NOVEL Darkness 4-5(First)

ソクトア黒の章4巻の5(前半)


 5、潜入
 セントメトロポリス。通称セント。ソクトア大陸の中央に位置する、中央大陸に、
人が移住して来て、往来と共に発展して来た国。かつて、激しい戦いが、この地で
ばかり起こるため、呪われた土地と言われてきた。
 しかし、それも今は昔の話。現在は、他の国を一手に支配する、ソクトアの覇者
とも言うべき国。他の国は、この国の圧倒的な武力の前に、従う他無く、この国の
決定こそが、時代を左右する。それが、現在のソクトアの情勢だ。
 そのセントの人口は、ソクトア全体が、1億人とも言われているのに、2000万人
に達すると言われている。ソクトアの約5分の1がセント人である。加えて、強力
な兵器を開発し、他の国を寄せ付けないバリア、ソーラードームを備えている。
 完璧なまでの強さ、隙の無い壁を用い、ソクトアを、その手に支配する。それは、
時代の中の必然でもあったのだろう。セントに居る限り、その特権は失われる事は
無い。・・・だが、裏切るとなれば、話は別だ。セントは、内部からの崩壊を、一
番恐れている。故に、セント反逆罪と言う罪は、最も恐れ多い罪として裁かれる。
 裁かれた人数は、5000人以上は、居ると言う。囚人の島である監獄島、『絶望の
島』レイドの収容面積が足りなくなって来た事からも、想像が付く。
 セントの最大の謎、それは、何と言ってもソーラードームだろう。名前こそ、す
ぐ破れそうな名前だが、『無』の力すら跳ね返す、恐ろしい壁である。ソーラード
ームが、解明されると、セントは、一気にピンチになるかも知れない。
 そのためには、セントの中でも、一際目立つ、150階と言う恐ろしい建造物、
メトロタワーを昇らなければ行けない。
 セント最大の秘密を解く為に、士達は、始動したのだ。
 ゼハーンは、セント軍の軍曹のカード、つまり、軍事施設がある130階まで入
る事が出来る。とは言え、飽くまで軍の階が使えるだけだと言う事が、後で分かっ
た。代わりに派遣した者から聞いたのだ。入ろうとすると、またパスカードの提示
を求められ、違うカードだと入れないと、警告されるのだ。つまり、ゼハーンは、
軍事施設に潜り込むしかない。考えてみれば当たり前の事だ。軍の者が、テレビの
仕事や、ソーラードームの仕事を見に来ると言うのも、おかしな話である。
 メトロタワー内部は、10階毎に区切られているが、更に細かく、1階毎に、階
級によっての、個人研究室が設けられている。1階違う毎に、上の階級に行けると
言うシステムだ。この階級を決める制度は、クワドゥラートが設立された時に、
考案され、メトロタワーでも採用に至ったと言う訳だ。
 センリンには、ソーラードーム発生装置の研究員のカードが渡された。研究員の
カードが女性の物だったからだ。センリンは、かなり器用なので、上手く立ち回っ
てくれる事だろう。アスカも器用なので、出来なくは無い。しかし、士との連携を
考えれば、今回は、センリンに任せるべきだろう。
 ソーラードームは、セント最大の謎だ。『無』の力を持つ壁。発現するには、力
を知り尽くしてなければならない。どうやって、原理を見付けたのであろうか?そ
の謎は、恐らく状況を把握している者にある。セントを裏で操ってる者として、名
前を挙げられたゼロマインド。奴が、原理を知っているのだろう。何せ、『無』の
塊が、意識を持っていると言うのだ。原理を知っていても、おかしくない。その謎
