NOVEL 4-7(Second)

ソクトア第2章4巻の7(後半)


 その頃、トーリスやツィリル、ゲラムやルイ、それにミカルドは、所々を怪我し
ながら、まだ闘い続けていた。いや、それは闘っていると言うより、ただ生きてい
ると言うだけであった。クラーデスは、闘いを楽しんでいた。それと同時に、実力
を見切り始めていた。唯一まともに闘えているのは、トーリスくらいの物であった。
(魔神の器のトーリス。中々ではある。しかし・・・。)
 クラーデスは、既に他の者が、体を動かすのも、やっとと言うのを見て、トーリ
スに攻撃を集中させていた。ミカルドも、目を霞ませながら、何とか体を動かして
いた。
「クゥ!!!」
 トーリスも、防御するのが手一杯だった。恐ろしい実力である。トーリスが、目
一杯の魔力、闘気を駆使しても、全く怯まないとは・・・。
「さて・・・。そろそろ来る頃だな。」
 クラーデスは、何かを待っているようだった。そして、それに合わせるかのよう
に、トーリスとミカルドに、更なる攻撃を加えて吹き飛ばす。
「ウワァァァ!!」
 トーリスは、吹き飛ばされる。そして肩を掴みながら、立ち上がるが、それ以上
の力が出なかった。
「み、皆!!」
 誰かの声が、後ろから響き渡る。
「来たな・・・。ジーク!!」
 クラーデスは、歓喜の声を上げる。ジークとミリィの姿が、そこにあった。
「ジーク・・・。クラーデスは・・・。」
 トーリスは、注意をしようとする。それをジークは制した。
「分かってる。化け物だって言う事はね。でも大丈夫だ。」
 ジークは、精神を集中させると、迷わずにゼロ・ブレイドを抜く。
「クックック。このヒリ付き感が、堪らぬな。」
 クラーデスは、ジークの力が、危険な力に変わっていくのを感じた。
「待つんだ。ジーク。クラーデスは、俺が仕留める!」
 後ろから、ジュダが現れる。そこには、竜神としての、厳しい顔付きの、ジュダ
が居た。神として、役目を果たそうと言うのだろう。
「ほう。運命神を退けたか。さすがだな。」
 クラーデスは、一瞬で、その事を見抜く。
「ジュダだけでは、無いぞ。」
 赤毘車やネイガも現れた。
「私達も、忘れては困りますね。」
 サイジンやレルファ、そしてドラムにサルトラリアまで集結した。
「フム。中々の面子だな。だが・・・。」
 クラーデスは、片手に渾身の力を込めると、手を前に突き出して広げる。すると、
とてつもない程の竜巻が巻き起こり、吹き飛ばされる。すると、そこに耐えられた
のは、ジークとネイガ以外、居なかった。
「やはりな。他の者は、戦闘で、疲労が頂点に達していたようだな。」
 クラーデスは見切っていた。この2人以外に、既に闘える状態の者は、居ないと
言う事をだ。赤毘車も、ゾンビとの闘いで、体力を消耗したようである。
(俺も、さっき飲んだ薬の効果が出てなきゃ、吹き飛ばされてたって訳だ。)
 ジークは分析する。しかし薬を使った後、ほとんど体力を消耗させてない闘い方
をしていたジークも、さすがである。
「・・・見切られていたとはな・・・。さすがだな。」
 ジュダは、そう言うと赤毘車と顔を合わせる。
「なら、こうするまでだ!!」
 ジュダは、宝石を取り出す。その宝石は、ダイアモンドだった。
「神秘なる光を宿しダイアモンドよ!大地を守る光となれ!!金剛石活力(ダイア
モンドリジェネレイション)!!」
 ジュダは、ダイアモンドに、自分のあらゆる活力を凝縮させる。そして、それを
大地に叩きつける。すると、地面が微かに輝きだした。
「器用な事をする・・・。大地を守る技と言う訳か。」
 クラーデスは感心する。魔族でも、思い切り鍛錬する時は、部屋全体を力で覆っ
て、全壊しないようにする事があるが、この技は、ソクトア全土を覆う技のようだ。
「闘った後に、後悔する様な真似だけは、するなよ。」
 ジュダは、そう言うと肩の力を落とす。ミシェーダとの闘いで、ほとんどの力を
使い切って、とてもクラーデスと渡り合えるような力は、残っていなかったのだ。
それならば、残りの力で大地を守る事に集中した方が、良いと判断したのだ。
「これで、気兼ねなく、このエブリクラーデスも、全力で闘えると言う訳だな。」
 クラーデスにとっても、有難い話だった。
