NOVEL 3-4(Second)

ソクトア第2章3巻の4(後半)


 暗黒の閃光が見える。その瞬間に、弾け飛ぶ地面。高速に動く閃光が、まるで生
き物のように襲い掛かってくる。自分は天性の勘で、それを避けていくが、このま
までは、当たるのは時間の問題だ。
 そして、目の前に閃光が迫ってくる!!
 その瞬間、目が覚める。何と言う、恐ろしい悪夢なのだろう。
(夢・・・か。俺は・・・生きているんだな。)
 ジークは、自分の手を確かめる。そして体には、傷一つも無い。クラーデスのと
の闘いは、最後の方は、無我夢中で闘っていた。クラーデスが、キレ始めて瘴気の
線を飛ばし始めてから、少し記憶が、あやふやだ。
(確か・・・俺は避けられ無くて・・・。)
 ジークは、少しずつ思い出す。自分が避けられなかったのなら、傷一つも無いの
は、おかしい。
(確か、その時、誰かが・・・。)
 ジークは、それを思い出した瞬間、飛び起きる。
「・・・あ。ジーク兄ちゃん。起きたんだ。」
 ゲラムが、迎えてくれる。眠たそうにしている。心配で、この部屋に篭りっきり
だったのだろう。
「ゲラムか・・・。ミリィは、どうした!?」
 ジークは、冷静さを失っていた。
「お、落ち着いてよ。」
 ゲラムは、手でジークの動きを、押さえる。
「クラーデスは・・・この街を滅ぼして・・・無いのか?」
 ジークは、自分のやった事を、まだ完全に思い出していない。
「・・・覚えてないの?」
 ゲラムは、ジークの様子を見てビックリする。
「ジーク兄ちゃんが、クラーデスに凄い傷を付けた後、ジュダさん達が来たのも、
忘れてるみたいだね・・・。」
 ゲラムは、呆れる。あれだけの闘いを、覚えていないなんて、よっぽど必死だっ
たのだろう。それ以上に、ミリィの事で、我を忘れていたのだろう。
「そうか・・・。ジュダさん達に、助けられたか・・・。」
 ジークは、落ち着きを取り戻す。
「ジュダさんや、他の皆は、どうした?」
 ジークは落ち着いたのか、ゲラムに優しく尋ねる。
「ルイさんは、赤毘車さんと猛稽古してるよ。今回の闘いで、自分の未熟さを改め
て、知ったとかで・・・僕も、その内に加わるつもりだよ。」
 ゲラムは、悔しそうにしていた。ジークが闘っている時に、役に立てない自分が、
悔しかったのだ。弓が当たっても、あの時のクラーデスには、触れずに溶かされて
いた事だろう。
「サルトラリアさんも、加わっているはずだよ。ジュダさんは、ギルドの医務室に
居るよ。ミリィさんもね。」
 ゲラムは、付け加えた。
「そうか・・・。分かった。俺も、医務室に行こう。」
 ジークは、居ても立っても、居られなかった。自分のせいで、深い傷を負ったの
だ。放っておく事など、ジークには出来ない。
 ジークは、すぐに医務室に行くと、ノックする。
「開いてるぞ。」
 ジュダの声が、聞こえる。ジークは、中に入った。
「ジュダさん!本当に来てたんですね。」
 ジークは、ジュダに挨拶する。
「お前、覚えてないのか?疲れてたんだな。」
 ジュダは苦笑する。ジュダもジークの事は、認めていた。あのクラーデスと、互
角に渡り合う闘いを見せたのだ。いつまでも、子供扱い出来ないと言う事だ。
「それで・・・ミリィは、どうです?」
 ジークは、尋ねる。
「無茶をした物だな。下手したら、瘴気が体の中に残る所だったぞ?」
 ジュダは、説明してやる。瘴気が残ると、負の感情が前に出やすくなる。魔族に
感化されてしまう場合も有り得るのだ。
「でも・・・安心しろ。俺が何とか、瘴気を全て抜き取ってやった。」
 ジュダは、傷口から瘴気を全て吸い取って、握り潰したのだ。おかげで、ミリィ
は、苦しい顔を見せずに寝ていた。
「ありがとう御座います。」
 ジークは、心から礼を言う。
「なぁに、お前さんが、成長した姿を見れた分のサービスだ。気にするな。」
 ジュダは、ニッコリ笑う。ジークは、その笑顔が、ありがたかった。
「・・・ミリィ。」
 ジークは、ミリィの顔を覗き込む。寝息を立てていたが、傷が痛々しく見えた。
「こんな時に・・・回復魔法が使えないってのは・・・辛いですね。」
 ジークは、手で顔を覆う。
「そんな事じゃ・・・ミリィを任せられないヨ。」
 突然、扉が開いて、レイホウが姿を現す。
「レイホウさん・・・。申し訳ありません。俺が不甲斐ないばっかりに・・・。」
 ジークは、レイホウに合わせる顔が無かった。自分のせいで、ミリィが傷ついた
のだ。レイホウには、申し訳無かった。
「ミリィ・・・。馬鹿ヨ。この子・・・。」
 レイホウは、溜め息をつく。目には、薄っすらと、涙を浮かべていた。
「ジーク。この責任取ってくれるカ?」
 レイホウは、ジークに向かって、厳しい目をした。
「俺が出来る事なら、何でもします。」
 ジークは、真摯な目で答える。
「この子の想い・・・もう気付いてるんでショ?」
 レイホウは、ミリィを指差して言う。
「・・・はい。」
 ジークは、申し訳なさそうに答える。
「男なら、その答えを出すネ。」
 レイホウも、ジークの事で、ミリィが悩んでいた事を知っていたのだ。とは言え、
ルイの事も知っている。だから、答えを出せと言ったのだ。
「・・・止めるネ。」
 突然、奥から声が聞こえた。
『ミリィ!!』
