NOVEL 3-5(First)

ソクトア第2章3巻の5(前半)


 5、三分割
 魔族達は、連戦の失敗にも関わらず、盛り上がっていた。ワイス遺跡から離れる
瞬間が、来たからだ。偉大なる神魔王の力で、次元への道が用意された。そして、
その先には、新たなる魔族の拠点になる次元城が、聳え立っていた。
 神魔王グロバスの、悲願達成の瞬間でもあった。グロバスは、感慨深げに次元城
を眺める。そして、それを手伝ったのは神魔ワイスだった。出来は、上々と言った
所で、神が攻めて来ても、早々壊れないと言う自負があった。
 健蔵も、晴れ晴れしい城を前にして、感動の一言だった。自分は、200年以上、
ワイス遺跡に籠りっきりだった。やっと人間達に報復が出来る。自分を捨てた人間
達を、健蔵は一日も早く、滅ぼしたかったのである。
 ルドラーも満足していた。自分が魔族になってから、急進展した。この事実が、
ルドラーを満足させた。自分あってこその今の魔族。そう思えるからこそ、心から
満足出来ていた。ルドラーは、ルクトリアに負けた時の事を思い出す。同じ轍は踏
まない。そう心に誓っていた。
 その中で、失意のドン底に居る魔族が居た。それは、事実上ジークと引き分けた、
クラーデスだった。人間と引き分けた。その事実は、クラーデスを失意に落とした。
自分こそ、魔族の頂点になるべきだと思ってただけに、ショックは大きかった。自
分の批判が、次第に高まっているのも分かっている。我慢も限界に近づいていた。
しかし、治りが遅い。ジークの力は想像以上だった。魔王である自分が、負けるは
ずが無いと思っていた。その油断が、この結果を生んだのだろう。
「グォォォォォォ!!!!」
 クラーデスは、血の涙を流す。自分が情けなかった。何より、竜神ジュダと対峙
した時の恐怖が、クラーデスを苦しめた。
(この俺が、恐怖!!ヌゥゥゥゥ!!!!)
 クラーデスは、それを思い出すだけでも、屈辱で全身が震えた。元々、プライド
の高い男である。それだけに、事実を認めたく無かったのだ。しかし、認めなくて
は、いけない。神の力を。そして人間の力をだ。
 外では、魔族達が盛り上がっている。自分は、輪の中に入れる訳が無い。静養し
つつも屈辱に耐えなければならない。クラーデスは拳を握る。だが、力が入らない。
(何たるザマか!これが、俺だと言うのか!?)
 クラーデスは、瘴気を出す。しかし、まだまだ弱々しかった。
「荒れているな。」
 外から声がした。グロバスのようだ。外の祝福の声から、抜け出したようだ。
「・・・救助には、感謝する。」
 クラーデスは、無念そうに答える。あそこで、グロバスが救ってくれなければ、
間違いなくクラーデスは、消されていた。頭で認めたくなくても、救助には感謝す
るべきだった。魔族に死が訪れると、また魔界に戻される。そうしたら、1000年は
力を蓄える事になる。これだけの魔族が集まる機会は、1000年先ですら保証は無い。
(冗談では無い。1000年など待てるか!)
 それに、1000年経った所で、呼び出して貰える保証など、どこにもない。死ぬ訳
には行かなかった。
「お世辞など要らん。貴様の心を聞こう。」
 グロバスは、単刀直入に聞く。
「貴様は、強くなるために、命を懸ける覚悟があるか?」
 グロバスは、クラーデスに問う。
「・・・方法があるなら、何にでも乗る。」
 クラーデスは、キッパリ答えた。相当、悔しかったのだろう。
「魔界に帰るだけでは無い。下手をしたら、消滅する可能性もあるぞ。」
 グロバスは念を押す。消滅と言うのは、魔族の中では、一番怖い言葉だった。そ
れこそ真の死である。存在が無くなってしまうのだ。魔界で死ぬと消滅しするのだ。
「クドい!何でもすると、言ったはずだ。」
 クラーデスは、変わらなかった。強さこそ全て。そのためには、何でもやるつも
りだった。例え、そこで消滅しようとも、それは自分が弱かったせいだと、諦める
事が出来る。クラーデスは、そう言う奴であった。
「お主は、甘く見ておるな。」
 今回の、もう一人の立役者であるワイスも入ってきた。千客万来と言った所か。
「甘く見ているとは、どういうことだ?」
 クラーデスは、気に入らなかったのか、殺気立つ。
「グロバス様が、お主にやらせようとしているのは、想像を絶する痛みを伴う。廃