「クラーデス!今度こそ決着を・・・。」
 ジークは、ゼロ・ブレイドに、力を込めようとする。
「待ちなさい!ジーク。君は下がっていなさい。」
 ネイガが前に出る。そしてジークを制御する。
「何言ってるんですか!ここは、一緒に闘わないと!」
 ジークはクラーデスの強烈な波動を感じ取っている。
「偶には、神らしい事をさせて下さい。私は、前に立たなくてはならないのです。」
 ネイガは、懇願するような目で、ジークを見る。
「・・・分かりましたよ。でも・・・無理は駄目ですよ。」
 ジークは、ゼロ・ブレイドを仕舞う。ネイガの眼を見たら、返す言葉が無くなっ
た。ネイガは、「法道」の期待に応える為に、前に出て闘わなければならないと、
思っていたのだ。それでこそ、ミシェーダに付いて行った罪も晴らせると、思って
いたのだろう。
「何のつもりか知らぬが、貴様らが負けた時、このソクトアに、破壊と創造の時が
来ると言う事だけは、覚えて置くのだな。」
 クラーデスは、全てを倒した後では、闘いと言う楽しみが無くなってしまうので、
思う存分、闘って置こうと考えていたのだ。
「破壊神気取りですか。・・・しかし、この私を、そう易々と倒せると思ったら、
間違いです。ジュダ様。赤毘車様。私に、償いの時を与えたまえ!!」
 ネイガは、そう言うと、背中から鳳凰の翼が生える。そして、体から凄まじいま
での不死身の炎が、燃え上がる。
「ネイガ。細かい事は気にするな。後悔しないように、闘うんだ。」
 ジュダは、ネイガの応援をする。
「ネイガ。・・・死ぬでは無いぞ。」
 赤毘車は、ネイガが、無理をし過ぎなければ良いと思った。
「ふむ。貴様の具現させたる力は、見事と言って置こう。しかし、それだけで、こ
のエブリクラーデスは、倒せぬ。」
 クラーデスは、両手を広げて、大空を眺める。すると、クラーデスの体から「無」
の力が、漂い始める。しかも、その量たるや、凄まじい物があった。
(クラーデスめ・・・。あそこまで「無」の力を極めているとは・・・。)
 ジークには、分かった。クラーデスが、「無」の力を使いこなしていると言う事
をだ。
「全てを消し去る「無」の力ですか。しかし、何らかの力である以上、神力を高め
れば、防げない事は無い!」
 ネイガは、気が付いていた。例え「無」の力であっても、力の量で、こちらが上
回れば、対抗出来ると言う事をだ。そして、それに負けた時に「無」となり、消え
てしまうと言う事もだ。だが、「無」の力自体、強力な力のため、「無」に対抗す
るためには、相当な量の力が必要であった。「無」を上回るためには、「無」を身
に付けるのが、一番の近道なのだ。
「フッ。理論上では、その通りだ。だが貴様では、俺を上回るなど不可能だ。消え
て無くなると良い。」
 クラーデスは、両拳に「無」の力を宿す。
「前鳳凰神から受け継ぎし力を、ここで見せてやる!!」
 ネイガは、全身を不死鳥の炎と化す。
「中々の力だ。だが、我が前にとっては、無駄の二文字に尽きるな。」
 クラーデスは、ネイガに襲い掛かる。ネイガはクラーデスの拳を、真正面から受
け止める。そして、「無」の力を押さえ込むと、足払いで牽制する。クラーデスは、
その足払いをステップで躱すと、そのまま踵落しをする。ネイガは、一瞬にして、
その踵落しを躱して、神気と炎の力を纏った拳を、弾丸のように素早く打ち出す。
「むっ・・・。」
 クラーデスは、思った以上の速さに、少し驚いた。さすがは、鳳凰神の名を持つ
だけある。その速さは、神の中でも一番なのだろう。クラーデスも、目で追いきれ
るギリギリの速さである。
「なる程な。さすがは、鳳凰神。だが、パワーが、まだまだ足りんな!」
 クラーデスは、攻撃を喰らいながらも、前に進んでくる。
「くっ・・・。さすがは、クラーデス・・・。」
 ネイガは、何とか距離を保ちながら攻撃を続けるが、このままでは、いつか捕ま
ってしまう。掠り傷を負わせたくらいでは、クラーデスは止まりそうにない。
「ヌゥゥン!!」
 クラーデスは、ネイガの鳩尾に拳を当てる。
「グハッ!!!」
 ネイガは、吹き飛ばされながら、嗚咽する。
(クッ!!消える!!)
 ネイガは、攻撃を喰らった所から、感覚が無くなっていくのを感じた。
(冗談では無い!!このまま消えてたまるか!!)
