NOVEL 2-8(First)

ソクトア第2章2巻の8(前半)


 8、化神
 南方遥かストリウスでは、復興の兆しが見え始めていた。ここは、人間にやられ
たのであって、魔族にやられたのでは無いのが、唯一の救いなのだろう。傷ついて
る所も少なく、また「望」の者達が中心になって、壊れた所を少しでも修繕すると
言った厳戒態勢で臨んでいる為、早々攻め込まれる事もなかった。「望」は、その
功績を称えられ、法皇から感謝状まで貰っている。
 しかし、サルトラリアは、どこか満足していなかった。気になるのである。ジー
ク達の事が、どうしても片隅から離れない。宿屋「聖亭」の女将であるファン=レ
イホウも、時々様子を見に来るのだが、ジーク達の事が分かったら、すぐにでも知
らせに行っているくらいである。
 サルトラリアも同様で、レイホウの所には、ちょくちょく寄っているようだ。お
かげで、レイホウとサルトラリアは妙な噂まで立てられている。本人達は、最初こ
そ気にも留めて無かったが、ギルドメンバーが噂したりしてたので、ちょっと気に
しかけている。最も、もう良い年齢なので、互いを気にすると言うより、良い友達
と言う感覚で付き合ってるようだ。それにレイホウは「聖亭」、サルトラリアは、
「望」の仕事で追われている。そんなに付き合う程、暇では無いのだ。
 最も、2人共、今は未婚なので、チャンスが無いと言う訳では無い。ミリィの赦
しがあれば、付き合ってもおかしくないのだ。
 ジーク達が、バルゼに行くと言ってから、既に3週間ほど経つ。その間に、何が
起こったのか知りたい所なのだろう。トーリスの事も気になる。サルトリアとレイ
アの遺体を、冷凍保存させてるのも気に掛かる所だろう。
 そんなある日の事であった。いつもの通り「望」の連中を鍛えていた。
「今日は、ここまで!午後からは東地区の点検に行くぞ!」
 サルトラリアが檄を飛ばす。すっかりギルドマスターっぽくなった、その佇まい
は、亡きサルトリアの若い頃を彷彿させる。
「サルトラリアさん!大変だヨ!!」
 突然「聖亭」からレイホウがやってきた。何やら、手紙を持っていた。
「これはレイホウさん。どうしました?」
 サルトラリアは、レイホウが、いつも以上に焦っているのが気になった。
「これをみてヨ!」
 レイホウは、サルトラリアに手紙を渡す。どうやらジークからのようだ。
『レイホウさん、サルトラリアさんへ
 俺達は今、プサグルに居ます。そちらは体に気を付けてますか?
 早速、本題なのですが、トーリスが見つかりました。トーリスは、レイアさんへ
の罪の意識が狂わされた原因のようです。しかし、俺達には嬉しい誤算がありまし
た。ツィリルにレイアさんの魂が宿っていたのです。この話は、手紙では長くなる
ので、長くは書けませんが、トーリスが正気に戻った事は事実です。
 それと、今回、手紙を送ったのは嬉しい事実があったからです。トーリスとツィ
リル、そしてツィリルに宿ったレイアさんの結婚式を行うので是非、出席してもら
いたいからです。俺は、筆不精なので、どうしても上手く説明出来ないけど、とに
かく来て欲しいです。詳しい話は来てから、話そうと思います。もし来れない場合
は、手紙をください。お返事待ってます。
 それと冷凍保存の件ですが、どうやらトーリスの父親であるフジーヤさんが魂を
戻す事が出来る技を持っているので、それに賭けたみたいなのですが、どうやら死
後3日以上経つと、魂と体の波長が合わなくなって無理との事だったので、今度正
式に葬式をやりましょう。色々な事が有りすぎて、俺も詳しく書けないのですが、
トーリスとツィリルの晴れ姿を是非見に来てください。      ジーク』
 と書いてあった。ジークは手紙を書くのは苦手なのだが、トーリスも復活したて
で、しかも結婚式の準備に忙しいので、手紙を書く所では無いので、一所懸命書い
たのだろう。
「・・・色々あったようだな。」
 サルトラリアは、手紙を見て一粒の涙を零す。
「私は信じられない事ばかりヨ。これを見て、行くしかないと思ってるネ。」
 レイホウは行く気満々だった。すでに「聖亭」の従業員には伝えてある。自分が