魔になってしまっても、知らぬぞ。」
 ワイスは、忠告する。廃魔とは、人間でいう所の廃人のような物だ。そうなった
ら、自然と処分されてしまうだろう。
「構わぬ!俺は今、自分が憎い!こんな思いを続けるなど、俺には出来ん!」
 クラーデスは、拳から血を流す。握り過ぎてしまったようだ。
「なら止めぬ。健闘を祈る。」
 ワイスは、そう言うと、部屋から出て行った。
「フッ。ワイスも心配性だな。貴様を止めに来るとはな。」
 グロバスは、そう言うと、懐から小瓶を取り出す。
「それは何だ?」
 クラーデスは、怪訝そうにしていた。
「貴様に、試練を与える物だ。」
 グロバスは、ニヤリと笑う。クラーデスは、中身が気になっていた。
「ルドラーに与えた物か?」
 クラーデスは、ルドラーが魔族にする際に貰った魔性液の事を思い出す。
「魔族の貴様に、魔性液など与えると思ったか?」
 グロバスは、楽しそうに笑う。考えてみれば変な話だ。クラーデスは、魔族なの
だから、魔性液を飲んだ所で、何の効果も無いだろう。
「もったいぶらずに言え。」
 クラーデスは、眼をギラギラさせていた。焦っているのろう。
「神液。この液体は、神の力が宿っている。」
 グロバスが、言った瞬間、クラーデスは息を呑む。神の力と言う事は、自分の魔
の力と、反する物だ。よって下手したら消滅し兼ねない。
「俺を、処分でもするつもりか?」
 クラーデスは、冷や汗を流す。
「フン。臆病風に吹かれおったか?この液こそ、神魔となるための試験だ。」
 グロバスは、クラーデスを睨み付ける。
「貴様は、何故、神魔が呼ばれるか分かるか?分かるまいな。この神の力を、体の
内に暴れさせ、打ち勝った者こそが、神の力に対して抵抗が付いた者とみなし、神
魔と呼ばれるのだ。魔王と神魔は、そこが違う。だからこそ別格なのだ。」
 グロバスが、説明する。神の力を打ち消す事で抵抗を作り、神の力にすら、対抗
出来るようにする。そして、その反動で瘴気の容量が増えると言う訳だ。だが、そ
う簡単には行かない。神の力に負けたら、消滅か精神をやられて廃魔となるだろう。
「・・・そう言う事か・・・。」
 クラーデスは迷う。神の力だ。下手したら消滅してしまう。
「・・・フン。答えは決まっている。」
 クラーデスは、迷いを振り払った。
「グロバス。その液体を寄越せ。」
 クラーデスは、決意の目をしていた。強くなるためなら、命を懸ける。それこそ
が、自分の生き様だった。
「よく言った。貴様の勇気を称えよう。」
 グロバスは、わざとらしく言う。そして、神液をクラーデスに手渡す。
「決意が出来たら飲むが良い。この部屋は、封印する。」
 グロバスは、そう言うと、部屋から出て行こうとする。
「封印?俺が成功して出る時は、どうするんだ?」
 クラーデスは尋ねる。
「心配するな。成功したら、貴様の力で封印を解く事も、出来るようになる。」
 グロバスは、ハッキリ答えた。それくらい、神魔になると言うのは、凄い事なの
だろう。グロバスは扉を閉める。そして、外から封印が掛けられていく。
(念入りな事だな。)
 クラーデスは集中して、この神液と立ち向かう環境が出来た。
(消滅・・・。フッ。らしくない・・・。俺は誰にも負けん強さを手に入れる!!)
 クラーデスは、そう決意すると、小瓶の液体を一気に飲み干す。そして、飲み干
すと、小瓶を捨てる。そして、すぐだった。体中が燃えるようだった。
「グァァァ!!ギァァァァァァ!!」
 クラーデスは、堪らず叫び声を上げる。恐ろしい痛みだった。体中の内臓と言う
内臓が、はち切れそうになる感覚がする。
(これが!!神の力だと言うのか!?)
 クラーデスは、真っ青な血を吐く。体が、悲鳴を上げ続けている。
「ヌオォォ!ここから出せぇぇ!!」
 クラーデスは、瘴気の水が欲しくなる。神の力が自分の内臓と言う内臓に、駆け
巡っているため、想像を絶する痛みなのだ。
(このための封印かァァァ!!)
 クラーデスは、暴れ続ける。しかし、封印しているため、部屋の外まで及ぶ事は
無い。念入りな事だった。
(消える・・・。消滅する?冗談では無い!!)
 クラーデスは、気力で消滅を防ぐ。しかし、押さえ込もうとしても、まだ溢れる
神の力のせいで、更に激痛が襲う。
(ふざけるな!!俺は生き残って・・・見返してやる!!)