 ネイガは、腹に力を入れると、「無」の消し去るエネルギーを吹き飛ばした。
「ほう・・・。満更、さっき言ってた「無」を超えるエネルギーを作るという話は、
嘘でも無いようだな。・・・だが、時間の問題のようだな。」
 クラーデスには分かっていた。このまま闘えば、ネイガを追い詰める事が出来る。
「ネイガさん!!」
 ジークが、心配そうに見つめる。
「ジーク。そして「法道」の者達よ。見ていなさい。鳳凰神の生き様をね!!」
 ネイガは、眼が赤く光りだして、全身が炎と化していく。
「・・・ほう。それだけのパワーを出せるとはな・・・。」
 クラーデスも、驚きを隠せなかった。
「前鳳凰神ラウザー様・・・。貴方が見せてくれた、最高のお姿を、ここに体現し
ます!!ハァァァァァァァ!!!!」
 ネイガの体の色が変わっていく。赤い光から、段々白い光に変わっていく。それ
すらも超えて、青白く輝いていく。
「奴め。これ程の質量を、隠し持っているとは意外だったな・・・。」
 クラーデスは、冷や汗を掻く。ネイガの力を見誤っていた。
「・・・!!そうか!ネイガ!!その技は、危険だ!止めろ!!」
 ジュダは、何かに気が付いたようだ。そして、それがどれだけ危険な技であるか、
気が付いた。
「ジュダ。何故、止めるのだ?」
 赤毘車は気が付いてない。
「赤毘車。奴は、自分の体を星に変えようと、しているんだ!!」
 ジュダは驚くべき発言をする。
「何だと!?」
 赤毘車も、さすがにビックリした。そんな事が、可能なのかも疑う。
「全ての生命の、営みを司る星命エネルギー。それを作り出すには、神力など比べ
物にならない程の、パワーが必要だ。」
 ジュダは説明する。一部の神の中には体内に星命エネルギーを隠し持っている者
も居る。しかし使えば確実に肉体がもたないので使用したという例は聞いたことが
なかった。
「それが可能な神・・・その存在は、聞いた事があった。それがまさか・・・鳳凰
神・・・。ネイガだったとは・・・。」
 ジュダは、ネイガの中に、何か輝く物を感じたが、それが、星命エネルギーだっ
たとは、気が付かなかった。
「フッ・・・。面白い!!我が「無」の力が先に尽きるか・・・勝負だ!!フッフ
ッフ・・・。闘いは、こうでなくてはな!!」
 クラーデスは、初めて己の危険を感じた。しかし、「無道」を完墜してしまった
ら、こんな緊張感は、味わえないだろう。
「この姿は・・・前鳳凰神ラウザー様が、我が故郷の星の危機を救うために、最期
に見せてくれた姿。この力を使う以上、負ける訳にはいかない!!」
 ネイガは、段々球体になっていく。より、星に近い形になっていくのだ。
「来るが良い。この「無」を、破れる物なら、破って見せると良い!」
 クラーデスは、両手に「無」の力を集中させて、ネイガを待ち受けていた。
「ネイガ!!生き残れ!!全てを使い切っては、駄目だ!!」
 ジュダが、あらん限りの声で叫ぶ。
「ウォォォォォォ!!!」
 ネイガは自らの体から、エネルギーを、全て吐き出すかのように、クラーデスに
ぶつける。すると、ネイガは空ろな眼をして、倒れこんだ。どうやら最後のジュダ
の言葉が、届いたようだ。全てをエネルギーに変える前に、元の体に戻って、エネ
ルギーだけを、クラーデスに、ぶつけたようだ。
「ヌオオオオオオオオ!!!」
 クラーデスは、恒星の片鱗を体で味わう。腕が痺れる。凄まじい程の力だ。
「だが!!ここで破れる、エブリクラーデスでは無い!!」
 クラーデスは、眼を見開くと、一瞬の内に、両手を握るようにして、恒星のエネ
ルギーを握り潰した。
「何と言う・・・力だ・・・。」
 ネイガは、自分自身を、全てエネルギーに変えたとしても、敵わなかったであろ
う事を察した。
「フゥ・・・。中々楽しめたぞ。さぁ、掛かって来い!」
 クラーデスは、少し掠り傷を負った程で、止めてしまったのだ。肩口に傷が出来
ているが、この程度の痛みなら、クラーデスは、気に留めないだろう。
「冗談言うな。私は・・・もう体を動かせん。・・・貴様の・・・勝ちだ。」
 ネイガは、横たわるので精一杯だ。既に、ジュダの横で休んでいた。
「フッ・・・。そうか。まぁ良い。」
 クラーデスは、少し惜しみながらも、視線の先を変える。
「最後に残ったのは・・・貴様か。つくづく縁がある物だな。」
 クラーデスはジークを見る。
「フッ。貴様を倒せば、あとは死にぞこない共だ。見事に、力を使いきってるよう
だしな。「無道」は、ここに完墜する事となる。」
 クラーデスは、笑みを浮かべる。とうとう「無道」も、現実の物として、見えて
きたからだ。そして、その最後の相手として、相応しい相手を迎えるのだ。こんな
楽しい事は無い。
「クラーデス。時を誤ったな。死の淵を見る前の、俺と闘っていれば、お前が間違
い無く勝利した事だろう。だが俺は、あの時に生まれ変わった。「人道」を信じる
全て者の願いと、この肉体に流れる血と魂は、決して砕けない!!」
 ジークは、凛とした目で、クラーデスを睨み付ける。
「フッ。ライルの体と、2人の熱い魂を、貴様の中に感じる。それで良い。その全
てを踏み潰さねば、「無道」の勝ちとは言えぬ。」