 レイホウとジークは、同時に声を上げる。
「・・・心配かけたヨ。ジュダさんに感謝ネ。」
 ミリィは、ニッコリ笑う。しかし、まだ力は感じられなかった。
「ミリィ。貴方の欲しがっていた答えヨ?」
 レイホウは、娘が悩んでいる姿も、見たく無かったのだ。
「こんな事があった後ヨ?・・・フェアじゃ無いネ。」
 ミリィは、気が付いていた。こんな状況で、ジークがルイを選ぶなんて、言えな
い事をだ。ジークは優しい。だからこそ、そこまで甘えたくないのだ。
「アンタ、馬鹿ヨ。意地っ張リ!」
 レイホウは、それでも良いと思った。ジークとなら娘は幸せになれる。それは、
確信していた。娘の生き生きとした顔は、ジーク無しじゃ、考えられない程だ。
「ミリィ・・・。」
 ジークは、ミリィの想いがヒシヒシと伝わってきた。ミリィは、強い娘だ。ここ
でルイを選ぶと言った所で、何も言わないだろう。
「ルイも、連れてきて・・・想いの丈を、しゃべらせてから選ばせるネ。」
 ミリィは、強い眼差しをしていた。こんな怪我で、ここまで言えるとは・・・。
「何で、そこまでするネ!」
 レイホウは、理解できなかった。ミリィは誰よりも、ジークの事が好きなはずだ。
「私は・・・同情なんか、要らないヨ!!」
 ミリィは、はっきり答えた。
(何て、強い子ネ・・・。)
 レイホウは涙が溢れる。我が子ながら、こんな強い想いを口にするなんて・・・。
「その必要は、無いわ!」
 また扉の方から声がした。
「ル、ルイ!?」
 ジークも、ビックリする。
「驚いているようね・・・。盛り上がってる所で悪いけど、乱入させてもらうわよ。」
 ルイは、腕を組みながら入ってくる。
「丁度良いネ。貴女も、ジークに想いを伝えると良いネ。」
 ミリィは、歯に衣を着せなかった。本気モードらしい。
「勘違いは、困るわね。ジークは私の宿敵!いつか倒さなきゃならない目標なのよ!」
 ルイは、ニヤリと笑う。そして意味無く指を差す。
「大体、私はそう言う話は苦手なのよ。それに、今は、それ所じゃないしね!!」
 ルイは、力いっぱい言う。
「その通りだ。私の特訓を抜けるなんて、良い度胸だ。」
 後ろに赤毘車が、現れた。そしてルイの襟首を掴む。
「・・・お前は、俺を殺させる気か?」
 その後ろに、ボコボコにされたサルトラリアが居た。急に一人になったので、赤
毘車が、少し怒りながら稽古をつけてたせいだろう。
「ちょっと、ルイ!」
 ミリィは、拍子が抜けたが、そのまま去ろうとする、ルイに声を掛ける。
「・・・見ての通りよ。私は、強くなる事しか考えてないわ。」
 ルイは優しい顔になる。自分は、ミリィの想いには敵わないと、知っての行動だ
ろう。しかし、素直じゃないのだ。
「話は済んだな?続きをやるぞ・・・タップリな。」
 赤毘車は、少し怒っていた。ジュダは、冷汗を掻く。
「殺されなきゃ良いがな・・・。」
 ジュダは、赤毘車の扱き方を知っている。半端じゃない。特訓を受けさせるから
には、それなりの覚悟があると言うのが、赤毘車の言い分らしい。
「・・・まったく、素直じゃないネ。」
 ミリィは、呆れていた。自分もそうだが、ルイの意地っ張りも相当な物である。
「拍子が、抜けちゃったな・・・。僕も混ざってくるよ。」
 ゲラムは、呆れながら赤毘車の元に向かった。自分も特訓を受けるつもりだろう。
「俺は赤毘車が、やり過ぎないように見張らなきゃな。」
 ジュダは、笑いながら赤毘車の元に向かう。
「ミリィ。後は、上手くやるのヨ。いつでも待ってるからネ。」
 レイホウは、そう言うと優しい目をしながら、去っていった。
 気が付くと、ミリィとジークの2人になっていた。
「気を使わせちゃったネ。」
 ミリィは、ニッコリ笑う。つい、おかしくなって笑ってしまう。
「ミリィ。傷は大丈夫?」
 ジークは、気遣う。
「さっき母さんと、しゃべってた時と比べればヘッチャラだヨ。」
 ミリィは、強がって見せる。
「ミリィ。何か・・・我慢させちゃったな。」
 ジークは、格別の笑顔を見せてやる。ミリィは、ドキドキしてきた。
「ミリィ。俺と、付き合ってくれ。・・・もう迷わない。」
 ジークは、目を瞑って言った。その瞬間ミリィは、涙が零れる。
「・・・嘘じゃないネ?同情じゃ無いネ?」
 ミリィは、現実であって欲しいと思う。そして、長く続いて欲しいと思う。
「ああ。こんな状況なんて、関係ない。君が好きだ。」
 ジークは、敢えて、この状況は関係無いと答えた。
「・・・でも私、意地っ張りだヨ?それに、足を引っ張るかモ・・・。」
 ミリィは、どうしても消極的に考えてしまう。
「そんな事、気にしないで。それに意地っ張りが好きなんだ。俺は。」
 ジークは、わざとらしく言ってやる。
「もう!怒るヨ!」
 ミリィは、頬を膨らます。しかし、自然と嬉し涙が流れる。そして、ジークの胸
に体を預ける。
「・・・一つ・・・約束してヨ。」
 ミリィは、ジークの腕の中で言う。
「・・・絶対に、この闘いで死なないでネ。」
 ミリィは、それが心配だった。魔族との闘いは、これから激化してくる。ジーク
は、間違いなく狙われる確率は、ナンバーワンだろう。
「俺が、死んだら、怒ってくれないだろ?」
 ジークは、素っ頓狂な答えを返す。
「私は、いつも怒ってる訳じゃないヨ。失礼だネ。」