 クラーデスは、ギラギラした目の奥に野望を秘めていた。そのためには、この神
の力に勝たなくてはならない。
 クラーデスは、神液を飲み干した。これが、吉と出るか凶と出るか知るには、ま
だ時間が必要だった。


 ガリウロルでは、気合が篭った修行が続いていた。忍術の修行は厳しい。しかし、
得る物も大きい。だからこそ、5人は音をあげなかった。そして、継承者である繊
一郎自身も、鍛えられる部分も大きい。実際に、随分と力を上げたと思う。
 繊一郎や繊劉が、一番ビックリしたのはサイジンの変化だった。理由を聞いて、
納得したが、これほどの才能の持ち主だとは思わなかったらしく、嬉しい悲鳴が続
いていた。おかげ様で、忍術を吸収するのが早いので、教える方が間に合わない程
だった。5人共、それぞれ違う分野に長けていると言うのも、良い特徴だった。
 トーリスは、思った通り、飲み込みが早く、色んな忍術を、凄い速さで覚えてい
った。使いこなし方も器用で、さすがと言う他、無かった。ツィリルは、主に攻撃
系の忍術が得意らしく、派手な忍術を特に好んで使っていた。レルファは、補助系
の忍術を得意としていた。サポートをするならトーリス以上だ。そして、サイジン
は、最初こそ、どんなものか戸惑っていた物の、基本を覚えた後は、飲み込みが早
かった。そのサイジンは、レルファと同じ補助系だが、レルファが補助防御の方を
得意にしているのに対して、攻撃扶助と言う補助攻撃の部分の方を得意としていた。
どうやら、トーリスからも、魔法で、そっちを習わされてるらしい。
 そして、何でも教わろうとするのが、ドラムだった。ドラムは、覚えが非常に早
いが、気に入った忍術しか、やらないと言う特徴があった。何とも子供らしい事だ
が、その能力たるや、非凡な物があった。
 そして、ついに5人にも、忍術の免許が配られる事になった。レイリーも持って
いる物だ。しかし、レイリーは真面目に修行して、6年は掛かって取った物だ。そ
れを、僅か2ヶ月で取るのだから、さすがである。
「応用と復習を、忘れないようにするのじゃぞ。」
 繊劉からの言葉だった。忍術は、毎日の修行が大事だ。源を出す特訓を欠かすと、
出る物も、出なくなってしまう。そして、トーリスには、何と免許皆伝の印を与え
たのであった。
「わしにすら分かった。お主になら、託せる。家は、レイリーに継いでもらうが、
技は、お主も一緒に継いでみよ。それが願いじゃ。」
 繊劉は、期待を込めて言った。これは、最大級の褒め言葉だった。トーリスは、
照れ臭そうにしていた。
「私も忍術の大切さを、広めていきます。心の修行も忘れません。」
 トーリスは、ハッキリと、こう言った。繊劉は、その言葉が嬉しかった。
「お主なら、拙者の全てを託せるで御座る。拙者が開発した技も、お主とレイリー
に託す時が来る・・・。拙者の心意気も、忘れないで欲しいで御座るよ。」
 繊一郎は、晴れやかとした顔で言った。
「私は、まだ未熟者。しかし、やれる事は尽くすつもりです。」
 トーリスは、力強い目で答える。
(今時、珍しく、芯が、しっかりとした若者で御座るな。)
 繊一郎は、トーリスの事は100%信用していた。レイリーも才能がある。そし
て、努力はするが、ここまで強い芯は育っていない。成長に期待したい所だ。
 そして、ついに旅立つ時が来た。正確に言えば、『羅刹』の退治をする時が来た。
さすがに、繊一郎を含めた6人は旅慣れているので、すぐに旅支度を終える。そし
て、『羅刹』の居場所を知ると、そこに向かう経路を模索する。
「さて。依頼の期限も、後2ヶ月。目標は、1ヶ月で平定です。」
 トーリスは、皆に目標を言う。ちなみに、最年長は繊一郎だが、リーダーは、ト
ーリスのままと言う事になった。繊一郎曰く。
「お主達は、自然体のままの方が、素早く動けるで御座ろう。拙者は、駒として使
ってくれれば、十分で御座る。」
 との事だ。榊家の当主が、駒とは贅沢な駒を持った物だ。
 皆、修行のおかげで「空歩」が使える。それは、非常に有利な事だ。応用すれば
足音も完全に無くせるし、罠があった場合も、素早く切り抜けられるだろう。
 忍術は、基本的には魔法と似たような物が多い。しかし、大きく違うのは、魔法
は、魔力を使って決まった魔法を発動させる物が多いのだが、忍術の場合は、決め
られた忍術は基本で、それを応用させる物が多い。例えば、魔法なら、それぞれの
強さに応じて『熱』『火矢』『火球』『炎熱』『轟炎』と種類が、豊富にある。そ
の中から、イメージに近い物を選んで使うのだ。
 それに対して、忍術は、炎の忍術は『火遁』しかない。しかし、同じ『火遁』を
使うにも、使い方は豊富にある。2重にイメージさせれば、とてつもない『火遁』
になるし、イメージを小さくさせて持続させれば、明かりにも使える。絶対量は、
源の量によって違う。トーリスは魔法を応用させる方法を試行錯誤していたが、そ
れに近い物がある。忍術は、最初から応用を目的とした物なのだ。
 何よりも忍術の場合、源さえあれば、イメージするだけで出せるので、時間が掛
からない。よって、連発も出来るし、右手で『火遁』、左手で雷の忍術『電迅』何
て事も出来る。便利な物である。しかし、源をそこまで蓄えておくのは、尋常な事
