ルクトリア王宮に向かうと言う事件には、
驚いた。それ以来、妹は、いつもこの様子である。
「ゲラムは、私が嫌になったのかしら・・・。」
 フラルは、兄には隠し事が出来ないと知って、溜め息をつく。
「そうじゃ無いでしょう。ゲラムは、ジークを目標にしてた。良い機会だと思った
んですよ。」
 ゼルバは優しく声を掛ける。ゼルバも、実はゲラムの事が少し羨ましかった。ソ
クトアを、冒険者として旅立つと言う事は、ゼルバも夢見た事がある。しかし、ゼ
ルバは、自分の使命はこの国を栄えさせる事。その手伝いだと、分かっている。な
ので、いくら思っていようと、顔には出さないと決めていたのだ。
「よぉ!不良王女!また、脱走の相談か?」
 廊下の向こうから、ドランドルが、大笑いしながらやってきた。
「ドランドル!からかわないでよ。これでも真剣なのよ!」
 フラルは、肩を震わせて、そっぽを向いた。
「ははは!悪いな。だが、真剣に出られても、俺が困るんだよ。」
 ドランドルは、ニヤリと笑う。この男は、ヒルトに近い年齢なので、壮年のはず
なのだが、そう思わせないような雰囲気がある。
「何かあったのですか?ドランドル。」
 ゼルバが、尋ねる。するとドランドルは、合図をする。
「こいつを紹介したいと思ってな。」
 ドランドルの合図で、槍を背中に背負った傭兵風の男が、出て来た。
「ヒルトの許可を取って、今、兵士として認められたって奴さ。」
 ドランドルは、その男が、デルルツィアの王子だと言う事は隠していた。ヒルト
が、ありのままのプサグルを、知ってもらいたいと言う事で、出した指示だった。
「槍騎士のミックと申します。」
 ミクガードは、今まで名乗っていた名前を使う。
「プサグルの第一王子、ゼルバ=ユード=プサグルです。よろしく。ミック。」
 ゼルバは、ミクガードと握手を交わす。
「私が王女のフラル=ユードよ。よろしくね。ミック。」
 フラルは、形式上の挨拶を交わす。
「見た所、プサグルからでは無さそうだね。」
 ゼルバが、ミクガードの身のこなしや、鎧の形などで判断する。
「はい。デルルツィアから参りました。」
 ミクガードは、ここで嘘をついても、しょうがないので正直に答える。
「デルルツィア!?」
 その言葉に大きく反応したのが、フラルだった。デルルツィアは、今まで文献な
どでも、その多くは語られていない。デルルツィアは、プサグルやルクトリアにと
っては、謎の国に等しかった。
(デルルツィアから来たなんて、何てラッキーなの!)
 フラルは、一人で余韻に浸っていた。
「な、何か悪かったのでしょうか?」
 ミクガードが、フラルの様子を見て、少し怯む。
「何も悪くないわ!ミック!デルルツィアの事を聞かせてくれない?」
 フラルは、興奮気味に答えた。
「は、はぁ。私の知識で良ければ・・・。」
 さすがのミクガードも、こう言う反応が返って来るとは思わなかった。
(バレたのかと思ったが・・・その時は、それでも良いんだがな。)
 ミクガードは、内心ホッとした。
「おいおい。俺の部下になるんだから、あまり私用で呼び出すなよ?」
 ドランドルは、フラルの新し物好きの、悪い癖が出たと溜め息をつく。
「私がミックを気に入ったんだから、ドランドルには、関係無いでしょ?」
 フラルが、目を細くして反論する。
「フラル。今のは、問題発言ですよ?王女たる者は、もう少し慎重に発言しなさい。」
 ゼルバは、今の発言のどこに問題があるのか、この妹が分かってるようには見え
なかったので、言ってやった。
「は、はは・・・。」
 ミクガードは、冷や汗が出た。中々元気な王女だと思った。デルルツィアには自
分の妹が居たが、もう嫁いでしまった。自国の貴族か何かである。自分の妹は、こ
んな元気では無かったので、かなり戸惑っていた。
「さ、ミック。私の部屋で、デルルツィアの話をしてね。」
 フラルは、早く聞きたくて、しょうがなかった。
「私は構わないですけども、良いのですか?」
 ミクガードは、ドランドルとゼルバの方を見る。
「この王女は仕方がねぇなぁ。俺が、扉口で待ってるって条件なら良いぜ。」
 ドランドルは、フラルの、あまりの勝手さに肩を落とす。
「妹は、元気が有り余ってますので、その辺注意して対応して下さいね。」
 ゼルバも呆れ顔で、そのまま廊下を歩いて行ってしまった。
「フラル!まぁた、お前は!」
 後ろから、ヒルトがその会話を聞いて、こちらに来た。
「あら、お父様。」
「あらお父様・・・じゃない!お前なぁ。嫁入り前の娘が、自分の部屋に男を連れ
込む物じゃない!」
 ヒルトは、別にミクガードに、そう言う気は無いだろうと思っては居たが、間違
いが起こっては困る。フラルの軽率さに呆れるのだった。
「何よ!そんな事言って、お父様はミックの話を、いっぱい聞いたんでしょう?卑
怯よ。私だってデルルツィアの事を聞きたいわ!」
 フラルも負けじと言い放つ。
「そう言う問題じゃない!全く・・・お前は、王女なんだぞ!」
 ヒルトも、相当頭に来ているらしく怒鳴っていた。
「お父様はゲラムには甘いのね。私には、こんな事すら許してくれないって言うの?」
 フラルは、そう言うと目に涙を浮かべた。この表情には、ヒルトも弱い。
「・・・ヒルト。お前の負けだ。この王女には、今は何言っても無駄だ。」
 ドランドルは、呆れ顔でヒルトの肩を叩く。
「・・・しょうがない。頼む。ドランドル。」
 ヒルトは、肩をガックリと落とした。
(偉大な国王も父・・・と言う事か。)
 ミクガードは、あのヒルトが、こう言う風になるとは想像つかなかった。
「んじゃ、俺が外の扉で待ってるからな。くれぐれも下手な事は、しないようにな。」
 ドランドルは、ミクガードの肩に腕を回して脅した。結構迫力がある。
「は、はは。」
 ミクガードは、顔が引きつりながらも頷いた。
「じゃぁ、デルルツィアの事、聞かせてね♪」
 フラルは、そっちの事で、頭がいっぱいなようだ。
「大した物だ。この王女様も・・・。」
 ミクガードは、小声で呟いた。
 この衝撃的な出会いが、デルルツィアの王子とプサグルの王女の出会いとなった。



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