 クラーデスは、ジークの蘇生の事実を、知っていたようだ。
「ジーク。お前の持てる力を全て出せば、俺以上だ。信じて・・・勝てよ!」
 ジュダは、力付ける。ジークの勝利を、疑わないようだ。
「ジーク。私との特訓・・・最後は、とうとう私を超えたのを覚えているな?神を
超えた、その力を、クラーデスにも見せてやれ。」
 赤毘車は、ジークと一番稽古をつけた相手だ。その力量は、分かっていた。
「ジーク。私の生き様は見せた・・・。後は、貴方の生き様を見せて下さい。」
 ネイガは、ジークから視線を離さなかった。
「ジーク。親父は強えぇ。だが、今のお前は、それ以上の何かを感じる・・・。俺
の代わりに、親父を倒して良いと思えるのは、お前だけだ・・・。頼むぜ。」
 ミカルドは、肩で息をしながらも、ジークにゲキを与える。横でリーアが、会釈
した。ミカルドにも、認められたのである。
「『望』の皆が待っている。絶対、生き残るんだぞ。」
 サルトラリアが、『望』の人達を思い出させてくれた。
「ジーク兄ちゃんは、絶対勝つよね?レルファ姉ちゃん!」
「兄さんは、ああ見えて、負けるのが嫌いなのよ。絶対勝つわよ。・・・大丈夫。
兄さんは、父さんの名前に、負けなかっただけじゃない。それを超える事が出来た
と、私は信じてる。そんな兄さんが、負ける訳無い!」
 ドラムは、レルファに問いながら激励した。レルファは、父の名声に負けなかっ
たジークを、誰よりも強いと思っていた。
「センセー。ジーク兄ちゃん、何だか自信に溢れてるね。」
「ええ。最高の状態です。自分を追い込み過ぎても居ない。それで居ながら、絶対
に勝つという気迫に満ちている。・・・ジーク。父さんの魂と一緒に闘えますね?」
 ツィリルとトーリスは、寄り添いながらも、ジークの勝利を疑わない。ジークの
凄まじいまでの勝利への執念も、感じ取っていた。
「ハッハッハ。ジークなら、大丈夫ですな。・・・私の、未来の義兄になってもら
うためにも、ここで負けるんじゃあ、ありませんよ?」
 サイジンは軽口を叩きながら、しっかりとした目でジークを見る。
「全く・・・私達が、束になっても敵わなかったって言うのに・・・ジークったら、
平然としてるわよ?納得行かないわよねぇ。」
「ルイさん。あれが、ジーク兄ちゃんなんだよ。普段からは、考えられない程、い
ざと言う時に、力が出せる。・・・僕もいつか・・・ね。」
 ルイが、不平を言うが、ゲラムがフォローする。良いコンビである。
「ジーク。分かってるネ?負けたら、絶対に許さないヨ。私との約束・・・破った
ら、承知しないヨ!!」
 ミリィが、ジークを見つめる。生きて一緒になる。それが、ミリィとの約束だ。
「・・・全く、俺は、たくさん期待を、背負っちまったみたいだな。」
 ジークは頭を掻く。しかし、その顔は、楽しそうに笑っていた。
「フッ。貴様との闘いで、長い闘いも最後だ。存分に楽しんでやる。絶望の果てに、
消えるが良い。このエブリクラーデスの、決戦の相手として選ばれた事を、感謝す
るんだな。破壊と創造の時は、近い!!!」
 クラーデスは、6枚の魔の翼を広げる。すると、全身から「無」の力が、漂い始
めた。クラーデスの気合は、漲っている
「クラーデス。「人道」が、どうとか言うつもりは無い。だが俺が、これから生き
るためにも、お前のやろうとしている事は、賛成出来ない。俺は、信じる者のため
に闘う事は、もう出来ない。だから、生きるためにお前を倒す。恨んでくれるなよ。」
 ジークは、明らかに昔と違っていた。昔ならば、皆の期待を、一身に背負って、
凄まじい程の重圧の中で、身を犠牲にして、闘った事だろう。だが、今のジークは、
自分のために闘っている。そして、積極的に闘おうとしている。
(昔よりも、成長したようだな・・・。そうで無くてはな!!)
 この積極性は、明らかに戦力として、プラスだろう。
「フフフハハハハ!!ソクトアの命運を掛けた闘いか。その相手が、貴様である事
を、誰が予想しただろうな。神でも無く、魔族でも無い。だが、紛れも無く最強の
相手である、貴様をな!!」
 クラーデスは、今のジークは、どんな魔族や神よりも、強いと思っていた。
「俺は、まだまだやる事がある。こんな所で、死ねないんだよ!!」
 ジークは、剣を斜め後ろに構える。これは、不動真剣術の「攻め」の型だった。
「裂帛の気合とは、正にこの事だな。ならば、この俺も、出さねばなるまい。」
 クラーデスは、愛用の指輪を取り出す。良くこの指輪で、グロバスやワイスと手
合わせをした物だ。もう、遠い昔のような気すらする。それは、クラーデスが、上
り詰めた強さの証明でもあった。
「まずは・・・基本から行くか。」
 ジークは、ゼロ・ブレイドに闘気を込める。しかし、「無」の力とぶつかっても、
勝てるのでは無いか?と思う程の闘気が、ゼロ・ブレイドに込められていた。
「ソクトア全土を巻き込んだ、戦争の締めだ。悔いを残さないように、せんとな。」
 クラーデスは、指輪を掲げると、その中心に信じられない位の、瘴気を込める。
 そして、互いに構えのまま、少しずつ近づく。そして、ジークの方から、追い風
が吹いた瞬間、ジークの姿が消えた。
 ガギィィィィィィ!!!!
