NOVEL 2-8(Second)

ソクトア第2章2巻の8(後半)


 一方、魔法組の方は、主に授業形式で魔力を高めていたが、それぞれの魔力を高
め終わったら、その成果を見せると言う事で、中庭を使って魔法の打ち合いをする
事になった。
 こっちにはジュダを始めとして、ネイガ、トーリス、ツィリル、レルファ、そし
てフジーヤ、ドリー、ルイシー、麗香なども居た。レイホウや繊香、ドラムなどは
見学と言う事で脇の方で見ていた。
 トーリスは、ジュダとネイガに早速、驚いていた。自分の魔力も、かなり上がっ
ていると自負していたが、この2人の魔力は桁違いだった。どう感じても、無限に
近い魔力を持っている。この2人の末恐ろしさを知った。
 一方のジュダもトーリスは、もちろんの事、ツィリルの魔法の才能にも評価して
いた。潜在能力は凄い物があるらしく、魔法を湯水のように吸収していく。レルフ
ァは、そこまででは無いにしても、こと神聖魔法に関しては、他の2人より群を抜
いて強い。それぞれの特徴が良く出ている。
 他の4人も、普通の人間から比べれば上位クラスだが、それ程、飛び抜けてる訳
では無い。しかし、おっとりとしていながらも、麗香は若いせいか、かなりの魔力
を秘めているのを感じていた。
(想像以上に実りある訓練になりそうだな。)
 ジュダは心の内で手応えを感じていた。
「魔法の源は精神力だ。精神力が強い者程、魔力は高いと言っても過言じゃあない。
だが、魔力を増幅させる事が出来る事も忘れてはならない。」
 ジュダは説明してやる。魔力は、その人の精神力の強さによって、強さがまちま
ちである。しかし、それだけではない。精神力ならサイジンだってジークだって、
それなりに凄い物を持っている。闘気向きの体質を持つ者と、魔力向きの体質の持
ち主も居るのだ。ここに居る者達は、いずれも魔力向きの体質を持っている。最も
ジュダとネイガの場合は、それを上回る程の神の気である神気が得意なのだが。
 魔力は、物によって増幅する事も出来るのだ。実は、それが人それぞれで違うの
だ。ネイガが、よく愛用しているのは、魔法でコーティングされている小型の腕輪
である。そしてジュダが愛用しているのは宝石であった。いつでも出せるように、
首のネックレスに相当の数の宝石が埋め込まれていた。派手なアクセサリーだと思
ったが、意味無く付けていた訳では無さそうだ。
 ジュダは、その増幅させる物を探すために色々皆に試させてみた。魔法の打ち合
いは、それからと言う事になった。
「ふーむ。確かに増幅出来ると言う事は知っていましたが、私は、杖のみかと思っ
ていたのでね。人それぞれ違うなんて、知りませんでしたよ。」
 トーリスは、市販で売られている魔力の帯びた杖以外に使った事が無かった。と
言うより魔法使いのステータスにすらなっているので疑問を持つ者は居なかった。
「まぁ色々試してみる事だな。」
 ジュダは宝石、杖、腕輪、指輪、冠、ネックレス、その他軽い物で携帯できる物
で考えられる物を多く用意していた。
「これ可愛い〜♪」
 ツィリルは、イヤリングなどに興味を示していた。と言うより、女性陣は増幅出
来る物を選ぶと言うより、自分に似合うかどうか楽しみながら選んでいた。気楽な
物である。寧ろ、その方が選び易いのかもしれない。
「これ付けたら、サイジン喜ぶかなぁ?」
 レルファも楽しみながら選んでいた。ネイガは呆れていた。
「これ、良いですね〜。」
 麗香は、おっとりした口調で髪飾りを手に取っていた。すると、驚く事に麗香の
魔力がアップするのを感じた。本人もキョトンとしていたが、間違いないようだ。
「一人決まったようだな。俺も色々試してみるか。」
 フジーヤは麗香の魔力の上昇具合を見て、色々試していた。