が、どのような物であるのかを、見極めるのが、センリンの仕事だ。
 士は、全体のフォローだ。軍隊研究所のゼハーン、ソーラードーム研究所のセン
リンは、かなり離れている。丁度中間にあるテレビ局のカードを持っていれば、有
事に駆けつける事が可能だからだ。いざとなった時は、『ルール』が使えるように
なる外に飛び出すように言ってある。そうすれば、士の『索的』のルールで拾う事
が出来るからだ。その丁度良い位置が、テレビ局のある位置なのだ。
 それぞれが、上手く立ち回れば、必ず成功する筈だ。
 メトロタワーへの侵入が、今、開始されたのである。


 私は、士の役に立つ事が第一だ。
 『司馬』として行動している以上、依頼を、こなさなければならない。
 でも、メトロタワーの侵入・・・。
 正に命懸けの依頼である。
 だが、私達も無関係じゃない。
 『ルール』をバラ撒いた連中が、ここに居るのだ。
 私達は、受け取って強くなったけど・・・それを利用しようとする連中が居る。
 いずれ、士や私の力も利用しようとするのだろう。
 冗談じゃない・・・私達は、モルモットじゃない。
 そして、このソーラードーム研究所のカードを渡された。
 この階層に入った瞬間に、『ルール』が使えなくなるのを感じた。
 士の話だと、『ルール』がバラ撒かれたのは、この階層の辺りからだと言う。
 ならば、探ってみるしかない。
 自分達の違和感の正体である『ルール』。
 その全容を解明する為にだ。
 私は、極めて自然を装いながら、登庁する。パスカードをカード読み取り機に通
して、本人確認をする。すると、自然に自分の研究所へエレベーターが勝手に止ま
ってくれる事になっている。このカードの持ち主は、78階だ。ラッキーな事だ。
上の階層なら、いざとなった時、士も拾い易い。
 しかし、すぐに、その意味が分かった。ほとんどの研究員は、75階以上の階に
配備されている。61階から、74階までは、研究員の為の階では無い様だ。出勤
時間になると、77階に集まるように言われた。75階から、79階までは、研究
員が忙しく動き回っているようだ。何かの管理なのだろうか?モニターを細かく監
視している人が多かった。
 78階では、事務の仕事、79階では、実際の監視の仕事をするのが、研究員の
常らしい。私は、ボロを出さないように、日誌を見ながら、その事を頭に叩き込ん
だ。おかしな動きをすれば、バレてしまうからだ。
 それにしても・・・この監視・・・。何を監視すると言うのか?私は、目を凝ら
す。何やら、カプセルが並んでいるみたいなのだが・・・。良く見ると、人が入っ
ている。どうやら、寝ているようだ。それを監視する仕事なんて、随分暇な仕事だ。
「ナンバー207。状況はどうか?」
 誰かから、声を掛けられた。どうやら、上司のようだ。ナンバー207と言うの
は、このカードの持ち主の番号だ。
「異常はありません。引き続き、監視を強化します。」
 私は、抑揚の無い声で言う。いつもなら、ストリウスの訛りのある声なのだが、
この時ばかりは、それが出ないように努める。
「うむ。ご苦労である。私は、『魔人(まびと)』棟に行く。何かあったら連絡す
るように。」
「了解しました。」
 上司が、気になる言葉を言ったが、私は、努めて平静に答えた。
 ・・・『魔人』棟?・・・何の言葉だろう。
 私は、モニターの横に、計器があるのを確認する。すると、そこには、『神気量』
と書かれていた。・・・嫌な予感がした。一体、何の計器なんだ?これは?