留守の場合の対処も、充分教えてあるので、安心していた。
「俺も行こう。行かなきゃ分からない事ばかりだ。」
 サルトラリアは、手紙を畳むと、レイホウに手渡した。
「そうこなきゃネ。」
 レイホウは、サルトラリアの背中をバンバン叩く。
「丁度、ジーク達に伝えたい事もある。行かなきゃならんな。・・・よし。ギルド
師団長!お前に留守を任す!俺はジーク達の所に行く。出来るな?」
 サルトラリアは、信用しているギルドの師団長に話し掛ける。
「任せてください!ジークさんにも宜しく言っておいてくださいよ!」
 師団長は心地よい返事をくれる。師団長は、サルトラリアの考えを理解していた。
連絡があれば、いつかサルトラリアは行くであろうと予想もしていた。
「ギルドマスター!俺達もジークさん達を応援してるって言って下さいよ!」
 「望」のギルドメンバーが次々出てくる。どうやら予想されていたようだ。
「分かった分かった。留守は頼むぞ!」
 サルトラリアは、早速、旅支度を始める。
(良いギルドになった。見てるか?父さん。)
 サルトラリアは、サルトリアの事を思いながら用意するのであった。


 結婚が決まってから1週間、フジーヤは大忙しであった。ペガサスやグリフォン
を駆使して、親への連絡や、出席するメンバーの確認などもやったし、その是非を、
トーリスやツィリルに聞きながら、ルクトリアの大使としての仕事もこなしていた。
激務も良い所である。あまりの忙しさに見兼ねたジークは、その手伝いとして、手
紙を送ったり、訓練の合間に式の準備をしたりして、ジークの休む暇すら無くなっ
ていった。
 別にジークだけではない。他の6人も、それぞれこなす事をしながらも、結婚式
の準備に大忙しであった。トーリスとツィリルは、フジーヤと一所に親への挨拶を
しに行ってるし、レルファとサイジンは参加者リストを作って、出席者確認の用紙
を確認していた。ゲラムは参加者のためのペガサスやグリフォンの世話をしていた
し、ミリィに至っては、厨房の献立メニューを考えたりしていた。休む暇が無いと
は、この事である。
 ヒルトは、娘の結婚式の時は、国の行事として国政官に任せてたので、こんなに
忙しい物だと言う認識は無かった。今回はジーク達が、自分達でやると言ってたの
で、見てたのだが恐ろしい忙しさで、ヒルトも呆れるくらいだった。
(国政官の連中も、こんなに忙しかったのか・・・。)
 ヒルトは改めてそう思う。しかしヒルトは、今回ただの参加者なので、やった事
と言えば、式場の場所を用意した事くらいだった。城ではなくプサグル国立教会で
やるつもりだ。
 どちらにしろ、着々と準備は進んでいる。そんな中でも訓練だけは忘れない。魔
族の恐怖は、しっかり刻まれているようだった。
 遠方から結婚式に出席する人々が、次々到着して、プサグルの城で休む事になっ
ていた。その出席者と言うのも、かなりの数で、ジーク達を知っている人のほとん
どが、参加するらしい。参加しないのは、どうしても王と言う立場上で、駆けつけ
る訳には行かないライルくらいの物だ。妻であるマレルも、出席しないみたいだ。
 レルファとサイジンが、出席者を確かめて、ゲラムが部屋へと案内すると言う手
順になっているらしい。式は3日後に控えた今、色々な人が訪れる事だろう。
 既に、サイジンの父であるグラウドやエルディス一家などは到着している。
「サイジン。元気か?」
 グラウドが、話し掛けてくる。ただ城に居ると言うのも暇なのだろう。それに、
グラウドは、元々プサグル出身で、この城に付いては大概覚えている。
「父上。このサイジン、そう簡単には音をあげませんぞ!」
 サイジンは、いつも通り話し掛けてきた。しかし傍目から見ても、レルファとの
進展があったのが分かる。サイジンは、サイジンの道を歩き始めてるようだ。それ
に、ずーっとジークの剣を受けていたせいか、実力も驚くほど上がっている。
「なら良い。お前も早く俺を安心させろよ?」
 グラウドは軽口を叩く。サイジンは少し照れているようだった。息子の成長具合
を見れて、グラウドは安心していた。
「うちのレイリーは来てるか?」