「・・・わたしこれかも・・・。」
 ツィリルは、そう言うとレイアの付けていたロザリオを手に取ってみた。すると、
その瞬間に、ツィリルの体が弾けるくらい、強力な魔力がツィリルの体から放たれ
ていた。これにはジュダもビックリしていた。
(ここまでとはな。このお嬢ちゃん、大成するかもな。)
 これには、ネイガもビックリしていた。
「・・・む!これは・・・。」
 今度はトーリスだった。トーリスが手に取っていたのは、オリハルコンで出来た
鎖型の腕輪だった。腕輪と言うよりミサンガに近い。トーリスは、溢れ出す魔力を
感じていた。杖の時とは比べ物にならない程、フィットしていた。
(人間が、これ程の魔力を放つなど・・・装飾品の効果もあるとは言え・・・。)
 ネイガは驚かずには、いられなかった。
「う、うわ!なにこれ??」
 今度はレルファだった。レルファはペンダントを首に付けた瞬間だった。魔力の
増幅は明らかに分かる物だった。魔法を使う者ならば、魔力の強さが何となく感じ
るのだ。それが一気にアップしたように感じるのだ。だから付けた瞬間に分かるの
だ。ルイシーは冠、フジーヤは甲拳、ドリーは。サークレットが、それぞれ魔力を
アップさせる物だった。次々と判明する内に、ネイガは人間の底力を感じていた。
(ジュダ様が気に掛ける訳だ。)
 ネイガはフッと笑う。
「よし。判明した所で、それぞれ得意魔法を撃ってみろ。」
 ジュダは、そう言うと腕を振り回す。
「ジュダさん。どうして構えるのですか?」
 トーリスは、ジュダが構えを見せているので不思議に思った。
「俺に撃てって言ってるんだよ。まさか、中庭を壊す訳には行くまい?」
 ジュダは、ニヤリと笑う。それぞれ魔力が上がった効果を自分の体で受けてみた
いと思ったのだろう。
「だいじょーぶ?ジュダさん。」
 ツィリルは、さすがに躊躇ってしまう。
「俺は、これでも神だぜ?遠慮する必要はねぇぞ?」
 ジュダは、腕を交差させて魔力を手に溜めていた。防御する構えだ。
「じゃあ私から行きましょう。遠慮はしませんよ。」
 トーリスは、腕輪を握ると凄まじい程、魔力が溢れてくるのが分かった。そして、
その魔力を自分の得意な氷結系の魔法に変えた。
「氷結の力よ!『氷砕』!!」
 トーリスは『氷砕』の魔法を撃つ。氷の塊がやがて、吹雪のようになって、ジュ
ダを襲う。いつもの数倍の威力を感じていた。この腕輪もさる事ながら、瞑想によ
って力が増して来てるのを感じた。しかし、ジュダは何と片手で受け止めていた。
「俺に手を使わせるなんてな。やるじゃないか。」
 ジュダはそう言いつつも『氷砕』の威力を掻き消す。
(これが・・・神の力と言う訳ですか。参りましたね。)
 トーリスは冷や汗を掻いた。いつもの数倍の威力をジュダは、片手で受け止めて
いたのである。
「次、わたし行くよー!」
 今度はツィリルが前に出た。
「私も試してみるわ。」
 レルファも構える。レルファは、攻撃魔法が得意で無いので、ツィリルに魔力を
増幅させる『塊魔』の魔法を撃つつもりだ。レルファはペンダントに祈りを込める。
「ツィリル。行くわよ!・・・『塊魔』!」
 レルファの声と共に、ツィリルの魔力が膨れ上がる。そして、その魔力を受けた
ツィリルはロザリオを握り締めながら自分が得意の爆発系の魔法に変える。
「いっけぇ!『原子壊』!!」
 ツィリルは原子爆発を起こして、敵を破壊する魔法を撃った。レルファから魔力
をもらったおかげで、難なく撃てた。それをジュダは、またしても片手で受け止め
る。魔力が爆発しようとして暴走気味になっているのを、無理やり押し込めている
感じだった。そして、やがてジュダが力を入れると消えていった。
「すっごーい。さすがジュダさんだぁ。」