ではない。扱いやすくて便利だが、それだけ、精神を消耗するのだ。何せ、闘気と
魔力をどっちとも必要としているのだ。疲労度も、窺い知れると言う物だ。
 とは言え、免許を貰った程の腕前は、只者では無い。それなりに配分は考えてい
るつもりだ。
「ここが、奴らの本拠地で御座る。」
 繊一郎に、緊張が走る。『羅刹』の本拠地だ。さすがに、地元の人の案内があれ
ば、かなり早い時間で着く。わずか1週間で、目的地に到着した。大きな屋敷では
あるが、端から見れば、かなり攻めづらい難攻不落の砦だった。
「フッ。盗賊団風情にしては、良い本拠地ですな。」
 サイジンが、鼻で笑う。サイジンも盗賊団と言うのは、気に食わないらしい。
「冒険者の名に懸けて、退治しなきゃね。」
 レルファも、やる気満々だった。久しぶりの依頼と言う事で、気分も上々だった。
「あそこに悪い人達が、居るんだね。」
 ドラムが、膨れっ面する。あんまり良い噂は聞かなかった。
「わたしの魔法で、驚かせようか?」
 ツィリルも、やる気満々だ。トーリスが、それを制す。
「余り派手な動きは、良くないで御座るぞ?」
 繊一郎は、慎重論を出す。
「ここは、私の腕の見せ所ですね。」
 トーリスは、本拠地の中を予想していた。軍師をしていたフジーヤの息子だけあ
って、それなりの作戦を、練っているのだろう。
「以前に、繊一郎さんが攻め込んだ時は、どんな感じでした?」
 トーリスは、繊一郎に聞く。
「拙者の隊は、裏門から。父上の隊は正門から攻めたので御座る。しかし、裏門は
ほぼダミーで、正門から攻めた父上の方を中心にやられ申した。幸い父上は、撃退
したので御座るが、我らの力が上だと知るや、門を全て閉めて、壁の中の僅かな穴
から、矢を射掛けてき申した。たまらず逃げ帰った所存に御座る。」
 繊一郎は、その時の様子を残念がる。絶対に大丈夫だと思ったのだろう。それだ
けに、失敗は痛かった。それから繊一郎は、一人で修行に籠る様になったのだ。
「挟撃作戦は、読まれていた訳ですね。」
 トーリスは、納得する。敵も馬鹿じゃないらしい。壁も『空歩』では見えない位
置まで計算されて作られている。難攻不落の砦と言われる訳だ。
「忍術では、壊せないように、壁を忍術で補強してあるようで御座る。」
 敵は、忍術で結界のような物まで作っているらしい。用意周到な事である。
「なる程・・・。それだけの忍術を防ぐとあれば、かなりの仕掛けをしてあるはず
・・・ですが。」
 トーリスは、冷静に分析する。
「・・・なる程。」
 トーリスは、ニヤリと笑う。どうやら、何かを見つけたようだ。
「五芒星ですね。」
 トーリスは、一発で見抜いた。補強は、五芒星で強化してあるらしい。五芒星の
力で、砦全体に忍術や魔法が効き辛くするように、守っているらしい。
「何と・・・。そんな仕掛けが!」
 繊一郎は驚く。そんな事、思っても見なかった。
「見て下さい。ここからでも、見えるくらい5本の柱が目立つでしょう?」
 トーリス達が居る場所は、砦全体が見渡せる山の中だが、物見櫓に使われている
柱が、確かに目立つ。しかし上手くカモフラージュされている。なるべく、自然に
近いように、さりげなく櫓が置いてある。
「あれが・・・五芒星の柱だったとは、不覚で御座る。」
 繊一郎は、改めてトーリスの頭の回転の良さに気がついた。
「櫓の上を見て下さい。上手くカモフラージュされてますが、あの光は、ただの光
では、ありませんよ。」
 トーリスが、指を差して言う。櫓の一番上に、灯台のように照らされてる光があ
る。しかし、よく見ると、赤い炎ではない。薄暗く紫に光っている。
「あれは、源をカモフラージュしているのでしょう。」
 トーリスが言う。そして、実際に源を出す。そして、それをギュッと丸めると、
薄暗い紫っぽい炎になった。実際には、燃えているように見えてるだけだ。
「これの濃度を薄めて、中だけ濃くすれば、ああいう風になります。中々考えてら
っしゃいますね。」
 トーリスは薄く笑う。
(拙者ですら気が付かなかったのに・・・何たる奴よ。)
 繊一郎は、トーリスの才能に驚いてしまう。まだ習い始めて2ヶ月の男には、と
ても見えない。おそらく源の概念を教わってから、色々と研究したのだろう。
「さっすがセンセー!じゃぁ、あの柱を、壊せば良いの?」
 ツィリルは、早速柱に向かって、魔法を打つ準備をする。
「それは早いですよ?ツィリル。物事には、順番があるのです。」
 トーリスは、優しく止める。
「良いですか?いくら柱に攻撃した所で、そう簡単には壊れません。結界が包んで
ますからね。そこで、私が、あの源の炎を消します。そしたら、見張り役が気が付
いて、源を再び点火させようとします。その前に柱を壊して下さい。」
 トーリスは、作戦を説明する。
「1個壊せば、結界は、崩壊します。そうしたら総攻撃を掛けます。」
 トーリスは、説明し終えると、準備をする。そして、一人で『羅刹』の砦の入口
に向かう。
「・・・一人で大丈夫で御座ろうか?」
 繊一郎は心配している。しかし、4人とも全く動じてなかった。正確には、ドラ
ムは、気にして無かっただけだが、後の3人は、変わった様子を見せなかった。
「平静で御座るな・・・。」
 繊一郎は、仲の良いパーティーに見えたが、気のせいだろうか?