 エルディスが話し掛けてきた。息子が、ライルの下で修行中なので、気になる所
なのだろう。
「まだ来てませんねぇ。残念ですな。」
 サイジンは、答えてやる。
「良いのよ。アイツの事だからひょんな時に顔を出すわ。」
 エルディスの妻の繊香が、あっけらかんと答える。
「いっぱい来るのかしらねぇー?」
 レイリーの姉でもある麗香が、おっとりと名簿を見る。相変わらずだ。
「そう言ってる間にも来ますよ。」
 レルファは、名簿を確認する。サイジンは、周りを見ると外から誰かが、到着し
たようだ。この足音は聞いた事があった。
「凄い立派な城ネ。」
「ゲラム君の故郷は、こんな凄い所だったとはなぁ・・・。」
 2人組だ。しかも、この声は、間違いなかった。
「レイホウさんにサルトラリアさん!」
 レルファが声を掛ける。向こうも、それに気がついたようで、こっちに駆け寄っ
てくる。サイジンも嬉しそうな顔をしていた。
「レルファちゃんにサイジン君。元気してタ?」
 レイホウが握手をする。
「いやぁ、俺も驚いたよ。トーリス君は・・・どうなった?」
 サルトラリアは、トーリスの事を心配していた。
「いっぺんに言われても返答に困りますな。まずは、この名簿にサインして下さい。」
 サイジンは名簿を出す。サルトラリアとレイホウは手早くサインをする。
 その間に、エルディスやグラウドに、これまでお世話になったストリウスの人だ
と言う事を説明していた。
「息子が世話に、なりましたようで・・・。」
 グラウドが声を掛ける。レイホウは、サインを終えるとニコッと笑う。
「世話になったのは、こっちネ。良い息子さん持ったヨ。」
 レイホウは明るく声をかける。
「貴方がグラウド=ルーンさんにエルディス=ローンさんか。初めてお目に掛かる。
私の名は、サルトラリア=アムルだ。」
 サルトラリアは2人と握手をする。
「ふむ。何か剣術をやってらっしゃるのか?」
 グラウドはサルトラリアの身のこなしや、手を握った時の感覚で悟る。
「天武砕剣術をやっています。最も今はギルドの長ですがね。」
 サルトラリアは歯切れよく答える。グラウドは少し警戒した。
「ハイム=ジルドラン=カイザード殿が使ってた、あの剣術か?」
 グラウドは直に聞いてみる。昔プサグル四天王だった男だ。
「・・・そうです。惜しい奴でした。才能は抜群でした。彼は・・・。」
 サルトラリアは、遠い目をする。ジルドランは、サルトラリアと同じくらい剣術
の才能があった。だがプサグルに忠誠を誓って、その命を落としたのである。
 そんな事を話してる間に、また来たようだ。今日は来訪者が多い。
「ふう。やっと着いたか。おい!アイン!しっかりしろって!」
 喧しい声が聞こえてきた。エルディスが頭を抱える。レイリーの声だ。
「揺らさないでくれ。・・・俺は乗り物は弱いんだ・・・。」
 アインは、ヘロヘロになっていた。乗り物酔いは相変わらずのようである。
「プサグルか・・・。こんな用事で来る事になるとはな・・・。」
 ルースの声もする。緊張した面持ちだった。自分の娘が結婚するのだ。複雑な気
持ちなのだろう。
「ツィリルは、立派になったのかしらねぇ・・・。」
 隣に居たルースの妻アルドも、涙目になっている。
「こっちですぞ!ルースさん!」
 サイジンが大声を上げる。向こうも気がついたようだ。
「サイジン君。それにレルファちゃんか。他の奴らは、どうした?」
 ルースは、ジーク達が居ないのを不思議に思っていた。
「兄さんは、慣れない手紙を書いたり、式場の飾り付けで、てんてこ舞いよ。」
 レルファが笑いながら答える。
「ツィリルは・・・どうしてます?」
 アルドが聞いてきた。やはり気になるのだろう。
「ツィリルは、今レイアさんの実家に居ます。トーリスとフジーヤさんと一緒です
よ。向こうの家族にも挨拶に向かってます。」
 レルファは、説明してやる。
「一回、うちにも説明しに来たけど・・・まだ信じられん気分だよ。」
 ルースは、ツィリルと中に入っているレイアに会っていた。もちろん、トーリス
にもだ。トーリスからツィリルへの気持ちも聞いたし、フジーヤからレイアへの説
明もあったし、実際レイアにも会ってみた。それでも、まだ信じられない気分だ。