 ツィリルは、自分でも暴走するかもしれない魔法を、ジュダが受け止めたので驚
いていた。レルファも同様である。ツィリルの魔力は、自分の魔法で確かに素晴ら
しくアップしていたはずだ。それを片手で受け止めるなんて信じられなかった。
 その後、他の人も一通り撃ったがジュダは、指一本で止めて見せたりしていた。
そして、ジュダの言う通り、中庭は全く傷つかずに魔法を撃ち終えていた。
「凄すぎるぜ。ジュダさん。」
 フジーヤは、魔力をかなり解放したと言うのに全く通じなかった。
「ははっ。お前達の魔力も中々だったぜ。・・・でもな。実は、もう一つ重要な要
素があるのを忘れちゃなら無いぜ?」
 ジュダは、そう言うと、人差し指を立てる。
「今度は、何です?」
 トーリスは、素直に聞く事にした。
「それは体術さ。その重要性は、トーリスとフジーヤ辺りは知ってるだろ?」
 ジュダはニヤリと笑う。魔法を使う者にとって、体術は不可欠である。魔法に集
中している隙に攻撃されるのを防ぐためだ。事実、レルファもツィリルもトーリス
から体術の基本は学んでいる。
「お前達は地上で動く分には申し分ない体術を持っているとは言える。だが、空中
では、まだまだだろ?それを磨かなきゃ駄目だぜ。」
 ジュダは、そう言うと事も無げに空中に浮く。『浮遊』の魔法と『飛翔』を組み
合わせて上手く制御しているのだろう。
「空中の体術の基本は『飛翔』の魔法だ。これを体術とミックスさせる事により、
自在に動けるようにする。そうじゃねぇと魔族との空中戦で勝てないぜ?」
 ジュダは空中で自在に動いて見せた。相当、慣れているのだろう。
「ま、基本はこんな所だ。何かへばってるようだし、今日は、ここまでにするか。」
 ジュダは、皆が魔法を撃ち終わって疲れてるのを見て、終わりにする。
「ジュダ様。まだ私が残ってますよ?」
 ネイガは、そう言うと前に出てきた。
「ほう。急にどうした?やる気満々だな。」
 ジュダは、ネイガが神気を発しているのを見逃さなかった。
「神の中でも、屈指の実力を持つ貴方と、手合わせしたいと思っていたのですよ。」
 ネイガは、このチャンスを待っていたのだ。
「嬉しい事言うじゃねぇか。でも、ここじゃお前と闘ったら城が崩れるかもしれん。
場所を変えるぞ。」
 ジュダは、そう言うと『転移』の魔法で空中に穴を空ける。どうやら、中央大陸
の中でも生物が少ない荒野のようだ。
「やるなら付いて来い。付き合ってやるぜ。」
 ジュダは、転移で空けた穴の中に入る。
「もちろん行きますよ。」
 ネイガは、穴の中に入っていった。トーリスとレルファとツィリルも、顔を見合
わせると中に入っていった。
「お、おい!トーリス!」
 フジーヤが、止める間もなくトーリス達3人は入っていった。神と神の闘いを見
て何かを感じ取ろうと言う狙いがあるのだろう。
「しょうがねぇ奴らだ。」
 フジーヤは呆れていた。あれが2日後に結婚式を控えた者達とは思えない。
 皆も同じ考えだったようで、呆れながら空を見ている者が多かった。


 ジュダが空けた穴の先は、ソクトアの中でもルクトリア、バルゼ、プサグル、パ
ーズ、ストリウスと繋がっている、だだっ広い荒野が広がる中央大陸で、国として
は成り立ってないが、凄まじいほどの面積を誇る場所であった。
 気が付くと、いつの間にか、トーリス達が見学に来ていた。
「おい。そこに居ると、危ねぇぞ?今回は、手加減が出来そうもねぇからな。」
 ジュダは、トーリス達が付いて来た事は、さして驚いていなかった。
「その心配は無い。」
 いきなり空中から声がした。すると、赤毘車がいつの間にか来ていた。そして、
その横には、かなりへばっているジーク、サイジン、ミリィ、ゲラムにアイン、レ