 数値が、安定しているようだが、何の数値なのだろう?後の計器は、脈拍、血圧、
呼吸回数など、極普通なのだが、『神気量』と、『精製量』と書かれている計器は、
異様であった。それが、カプセルの人数分ある。私が受け持つのは、10人だ。
「・・・ここは、『聖人(せいじん)』棟・・・?」
 私は、ドアのプレートを見た。『聖人』棟と書かれている。カプセルは、どこか
光っているような感じだった。一体、何が行われているのだろう。
 私は、電子マニュアルに目を通す。電子マニュアルには、色々書かれていた。
 研究員は、カプセルの動向に細心の注意を払う事。その心得が、ズラズラと書か
れていた。研究員と言うより、監視員の方が近い気がした。
 『魔人』棟は、『瘴気量』に注意を払う事とある。魔人の瘴気を出し易くするた
め、培養液の中に、『闇の骨』のエキスを少量混ぜるとある。そうする事で、『魔
性液(ましょうえき)』を精製出来る。更に出し易くするために、カプセルの外で、
魔族の激闘の映像を、常に流す。これにより、魔人達は、闘いを思い出させ、瘴気
の出がより良くなる。ただし、一日の瘴気量の限度を超えてはならない。過度の瘴
気を放って、疲労させるのは、本末転倒である・・・と書いてあった。
 ・・・魔人って・・・確か・・・伝記で聞いた事がある。
 人間でありながら、『覇道』に手を貸すために、『魔性液』を飲んで、瘴気を出
し易くなる体を手に入れた人の事だ。レイリー=ローンが、魔人の筆頭格だった筈
だ。それ以外の魔人は、確か・・・。
 ・・・ま、まさか・・・。
 私は、『聖人』棟のマニュアルにも目を通す。
 『聖人』棟は、『神気量』に細心の注意を払う事。聖人は、神気を出し易くする
ために、『神液(しんえき)』を混ぜた培養液が必要となる。『神液』の入手は、
手続きを踏み、ゼリン警視を通して、手に入れる事とある。ゼリンって・・・。確
か、ゼハーンさんの恨みの相手じゃ?・・・更に、神気を出し易くするため、人々
に奇跡を起こした神の映像を流すとある。・・・確かに、真ん中のパネルに、神の
奇跡の映像が、常に流れている。後は、瘴気と同じく、疲労させないように、一日
の神気量の限度が、記されていた。
 ・・・これって・・・。
 『無』の精製量についての、項目を見る。
 『神気量』と『瘴気量』が、等しく精製されれば、70階にある装置に合成装置
に送られる。2つの力が、激しくぶつかり合えば、合成される際に、限りなく純粋
な『無』の力が生まれる・・・。
 ま、まさか、『無』の力って・・・。神気と瘴気を掛け合わせて、激しく衝突さ
せる事で生まれる力なの!?
 ・・・思い返してみれば・・・。破壊神エブリクラーデスが、『無』の力に目覚
めたのは、『神液』を飲んだ時だった。そして、熾天使ラジェルドが目覚めた時は、
『魔性液』を飲んだ時だった。神魔剣士の砕魔(さいま) 健臓(けんぞう)が目
覚めたのは、パワーアップした時に、神気を身に付けた時だった。
 だが、例外もあるのだろう。勇士ジーク=ユード=ルクトリアは、全ての感情を
閉じる事で、手に入れたと言う。闘士サイジン=ルーンは、一瞬だけ発現した時は、
愛する者を守る事だけを考えた時だった。意識を、全て埋没させる事で手に入れら
れる事もあるのだろう。しかし、分かっていても、それは才能が無ければ出来ない。
 だが、この方法ならば、神気を使える者と、瘴気を使える者を見付ければ、『無』
の力を発現させる事が可能だ。良くぞ見付けた物だ。正に、『無』を知り尽くした
ゼロマインドだからこそ、見付けられたのだろう。
 しかし・・・そうなると、このカプセルに入れられてる人々は、一体誰なんだろ
う。『魔人』と『聖人』なのは、分かっている。しかし、これだけ大量の『魔人』
と『聖人』など、そう簡単に集められる訳が無い。
 私は、マニュアル補足のページを捲る。
 映像出典・・・クワドゥラート記録係?
 ・・・そう言えば、クワドゥラートは、今でこそ人々が、従事する街になってい
るが、元々、伝記の時代では、魔人と聖人が手を取り合って、エブリクラーデスを
尊敬しながら、『人道』の方針に従っていた筈だ。ひっそりと暮らしていたとあっ
た筈だが・・・。あれが、本当の事を書いているなら、その人々が、まさかここに?