「センセーが、作戦を説明して、失敗した事無いもん。」
 ツィリルは、信頼し切っていた。
(これは一本取られ申した。)
 繊一郎は、とんだ勘違いをしていた。この3人は、危険なのに心配をしてないん
じゃない。トーリスなら絶対大丈夫と言う、信頼があるからこそ心配して無いのだ。
(何と言う、信頼感だ。)
 繊一郎は、素晴らしいと思った。これが本当の仲間と言う物なのだろう。
 そして、トーリスは、柱の影から気づかれない位置で『飛翔』を使う。気配の消
し方も完璧だった。気が付いた時は、既に、柱の見張りの居る所まで来ていた。
 すると、3人とも攻撃の用意を始める。サイジンは、見つからないように柱の下
で用意し、レルファは、魔力をツィリルに分け与えている。そしてツィリルは『爆
裂』の魔法の用意をしていた。繊一郎も、それを見て、負けじと用意し始める。4
人の意気は、ピッタリだった。ドラムも慌てて用意する。
「見張りも、楽じゃないぜ。」
 見張り役が、欠伸をしていた。普段、攻めてくる敵は中々居ない。なので、暇な
のだろう。ぐるりと見回すと、また源の確認をする。それの繰り返しだ。
「右良し、左・・・。」
 見張り役が、確認しようとすると、突然、左から人が出てきた。
「ご苦労様です。」
 トーリスだった。トーリスは、見張り役を手刀で一撃で気絶させる。声を上げる
暇すら無かった。そして、一瞬の内に、源を消す。
「いっけぇえええええええええええ!」
 ツィリルは、それを見た瞬間『爆裂』を放つ。この魔法は、破壊力がトンでもな
い。爆発系の中でも、かなり高度な魔法だった。
 ゴォウン!!
 見張り台は、見事に粉々になった。
「ヌゥゥゥ!『迅雷』!!」
 繊一郎の気合と共に、雷が放たれる。すると、見張り台の柱の上の部分は、綺麗
サッパリ無くなる。
「これも邪魔ですね!!」
 サイジンは、間髪入れず、柱の土台を打ち壊す。ちゃんと忍術で強化してある。
剣を振るうたびに、風が起こってるのを見ると、風を起こす忍術『風陣』を、剣の
振りに重ねているのだろう。
 これで、柱が復活する事は無いだろう。粉々に打ち砕かれた。
「てめぇ!!良い度胸してるじゃねぇか!」
 ようやく、『羅刹』の面々が迎撃に来たようだ。
「君達は、センスが無いですね。在り来たりな悪党の台詞は、面白くありませんよ?」
 サイジンは、そう言うと剣を構える。
「何だと!?てめぇ、こんな真似して、只で済むと思っ・・・げふぉ。」
 何か言う前に、炎の矢がいっぱい飛んでくる。レルファとツィリルが、協力して
浴びせているのだろう。五芒星が無いせいで、有効だった。
「何だ!?何事だ!?」
 後から、どんどんと出てくる。
「悪い人達だね?お仕置きだよー!」
 ドラムが、無邪気に蹴りを放つ。しかし、並の蹴りじゃない。龍の力を持った蹴
りだ。子供だと思って、舐めた奴は、どんどん伸びていった。
「何事だ!出遭え!出遭えーーー!!」
 幹部の者達が、部下に叫ぶ。完全に混乱していた。その間に、トーリスが柱の見
張りを全て倒し、全ての源を潰していた。これで、五芒星が再び出来る事は無い。
「あああ!我らの結界が!」
 『羅刹』は、結界が崩れていく様を見て絶望する。何度も、このおかげで助かっ
てきたのだ。
「混乱を招くな!弓で応戦しろ!!」
 幹部が、号令を掛けると、ちゃんと弓で応戦し始める。さすが統制が取れている。
「甘い!甘いで御座るな!!」
 繊一郎は、飛んでくる矢を『火遁』で燃やし尽くす。すると、砦にも火が付いた。
「・・・化け物だ!!」
 さすがに、統制が取れているとは言え、たかが盗賊団だ。勝ち目が無いと知ると、
皆、逃げ出してしまう。
「逃がしは、しませんよ?」
 正門はトーリス、裏門は、レルファとツィリルが待ち構えていた。そして、どん
どんと、お縄に掛ける。そして、その縄を投げているのがドラムである。
「裏門へ行け!女二人だ!」
 皆が、その声に従って、裏門へ急ぐ。
「わたしたちを甘く見たなー!許さないよー!」
 ツィリルは、頬を膨らませながら『爆砕』の魔法で、気絶させていく。
「私だって戦えるのよ?甘く見てもらっちゃ困るわね。」
 レルファも、覚えたての忍術『水遁』で、敵の足元を掬う。中々のコンビネーシ
ョンだった。正門では、トーリスが、どんどん敵を凍らせている。ただし、死なな
い程度にだ。無益な殺傷は、もうゴメンなのだろう。
 主だった部隊は、全滅したようだ。残るは頭領と、その周辺と言う事になる。
「・・・プロの集団か。甘く見た・・・。」