イリーの姿があった。フジーヤが説明しているのを聞いて、どうしても見に行きた
いと言ったのだ。赤毘車は呆れながらも連れて来たのであった。赤毘車は、ジュダ
の位置なら探らなくても分かる。その辺は夫婦の絆が強いと言う事だろう。
「全く。ネイガもジュダも軽率だぞ?私に一言の説明もしないなんてな。」
 赤毘車は呆れながら、この辺一帯に神の気による強力なバリア状の物を張る。こ
れでジーク達は、安全だろう。
「済まねぇな。赤毘車。・・・ギャラリーが増えちまったが、やるか。ネイガ。」
 ジュダは、指をポキポキ鳴らし始める。やる気満々である。
「私も軽率でしたが・・・これで心置きなく闘えますね。」
 ネイガは、神気を高め始める。同時に魔力も放出していった。すると、大地が揺
れ始めた。凄まじい程の力である。地震が起こるかのようだった。
「この目で、こんな闘いが見られるなんて・・・ついてるぜぇ!」
 レイリーは拳を握り始める。傍から見ても、この2人は恐ろしい力を秘めている
のが分かる。ジークやトーリスが冷や汗を掻いているのを見れば、その程度が分か
ると言う物だ。
「さて、まずは様子見って所か?」
 ジュダは、拳を握りつつも神気を高め始めた。嵐が起こる前の静けさのような力
が、ジュダを取り巻いていく。
「フッ。ジュダめ。久しぶりに本気だな。」
 赤毘車は、夫の嬉しそうな姿を見て笑う。
「すげぇ。この「怒りの剣」すらも怯える程のパワーだ。」
 ジークは「怒りの剣」が、平伏すようなサインを出している事に気が付いた。
「魔力も凄まじいです。まだ上がっていくなんて、私は信じられませんよ。」
 トーリスは、バリア越しからも伝わる程の凄まじい魔力に敬服していた。
「さて、行きます!!」
 ネイガは、ジュダに向かってダッシュする。その速さたるや、ワープしたかのよ
うであった。鳳凰神と言うだけあって、恐ろしい早さである。
「速い!」
 ジークは思わず叫ぶ。信じられない程のスピードであった。そこから、ネイガは
拳の弾幕を突きつける。しかし、それをジュダは全て受け止めてみせる。
「中々速いな。・・・ハッ!」
 ジュダは、受け止めながら蹴りで反撃を試みる。しかも、ただの蹴りではなく、
こちらも蹴りで弾幕を作っていた。ネイガは、それを全て避けきって見せていた。
「見切ったか。やるな。」
 ジュダは、一旦後ろに下がると空中に浮く。
「やっぱり、あなたは他の神とは次元が違う!嬉しいですよ!」
 ネイガは、そう言うと神気を形にしてジュダにぶつけようとする。ジュダは、そ
れを片手に気合を込めて弾き返した。ネイガは追いかけようとしていたので、その
神気弾をすんでの所で躱す。その気弾は、地面に激突して大爆発を起こしていた。
赤毘車のバリアが無ければ危ない所であった。
「す、凄いや・・・。」
 ゲラムも言葉が無かった。明らかに超越した者の闘いだった。しかも気がつくと、
2人共、空中に浮いて空中で激しく殴り合っていた。2人ともガードが、しっかり
しているため、空中でとてつもない音が鳴っているのだが、決め手が無いみたいだ
った。しかし、2人が殴っている周りが竜巻のようになっている事から、その凄ま
じい破壊力は窺い知れるだろう。
「ネイガか・・・。ジュダと、これほど対等に渡り合えるとは・・・やるな。」
 赤毘車も感心していた。ジュダと渡り合えるのは、知っている限りでは神のリー
ダーであるミシェーダ、そして自分と両親くらいしか知らない。赤毘車でさえ、付
いて行くのがやっとで、、ジュダには中々勝てないと言うのに、あの男は、かなり
食いついている。ミシェーダが自ら紹介するだけあって、天才なのかも知れない。
「ウォオオオオ!!」
 ジュダは、ネイガの拳を躱した所で、両足を揃えて、ネイガを思いっきり蹴って