「ナンバー207、応答せよ。」
 横のスピーカーから声が聞こえた。
「ナンバー207です。」
 私は、再び、抑揚の無い声で返事する。
「『聖人』棟と『魔人』棟の入れ替わりの時間だ。忘れたのか?」
 そう言えば、1時間で交代すると言ってたな。
「申し訳ありません。直ぐに入れ替わります。」
 オチオチ資料も読めないとは・・・。
「しっかりしたまえ。余り多いと、ペナルティを課すぞ。」
 叱責される。これで済んだなら良い方だ。気を付けないと・・・。
 私は、直ちに『魔人』棟と呼ばれる79階に向かう。すると、今度は、さっきと
は、全く雰囲気が違っていた。魔人が入れられてるカプセルだろうか?薄暗い暗闇
が覆っていた。
「只今、参りました。」
 私は、手早く決められた部屋に行った。
「1分30秒遅れか。次は、遅れないように。」
「了解致しました。」
 上司がチェックする。細かいんだな。
 私は、再び監視室に入った。今度は、魔人のカプセルの部屋のチェックだ。
 次の1時間も終わると、今度は、78階の自分の研究室で休むように言われた。
2時間やって交代って所か。しかし、監視をする仕事とは、単純作業で疲れる事だ。
「あ。そうダ。」
 私は、ミサンガの右端を引っ張る。すると、ボタンが出てきた。左のボタンは、
通話用で、右のボタンは、モールス信号を送るためのスイッチだ。ここで通話した
ら、傍受され兼ねないので、控える。モールス信号だけ送る事にした。とりあえず、
無事である事を報せておく。
 研究室を見て回ると、色々な資料があった。・・・これは?
 本棚に、日誌の他に、基本資料が置いてあった。読んでみよう。
 それと、これは・・・歴史書か?極秘と書いてある。
 ・・・
 500年前、クワドゥラートの者達から、取引を持ち掛けられる。その内容は、
セントへの従属。勢いがあったセントに移住する事を条件に、クワドゥラートの無
血解放を約束する。それが内容であった。
 メトロタワーの建設が進んだのも、この頃で、最新鋭の施設になる予定だったの
で、クワドゥラートの者達の居住を作る事で合意する。
 150階に達する事を伝えたら、80階辺りの、中心部を使いたいとの要請あり。
完成は、約400年後になると伝える。それまで、シティの上流階層地区で、住ん
でもらう事で合意。人々には、人間中心の世になったと伝えてあるため、極秘に、
事を進める。しかし、放って置いたら、子孫を増やした模様。注意を喚起しながら
も、隔離する事で、人々に気付かれずに事を進めた。
 そして、それから200年後、ソーラードーム計画発動。絶対的な壁を作成する
ため、仕組みの解明が必要。研究の結果、純粋なる『無』を作り出すのは、困難な
ため、限り無く近い『無』の精製を作成する研究に切り替え。
 研究の結果、神気と瘴気の合成による衝突エネルギーが、極めて『無』に近いエ
ネルギーを得られる事が分かった。上からの助言があって、解明した事だが、これ
は快挙である。問題は、現在は、魔力ですら禁忌とされる世の風潮である。
 ついに、メトロタワーが完成する。この頃になると、魔族、妖精、神などは、伝
記の上での存在だと、思い込ませる事に成功する。人々は、知的生命体が自分達だ
けであると、信じて疑わないようだ。
 そこに、クワドゥラートの連中を迎え入れる。連中にフードを被ってもらい、極
秘にメトロタワーの中へ、入ってもらう。計画は、順調である。メトロタワーの威
風堂々とした佇まいに、連中は、満足の様子。
 連中の数は、理想的な数であった。60階から計画的に移住してもらう。奴等は、
思った以上に増えていた。70階までの予定だったが、75階まで、移住させなけ
ればならない程だった。しかし、量としては十分である。念のため、80階まで、
合成装置を用意しておいて正解だった。
 ここで、移住を記念して、パーティーを行う。仕上げである。このセントのため
に、彼らには、役立ってもらう。長い寿命になった彼らは、セントのために、必ず
役に立つ事だろう。
 パーティーの間に、各フロアの各部屋に、麻酔ガス噴射の用意をする。そして、
それの実行。連中は、不意を突かれたらしく、大成功に終わる。平和ボケしてたか
らな。これで、準備は整った。
 連中の部屋に隠しておいた、カプセルを用意。神気と瘴気を吸い取って、合成す
る装置へと力が向かっていく。実験は、大いに成功だった。セント全土を覆う、ソ
ーラードームの完成である。
 専用の培養液で、半永久的に生き続ける彼らは、ソーラードームの維持に大いに
役立ってくれた。『無』の壁、ソーラードームは、セントの繁栄の象徴となる。彼
らは、その功績に名を記す事になる。名誉な事だ。
 ・・・
 ・・・何て事・・・。こんな・・・こんな電池みたいな扱いなんて・・・。
 人間のする事じゃない!!実験動物なんかじゃ無いんだ!・・・それを・・・。
生きているのに、動けない。こんな・・・悲しい事は無い。
「ナンバー207よ。」
 !!・・・後ろから声がした!