 それにトーリスなら安心して嫁に出せるのだが、まだツィリルには早いのでは無
いか?と言う気分もある。親なのだろう。
「ともあれ、サインしてください。アインも、しっかりして下さいよ。」
 サイジンが名簿を渡す。皆それぞれチェックしに行く。
「よぉ。サイジン。俺は腕を上げたぜェ?」
 レイリーは、ニヤリと笑う。サイジンとは何度か手合わせしている。
「そのようですな。でも、私もジークの剣を受けていると言う事を忘れずにね。」
 サイジンは自信を持って言う。そう言える程、サイジンも腕を上げていた。やは
り、毎日ジークの剣を受けるのは並大抵の事では無いのだ。
「今度、俺とも手合わせしよう!」
 アインも、少し気分が良くなってきたのか、サイジンと握手を交わす。
「望む所ですぞ。アイン。」
 サイジンは、良きライバル達に感謝する。
「それは良いけど、仕事も忘れちゃ駄目よ。サイジン。」
 レルファは釘をさす。名簿の管理も結構大変な仕事なのである。
「分かってますよ。レルファ。仕事を忘れるほど抜けちゃいませんぞ。」
 サイジンは、親指を立てて答える。レルファはクスッと笑う。
「・・・あの2人も、進展があったようだな。」
 エルディスは顎に手を掛けながら、ルースに話し掛ける。
「冒険してると、やっぱ違うのかねぇ。」
 ルースは、自分の娘もトーリスと結婚すると言うので、その辺なのでは無いか?
と思っていた。
 こうしている間にも、また誰か着いたようだ。今日は、本当に来訪者が多い。ち
なみに、来訪者が来た時は物見が知らせてくれるのだ。
「おっきな城ねぇ。」
 素っ頓狂な声がした。どうやら子供連れの女性らしい。子供の方もキョロキョロ
見ていた。余程、珍しいのか楽しそうだった。
「あ!レルファおねぇちゃんだ!!」
 子供の方が、こちらに駆けて来る。どうやら、こっちの事を知っているらしい。
(誰だったかしら?子供に知り合いなんて・・・?)
 レルファは、記憶を探るが中々出てこない。しかし女性を見て思い出した。
「ま、まさかドラムちゃん!?」
 レルファは、ビックリした。子供はドラムなのだろう。女性の方は、人間の姿を
したドリーだった。昔、龍の巣に入った時に、出会ったきりなので忘れそうだった。
間違いなく龍の親子だった。しかも、あの時ドラムは人間に変化出来なかったはず
だ。どうやら成長したのは、ジーク達だけでは無いらしい。
「おねぇちゃんだぁ!会いたかったよ!!」
 ドラムは、無邪気に抱きつく。レルファもビックリしたが頭を撫でてやる。
「いやぁ、驚きましたぞ。ジークは、ドリーさんにまで手紙出していたとは・・・。」
 サイジンも驚いていた。名簿を渡された時に知っている人のチェックは、してた
のだが、ドリーの事はすっかり忘れていて、チェックし忘れていたのだ。
「私の方も驚きました。あの時のトーリスさんとツィリルちゃんが結婚だ何て。」
 ドリーは、嬉しそうに笑う。
「うーむ。これは・・・一度、全部説明した方が良さそうですね。」
 サイジンはレルファと顔を見合わせながら、溜め息をつく。
 サイジンは、今までの事と、ここに介した人達の、それぞれの自己紹介も兼ねて、
説明する事にした。それが今日の一番の仕事になってしまった。


 サイジンは、今までの事を全て話してあげた。ストリウスに行った時の事、「聖
亭」での出来事、ギルドの存在、そして「望」に入ったときの事。そして、龍の巣
の依頼と、その時に出会ったドリー親子の事、そしてトーリスの苦悩とレイアの事。
そして、何よりも今対立している魔族の話。トーリスにとり憑いてたレイモスの話。
何よりも、ここに集まっているエルディス一家と自分の父親であるグラウドの紹介。
そして、今回結婚するツィリルの親であるルース一家の話。
 全て話し終えたとき、周りからは拍手が起こった。実際サイジンも倒れそうだっ
た。レルファが『精励』を掛けてやるが、それでも疲れきった顔をしていた。
「そんな面白い事があったとはなぁ。俺も行きたかったぜェ!!」
 レイリーが、拳を握りながら答える。相変わらず燃える男である。
「俺も正直、付いていけば、面白かったかもな。」