弾き飛ばす。だが、ネイガもそれを防御して体制を整える。
「食らえ!」
 ジュダは、ネイガが体制を整えたと同時に、神気弾を何回も連続で放つ。ネイガ
は、ガードしながら何発かをジュダに跳ね返していた。
「ふう・・・。やるな。想像以上だぜ?お前。」
 ジュダは一息つくと、空中で首を回す。嬉しい時に、つい出てしまうジュダの癖
だった。ネイガもニヤリと笑う。
「貴方も、想像以上ですよ。下手な小細工は、もう止めましょう。」
 ネイガはそう言うと、腕輪を前に突き出して静かに目を閉じる。
「・・・てめぇ。なる気だな?なら、俺も本気を出してやるぜぇ!」
 ジュダも目を閉じる。愛用の宝石を握り締めて集中していく。すると、2人の姿
が段々変わっていく。
「・・・それほどの相手か!ネイガは!」
 赤毘車は、驚いていた。
「ど、どう言う事なんです?赤毘車さん。」
 ジークは訳が分からなかったので、赤毘車に聞いてみる。
「奴ら、神の姿に変化するつもりだ。今の姿に、それぞれ宿っている神の力を解放
する事によって、なれる姿がある。それを「化神(けしん)」と言うんだ。」
 赤毘車は説明する。ジュダとネイガは、元のベースである人間の体に神になった
時に授かった神の力を足す事で、一番力が出せる形態に変化しようとしていたのだ。
それを「化神」と言うのだろう。
「くああああああぁ!!うぉあああああ!!」
 ジュダは、竜神としての自分の力を解放し始める。ジュダは、いつも着けている
マントを外すと、背中から龍の翼が見え始める。そして腕が龍の姿へと変わってい
って、髪の色も緑色に輝き始める。そして頭の上には角が生えていた。
「ぬぅおおおおおお!!はぁあああ!!!」
 ネイガも同じように力を解放する。背中から炎を帯びた翼が生え始めて、目も切
れ長になっていく。そして腕は鳳凰を象徴するかのように燃え始めていた。
「こ、これが「化神」!」
 トーリスは、いつになく興奮していた。他の皆もである。神がその姿を晒すと言
うのは、中々無い事である。丁度、トーリスがレイモスに乗っ取られた時の感覚に
似ていた。しかし、力の増し具合は、それ以上だった。
「待たせたな。」
 ジュダは、竜神の力を受けて緑色のオーラに包まれていた。
「私も今、終わった所ですよ。」
 ネイガは鳳凰神の力を受けて、炎の色をしたオーラに包まれていた。
「行くぜ?用意は良いな?」
 ジュダは拳に力を溜める。
「私も行きますよ。トア!」
 ネイガは、掛け声と共にジュダに襲い掛かる。ネイガのスピードは、さっきの何
倍も増していた。何より応酬するパワーが何倍にも増していた。しかしジュダも負
けていなかった。手足や翼までも使ってネイガの攻撃に合わせつつ自らも攻撃する。
「・・・ネイガの方が速いな。」
 赤毘車は分析していた。ネイガの方が、僅かににスピードが上だった。しかし、
パワーはジュダの方が上のようだ。
「ここまで闘えたのは、ミシェーダ以来だぜ。」
 ジュダは、ニヤリと笑う。前にミシェーダと手合わせした時以来の力を出してい
た。ミシェーダは、さすがに神のリーダーと言うだけあって、ジュダに勝っていた
が、それ以外の神をジュダは、蹴散らして来たのだ。しかし、このネイガは、その
ジュダに匹敵する力を持っていると言うのだ。
 2人共、攻撃主体に切り替えて、防御を考えない攻めに変わって来ていた。凄ま
じい程の動きで応酬していた。その合間に、ちゃんと魔法を放って攻撃する辺り、
神の攻撃のセンスが感じられた。トーリスやジークですら、隙が全く見当たらない
程の攻めだった。
「うりゃああああぁああ!!」
 ジュダは、ネイガの一瞬の隙を見て、投げ飛ばす。
「ちぃ!!」
 ネイガは、地面に激突しながらも、バックダッシュして神気を溜める。