「様子がおかしいと思ったんだが、その資料は、極秘なのだがな?」
 上司だ。読むのに必死で、気付かなかった。
「その目、やはり、ナンバー207では無いな?」
 上司は、気が付いていた。私が曲者であると言う事にだ。
「ここで暴れられても困るのでな。フン!」
 上司が、気合を入れると、周りの雰囲気が変わった。何だこれ・・・?
「『結界』だ。周りとの次元を変えてやった。」
 『結界』!?確か・・・士から聞いた事がある。古代魔法と言う種類で、周りと
の接触を、遮断する事が出来る魔法だった筈だ。
「貴方、何者ヨ!」
 簡単に、こんな魔法を使う事が出来るなんて、只者では無い。
「貴様に名乗る名など無い。」
 やはり、簡単に答えてはくれないか。それに、この雰囲気は拙い。しょうがない。
私は、ミサンガの緊急ボタンに手を掛ける。
「変な事をされては、困るな。」
 上司は、一瞬で私の腕を捻りあげた。ど、どう言う事!?
「クッ!」
 私は、意識的に『念力』のルールを使おうとする。しかし発動しない。
「驚いたな。貴様、『ルール』使いか。」
 やばい。気付かれた!
「仲間も、『ルール』使いの可能性が高いな。ならば、来て貰うしかないな。」
 上司は、私を餌にするつもりだろうか?
「それまで、大人しくして貰おう。」
 上司が、私の延髄に手刀を入れる。
 ・・・意識が・・・遠のく・・・。
 ゴメン・・・士・・・。


 メトロタワーの中は、こんなだったのか・・・。
 もう120階だと言うのに、何と言う広さか。
 人知を超えた製造工程で作っている。
 私が貰ったのは、軍曹のカード。
 軍隊研究所で、挨拶を済ませて、武器精錬所で、仕事をこなした。
 と言っても、作られる武器の点検が主な仕事だ。
 銃器が多いので、私向きでは無い。
 グリードが居れば、色々喜んだだろうにな。
 私は、努めて平静に、内部を見て回る。
「それにしても・・・。」
 私は呆れる他無かった。セントは、武器精錬所で、日々、性能をアップさせてい
た。しかし、使い手が居ないから、犯罪発生率が、変わらないのだと言う。
 警察に配られる銃なども、ここで作られているのだが、警官は、警棒で闘う事が
多いらしく、銃器は使いこなせない人が多い。これでは、何のために日々、性能を
アップさせているのか、分からない。
『これより、召集があります。直ちに、125階に集合するように。以上。』
 急に招集が掛かった。何でだろう?もしかして、誰か捕まったのか?センリンが、
無茶したのか?どうする・・・?まずは、行くか・・・。
 途中で、ミサンガから、無事を報せるサインが出た。なら違うと言う事か。まだ、
入って2時間程であるし、そう簡単には捕まらないか。
 私は、手早く招集に応じた。結構集まっているな。この辺は、訓練されているの
だろう。さすがだ。
「これより、警視より、訓示がある!心して聞くように!!」
 ・・・警視?ま、まさか・・・!
「諸君。召集ご苦労。警視のゼリンだ。」
 やはりゼリン!・・・いかん。ここは抑えろ。ここで襲い掛かって、勝てる相手
では無い。冷静になるのだ!
「諸君は、非常に優秀だと私は思っている。この男と違ってな!」
 ゼリンは、怒っているようだった。そして、暴行を加えられたような跡が残った
男を突き出す。誰だ?あれは。
「この男を覚えているだろうか?・・・そう。『絶望の島』の島主だった男だ!」
 何と・・・。あの男が、レイクが話していた、ファリアの純潔を奪おうとした許
せぬ男か!確かに、嫌らしい顔をしている。だが・・・何故あんなボロボロなのだ?
やはり、レイクの脱走の件であろうか?