 しばらくすると、正門から冷静な奴が出てくる。
「ほう。分かりますか?」
 トーリスが、挑発するが、挑発に乗らない。中々の切れ者だ。
「能力は申し分無いみたいだな。しかし、暗殺のプロを舐めてもらっちゃ困る。」
 その切れ者が、姿をぼやかす。
「出来るようですね。面白い。」
 トーリスは、目を瞑る。そして、何かが振り下ろされる瞬間、片手で受け止める。
「・・・貴様、気配が読めるのか?」
 切れ者は、少し驚いた。暗殺術で、視覚には完全に消えていたはずだ。
「本気を出したらどうです?後悔しますよ?」
 トーリスは、源を出し始める。
「・・・フン。『羅刹』右将、紅(くれない) 永正(ながまさ)。参る。」
 切れ者は、名乗る。永正は両手に二丁鎌を持つ。どうやら、隙の無い戦いが得意
らしい。二丁鎌は、常に相手の方向に切っ先を向けて、色々応用の利く武器だ。
「中々隙の無い動きですね。」
 トーリスは、感心する。迂闊に飛び込んだら、二丁鎌の餌食だ。
(さて、どうするか。)
 トーリスは、攻撃を避けながら考える。
「・・・これにしますか。」
 トーリスは『火遁』のイメージを増大させる。そして、永正の攻撃を避けた瞬間
に、地面に放つ。すると火は走るように地面を這う。
 すると、永正の気配が消える。どうやら、確実に止めを刺すために、姿を隠した
らしい。しかし、トーリスの読み通りだった。
(・・・恐らく後ろから・・・。)
 トーリスは、予測をつけていた。すると、読みどおり後ろから突然気配が現れた。
 ザンッ!!
 永正の攻撃は空を切る。さすがの永正も読まれるとは思って無かったので驚いた。
「『光陰』!!」
 トーリスは『光陰』の魔法を放つ。これは、光を放つ魔法だ。殺傷力は無い。
「ぐあああああ!!」
 永正は苦しむ。それはそうだ。至近距離で、凄い量の光を目にしたのだ。目がや
られたのだろう。とは言え、失明する程じゃない。その辺の微調整はしてある。
「ぬお!!何処だ!!」
 今度は、永正は見えない恐怖に戦う番だった。しかし、トーリスの気配がしない。
(奴も気配を隠す事が、出来ると言うのか!?しかも俺より上!?)
 永正は、感じ取ろうとするが、まるで感じない。
 ガシィ!
 いきなり後ろから捕まれた。しかも、完璧に極まっていた。卍固めだ。自然と二
丁鎌を落としてしまう。見事なまでの、力の入れ具合で、無力化してしまった。そ
して、とうとう永正は観念したのか、力を抜く。トーリスは手早く縛り上げた。
「・・・俺の負けだ。貴様の力を見抜けなかったのが、敗因だ。」
 永正は、素直に負けを認める。トーリスの力は、これでも手抜きをした程の強さ
なのだろう。手合わせしてても、手に取るように分かった。
 そして、サイジン、レルファ、ツィリルの前には、忍刀を構えた男が居た。
「貴方が、私のお相手ですな?」
 サイジンは、その男に向かって言う。
「『羅刹』を、ここで終わらせる訳には、行かんのだよ。」
 その男は、忍刀を二刀持つ。
「二刀流ですか?器用な事ですな。」
 サイジンは、磨き上げている自分の剣を抜く。
「『羅刹』左将、風見(かざみ) 羅太夫(らだゆう)。参る!」
 男は名乗る。そして源を出し始める。中々の手練だ。
「サイジン。援護するわよ。」
 レルファは警戒してか、守りの魔法を唱える。
「大丈夫です。見てなさい。お二人とも。」
 サイジンは、一人でやる気だった。
「何言ってるの?3人でやった方が、確実じゃない。」
 レルファは呆れる。しかし、サイジンは手で制す。
「任せてください。自信は、ありますよ。」
 サイジンは、少年のような目をする。どうやら、強い相手と出会えて嬉しそうだ。
「しょうがないわね。負けるんじゃないわよ?」
 レルファは下がった。
「サイジン頑張れー♪」
 ツィリルも、応援に回った。
「舐められた物だな。後悔する事になるぞ。」
 羅太夫は、源を集中し始める。
「はぁああ!『水遁』!」
 羅太夫は、サイジンに向かって水遁を放つ。水遁は、主に脚の動きを封じる技だ。
とは言え、激流のような水遁を使う者も居るので、人それぞれではある。
 当のサイジンは、何と、剣に『火遁』の能力を付けて構える。
「はぁっ!!」
 サイジンの裂帛の気合と共に、水遁の水は蒸発する。剣で強化して水を斬ったの
だろう。火遁を付けたので、蒸発したのだ。
「貴様も、並の手練では無いらしいな・・・。」
 羅太夫は、今の攻防だけでも、それを察する。
「ならば、こちらも奥義を尽くすまで!!」