「仕方が、ありませんね。・・・遥か古代から伝わる鳳凰の腕輪よ。その力を我に
与えよ!そして、炎の力となりて敵を打ち砕かん!!」
 ネイガが腕輪を握り締めると、炎の力がアップした。そして、ネイガは全身が炎
となる。決める気だ。
「神技!『鳳凰の突撃』(チャージングフレア)!!」
 ネイガは、そのまま高速でジュダに突っ込む。ジュダは、それを両手で受け止め
るが、受け止めきれないで炎上する。ジュダは跳ね飛ばされていた。
「ジュダ!!」
 赤毘車は、急いでジュダに向かおうとする。
「赤毘車!来るな!大丈夫だ。」
 ジュダは手で遮る。そして気合を込めると、炎がドンドン消えていく。
「ふう・・・。やるなぁ。」
 ジュダは無事ではあったが、ダメージは思いの他、大きかったようだ。
「私のチャージングフレアを食らって立てるとは・・・。さすがです。」
 ネイガは決まったと思っていた。それほど会心の一撃だった。しかし、ジュダは
立ってきたのだ。
「こんなに心が震えたのは、久しぶりだぜ。俺も見せてやるよ。」
 ジュダはそう言うと、宝石の中の一つを取り出す。
「ジュダ・・・。アレをやる気か!」
 赤毘車は、バリアを強化していた。ジュダは決め技を放つ気だった。
「・・・わが魂に眠る神の力、アーウィンよ。我の魔力と共にその力、限界まで引
き出せ!!エメラルドよ!!」
 ジュダは、エメラルドを握り締めると、ジュダの全ての力が、拳に集まるのを感
じた。そして、それを形作っていく。
「竜神の奥義、見せてやるぜぇ!『緑光神力』(エメラルドアーウィン)!!」
 ジュダの叫びと共に、エメラルドの色をした力が、ネイガに向かっていく。ネイ
ガは、それを自らの神気で防御する。しかし、とてつもない力はネイガの防御を、
あっさり打ち崩した。ネイガは、凄まじい緑の輝きと共に弾き飛ばされてしまう。
「うぉああああああ!!」
 ネイガは地面に激突して、とうとう鳳凰の「化神」まで解けてしまった。すかさ
ず、ジュダはネイガの所まで追って行き、拳を構える。
「・・・降参するか?」
 ジュダは、そう言うと拳を止めた。
「・・・もちろんですよ。参りました。」
 ネイガは、あっさり認めた。とても勝てる気がしなかったのだ。
「そうか。・・・ふう。」
 ジュダは自分の「化神」も解く。どうやら決着はついたようだ。
「心配したぞ。ジュダ。」
 赤毘車はバリアを解くと、ジュダの元に駆け寄る。普段ぶっきらぼうでも、こう
言う時は素直なようだ。
「いやぁ、強かったぜ?ネイガ。またやろうな!」
 ジュダはそう言うと、爽やかに笑ってみせる。
(何て事だ。私の完全な敗北とはな・・・。)
 ネイガは、ジュダの心と力を思い知らされた。神として何に於いても、ジュダの
方が上だと悟ったのである。
「凄い・・・。凄すぎる!!俺、感動しましたよ!」
 ジーク、はジュダに素直な気持ちをぶつける。
「ははっ。ありがとよ。さすがに俺もネイガも、疲れちまったからよ。そろそろ休
もうぜ?」
 ジュダは、そう言うと赤毘車の肩を借りる。赤毘車はクスッと笑うと、『転移』
を使って、プサグルへの扉を開ける。ネイガはサイジンが肩を貸していた。
 神と神の激突を見たジーク達は、更なる上を目指す事を胸に誓っていた。


 結婚式の当日、トーリスとツィリルは、逸早く教会に向かっていた。仲人を務め
るジークも、逸早く向かった。ジークは、朝起きるのは苦手であったが、そんな事
を言ってる場合ではない。頑張って起きた。しかし、それでもトーリスやツィリル、
それに、それぞれの両親はもっと早く着いていて、どうにもバツが悪い形となって
しまった。
 他の参列者達は、教会の椅子に既に座っている。後は、式を始めるだけになって