 風を震わせる、凄まじい轟音がした。そして、その一瞬に、ジークとクラーデス
は、それぞれ反対側の所に、ワープしていた。いや、ワープしたのでは無い。一瞬
の内に、それぞれ技を放って、移動したのだ。
「フッ。不動真剣術の、袈裟斬り「閃光」だったか?」
 クラーデスは、技の名前を答えて見せた。
「アンタには、見せて無いはずだけどな・・・。それに指輪での一撃は並じゃねぇ。」
 ジークは、ゼロ・ブレイドを持つ手が、少し痺れる程の衝撃だった。
「何度と無く、貴様の闘いは見せてもらったからな。他の奴と、闘ってた時の物も
含めてな。・・・とは言え、予想以上の早さだな。」
 クラーデスは、ニヤリと笑う。クラーデスは、自分が闘った時以外の、ジークの
闘いも、何度と無く観戦していた。とは言えジークは、指輪での一撃と、すれ違う
瞬間に、肩口を斬りに掛かったので、クラーデスの肩に傷が出来ていた。
「お見通しって訳だな。なら、俺も、出し惜しみはしないぜ!」
 ジークは、ゼロ・ブレイドを少し引き気味にすると、体を回転しつつ竜巻を作り
出す。
「来たな。旋風剣「爆牙」か!」
 クラーデスは、やはりお見通しだったらしく、「爆牙」を魔法の『爆砕』で迎撃
する。そして、もう片方の手で『氷砕』の魔法を繰り出す。魔法を、凄まじい速さ
で繰り出せるとは、さすがである。
「・・・居ない!」
 クラーデスは、ジークが『氷砕』を繰り出した位置に、居ないのを感知すると、
空気の流れを読んで、右方向に雷を落とす。雷を任意の場所に落とす『雷帝』の魔
法だった。次々と違う魔法を繰り出すとは、さすがはクラーデスである。
「でやぁ!!!」
 ジークは、「爆牙」を囮にしたのがバレたのは、計算外だったが、雷はゼロ・ブ
レイドを振り回す事で、防ぎ切る。そして、片方の掌をクラーデスの方向に向けて、
剣を引く。
「ムッ!!」
 クラーデスは、何かに気が付いたらしく、人差し指と中指に力を入れる。
 ピシィィィィィィ!!
 クラーデスと、ジークの動きが止まる。
「チィ!!突き「雷光」まで、知ってるとはな・・・。」
 ジークは、慌てて距離を取る。ジークは、懐に潜り込むついでに、突き「雷光」
を放ったのだが、クラーデスに予想されて、指2本を硬化させた突きで、迎撃され
たのだった。それぞれの剣先と指先で、攻撃を無効化したのだった。
「良いぞ。貴様との戦いは、背筋に冷たい物が走るみたいでな・・・。新鮮だぞ。」
 クラーデスは、瘴気を指先に集めると、一気に打ち出し始めた。
「アンタも凄ぇよ。俺の力を知り尽くしてるなんてな。」
 ジークは、クラーデスの力を認める。さすがとしか言いようが無い。今までの攻
撃は、全て見切られていた。
「この程度は、序の口といった所だ。今度は、こっちから行くぞ!」
 クラーデスは、手に魔力を集中させる。クラーデスは、無の力だけで無く、他の
あらゆる力にも、精通している。しかも、その強さたるや、神魔クラスである事は、
間違いない。そして、その魔力を右手と左手に分けると、右手で『氷砕』、左手で
『爆砕』の魔法を同時に、ジークに向けて放つ。それも凄まじいまでの連射でだ。
「おおおおおお!!」
 ジークは、ゼロ・ブレイドを水平にすると、そこに闘気を込めて、魔法を斬って
行く。連射される魔法を、次々と薙いでいた。しかし、完全に防ぎ切れた訳では無
く、所々に、傷が増えていく。
「フッ。いつまで耐えられるかな?」
 クラーデスは、攻撃の手を緩めず、次々と魔法を打っていく。
「クラーデス!俺を舐めるなよ!!」
 ジークは、そう叫ぶと、ゼロ・ブレイドに闘気を集中させて、防壁を作る。
「・・・考えたな。最小限の労力で、防ぐつもりか。」
 クラーデスは、ジークの機転に少し驚く。
「ならば、これはどう防ぐか?」
 クラーデスは、指輪をしている右腕を突き出す。すると指輪の周りが、暗い色に
変わっていく。とてつもない瘴気が、集まっている証拠だ。
「何をするつもりだ?」
「フッフッフ。瘴気にも、色々使い方がある。それを見せてやろう。」
 クラーデスは、瘴気を集めた右腕を、振り払うかのようにジークの方に向ける。
「・・・ムッ!」
 ジークは気が付くと、瘴気に囲まれていた。これでは、逃げ場が無い。
「馬鹿の一つ覚えみたいに、打ち出すだけが、瘴気の使い方では無い。瘴気の広が
り易い性質を持つ事を、応用すると、こう言う事も、出来ると言う事だ。」
 クラーデスは、ジークの周りを瘴気で囲んでしまった。
「さぁて、どう防ぐ?」
 クラーデスは、右手を握る動作をする。瘴気が、ジークに向かって収束する。
「ヌゥゥゥゥゥゥ!!」
 ジークは、唸り声を上げると、瘴気に飲み込まれてしまう。
「ジークーー!」
 ミリィが、心配そうな声を上げる。
「心配するな。あれくらいで参る、ジークでは無い。」
 ジュダは、ジークの力を信じていた。すると、瘴気の塊が、縦に割れて、中から
ジークが現れた。ジークは避けきれないと悟ると、剣で一点を引き裂く事で、隙間
を空けて、出て来たのだ。全て防ぐには、労力も掛かると、計算した上だろう。