 アインまで言い出す。確かにジーク達の旅は驚きの連続だった。サイジンでさえ
物事を整理するのに、時間が掛かったくらいである。
「しかし・・・ジーク義兄さんは、皆を呼ぶ気なのですかなぁ・・・。」
 サイジンは、ヘトヘトになっていた。
「苦労したのですねぇ。」
 ドリーが、しみじみと話す。
「しかし、おめーさんが龍だなんて、ホントなのかよ?」
 レイリーは、嬉しそうにしているドラムに話し掛ける。
「へっへー。ホントだよぉ!ほら!」
 ドラムは、そう言うと龍の姿になる。まだ小さい龍だが間違いなかった。しかし、
あの当時より、かなり大きくなっていた。
「これ。ドラム。簡単に龍にならないって言ったでしょ?」
「ごめんなさーい・・・。」
 ドリーは、ドラムに叱り付けるとドラムは頭を抱えながら人間の姿に戻った。
「ホントに龍だったなぁ。」
 アインも呆然とする。皆、ビックリしたようだ。やっぱり話を聞くのと自分の目
で見るのでは違うのだろう。
「素直な良い子ですよ。ね。サイジン。」
 レルファは、サイジンに同意を求める。
「ええ。でも成長しましたなぁ。私も驚いたぞ。ドラム。」
 サイジンも、ドラムの頭を撫でてやる。ドラムは気持ち良さそうにしていた。
「お前達は、随分と凄い体験をしてきた物だな。」
 ルースも素直に感心する。ツィリルも、冒険慣れしている事だろう。
 そうしていると、向こうからゲラムがやってきた。
「お?皆!うわぁすっごい来てるじゃん!」
 ゲラムは、素直に驚いていた。確かに今日の来訪者は結構濃いメンバーだ。
「なぬ!?あれがゲラム!?」
 レイリーは、ビックリした。レイリーが知ってるゲラムは、もっと小さかったは
ずだ。ゲラムも成長しているのである。他の皆も同じ思いだった。
「どうしたんだよ?レイリーさん。僕は僕だよ。」
 ゲラムは、無邪気に笑いかける。性格は変わってないらしい。
「おい。ゲラム。ジークは、まだ忙しいのか?」
 ルースが尋ねてくる。これでジークが来たら主要なメンバーは、ほとんど集まる。
「ジーク兄ちゃんだったら、もうすぐだと思うけど?さっき飾りつけ終わったって
叫んでたよ。」
 ゲラムは、ジークに、ついさっき会ってきたので知っていた。
 すると、また来訪者の合図があった。サイジンはゲンナリする。
「今度は、誰が来たのですかな?」
 サイジンは名簿をチェックする。しかし主要なメンバーは揃っているはずだ。
「ふう。お?見ろよ。すげぇ集まってるぜ?」
「そうだな。む?あそこに居るのはジークの仲間の者達では無いか。」
 3人組の男女だった。その内、2人までは見た事がある。
「ジュダさん!来てくれたのですな!」
 サイジンは、また驚きの声を上げる。その男は間違いなくジュダだった。
「いよぉ!サイジンか!・・・腕上げたみたいだなぁ。闘気が溢れてるぜ?」
 ジュダはニヤリと笑う。挨拶で、いきなり強さの話とは、如何にもジュダらしい。
「あ、貴方様は!」
 ドリーは、ビックリする。そして、即座に跪く。ドラムもドリーの真似をする。
「お、おいおい。どうしたんだよ。」
 ジュダは頭を掻く。そりゃ、いきなり跪かれたらビックリするだろう。
「竜神ジュダ様ですね?ご降臨なされていたとは!」
 ドリーは、真面目ぶった挨拶をする。その言葉に皆、ビックリする。サイジン達
は知っていたので、特には驚いていなかった。
「そう言うって事はお前、キーリッシュん所の龍か?奇遇な所で会うなぁ。」
 ジュダは、妙に納得した顔で答える。
「ジュ、ジュダ様。人間に正体を明かして宜しいのですか!?」
 ジュダと赤毘車以外の、もう1人が驚いていた。
「はっはっは。構わねぇよ。ここにいる奴らは、皆、魔族と第1線で闘ってる連中
だ。正体隠してたら、失礼って物だ。」
 ジュダは、全然気にしていなかった。どうにも、この神は緊張感が無いらしい。
「赤毘車様。宜しいのですか?」
 もう1人の男は、呆れたように赤毘車にも聞く。
「フッ。ジュダが気にしていないのなら、私も気にせぬ。」
 赤毘車は、ジュダのこう言う所には、慣れているらしい。
「凄いお人だとは思っていたが・・・神の1人だったとは・・・。」