いた。しかし、この日のために色々やった事を思うと万感の思いが馳せた。やはり、
自分達で飾り付けや式の準備をしたので、趣が違うのだろう。ジークとゲラムは、
飾り付けや雑用などをこなしたし、レルファとサイジンは参列者の紹介や管理など
をやったし、ミリィは今日運ばれてくる料理の献立を全て作り上げたし、本人達は、
あっちこっち回っての挨拶を全てこなした。その準備があってこその今日なのだ。
 教会の中は厳かな雰囲気の中に、ちょっとしたレースをあしらえて、式の雰囲気
を盛り上げている。レルファなども、思わずウットリしてしまうほどだ。
 そして、ヒルトからの言い付けで、音楽隊も用意してある。
 その音楽隊が一斉に演奏しだした。とうとう式の始まりなのだろう。神父も目を
閉じて用意している。
「新郎、新婦、ここにお出でなさい。」
 神父が合図した。すると、教会のドアが開けられ、真ん中に、ジークを挟んで、
トーリスとツィリルが登場する。みんなが一斉に拍手をした。その後ろには、フジ
ーヤとルイシー、そしてルースとアルド、そしてレイアの両親がいた。
 トーリスとツィリルは、互いを見合わせながら幸せそうな顔をしている。
(結婚・・・か。)
 ルースは、複雑な気持ちだった。最初、話を聞いた時は、意識が途絶えそうにな
った物だ。反対もしようとした。レイアの事も聞いて、尚更、反対をしようとした。
しかし、娘のトーリスに対しての眼差しを見て考えが変わった。その眼差しを見て、
何たる目をしているのか、と思った。トーリスに対しての絶対の信頼を置いている
目。そしてレイアに対して全てを託している目だった。
(あの小さかったツィリルが・・・。)
 ルースは、その想いを隠せない。ツィリルは可愛い娘だった。贔屓目じゃなくて
も、そう思った。その娘が、あんな目をするとは思ってなかったのだ。成長が嬉し
かったと同時に、自分を離れたという去就感もした。しかし、避けては通れない道
である事も分かっていた。なので結婚を許したのだ。だが、油断すると、すぐ涙が
出てしまう。ルースは必死に涙を堪えていた。
 ツィリルとトーリスが、やっと教壇の前に着いた。ジークは、一歩引いた所に下
がった。そして、それぞれの両親は椅子の一番前の席に座る。そして神父が一度天
を崇めると、創造神ソクトアに対して祈りを捧げる。ソクトア大陸では、創造神ソ
クトアこそが聖なる神なのだ。ジュダも、ソクトアとは1回だけ会った事があるが、
中々見識の広い神だった事は覚えている。
「創造神ソクトアに許しを戴きました。これより結びの儀を行なう。」
 神父が口を開く。
「新郎トーリスよ。」
「はい。」
 トーリスは、しっかりとした口調で返事をする。
「汝、悩める時も健やかなる時も、新婦ツィリル及びレイアの魂と、共に喜び、苦
しみを分かち、生きていく事を誓いますか?」
 神父は事情を説明されてビックリしたが、納得してくれると、ツィリルとレイア
の2人との結婚式の言葉を考えてくれていたのだ。
「誓います。」
 トーリスは静かだが、決意ある口調で誓いを立てる。
「新婦ツィリルよ。」
「はい!」
 ツィリルは、少し緊張していたが元気良く返事をする。
「汝、悩める時も健やかなる時も、新郎トーリスと、共に喜び、苦しみを分かち、
生きていく事を誓いますか?」
 神父がツィリルに問うた。
「誓います!」
 ツィリルは、少し涙声で誓った。そして、意識をレイアに渡す事にする。ツィリ
ルが崩れそうになるのを、トーリスが支えながらも意識がレイアに変わる。神父は、
少し驚いたが、説明があったので納得しながら言葉を続ける。
「新婦レイアよ。」
 神父が、恐る恐る聞いてみる。
「はい。」
 ツィリルの口から返事が返ってくる。どうやら、レイアに変わったようだ。皆、