「さすがに、この程度では仕留められぬか。」
 クラーデスも分かっていた。ジークは、こんな簡単に倒せる男では無いと言う事
をだ。しかし、少し瘴気を食らっているらしく、ジークは肩で息をしていた。
「だが、少し参っているようだな。さすがの貴様も、今の猛攻で無傷はあり得ん。」
「勝ち誇っているようだな。だが、俺を舐めるなと、言ったはずだぞ。」
 ジークは、言い放つ。すると、クラーデスの額が縦に傷つく。
「な、何だと!?」
 クラーデスは、自分の血を確かめる。青い血が、紛れもなく流れていた。それに
少し脳震盪が、起こっているようだ。
「俺の、瘴気を割いた斬りは、貴様に攻撃するためでも、あったと言う事だ。」
 ジークは、最初から、そのつもりで斬り割いたのだ。
「・・・フッ。なる程。徒では、転ばぬと言う訳か。」
 クラーデスは、頭を振って、気を取り戻すと、眼が妖しく光る。
「やはり、貴様との決着には、『無』の力以外の決着は、あり得んと言う訳だな。」
 クラーデスは、全身を揮わせて、拳を握る。すると、その拳は、陽炎のように不
気味な光を宿していた。これこそが、『無』の力である。
「恒星のパワーを凌ぐ、お前の『無』の力。俺は、それを超える!!」
 ジークは、ゼロ・ブレイドを、しっかりと握り締める。そして、ゆっくりと力を
込めると、『無』の力をゼロ・ブレイドに伝わせていった。他の剣なら、とっくに
壊れていたはずだ。全てを無にする力に、耐えられる剣は、このゼロ・ブレイドだ
けであろう。
「この力を使う前に、決着をつけたいと思っていたがな。そうもいかんな。」
 クラーデスは、出し惜しみをしていた訳では無い。この力を、今使ってしまうと、
ソクトアを、平らにするまで時間が掛かってしまうため、使いたく無かったのだ。
「そこまでの余裕は、さすがにやれないぜ。」
 ジークは、微笑する。何故、そんな表情をするのか、分からなかった。しかし、
自然と笑みが毀れた。それは、次の一撃こそ、魂をも揺さぶる一撃になるであろう
事が、分かっていたからである。
「不思議よな。これで、全てに決着がつくと思うと、笑みが耐えぬ。」
 クラーデスは、今までの事を思い返していた。魔界での自分の成り上がり、「神
の戦争」の後、現れたグロバスの台頭。そして、自分の力を追い求めるために、作
り出した息子達、こう思い返してみると、碌な事をしていない。だが、このソクト
アに来て、変わった。この1年の間は、非常に濃い時間を過ごす事が出来たと、確
信している。最初は、力を得るチャンスと突っ掛かっていた。しかし、ジークに引
き分けて、絶望と怒りに満ち、あの「神液」と闘い、打ち勝った時の喜び、そして
『無』の力への目覚め。力こそ全てのクラーデスは、力を手に入れた。だが同時に、
空しくもあった。追い求めて止まなかった力が、手に入る事で目標を失った。だが、
この力を存分に揮える相手が、居た事に、クラーデスは歓喜を覚えた。だが、それ
は、一瞬の事でしか無い。仕方が無いのだ。そう言う力であるのだから・・・。そ
れでも良い。一瞬でも、この力を、存分にぶつけられれば、魔族として、エブリク
ラーデスとして、本望である。その後は、自分が思い描いていた世界に、このソク
トアを変える。『無』の力を使った破壊と創造。思い描く世界を作るには、今のソ
クトアは、向いていないのだ。
「クラーデス・・・。アンタは、力を持つ者として尊敬する。しかし、力の使い方
は、間違っている。俺は、アンタの力の全てに、真っ向から対抗してやる!」
 ジークも、クラーデスと同じく、今までの事を振り返っていた。色々な事があっ
た。色々な人と会った。そして、死にゆく人の、間際にも立ち会った。そして、自
らも死の間際に立った。不動真剣術を習い、父と特訓して行った日々が、頭を過ぎ
る。そして、ミリィとの出会い、約束の事も、もうかなり昔の事にさえ思える。そ
れくらい、濃い1年間だった。生涯、忘れる事の出来ない1年間だった。『無』の
力を、発現出来たのは、偶然だった。負けたくないと願う、一心で身に付けた力だ
った。それから、全ての力に関して、知識も得た。そして、導き出された答えは、
クラーデスとは違っていた。無に出来る力を揮って、世界を作る事は、確かに魅力
的なのだろう。だが、無に出来るからこそ、大事にしなければ、ならない。『無』
から得た、全ての情報を大事に引き継がなければならない。そして、そこから導き
出された答えは、共存して互いの歴史を紡ぐ。それだった。自分の道は、これしか
ないと思った。そして、一回死んだ時に気が付いた。その歴史のために、自分が犠
牲になるのではない。それを、見届ける役目に、自分は、ならなければならないと
言う事をだ。だからこそ、この一瞬に打ち克つ。勝って、未来を紡がなければなら
ない。この一瞬に、全てを懸けつつ、生き残らなければならない。
(難しいな・・・。だが、父さんも昔、不可能を可能にした。なら、俺も、やらな
ければ、父さんに笑われてしまうからな!!)