「この男は、脱走者を出した!しかも、あろう事か、それをヒタ隠しにしようとし
た!それは、許されざる事だ!」
 ゼリンは、レイクの事は、ハッキリとは言わない。まぁ言える訳が無いか。
「諸君らは、このような失態は犯さないと信じている!君らの能力を信じよう。」
 なる程、発破を掛けるのと同時に、見せしめか。
「私は、その対策に移る!諸君らは、その間、ここを守ってもらいたい!」
 ゼリン自らが、レイクに対する対策を、施すと言う事か。拙いな。
「以上だ!宜しく頼んだぞ!」
 ゼリンは、そう言うと退場する。これは、チャンスかも知れぬな。そのまま解散
になったので、私は、ゼリンの後を追う。
「そこの軍曹。ちょっとこっちへ来い。」
 誰かに呼び止められた。どうやら、少尉のようだ。
「少尉殿。何用でありますか?」
 私は、仕方無いので、少尉の所へ行った。
 少尉は、私を個室へと案内する。・・・バレたか?
「おい。アンタ、何処の所属だ?」
 ん?随分馴れ馴れしいな。誰かと間違っているのか?
「何の事だ?」
 私は心当たりが無かったので、尋ねてみる事にした。
「誤魔化すなよ。只の軍曹が、そんな血の臭いするかよ。何処の所属なんだ?」
 ・・・どうやら、『ダークネス』の奴だな。私を、仲間と勘違いしているらしい。
と言う事は、『ダークネス』の連中も、メトロタワーに侵入しているようだな。確
かに、入りたがっていたと、士は言ってたな。
「そう言う貴方は、何処の所属なのだ?」
 私は、探りを入れてみた。
「てめぇ、ボスの懐刀と言われた、この『荒神』を知らないってのか?」
 『荒神』?ああ。もしかして、この前のサン農場で、最後に会った、あの威勢の
良い男か。ショアンの話じゃ、かなりの腕だったみたいだが。
「これは失礼した。貴方も潜入に来ていたのか?」
 私は、話の調子を合わせる。色々聞き出した方が、良いかも知れんからな。
「いや、今回は、依頼で来たんだ。俺等の助けが必要なんて、よっぽど慌ててるん
だろうぜ。俺等としては、滅多に無いメトロタワーへの潜入のチャンスだからな。
お前の情報と合わせて、『ダークネス』に報告しなくちゃならねぇ。」
 なる程。『ダークネス』に護衛を頼んだのか。ここの内情も知りたかった『ダー
クネス』にとって見れば、一石二鳥だったのかも知れんな。
「いつもなら、『オプティカル』に仕事が回って来る所だったんだがよ。今回は、
アイツ等、ゴタゴタしてたからな。ラッキーだぜ。」
 そうか。アスカが抜けて、『オプティカル』は、纏めるのに必死だと言う話だっ
たな。それで、『ダークネス』の方に、仕事が回ってきたのか。
「私も、自分の所へ、報告しなければならん。情報提供を頼む。」
 私は、『自分の所』と言った。嘘では無い。仲間達に、この状況を、報告しなけ
ればならない。
「おう。ま、お互い解雇にならんよう、気を付けようぜ。」
 『荒神』は、気さくに挨拶して去る。仲間に対しては、気の良い男なのかも知れ
んな。ま、悪いが、せいぜい利用させてもらおう。
 さて、気を取り直して、ゼリンの所へ・・・。
 ん?今度は・・・緊急のサイン!これはセンリンか!
 これは、参ったな・・・。今、センリンを失う訳には行かない。
 直ぐに駆けつけなくては・・・!


 恐れていた事が起こった・・・。
 センリンが・・・俺の愛する女が、捕まった・・・。
 俺は、命に代えても、守らなきゃならないと、誓ったのに!
 このメトロタワーで、緊急ボタン・・・。
 しかも、聞こえてくるのは、敵の声・・・。
 待ってろ!俺が・・・俺が助けてやる!!
(センリンは、我にとっても、信じてくれた一人だ!士!助けるぞ!)
 グロバス・・・。そうだな。例え、どんな手を使ってでも!!
「貴様!止まれ!!」
 ・・・邪魔する馬鹿が居るようだな。消えろ!!
「ウアアアアアア!!」
 俺は、テレビ局の警備員を容赦無く斬り伏せる。邪魔なんだよ!!