 ミリィは顔を背ける。その仕草が、また可愛く思えてしまう。
「誓うよ。俺は、魔族に勝ってみせる。死にたくないしな。」
 ジークは、そう言うとミリィの頭を撫でてやる。
 ミリィは、この幸せが、いつまでも続けば良いと思った。


 ガリウロルでは、修行が順調に進んでいた。トーリスの力は、目を見張る物があ
ったので、技を覚えるだけだったし、ドラムも、その点では才能が優れているのか、
技の覚えが早い。レルファも、闘気を出すコツを覚えてきたし、ツィリルも、トー
リスが教えてるせいか、闘気の概念を理解するようになってきた。
 そんな中、サイジンは苦戦していた。魔力は、どうしても才能に頼る部分が大き
い。それ故に、無い者にとっては、捻り出すのは簡単な事では無い。サイジンは、
闘気に関しては、言う事が無いのだが、魔力は才能が無いと、自分でも分かってい
ただけに、こんな機会に苦戦する事になろうとは、思わなかったのだ。自分は、魔
力を使う機会は無いと思っていた。しかし忍術は、かなり使える戦法だ。覚えなけ
ればならないのは、分かっている。それだけに、壁にぶち当たった気分だ。
 しかしサイジンは、そんな様子を、少しも見せない。弱音を吐く姿など、見せら
れないからだ。特に、レルファには見せない。いや、見せたくないのだ。
(私が、足を引っ張るとは・・・。)
 サイジンは、それでも皆の成長の迷惑を、掛けているようで、申し訳無かった。
 今日も、瞑想の修行で魔力を高めていく。しかし、才能の壁にぶつかって、どう
しても微弱な魔力しか出せない。これでは源を練る事すら出来ない。サイジンは、
寝ても覚めても、瞑想で魔力を高めようとしていた。元々、努力はする方である。
サイジンは、それを、あまり人には見せない。普段おちゃらけているが、かなりの
負けず嫌いなのだ。
 今日も、修行が終わってしまう。皆は順調だが、サイジンは、相変わらず瞑想ば
かりしていた。
(私は、いつまで、こうしているのだろうか・・・。)
 サイジンは、出口が無い迷い道に、嵌ってしまった気分だった。
 現在トーリス達は、個人個人の部屋を用意させてもらっていた。ガリウロル式の
部屋は、とても風情のある部屋ばかりで、皆、大いにリラックスしていた。サイジ
ンも、さぞ満足かと思いきや、瞑想をする事が多いようで、それ所では無さそうだ。
 最も、皆に誘われる時は、ちゃんと付いて来るので、人知れず修行をしている事
は、バレてないようだ。
(やるしかない・・・。やるしかない!)
 サイジンは、必死だった。自分のせいで依頼が遅れるような事だけは、避けたい。
何せ、2ヶ月で修行を済ませて後は、『羅刹』を倒しに行かなければならない。そ
のためには、早いレベルアップが必要だった。
「サイジン?入るわよ?」
 レルファの声がする。サイジンは、つい油断していた。どうやら、レルファがノ
ックしていたらしい。それに気が付かないとは、失態だった。
「あれ?」
 レルファは、サイジンの姿を見る。サイジンは急いで構えを解くが、遅かった。
「貴方・・・まさか、部屋でも瞑想してたの?」
 レルファは、ビックリしていた。一番知られたくない人物に知られてしまった。
「・・・私が?そんな事は無いよ。形だけ、やってみただけです。」
 サイジンは、わざとらしい事を言う。
「んもう!何で隠すの?」
 レルファは、呆れていた。サイジンが、ここに来てからずっと、瞑想していた事
は想像に難くない。それだけの努力をする姿勢は、寧ろ賞賛すべきだ。
「私が・・・地味な努力など・・・似合わないじゃないですか。」
 サイジンは、目を逸らす。結構な意地っ張りだ。
「・・・馬鹿ね。いつも不思議に思ってた事が、解けて良かったわ。」
 レルファは、寧ろサッパリしていた。
「貴方が、兄さんの訓練に付いて行けるのは、いつも不思議に思っていたのよ。い
つも、努力してたんでしょ?」
 レルファは悪戯っぽく答える。いつも自分の方が、からかわれる立場なので、つ
い調子に乗ってしまう。その通りで、サイジンは、何気にジークの特訓に付いて行
けるように、毎日、剣術を夜中に人知れず、やっていたのだ。
「・・・全く。敵いませんね。読まれてますか。」
 サイジンは脱帽する。余り意地を張ってても、仕方が無いと思ったのだ。
「隠す事は、無いじゃない。私、努力する人は好きよ?」
 レルファは、サイジンの新しい一面を見て、嬉しくなってしまう。
「私は凡人ですからね。付いて行くには、それなりの事をしなきゃ駄目なんですよ。」
 サイジンは、本音を漏らす。いつもは、妙な自信に溢れているサイジンだが、レ
ルファに嘘は、通じないようだ。
「トーリスも、ジークも天才です。彼らに追いつくためには、並の努力じゃ通用し
ないんですよ。」
 サイジンは、本当にそう思っていた。あの2人は、別格である。覚えた事を吸収
する能力や、それを活かす術を教えられなくても理解してしまう。しかし、サイジ
ンは、そこまで才能がある訳じゃない。努力で繰り返して、覚えるしかないのだ。
「フフフ。弱気なサイジンが見れるなんて、何だか不思議ね。」
 レルファは、サイジンの背中に覆い被さる。
「私だって、偶には、弱気になる事はありますよ。でも、それを見せても始まりま