 ジークは、ライルの事を思い出して、更なる力を込める。
(ジークよ。この闘いに立ち会えた事を、このゼロ・ブレイド。誇りに思う。)
 ゼロ・ブレイドが、語りかけてきた。
(アンタも、居たんだったな。今まで、数多く助けてくれた事を感謝する。だが、
それも、これで終わりだ。・・・燃えようぜ!!魂の奥から!!)
 ジークの心の叫びに、ゼロ・ブレイドは、呼応するかの如く、爆発的に『無』の
力が増えていく。
「このエブリクラーデスの、生涯を懸けた、この一撃の前に散れ!ジークよ!!」
 クラーデスは、全てを放出するかのように、両手を前に突き出す。すると、目に
見えるくらい膨大な『無』の力が、ジークに向かって飛んでいく。
「・・・ドランドルさん。繊一郎さん。フジーヤさん。そして父さん!!俺の、こ
の一撃を、貴方達に捧げる!!」
 ジークは言い放つと、クラーデスの『無』の力に突っ込んで行く。そして、『無』
の力に、ゼロ・ブレイドを叩きつけて、激しくぶつかり合う。その瞬間、ソクトア
の大地が激しく揺れ動いた。大気も震える。そして、『無』の力が、ジークを包み
込んでいく。
「ジーーーーーーーク!!!!」
 ジュダが、これは拙いと思ったのか、心配そうな声を上げる。そして、残った力
を振り絞って、『無』の力に、自分の『無』の力をぶつける。しかし、クラーデス
の『無』の力は、微動だにしない。
「くっ・・・。ここで何も出来ぬとは!!」
 ジュダは、悔しがる。無理も無い。ジュダは、ミシェーダの闘いで、精も根も尽
きているのだ。今、『無』の力を放出する事が出来たのさえ、奇跡に近い。
「ウォォォォォォォォ!」
 ジークは、あの凄まじい力に、一人で対抗しているのだ。凄い精神力である。
「さすがは、我が生涯の一撃を、与えるに相応しき男。まだ、我が力に対抗出来る
とはな。だが・・・これで止めだ!!」
 クラーデスは、『無』の力を、更に押し出すようにして、倍化させる。ジークの
周りの『無』の力が、更に大きくなっていった。
「グハァ!!」
 しかし、放出しているクラーデスが、苦しそうに喀血する。
「くっ・・・。これ以上は、出せぬ・・・か。」
 クラーデスも、これで限界なのだろう。クラーデスは、放出を止める。だが『無』
の力は、ジークを完全に包んでいた。クラーデスも膝を突いて、今にも倒れそうだ。
「我は・・・破壊神エブリクラーデスなり・・・。」
 クラーデスは膝を掴んで、決して倒れはしなかった。しばらくして、ジークの声
が聞こえなくなった。
「・・・やったか・・・。我は、勝利したのか!」
 クラーデスは、歓喜の叫びを上げる。何より、力という力の全てを、出したと言
う実感が、嬉しかった。
「この世の全てを、無に返す時が来たか!我が理想の世を、降臨させてくれる!!」
 クラーデスは、歯を食いしばりながら、拳を握る。
「そ、そんな!!ジーク!!」
 ミリィは、唖然とした。あのジークが、消えてしまったと言うのだろうか。
「フッ。しかし、まだ『無』の塊が消えぬとはな。相当な、衝撃だったのだな。」
 クラーデスは、『無』の力が、まだ留まっている方向を見る。今の疲れ切った体
では、触りたく無い物である。
「クッ。兄さんの仇!!」
 レルファは、魔力を溜めようとした。しかし、すぐ止めた。何かに、気が付いた
ようである。ミリィも反応した。
「・・・レルファも、聞こえたネ?」
 ミリィは、『無』の力の方向を見る。
「小さくだけど・・・兄さんの声が聞こえる!まだ、消えてないんだ!」
 レルファとミリィは、思わず涙が零れる。
「な、何だと!?この力、まだ、拮抗している最中だと言うのか!?」
 クラーデスは、信じられないと言った顔付きをする。しかし、本当に信じられな
かったのは、次の光景だった。『無』の力が、どんどん収束していき、自分とは違
う『無』の力が、そこから溢れ出して来ているのを感じた。
「まさか!このエブリクラーデスの渾身の一撃が破られる!?あってはならぬ!」
 クラーデスは、全身を震わせ、更に『無』の力を出そうとする。しかし、出そう
もない。その時、クラーデスの肩口が裂けた。そこは、さっきの、ネイガの恒星の
力を、握り潰した時に、痛めた傷だった。
「ぬぅぅぅ!!恒星の力を完全には、無に出来なかったと言うのか!!」
 クラーデスは肩を押さえる。しかし、飽くまで『無』の力の方向を見ていた。
「ぅ・・・ぉ・・・ぉぉぉおおおおオオオオオオオ!!!!!」
 段々と、ジークの雄叫びが大きくなっていく。それは、クラーデスの『無』の力
が、段々弱くなって行ってる証拠だった。
「我は断じて認めぬ!至高の力を手に入れて、尚、貴様に敵わぬ訳が無い!!」
 クラーデスは、指輪を握り締める。すると、指輪の力を借りて、僅かだが『無』
の力を作り出す。それを、ジークに殴りつけるつもりだった。
「食らえ!!!」
 ジークは、自分を包んでいたクラーデスの『無』の力を、振り払ったのを確認す
ると、ゼロ・ブレイドを横に倒して、不気味に光らせる。すると、クラーデスは、
眩しくて、眼が眩んでしまった。
「クッ!我が生涯の一撃をォォォォォォ!!!」
 クラーデスは、それでもジークに向かって、拳を振り上げていた。
「・・・終わりだ!クラーデス!!ハァァァ!!」
 ガギィィィィィィイン!!