「クッ!こ、コイツ!おい!救援を呼べ!!」
 警備員は、警告の笛を吹いて、救援を呼ぶ。・・・小賢しい!!今の俺に、その
程度の人数が、壁になるかってんだ!!
「ヌアアアアア!!」
 警備員の数を減らしていく。・・・センリンを、捕まえた奴は・・・どこだ!!
 俺は、とうとうエレベーターまで行く。確か、78階だった筈だ!
 操作すると、さすがは、メトロタワーの緊急エレベーターだ。あっと言う間に、
78階に着く。こう言う所は助かるな。
 そして、周りを見渡す。不気味な程、静かだ。だが、俺は、冷静では、居られな
い。早く・・・早くセンリンを・・・。
「止まりたまえ。」
 ・・・また、邪魔かぁ!!誰だ!!・・・エレベーターから出て来たという事は、
追っ手か!!小賢しい!!
「・・・そこの男・・・。何と言う瘴気を放つのだ・・・。」
 ソイツは、驚いていた。俺が、とてつもない瘴気を放っていたからだ。
「おい。貴様、ここで、捕まった女は、何処に居る?」
 俺は、駄目元で、ソイツに聞いてみる。
「あの女か。99階だろうな。」
 ・・・知っていたか!!これは幸運だ。
「本当だろうな。本当なら見逃してやっても良い。」
 俺は、センリンを助けるためなら、どんな情報でも感謝する!
「嘘では無い。通称、捕縛部屋だ。これから拷問でも行うんじゃないか?」
 ご、拷問だと!?ふざけやがって!!
(士!冷静になれ!挑発しているだけだ!!)
 分かってる!だが、平静になど、なれるか!!
「・・・そこをどけ。俺は急がなくてはならん。」
 俺は、エレベーターの入り口に近付く。
「私の役目は、君の捕縛なんでね。そうは行かない。」
 俺の捕縛?舐めやがって!!コイツ如きでは、捕まえられないと、教えなきゃな。
「君の力は、予想以上だな。なら、コイツで・・・!!」
 ヌア!!!何だこれは!!急に体が重く!!
「き・・・さま!!何をした!!」
 この重さ・・・尋常じゃない。まさか・・・『ルール』!!
「『重力』のルールだ。今、君の体重は、3倍程に感じている筈だ。」
 3倍?それに『重力』のルールだと!!
「・・・たった3倍で、この俺を止められると思うな!!」
 俺は、歯を食いしばりながら、立ち上がる。3倍如きで!!
「驚いたな・・・。ならば・・・5倍だ!!」
 ソイツは、5倍に増やしてきた・・・。さ、さすがにきつい!!
「うううぐうううう!!!」
 俺は、這ってでもエレベーターに近付く。センリンを!!センリンを助けるんだ!
「何と言う執念・・・。君は、危険人物のようだ。」
 ソイツは、神気を出し始める。・・・コイツ、只者じゃない!
「くそ!動け!動け!!!俺の体よ!!」
 俺は、『索敵』のルールを発動させようとする。しかし、出来なかった。
「!!君も『ルール』使いだったのか・・・。驚いたな・・・。」
 ソイツは、『ルール』の事に驚いていた。
(我の力を使え!士!!ここは、切り抜けるんだ!!)
 ・・・しょうがねぇ・・・。ここは緊急事態だ!!
「フゥゥゥゥオオオオオオ!!!」
 俺は、グロバスに意識を預ける。本意じゃねぇが、ここは、頼む!!
 ・・・
 中々の重力・・・。さすがの士も、これではきつかろう。
(体を預けたんだ。後は、貴様の番だ。)
 分かっている!!この程度の重力!!
「・・・君は、何者だ!・・・その変化・・・。魔族なのか!?」
 驚いているようだな。当然か。士の体でだが、翼と角が生えているのだからな。
「我は・・・神魔王グロバス!!この程度の重力で、我を繋ぎ止められると思うな!」
 そうだ。我は、もっときつい環境でも生き延びたのだ。この程度で、やられはせ
ぬわ!士のためにも、ここは、抜ける!!