せんからね。努力し足り無ければ、すれば良い。それだけの話です。」
 サイジンは、強い目をしていた。
「あらら。今度は、真面目なサイジン?でも努力するってのも、才能の内よ?」
 レルファは励ます。サイジンは笑みをこぼす。やはりレルファの励ましは、どん
な特効薬より効く。
「私らしくありませんでしたね。ま、要は後悔したく無いだけですよ。」
 サイジンは、肩の力が抜ける。
「しかし、サイジンは、才能が無いだけなの?私は、そうは思わないんだけどな。」
 レルファは、不思議に思っていた。いくら才能が無い人とは言え、あそこまで努
力すれば、普通の人並みに、魔力が出せるはずである。
「何か、原因でもあるんでしょうか?」
 サイジンは、考え込む。確かに自分でも、おかしいとは思っている。しかし、そ
れは才能が足りない。努力が足りないせいだと思っていた。何せ、自分は魔力を出
した事が無いのだ。何でか考える前に、努力してきた。
「ちょっと調べるわね。」
 レルファが、サイジンの手を握る。こうすると、魔力の容量が測れるのだ。サイ
ジンは、レルファの手を握り返してやる。
「・・・力みは無くして。」
 レルファは、集中しているようだ。サイジンは言う通りにする。肩の力を抜いて
リラックスしてみる。
「・・・うーん・・・本当に何も感じない・・・。そんな人、居ないわよ?」
 レルファは、どうしても疑問が晴れない。全く感じないなんて、人間である限り、
ある訳無いのだ。赤子ですら、魔力は放出してる物だ。無意識の内にだが・・・。
成長して魔力の存在を知ると、自然と押さえ込む事はある。しかし、完全に隠すな
んて、魔力の理論を知らなくては、出来ない事だ。
「サイジンは、赤ちゃんの時から、魔力が無かったのかしら?」
 レルファは、疑問を口にする。
「・・・分かりませんね。私は、赤子の時の記憶がありませんからね。」
 サイジンは、何かを隠すような口振りで言う。
「グラウドさんは、何も言って無いの?」
 レルファは、眉を顰める。
「知らないでしょう。何せ、本当に知らないのですから。」
 サイジンは、目を伏せる。
「・・・どういう事?」
 レルファは、怪訝そうにしていた。
「私は、拾われたんですよ。父上にね。」
 サイジンは、苦笑する。グラウドは何も言っていない。サイジンも、グラウドが
普通の人の父親以上に、自分の事を大切にしているのは分かる。
「・・・本当?なの・・・。」
 レルファは、信じ難かった。それほど、グラウドとサイジンの仲は良い。
「父上は、私の母は、私を産んで、すぐ死んでしまったと言っていました。」
 グラウドは、サイジンに、本当の事を言う訳が無い。サイジンを、大事に育てて
来たのだ。今では、本当の息子だと思っている事も、サイジンは知っている。
「あれは私が、12歳の時でしたか、父上が墓参りに行ったのを私は見たのです。」
 サイジンは、昨日の事のように、思い出す。忘れる事など出来ない。グラウドが、
墓参りに行くのは、珍しい事だ。母の遺影があるのは知っているが、サイジンを墓
に連れて行った事は、無かった。
「父上は母さんの名前を言っていました。」
 サイジンは、グラウドが、余りに真剣だったので、隠れてるのを明かせなかった。
それでも、いつものグラウドなら、気配で気付かれた物だが、サイジンも、その時
は、上手く気配が隠せた上に、グラウドは墓参りに行くと言う事で、気持ちが高ぶ
っていたのか、偶々気付かれなかった。
「運良く見つからなかった私は、父の余りの真剣さに、出て来れず終いでしてね。
父上も行ってしまったので、私もお参りして帰ろうと思っていました。」
 サイジンは、そのまま手を合わせて、お参りした時、目に入ったのだ。
「私は、見てしまったんですよ。母の享年をね。」
 サイジンは、それを見た時の光景を忘れない。
「・・・そう・・・。」
 レルファは、聞くのが怖かったのだろう。消え入るような声だった。
「母は、25年前に死んでいました。戦乱の犠牲者だったんですよ。」
 サイジンは、淡々と話す。もう悲しみなどは、通り越しているのだろう。
「最初は、我が目を疑いましたよ。・・・しかし、見間違いでは無かった。私は、
25歳だったのですよ。」
 サイジンは、その場で泣き崩れたのを思い出した。涙が枯れる程、泣いたかも知
れない。父が嘘をついてるのが、何より悲しかった。
「・・・そんな事が・・・。」
 レルファは、我が事の様に涙を流す。その時の、サイジンの気持ちを考えると、
やり切れないのだろう。
「でもね。レルファ。私は、その墓で見つけたメモに、救われたんですよ。そこに
は、私の事ばかり、書かれてました。父は毎年、私の事を報告していたのですよ。」
 サイジンは、ニッコリ笑う。
「そして、最後に『サイジンは俺と、お前の子だ。文句は無いだろう?』と書かれ
ていましたよ。父上は、過去は過去として、受け入れながら、私を本当の息子とし
て、育てたのだと知りました。」
 サイジンは、それが、無かったら自分は、家を出ていたかも知れなかった。
「父上の遺志を継ぐためにも、私は努力しなければ、ならないんですよ。」
 サイジンは、グラウドの普段の想いと、そのメモに書かれた赤裸々な心情を、忘
れる事が、出来なかった。