 羅太夫は、源を集中させる。それを忍刀に乗せる。
「くらえぃ!源流十字斬!!」
 羅太夫は、二刀を十字の形に斬って、威力を倍増化させる。そして、その形のま
ま、サイジンへと突撃を掛ける。
「フン!!」
 サイジンは、それを何と羅太夫の体ごと吹き飛ばす。切っ先を見切って、跳ね返
したのだ。高速で飛んでくる羅太夫の切っ先を、見切って当てるとは神技である。
「・・・何と言う強さだ。」
 羅太夫は、目の前に居る男が、人間かどうか疑いたくなる程だった。
「私の倍は、強い男を知ってますよ。」
 サイジンは、ジークの事を言う。しかし、今のサイジンは、ジークに迫る物があ
った。忍術を覚えて魔力を取り戻したサイジンは、生まれ変わったと言っても良い。
「そうか・・・。なら私の強さを追い求める修行も、終わりだ。『羅刹』に居る意
味も無い。お縄に付こう。」
 羅太夫は、潔く両手を差し出す。サイジンは、手早く羅太夫の両手を縛る。
「どういう事です?」
「私は、ここの頭領に負けたのだ。その時は、私もまだまだ強くなれる自覚があっ
た。だからこそ、悪行と知りつつも、ここに居て頭領と修行をして強くなれた。」
 羅太夫は、告白する。もう全てを、話すつもりだった。
「私は、限界まで鍛えたつもりだったが、貴様に負け、そして、それ以上の者が居
るのだろう?私には、追いつけぬ以上、もうここに居る意味は無い。ならば、罪を
償う人生を選ぶ。それもまた一興と言う奴よ。」
 羅太夫は、目を瞑る。これまで修行に費やしてきた時間は多い。だが、それ以上
の強さを持った若者が、現れたのだ。思い残す事は無かった。
「寂しい人生・・・。でも満足そうね。」
 レルファは、つい寂しい目をしてしまう。強さしか追いかけられなかった男の、
悟りきった顔は、見てて寂しい物だ。
「月並みな事しか言えませんが、貴方の分まで、強さを追い求めましょう。」
 サイジンは、羅太夫の目を見て言う。
「そうしてくれると、ありがたい。」
 羅太夫は、そう言うと素直に座り込む。そして、そのまま寝てしまった。その顔
は、晴れ晴れとしていた。
 その頃、砦の最奥に行っている人物居た。それは繊一郎だった。
「よくも荒らしてくれたな。」
 上から声がする。
「『羅刹』の頭領は、やはりお主で御座ったか。神城(かみしろ)よ。」
 繊一郎は頭領を睨み付ける。
「この俺を、神城 源治(げんじ)と知っていての狼藉か。」
 源治は凄む。しかし、すぐに繊一郎を睨み付けて悟る。
「お前は榊。なる程な・・・。」
 源治は、繊一郎の事を知っていた。
「神城家の名が、泣いているで御座るぞ。」
 繊一郎も、源治の事を知っているようだった。
「どうとでも言え。俺は、強くなるためには手段を選ばぬ。」
 源治は、頭領の服を脱ぎ捨てる。源治は中に、白い胴着を着ていた。
「貴様が極めたと言う忍術と・・・俺の極めた強さ。どっちが強いか勝負!」
 源治は、腰を落として腕を中段に構える。
「神城流空手の奥義継承者。相手にとって、不足なし!!」
 繊一郎は、源治と対峙する。
「お主は変わった。あの日に強さを極めようと誓った日から、悪行に手を染めるよ
うになり申したな。『羅刹』の噂を聞いた時に、お主だと思ってい申した。」
 繊一郎は、その時の失望を忘れない。
「甘いな。繊一郎。悪行で手を染める事によって、強き者から狙われる事になる。
それこそ究極の修行だとは思わぬのか?」
 源治は、強くなるために手段を選ばなかった。悪行に手を染めれば、自然と目立
つようになる。そうすれば、強い冒険者や同業者から狙われる事になる。しかし、
源治は、悉く力で捻じ伏せてきた。それこそ源治にとっての修行であった。
「間違っているで御座る!修行とは、他人を打ち負かすための物では無い!自分を
鍛え上げる物で御座る!方向を見失ったお主を、正さなくてはならぬ!」
 繊一郎は叫ぶ。他人を力でね捻じ伏せるやり方を、認める訳には行かなかった。
「甘い事を・・・。やるかやられるかの勝負を続けた俺の力を、受けるが良い!」
 源治は、左手を水平に突き出して、右手を顎に付けるような構えを見せる。
「神城流の一つ。『十字の構え』。貴様に、隙が見出せるか?」
 源治は、その構えのまま近寄ってくる。この構えだと、左手で剣を受け止めるか
払い除けるかして、右手で即座に攻撃するつもりなのだ。攻防一体の美しい型だ。
「素手で、忍刀を受けきれるとでも、思うので御座るか?」
 繊一郎は、忍刀を構える。そして踏み込みから一気に源治を薙ぐ。
 ガキン!!