も説明があったとは言え、少し驚いているようだった。
「汝、悩める時も健やかなる時も、新郎トーリスと、共に喜び、苦しみを分かち、
生きていく事を誓いますか?」
「誓います。」
 レイアも涙声で答える。トーリスは静かに目を閉じた。
「宜しい。では、互いの指輪を誓いの証として交換しなさい。」
 神父が言うと、トーリスとレイアは指輪を交換する。
「では、互いに誓いの証明たる口付けを!」
 神父が合図すると、トーリスはレイアを見る。どうやらツィリルとレイアは、ど
ちらも協調しているのか、どちらともつかない顔をしている。トーリスは、構わず
口付けを交わす。皆から、少し冷やかしの声があがったが、気にしていなかった。
「ツィリル・・・レイア・・・。」
 トーリスは、唇を離すと限りなく優しい目でツィリルとレイアを見ていた。
「センセー・・・。トーリス・・・。私、幸せ・・・。」
 どちらともつかない声が響く。
「ここに結びの儀は成された!創造神ソクトアよ!あらんこと無き祝福を!」
 神父の言葉と共に、拍手と一層大きな演奏が響き渡る。すると、トーリスとツィ
リル、そしてレイアは祝福を受けながら退場する。
「トーリス・・・。ツィリルちゃん・・・。ありがとう。」
 退場途中であった。恐らくレイアのなのだろう。涙を流しながらも礼を述べる。
「レイアさん・・・。行っちゃ駄目・・・だよ!」
 ツィリルが、妙な事を口にする。
「どうしました?」
 トーリスが不思議に思う。
「レイアさんが行っちゃう!!」
 ツィリルは、涙が止まらなかった。
「・・・まさか!レイア!」
 トーリスは魔力を全開にして、目に集中する。すると、レイアがツィリルの体か
ら離れて行くのが見えた。レイアは、この上なく幸せな顔をしていた。
 そしてレイアは、会場に響く声で最後に言い渡した。
「私・・・幸せ・・・。また・・・会おうね!」
 レイアの言葉が、はっきりと全員の耳に届く。そして形も朧気ながら見える。レ
イアは手を振って上へと・・・そう天へと昇っていった。
「レイア!・・・レイアァアアアアアア!!」
 トーリスは叫ぶ。しかしレイアは、もう行ってしまった。
「レイアさん・・・。どうして・・・。」
 ツィリルは、トーリスの胸で泣いていた。
「ツィリル・・・。レイアは、こうなる事が分かっていたようです・・・。」
 トーリスは涙が一筋流れたが、冷静だった。
「レイアは、それでも私と結婚して・・・そして成仏したかったのです。結婚した
瞬間、離れると分かっていても・・・。」
 トーリスは拳を握る。そして涙が出そうになった。
「・・・分かったよ。レイアさん。わたし約束する!センセーと幸せになるよ!セ
ンセーも幸せにするよ!絶対だよ!!」
 ツィリルが叫ぶ。いつの間にか、周りから拍手が途絶えていたが、皆も事情が分
かったのか、泣いていた。特にレイアの両親は、娘の死を改めて認識したのか、涙
が止まらなかったようだ。
「レイア・・・。さよならは言いません。また・・・また会いましょう!」
 トーリスが、しっかりした口調で言う。もう二度と、レイアの事で狂うことは無
いだろう。気持ちの整理はついたようだ。
「レイアさーん!!またねー!!」
 ツィリルは、今度は涙顔だったが笑いながら手を振る。
 こうして結婚式は終わった。ここに出席した皆は、決してレイアを忘れないだろ
う。死んでからもトーリスとの愛を貫こうとした女性を・・・。
 こうして、トーリスとツィリルは結婚と相成った。ジーク達にとって、衝撃的な
出来事の一つとなった。
 絶対に諦めないと言う事。レイアは、これを皆に託して天へと帰るのであった。



ソクトア3巻の1前半へ

NOVEL Home Page TOPへ