 エルディスは、驚きを隠せなかった。自分は、凄い人と知り合いになった物だと
も思っていた。レイホウなど腰を抜かしそうになっていた。
「まぁそこの龍のお姉さんが言ったように、俺の名前は竜神ジュダだ。宜しくな。」
 ジュダは、改めて挨拶する。皆は、宜しくと言われても、どう反応すれば良いの
か、分からなかった。
「私はジュダの妻ある剣神、赤毘車だ。」
 赤毘車は、ガリウロル風に礼をする。エルディスが、それに反応して礼をした。
「私の名は鳳凰神ネイガだ。ジュダ様同様、お見知りおきを。」
 ネイガは、真面目に挨拶する。
「驚いたぜ・・・。おいサイジン!お前達どう言う冒険してたんだ!?」
 レイリーは驚かされっぱなしで悔しかったのだろう。
「どう言うたって・・・ジークに聞いて下さいよ。」
 サイジンは、呆れ顔で答える。サイジンはジュダ達にサインしてもらっていた。
ネイガは予定には無かったが、ジュダの顔を立てて大丈夫と言う事になった。
 その内、城の中から聞き慣れた足音が迫ってきた。
「おお!皆、集まってる!久しぶり!!」
 その主はジークだった。ジークは手を振る。横にはミリィも居た。厨房の指示が
終えたのだろう。
「兄さん!こんなに手紙出したなんて聞いて無かったわよ!」
 レルファが怒る。サイジンは怒る前に呆れていた。
「そう言うなって!アイツらの結婚式だろ?賑やかにやってやりたいんだよ。」
 ジークは、優しい目をしていた。
「ジークらしいと言えば、それまでだが・・・豪華なメンバーだな。」
 ルースも呆れていた。龍や神まで来るなんて予想していなかった。それも、この
ジークの人柄が為せる業なのだろうか?
「ミリィ!久しぶりネ!」
 レイホウが、ミリィを見つけて挨拶をする。
「母さん!来てくれたのネ!」
 ミリィは、久しぶりに母の言葉を聞いて嬉しそうだった。
「凄い冒険してたんだネェ。あなた達。ビックリしたヨ。」
 レイホウは、素直に驚いた事を伝えた。
「私も、まだ信じられないくらいネ。」
 ミリィは、今居る顔ぶれを見て冒険の事を思い出していた。
 すると、また来訪者の合図があった。しかし、これは帰還の合図だった。
「お?来たな。」
 ジークは正面の門の方に行く。グリフォンの羽ばたきも聞こえてきた。
「おーい!トーリス!皆が来てるぜ!」
 ジークは手を振って教えてやる。すると、トーリスは嬉しそうにツィリルと一緒
に走ってきた。フジーヤやルイシーに、恐らくレイアの両親だろう。その4人も後
から付いてきた。
「皆さん!着いてましたか!」
 トーリスは、見知った顔ぶれが揃っているのを見て笑顔で答える。
「おいおい。ジュダさんまで居るぜ?豪華なメンバー揃えたもんだ。」
 フジーヤが呆れた顔をしていた。ルイシーも同じであった。
「みんなー!ひっさしぶり!うわぁ!嬉しいなぁ!」
 ツィリルが、とてつもなく喜んでいた。自分の結婚式に、これだけのメンバーが
祝福してくれるのだ。嬉しくないはずが無い。
「おかえりなさい!ツィリル!トーリス!」
 レルファが、迎えてやる。自分の事のように嬉しそうだった。
 こうして、プサグルの城に物凄いメンバーが一堂に介したのであった。
 この後、ヒルトに全て説明したのもサイジンで、今日は、彼が一番の功労とも言
えるだろう。お蔭様で、サイジンは、しばらく動けなかったと言う。


 翌日、皆は、すっかりお互いと打ち解けあっていた。その後、2日後の式の用意
が整ったと言う事もあって、久しぶりに思い切り訓練しようと言う事になった。
 魔族の襲来が凄いと言う事もあるが、これだけのメンバーが揃っているのである。
さながら実戦形式で訓練する良い機会なのだろう。それに、何と言っても神である
ジュダ達3人が居るのだ。本当にそうなのか、確かめる良い機会だし、何より魔族
よりも強い強さを持っているのである。対抗出来ないようでは、人間の未来は掴め
なくなってしまうと言う考えもあっての事だろう。
 それにジュダ達3人も、久しぶりに人間達の力を見る良い機会なのである。最も、
ネイガは少し反対してはいたが・・・。
(神が、ここまで人間に干渉して良い物なのか?)