「なっ!?」
 繊一郎は驚愕する。源治は、左手で忍刀の刃を、指で挟みながら折ってしまう。
「フォォォォ!!」
 源治は、すぐ様、右手で繊一郎を貫きに来る。繊一郎は、勘で何とか避ける。
「恐ろしい真似をするで御座るな・・・。」
 繊一郎は、源治を甘く見ていたようだ。こんな事が出来るなど並の人間ではない。
「貴様も良く避けた。・・・と言いたい所だがな。」
 源治は、ニヤリと笑う。
「む?ゲフォ!!」
 繊一郎は血を吐く。よく見ると、胸が裂けていた。鋭い物で抉られた様な跡があ
った。しかし、源治は武器らしい物を持っていない。
「暗器?で御座るか?」
 繊一郎は、布を巻き付けながら尋ねる。
「フッフッフ。神城流を甘く見るで無いぞ。神城流は全身を武器と化すが奥義。指
先は、極限まで鍛え上げているのだ。俺の指は貴様のナマクラ忍刀より斬れるぞ?」
 源治は、また十字の構えをする。これだけの指先を持っているのなら、素手で闘
う理由も頷ける物だ。却って武器が邪魔になるだろう。
「ならば、仕方が無いで御座るな。こちらも奥義で行くで御座る。」
 繊一郎は源を出し始める。
「それで良い。それでこそ、闘う価値があると言う物だ。」
 源治は十字の構えのまま、突っ込む。
「チェェェェェイ!!」
 源治は、手刀を振る。繊一郎は、それを手で受け止めようとする。
「馬鹿め!手で受け止められる物か!!」
 源治は、そのまま振り下ろす。
 ガシィ!!
「な、なんだと!?」
 今度は、源治が驚く番だった。繊一郎は片手で止めて見せた。
「ぬん!!」
 繊一郎は、掴んだ手を捻ると、脇固めの形に持っていく。そして、そのまま腕を
へし折った。
「ヌグゥゥァァ!!」
 源治は激痛に顔を顰める。右手はダランとしていた。どうやら、折るとまで行か
なかったようだ。折られる前に、関節を外して逃げたのだ。
「お主。その腕では闘えまい。片手で拙者に勝つのも不可能。諦めるで御座る。」
 繊一郎は勧告する。立場は、逆転したようだ。
「ふざけるなよ・・・。まだだぁ!!オラァアア!!」
 源治は、左手で右腕を捻り上げる。そして、苦痛に顔を歪めながら、関節を再び
入れる。歯を食いしばりながら、右手が動く所まで行かせる。
「・・・凄まじい執念。ならば、応えるまでで御座る!」
 繊一郎は、再び源を練り始める。
「俺は負けん!!」
 源治は、さっきの構えとは逆の構えを見せる。左手を突き出すように前に出して、
右手は添えるように顎に付ける。さっきと打って変わって攻撃的だ。
「神城流・・・『逆十字の構え』!」
 源治は叫ぶ。恐らく、捨て身で攻め込む時の戦法だろう。その覚悟のせいか、闘
気が漲っているように見えた。
 両者とも自然と近寄っていく。そして、風が吹いた瞬間、両者共に動いた。
「チェストォォォォォ!!」
 源治は、凄まじい速さで間合いを詰めて拳を繰り出す。
「ハァ!!」
 繊一郎は何と、それをジャンプで避けた。そして、上空から源を込めた右手を突
き出す。すると、源はどんどんと形を変えていく。
「榊流忍術、奥義!『龍衝遁』!!」
 繊一郎は、龍を手から繰り出す。源治は、その恐ろしい龍を見て死を悟った。
 ドガァ!!
 源治は放心する。すると、龍は自分に当たらずに、地面を抉っていた。
「・・・貴様!なぜ止めを刺さぬ!」
 源治は、情を掛けられた事を不服に思っていた。繊一郎は、わざと外したのだ。
「お主とは、また手合わせしたい。それだけで御座る。」
 繊一郎は、ニヤリと笑う。
「・・・フッ。甘いな。だが・・・悪くない。」
 源治は、溜め息をつくと、自分から縄につく。素直に負けを認めたのだ。
「次は、貴様を負かせる。それまで償ってやる。待っていると良い。」
 源治は、繊一郎に向かって言い放つ。だが、源治は、生きては出られないだろう。
『羅刹』の首謀者として罪を償うには、死罪を言い渡される可能性が高い。
「・・・待っているで御座るよ。」
 繊一郎は言ってやった。その言葉で、源治が笑って死ねるのなら、それも本望だ
と思ったのだ。
 こうして、ガリウロル最大の盗賊団『羅刹』は終焉を迎えたのであった。



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