「それから私は、母のお参りには、毎年行ってるんですよ。」
 サイジンは、グラウドとは、重ならないように、墓参りを済ませているのだった。
「・・・凄い。強いわ。」
 レルファは、涙で溢れていたが、それを拭う。
「レルファ。貴女だから、話せるのです。」
 サイジンは、本当にレルファには、全幅に信頼を置いている。自分の全てを曝け
出せるのは、やはりレルファしか居ないと思っていた。
「これで、また秘密が増えたね!」
 レルファは、涙を全て拭うと、ニッコリ笑顔で返した。その笑顔が、サイジンは、
堪らなく好きだった。
「そうなると・・・グラウドさんも、知らないって訳ね。」
 レルファは、魔力の問題の事を考えていた。
「やはり変なのですか?」
 サイジンは、考え込んでしまう。今は、そっちの方が心配である。
「かなり変ね。・・・となると、もしかしたら・・・。」
 レルファは、トーリスから聞いた事を思い出す。
「サイジン。貴方、どこかに大きな傷とか無い?」
 レルファは、ある考えに至った。
「ありますよ。小さい頃ですが、頭を擦った事があります。」
 サイジンは、髪の毛を掻き揚げると、そこには大きな傷跡が残されていた。
「・・・これのせいね。」
 レルファは、間違いないと思った。
「昔、先生から聞いた事があるんだけど、大きな怪我のショックで、魔力喪失に陥
る場合が、あるらしいのよ。普通の人は、記憶喪失になるらしいんだけどね。」
 レルファが、説明してやる。記憶喪失になるはずが、記憶を司る部分の、防衛本
能が強いと、反動で魔力が、全て失われる場合があると言うのだ。
「無意識の内に、父上の事を忘れたくないと、思ったのかも知れないな。」
 サイジンは、思い起こす。
「そうかもね・・・。さて、どう治すんだったっけなぁ?」
 レルファは、腕組みして考える。
「そうだ。先生に相談しよう。」
 レルファは、手を叩く。
「トーリスにですか?あまり気は進みませんねぇ。」
 サイジンは、あまり知られたくないのだ。
「んな事言ってる場合じゃないでしょ?しょうがないじゃないのよ。」
 レルファは、サイジンの腕を強引に引っ張る。こういう時のレルファには、逆ら
わない方が良い。サイジンは、黙って付いていった。
 トーリスの部屋は、奥の方にあった。
「先生居る?」
 レルファは、襖をノックする。
「レルファですか?ちょっと、お待ち下さいね。」
 トーリスの声がした。居るようだ。しかし珍しく、すぐに通してくれなかった。
 襖の奥で、色々片付ける音がする。
「トーリスにしては、珍しく散らかしてたのですかな?」
 サイジンも、不思議に思っていた。
「セ、センセー!それは、そこじゃないよぉ?」
 襖の奥から、ツィリルの声も聞こえた。
(なる程ね・・・。)
 レルファは、ニヤニヤする。
「い、良いですよ。」
 トーリスは、声を掛ける。レルファが襖を開けると、そこには思った通り、ツィ
リルが居た。しかも、少し焦り気味だった。
「これは、お邪魔しましたな。」
 サイジンは、相変わらず歯に衣を着せない男だ。2人共、分かっている。ツィリ
ルとトーリスは、二人で良い雰囲気だったのだろう。
「タイミングが悪かったんでしょう。まぁ、隠す程の事でも、無いですけどね。」
 トーリスはサッパリしていた。ここでうろたえても、しょうがないと思ったのだ
ろう。良く考えたら夫婦なので、隠す必要も無いのだ。恥ずかしさはあるが・・・。
「いきなり来るのは、反則だよぉ?」
 ツィリルは、少し気分を害していた。恥ずかしかったのだろう。
「ゴメンネ。ツィリル。ちょっと急ぎの用があってね。」
 レルファは、素直に謝った。
「アハッ♪別に良いよ。レルファちゃんだもん。」
 ツィリルは、久しぶりに上機嫌のようだ。さっきまで、良い雰囲気だったのだか
らだろう。それを見て、トーリスは微笑を浮かべる。
「それで?用件は何です?」
 トーリスは、真っ直ぐ見つめてくる。
「うーーーーん。サイジンが言った方が、良いかな?」
 レルファは、サイジンを見る。
「あーー。そうですな。いや、実はレルファの話だと、私は魔力喪失らしいんです
よ。それで治す方法は、知ってないかと思いましてな。」
 サイジンは、説明する。
「ほぉ。魔力喪失とは、また珍しいですね。でも、有り得なくも無いですね。」
 トーリスは、もしかしたらサイジンは、そうなんじゃないか?とは思っていた。
「めずらしー。わたしも、初めて聞いたー。」
 ツィリルは、同調する。魔力喪失は、記憶喪失になる確率の、更に10倍くらい
低い確率なのだ。稀に、そう言う人が居るが、早期発見で、治してる例が多い。
「奥に潜む魔力は感じたので、魔力喪失じゃないと、思ったのですがね。」
 トーリスは言う。微弱な素質を感じる程度だと、思っていたのだ。しかし、魔力
喪失ともなると、話は違ってくる。本来あるはずの魔力が、無いのだ。
「そう言えば、詳しく調べた事は無かったですね。・・・どれ。」
 トーリスは、目を瞑ると、サイジンの手に触れる。丁度、握手をするような形だ。
「・・・なるほど。良い線、行ってますね。」
 トーリスは、どうやら全て分かったようだ。
「正確に言うと、魔力喪失じゃありません。魔力封印ですね。」
 トーリスは、聞き慣れない言葉を言う。