 ネイガは、その想いが拭えない。しかし、ジュダがそうしている以上、従わない
訳にも行かなかった。
 主に剣術組、魔法組に分かれて、修行していた。剣術組は剣だけでなく忍刀を使
うレイリーや弓を使うゲラム。棒を使うミリィまで参加していた。魔法組は、魔法
を主に使う者達が集まって修行に励んでいた。
 剣術組の中心は、主にジークと赤毘車、魔法組は、トーリスとジュダだった。ネ
イガも魔法組の方に入っていた。
 剣術組では、早くも赤毘車とジークが打ち合いをしていた。剣神と言うだけあっ
て、赤毘車の剣術は群を抜いていた。あのジークでさえ、まるで一本が奪えないの
だ。次元の違う強さであった。ジークとサイジンが、何とか赤毘車に木刀の背で受
け止められるレベルだったが、他は受け止めるまでもなく、避けられて打ち込まれ
ていた。誰を狙っても良いと言うバトルロワイヤル形式の訓練だったが、やはり集
中したのはジークと赤毘車にだった。時々サイジンにも来た。
 赤毘車は、普段控えめだが剣を唸らせる時は、まるで人が違ったかのような強さ
だった。神の中でも強い部類に入るだけはある。しかし、その赤毘車に木刀で受け
させるだけの実力を、ジークとサイジンは備えていた。サルトラリアでさえ、訓練
をこの頃してなかったせいか、まるで当たらない。『疾風』と恐れられたルースで
さえ、掠りもしないのだ。ジークからは、何本か取っているだけに、レベルの違い
を思い知らされていた。
「・・・すっげぇな。赤毘車さん。俺、こんなにワクワクしたのは初めてだ。」
 ジークは嬉しそうに赤毘車を見る。女性の神ではあるが、この強さは本物だ。
「ジークも筋が良い。サイジンも腕を上げたようだな。」
 赤毘車は話しながらも、木刀で受け切ってみせる。
「参りましたね・・・。死角剣がここまで、当たらなかったのは初めてですよ。」
 サイジンも息を切らしながら、木刀を振る。
「サイジン!油断大敵だぜ!」
 レイリーが横から、猛スピードでサイジンに打ち込もうとする。しかし、サイジ
ンは、その打ち込みを木刀の鞘の部分で受け止めると、そのまま胴に打ち込む。中
々の早さであった。
「ちぃ。俺も腕を上げたってのに・・・。ワクワクするじゃねぇか!」
 レイリーは胴を擦りながら、また木刀を構える。
「せい!」
 サイジンに、サルトラリアが攻撃を仕掛ける。それと同時に、死角からグラウド
も仕掛けてきた。サイジンはサルトラリアの木刀を受け止めつつも、グラウドの仕
掛けをジャンプ一番で避けた。
「勝機!天武砕剣術!撫で斬り『空刃(くうじん)』!」
 サルトラリアが、サイジンに天武砕剣術の『空刃』を仕掛ける。空中に居る相手
に対して、素早く撫で斬りを仕掛ける技だ。さすがのサイジンも、空中では動きが
鈍かったので胸に打ち込まれしまった。
「見逃しませんな!見事ですぞ。」
 サイジンは、痛そうにしていたが、すぐに立ち上がった。
「はぁああ!!不動真剣術!旋風剣『爆牙』!」
 ジークは赤毘車に向かって『爆牙』で竜巻をぶつける。赤毘車は感心していたが、
何と、その竜巻を飛び越えると太陽を背にジークに飛び込む。
「くっ!まぶしい!」
 ジークは木刀の構えを解かなかったが、赤毘車は空中で、既に別の技に移行して
いた。油断も隙も無い。赤毘車は、ジークに対して一回強烈な斬りを放って、木刀
越しに跳ね飛ばすと、横から襲ってきたミリィの回転撃を木刀の先で受け止める。
凄まじい神技であった。まさに神の技である。
「今の連携は、良い感じだったぞ!しかし、まだ甘い!」