 とうとう二人は、交錯した。そしてクラーデスは、拳を打ち抜いた形で止まり、
ジークは剣を振った姿で、止まった。
「・・・敵わぬ・・・か・・・。人間の生きる力・・・か・・・。」
 クラーデスは、そう言うと、拳をダランと下ろす。
「・・・『無』を断じ、生を拾う。これぞ、不動真剣術、最終奥義『無生断剣(む
しょうだんけん)』!!」
 ジークが、そう言いつつも、ゼロ・ブレイドを、背中の鞘に仕舞う。すると、ク
ラーデスは、ネイガの恒星の力と対抗した時に、出来た傷口から、腰に掛けて、体
が真っ二つに割れていく。しかし、その状態になっても、クラーデスは、片腕で体
を支えて、正面を見ようとする。恐ろしい執念だ。
「見事だ・・・。ジーク・・・。我が生涯の一撃を、退ける・・・とはな。」
 クラーデスは、闘おうとしているのでは無い。『無』の力によって、消え行く、
その時まで、正面を見ようとしているだけだった。
「アンタの力は、口では表せない程の物だった。俺は、例え負けて、消えたとして
も、後悔は無かった。生き抜くと言う、意志は見せたと思ったから・・・。」
 ジークは、本当にもう駄目だと思っていた。しかし、死んで行った者の事を、思
い浮かべる度に、力が増していったのだった。
「フッ。・・・我では・・・勝てぬさ。・・・貴様の生き抜く力は・・・我が執念
を・・・上回っていたのだからな・・・。」
 クラーデスは、そろそろ腕の先が、虚ろになっていく。
「ジーク・・・。『人道』は・・・続くと思うか?」
 クラーデスは、問いかける。共存は理想論だ。それに越した事は無い。だが、弊
害が、必ず出るはずだと、クラーデスは見ている。
「正直に言おう。永久に続くとは、思っていない。」
 ジークは、正直に答える。異種間で争いは、必ず出るはずである。
「・・・だが、後世に、理想の世を見せる事は出来る。間違った時の、手本をな。
それを示すだけで、十分だと俺は思っている。」
 ジークは、いつの日か、語り継がれる時、自分達の世が、理想に満ちた世であっ
た事を、後世に示そうと思っていた。
「そうか・・・。その覚悟・・・しかと・・・聞いたぞ。」
 クラーデスは、満足そうだった。そして、とうとう首だけになった。
「・・・ミカルド・・・。」
 クラーデスは、息子の名前を呟く。
「・・・親父。アンタの事は大嫌いだが・・・アンタの強さは・・・忘れねぇ。」
 ミカルドは、クラーデスを真っ直ぐと見つめる。クラーデスは、微かに笑う。
「そうか・・・。ならば、もうソクトアに未練は無い!!このままでも、我は消え
る!だが、我は破壊神エブリクラーデス!消え行くのに、黙っている程、柔では無
い!!」
 クラーデスは、突然、叫びだす。そして口から『無』の力を、少し吐き出す。
「神よ!魔族よ!人間よ!我が消え行く様、目に焼き付けよ!!」
 クラーデスは、そう叫ぶと、『無』の力にぶつかっていく。すると、一瞬だけ、
膨張して、跡形も無く消え去った。クラーデスは、自らの手で消え行く事を、選ん
だのである。
「・・・さすが・・・よな。」
 ジュダは、クラーデスの中に誇りを見た。至高の力を極めた、魔族の最期だった。
「終わった・・・。そして・・・始まるんだな・・・。」
 ジークは、自らの拳を握り締める。勝利の実感が、沸くと共に、涙が溢れてきた。
何故だかは、分からない。だが、これで「ソクトア神魔戦争」は終わりを告げた。



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