「封印?私は、そのような事を受けた覚えは、ありませんがね。」
 サイジンは、封印されるような出来事を、覚えていない。
「詳しくは聞きません。しかし、あなた身体的ショックの他に心理的ショックを受
けた事は無いですか?」
 トーリスは、鋭い事を言う。まるで、見透かされているかのようだ。
「あると、言う事にして置きましょうか。」
 サイジンも、素直じゃなかった。まぁ特に言う必要は、無いだろう。
「どんな事かまでは、聞きません。心理的ショックがあった場合、自分の心と立ち
向かうために、魔力を消耗する時があります。精神が疲労すると言ったようにね。
その時に、使い過ぎると、魔力が悲鳴をあげて無意識の内に、封印を掛ける時があ
るのですよ。私も、成りかけました。最もレイモスが、させませんでしたけどね。」
 トーリスは、説明してやる。自分が成りかけたと言うのは、もちろん、レイアの
一件の事でだろう。
「なる程・・・。では私は、魔力の素質無しじゃ、無かったのですな?」
 サイジンは希望を持つ。今まで、これのせいで、どれだけ悔しい思いをしたか、
分からなかったからだ。必然的に、戦士になるしか無かったと言う点もある。
「それは、とりあえず封印を解かないと、分かりませんね。」
 トーリスは、もったいぶる。
「そうですか・・・。トーリス。お願い出来ますか?」
 サイジンは、頭を下げる。
「言うまでもありませんよ。仲間でしょう?」
 トーリスは、クスッと笑う。
「嬉しい台詞ですな。じゃぁ、お願いしますよ。」
 サイジンは、トーリスに感謝する。トーリスは、レイモスの事があってから、人
間的に成長したような感じだ。何事にも、積極的に取り組もうとしている。
 トーリスは、サイジンに座らせると、ツィリルとレルファには、離れているよう
に言う。畳の上に、魔方陣が書いてある絨毯を敷く。
「この上に、座って下さい。」
 トーリスが指示する。どうやら、色々用意があるようだ。サイジンは、大人しく
指示に従う。
「少し、違和感がするかもしれませんが、我慢して下さいね。」
 トーリスが、そう言うと、サイジンの頭に向かって、手を翳す。
「・・・『開錠』!!」
 トーリスは、封印を解く魔法を唱える。サイジンは、その瞬間、頭を抱える。
「サイジン!?」
 レルファが、心配そうに駆け寄る。
「・・・ふう。心配要りません。魔力を取り戻す際に、起きる痛みです。偏頭痛が
する程度ですよ。」
 トーリスは、頷きながら納得させる。
「ぬ・・・う!!」
 しかし、サイジンの苦しがり方が、尋常では無い。
「・・・まさか、記憶まで一緒に?可能性が高いかも知れませんね。魔力だけでは、
無かったのですかね。」
 トーリスは、サイジンの苦しみの様子を見て判断する。魔力だけなら、心理的シ
ョックを受ける事も無いが、記憶と一緒ともなれば、かなりの頭痛がするはずだ。
サイジンは、自分の知らぬ間に、記憶障害も出ていたのだ。
「仕方が無い。レルファ!手伝ってください。私が『逃痛』の魔法を掛けますので、
あなたは『精励』を。」
 トーリスは、サイジンの回復をする事にした。『逃痛』は字の如し、痛みを逃が
すが如く、和らげる魔法だ。
「サイジン。頑張って!」
 レルファが、手を握りながら、サイジンに『精励』を掛けていた。サイジンは、
その時、夢を見ていた。


 意識は朦朧としているが、ここは知ってる光景だった。しかし、どことなく変な
感じがした。まず、色が付いていない。セピア色に染まっている。そんな中に、サ
イジンは居た。
(どうやら、魔力だけではなく、記憶も取り戻しているようですね。)
 サイジンは冷静に判断する。痛みで、意識が遠のいて行くのは、感じた。それか
ら、すぐに、この光景を見せられたので、そう判断して正解だろう。
(魔力だけでは、無かったのですね。しかも、この記憶にも、魔力が封印された起
因があると言う訳ですか。)
 サイジンは、すぐにそう思った。恐らく、グラウドの真実を知った時に、まだ微
かに覚えていた記憶を、消し去ってしまったのだろう。
(しかし・・・ここは?)
 サイジンは、不思議がる。どうやら、ガリウロルでは無さそうだ。と言うより、
自分が知っている所では、無い気がする。しかし、これが記憶を取り戻しているの
だとすれば、サイジンは、知っているはずなのである。
(記憶を、夢で見る事になるとはね。)
 サイジンは、皮肉な話だと思った。自分に不都合だった記憶なのだろう。恐らく、
グラウドが関わっている。すると、段々声が聞こえてきた。
「おい。しっかりしろ!」
 この声は、間違いなくグラウドだ。しかし、若い時の声だ。
「・・・グラウド。貴方のご厚意には、感謝します・・・。」
 女性の声だ。この声には、サイジンは、全く覚えが無い。
「そんなんじゃねぇ。アイツとの約束さ。」
 グラウドは、少し恥ずかしそうにする。
「しかし、私は、もう何の薬も効きません。」
 女性は、どうやら病気のようだ。
「弱気になるんじゃねぇ!ティアラが死んだら、サイジンはどうなる!」
 グラウドは、必死に説得していた。ティアラとは、初めて聞いた名前だ。
「サイジン・・・。この子は、あの人の子・・・。絶対強くなります。」
 ティアラは、心強く言った。信じているのだろう。
(あの人とは・・・一体?)