 赤毘車は、ミリィを木刀の先で受け止めた所から棒を跳ね飛ばすと、今度は上か
ら襲ってきた矢を全て正確にゲラムの下に跳ね返す。
「・・・す、凄いや!!」
 ゲラムもビックリした。気付かれないように矢を打ったのに、跳ね返ってきたの
だからビックリである。ちなみに鏃は付いていない。
 何よりも驚愕すべき事は、これだけの行動をしているのに、息一つ乱していない
事だ。神の強さの一端を見させられた気がした。
「ならば、これはどうだ!」
 ルースは、抜刀の形を取って真正面から斬ると、それをそのまま上に返して2段
斬りとした。すると赤毘車は斬られてしまった・・・かに見えた。しかし、ルース
には全く手応えが無かった。何と残像だったのである。凄まじいスピードだ。
「惜しかったな。」
 赤毘車は、一瞬で後ろに回ってルースを後ろから肩口より斬りを入れる。それと
同時に、襲ってきた木の手裏剣を木刀を軸にして逆立ちするような格好で避ける。
「あれも避けるとは・・・。」
 エルディスは、今度こそ当たったと思ったのだが、避けられてしまった。しかし、
その上空をアインがジャンプして狙う。
「ルース流剣術!『ツバメ3段』!」
 アインは、ルース道場で習ったツバメ返し3段返し、通称『ツバメ3段』を放つ。
赤毘車は、それを体を捻るだけで全て避けてしまった。全て振りを予測してたとし
か思えない動きだ。
「す、すげぇ・・・。」
 レイリーは思わず見惚れてしまった。
「みんな鋭くなって来たな。嬉しいぞ。それに応えて面白い物を見せよう!」
 赤毘車は、木刀に気合を入れる。神気と呼ばれる物を込めているのだろう。
「破砕一刀流、斬気『波界(はかい)』!!」
 赤毘車は、初めて自分の剣術を見せた。この『波界』は、気合を剣に込めて、目
標物に衝撃を与える技だ。その速さたるや早々避けられる物では無い。
「私ですら避けられんとは・・・!」
 サイジンは、木刀を軸に膝をついてしまう。他の皆も、ほとんど伸びていた。意
識があっても体を起こすのが、やっとであった。しかしジークだけは立っていた。
「『波界』を弾くか!面白い!」
 赤毘車は木刀を構える。ジークだけ木刀に闘気を込めて弾き返したのだった。
「すげぇ。すげぇぜ!赤毘車さん!こうなったら、俺も小細工なしだ!!」
 ジークは、木刀を妙な構えで構える。水平にして気合を込めていた。
「行くぞ!はあああああ!!」
 ジークは、木刀で不動真剣術の象徴である五芒星を描く。
「不動真剣術、奥義!『光砕陣(こうさいじん)』!!」
 なんと健蔵が前に放った『滅砕陣』の不動真剣術バージョンを繰り出す。凄まじ
いエネルギーが赤毘車を襲う。
「考えたな。私も、それ相応の技で対応させてもらうか。」
 赤毘車は木刀を縦回転で回し始めた。回しながらも木刀に気合を入れて『光砕陣』
のエネルギーを吹き飛ばしてしまった。
「これぞ破砕一刀流、防技『灰塵(かいじん)』。これを出させるとは大した物だ。」
 赤毘車は、ジークを褒める。この『灰塵』は、取って置きの防御技だったのだ。
「・・・参りましたよ。俺は今ので力使い果たしちゃいましたよ。」
 ジークは膝からへたりこむ。しょうがないだろう。赤毘車も、さすがに汗を掻い
ていた。神に汗を流させる程の動きを、皆はしていたのである。
(楽しみな事だ。)
 赤毘車は、これから来るであろう時代の担い手達を心の内で褒めるのだった。



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