 サイジンは、記憶の中なので動けない自分を、少し悔やんだ。
「もう少しじゃねぇか!パーズの寺院に行けば、良い僧侶が居るはずだ。お前の病
気だって治るはずだ!」
 グラウドは、どうやらティアラを護衛しながら、病気を治すためにパーズに向か
っている途中らしい。
「グラウド。私の病気は、先天性だったのですよ。この子が産めただけでも、奇跡
なのです。分かっているでしょう?」
 サイジンは、ビックリした。
(この人が・・・私の母親!?)
 サイジンは、母親の顔を見る。優しそうな人だ。しかし弱々しさを感じてしまう。
「あんまりじゃねぇかよ・・・。アイツは、生きてたと思ったら、死んじまうし、
その上、アンタまで死んだら、サイジンは、どうなっちまうんだよ!」
 グラウドは、地面を叩く。何も出来ない自分が、悔しいのだろう。
「あの人と一緒に居るだけでも、奇跡だと思いました。その上、この子まで産めた
のです。私は、役目を果たしたのでしょう・・・。」
 ティアラは、苦しそうだった。
「死ぬな!死ぬんじゃねぇ!何が奇跡だ!だったら、お前の病気を治せってんだよ!」
 グラウドが吼える。
「・・・申し訳ありません・・・。グラウド。貴方に頼みが、あります。」
 ティアラは、自分の死が迫っているのを感じていた。
「何でも言ってみろ!」
 グラウドは、何でもやってやるつもりだった。
「この子を・・・サイジンの引き取り手を、捜して下さい・・・。」
 ティアラは、こんな時までサイジンの心配をしていた。
「・・・分かったよ・・・。」
 グラウドは、もう死ぬなとは言わなかった。ティアラの眼の力が、無くなって来
ていたからだ。
「私は・・・幸せでした・・・。ジル・・・。貴方の元に・・・。」
 ティアラは、そう言うと目を閉じる。そして、大量の血を吐いて倒れた。
「・・・くそ!!ちくしょう!!」
 グラウドの悔しがる声が、聞こえた。サイジンは居たたまれない気持ちになる。
(私の母親は・・・病死したのですか・・・。)
 サイジンは、真実を知る。そして、場面が変わる。墓の前だろうか?
「・・・サイジン。お前は、誇り高きプサグル四天王最強の、ハイム=ジルドラン
=カイザードの息子だ・・・。お前を、半端な奴には、預けられねぇよな。」
 グラウドは、ニッコリ笑う。その瞬間、サイジンにも衝撃が走った。
(私が・・・あの戦乱時代の、プサグル四天王の子!?)
 サイジンは、ビックリした。しかも、ハイム=ジルドラン=カイザードと言えば、
四天王最強の実力の持ち主で、ライルにすら互角に渡り合った達人だったはずだ。
「・・・アイツと、ティアラの希望がお前だ。・・・俺が育ててやる・・・。」
 グラウドは、決意を秘めていた。グラウドから四天王との交流が深い事は、知ら
されていた。しかし、ジルドランは、戦乱時代に死んだはずだ。
(・・・そうか。生きていたのですね・・・。)
 サイジンは、さっきの会話を思い出す。ジルドランは、人知れず埋葬されたとの
話だ。しかし、グラウドが、生きていたジルドランを介抱して助けたのだろう。
「アイツも馬鹿だ・・・。何で、ルドルフのために死んじまうんだよ・・・。」
 グラウドは、泣いた。ジルドランの頭の頑固さを呪う。
「ティアラとの間に子供が出来て、これからって時なのによ。くそ!」
 ジルドランは、妻ティアラと、戦乱の直前に子を設けた。そして、戦乱の最中に、
ティアラを逃がす事を決意。その間にライルとの戦いが発生。その戦いに敗れる。
ジルドランは、一命を取り留めてグラウドに介抱された。そして、ついにプサグル
がルクトリアに解放された。その時に見たのだ。自分が守ってきたプサグルの変わ
った姿を。そして、人々が生き生きとする様を。その時に知ったのだ。旧国王ルド
ルフ=シーン=プサグルの死を・・・。
「アイツは、プサグルが今まで苦しんでたと知ると、自分を責めていた・・・。ア
イツのせいじゃないってのによ。」
 グラウドは、溜め息を漏らす。ジルドランは、その事実に耐えられなくなって、
その責を負うと言って、止める間も無く、死んでしまったのだ。しかも、ティアラ
は、ジルドランより先に病死してしまった。
「何で死んじまうんだよ・・・。馬鹿野郎!!」
 グラウドは、ティアラにも、その意味合いを込める。ジルドランとティアラは、
余りにも早世だった。
「サイジン。お前は、そうなるんじゃねぇぞ。」
 グラウドは、残された者の、悲しみを込めて、そう言った。
(父上。私は、間違いを犯しません。)
 サイジンは、記憶の中で敬礼する。
 すると、サイジンは段々と、記憶から離れていった。


 気が付くと、布団を被っていた。そして、目を開けると同時に、レルファがサイ
ジンを抱いて、背中に手を回してきた。
「馬鹿!心配したんだよ!!」
 レルファは、泣いていた。どうやら随分と心配を掛けたようだ。
「・・・申し訳ありません。」
 サイジンは、レルファの頭を撫でてやる。
「サイジン・・・。私の不手際です。」
 トーリスは深々と謝る。トーリスは、まさかサイジンが、記憶まで失ってるとは
思わなかったのだ。そのせいで、余計な痛みを伴ってしまった事を悔いていた。
「気にしないで良いですよ。おかげ様で、真実が分かりました。」
 サイジンは、サッパリしていた。自分の素性が分かったと同時に、グラウドの想
いが、伝わってきたのが、何より嬉しかった。
「・・・真実?」
 レルファは、ビックリする。さっき話した事だけでは、無いらしい。
「私は・・・プサグル四天王、ハイム=ジルドラン=カイザードの息子。ハイム=
サイジン=カイザードです。」
 サイジンは、もったいぶらずに言う。
「・・・それは、驚きました・・・。」
 トーリスは、本当に驚いていた。ジルドランと言う名は、フジーヤから聞いた事
がある。ライルが闘った中でも、一、ニを争う剣術の使い手で、サルトラリアと同
門のはずだ。天武砕剣術を、僅かな時間で習得し、才能をフルに発揮した将軍だと
聞いていた。何より、サイジンが、グラウドの息子では無いと言う事実に驚いた。
「父さんから聞いた事があるわ。彼ほど、国を愛した人も少ないって・・・。」
 レルファも、思い出した。ライルは、数ある闘ってきた人の中でも、ルースとグ
ラウドと、そしてジルドランは、強烈だったと言っていた。
「サイジンさんのお父さんって、グラウドさんじゃないの?」
 ツィリルは、不思議がっていた。
「そうですね。私は、二人の父を持ったようです。」
 サイジンは、晴れ晴れとした顔になっていた。吹っ切ったのだろう。真実が、ど
うあれ、誇り高き武人と、ぶっきらぼうながら約束を守る父を持ったサイジンは、
幸せだと思った。自分は、恵まれていたのだと思う。
「良かったね!」
 レルファは、自分の事のように喜ぶ。
「ハッハッハ。私の心配をしてくれる、レルファが居てこそですよ!」
 サイジンは、いつもの口調に戻っていた。これなら、心配は要らないだろう。
「もう!すぐ、ふざけるんだから。ところで・・・魔力はどう?」
 レルファは、サイジンの魔力の方を見たいと思った。
「うーーん。どう出すのですか?」
 サイジンは、生来、魔力と言う物を出した事が無いので、出し方が分からない。
「精神を落ち着けて、イメージを高めるのです。」
 トーリスが、深呼吸をするように言う。
「わたしは、何かやりたい!!って思うと出るよー?」
 ツィリルは自分が魔力を出す時の事を言う。
「そうねぇ。私は素直に、魔力が出したい!と思えば出るんだけどね。」
 レルファも説明する。どうやら、イメージを現実化させようとする事が、魔力発
動の鍵の様だ。
「では、やってみますか・・・。ムン!」
 サイジンは、右手を左手の手首に付けると、左手を集中させる。すると、心の奥
底から、何かが湧き出るのを感じた。
「おお!?これが、魔力と言う物なのですか?」
 サイジンは、自分が出した事が無い感覚に戸惑う。
「・・・こりゃ驚きの連続ですね。」
 トーリスは、目を見張った。サイジンは、思った以上の魔力を秘めていたのだ。
「凄いサイジン!私と、同じくらいあるわよ?」
 レルファも、ビックリした。ここまでサイジンが、魔力を出せるとは、思わなか
ったのだ。ずっと瞑想を行っていた分、魔力が高まっていたのだろう。
「すっごーい。サイジンって、凄いんだね!」
 ツィリルも、素直に認める。サイジンは闘気も出してみる。そして、その二つを
ミックスさせる。すると、段々と魔力が源に変わっていく。
「むぅ・・・。」
 サイジンは、源を確認すると、自らの気持ちを落ち着けて、暴走しないように、
源を押さえ込んだ。部屋を破壊しないようにするためだった。
「私に、こんな才能があったとはね。自分でも驚きですな。」
 サイジンは、少し自分が怖くなる。
「才能を開花させる事は、良い事です。帰ったら、魔法の訓練を受けさせますよ?」
 トーリスは、サイジンの肩に手をやる。
「ぬぬ!トーリスは、厳しそうですねぇ・・・。」
 サイジンは、頭を抱える。
「センセーは、優しいもん!」
 ツィリルは、膨れっ面を見せる。
「まぁ、分かり易いわよ。」
 レルファも、フォローする。
「心配しなくても、ミッチリ受けさせます。今の内に、適正を調べておきますよ。」
 トーリスは、ニヤリと笑う。
「・・・お、お願いします。」
 サイジンは、有無言わせぬトーリスの口調に、従うしか無かった。
(こりゃ、剣術の修行より、大変かも知れませぬなぁ。)
 サイジンは、魔力の開花を喜んだが、魔法の訓練の事を思うと、頭痛がした。
(サイジンに、負けられないわね。)
 レルファは、恋人がライバルになるとは、思いも寄らなかった。しかし、どこと
なく嬉しいのだった。サイジンが、自分達と同じ修行を受けると言うのは、密かに
楽しみにしていた。
 様々な才能を持っていたと言われる、ハイム=ジルドラン=カイザードの息子は、
新たなる才能を開花させようとしていた。
 新たなる才能の目覚めによって、魔族に対抗する強さが一つ増えた。魔族にとっ
ての脅威が、一つ増えたと言っても、過言ではなかった。
 最強の人間が、また一人増えた。そして隠された歴史が、発覚した瞬間でもあっ
た。



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