「そうか・・・。魂の同化をしたのか!チィ!!」
 どうやら、この者は、事情に詳しいようだな。
「残念であったな。並の相手ならば、この重力だけで、何とかなったろう。だが、
貴様の目の前に居るのは、この我だ!消え失せるが良い!」
 我と士の力が加われば、誰にも、負けはせぬ!!
 その時、エレベーターが開いた。誰か来たみたいだな。
「何を苦戦している。情けないぞ。ゼリン。」
 ・・・この声・・・ま、まさか!!!!
「喧しい。想定外の出来事だ。貴方も手を貸すのだ。」
 この者は、ゼリンだったのか・・・。いや、それよりも!
(今の声は、センリンを連れ去った奴の声だ!!あの野郎!!)
 そうか・・・。コイツだったのか!!なお許せぬ!!
「・・・なる程。魂の同化。しかも・・・これはまた、懐かしい顔だな。」
 やはり、コイツは!!!
「貴様、復活してたのだな!!ミシェーダァァァァ!!!」
 我を屈辱を与えた男・・・。そして、我を1000年後に飛ばした男!許せぬ!許せ
ぬわぁ!!この男だけは!!
(センリンを連れ去ったのも、コイツかぁぁ!!)
「やはりグロバスか。久しいな。この状況で吠えるとは、哀れだな。」
 ミシェーダめぇ!!この我を愚弄するか!!
「おい。ゼリン。『重力』を切らすな。」
 ミシェーダは、『重力』を途切れさせないように、指示する。
「指図を受ける謂れは無い。だが、ここは協力しよう。」
 ゼリンは、『重力』のルールに集中する。
「如何に貴様と言えど、この重力下で、私に勝つ事など出来ぬ。」
 うぐ!確かに、このままでは!!だが、許せぬ!!
「フッフッフ。ほら。どうした?何かやって見せろ?・・・と、その前に。」
 ミシェーダは、この場に結界を張る。余裕を見せおって!!
「メトロタワーを、壊される訳には、行かんのでな。」
 この期に及んで、そっちの心配とは、舐めおって!!!
「ウオオオオ!オオオオオ!」
 我は、それでも拳を握って、ミシェーダに殴り掛かる。スピードが出ない!!
「この状況下で、そこまで暴れられるとは・・・。恐ろしいな。」
 ミシェーダは躱していた。くそ!!ならば!!
「ヌアアアアアア!!」
 我は、瘴気弾を、四方八方に撒き散らす。
「チィ!!止めろ!貴様!!」
 ミシェーダは、我の腹に一撃を入れてくる。ウグ!!
「暴れおって・・・。結界を張ってなかったら、拙かったな。」
 こうなったら、一撃だ・・・。一撃に賭ける・・・。奴は、油断している。一撃
に全てを賭けて、倒して、この場を乗り切る!
「その眼、変わらぬな。だが、今の時代に、貴様など要らぬのだ!」
 ミシェーダは、不用意に近付く。今だ!カウンターの一撃を!
 ガシィ!!
 んな!つ、掴まれただと!?
「やはり、一撃に賭けていたか。お前は、私の『ルール』を忘れたのか?」
 まさか、時を止めた!?お、おのれ!!
「油断ならぬな。存分に傷め付けて置かなくては、ならんな。」
 ミシェーダの容赦の無い攻撃が、背中に、腹に、響く。
 お、おのれ・・・!我が・・・我が!!
(ち、ちくしょう・・・。センリン!!)
 す、済まぬ・・・士・・・。我が居て、こんな・・・。
 ・・・
 グロバスまで、意識を失ったか・・・。
 せ、センリン・・・。センリーーーーーン!!!!


 私は・・・捕まったのかな?
 独房のような所に入れられた。
 しくじったなぁ・・・。
 最後に緊急ボタンを、操作された記憶がある。
 このままじゃ、士やゼハーンさんも捕まってしまうかも・・・。
 それは、避けたいなぁ・・・。
 手を後ろに縛られたかぁ・・・。
 典型的な捕虜に、なってしまったようだ。
 ・・・今更だけど、怖いな・・・。
 何かされるんだろうか?
 士が居ないと、不安になる。
 でも、士が、私のせいで捕まったりするのは、もっと嫌だ。
 ならいっそ・・・!
 ・・・いや、駄目だ。
 私が、真っ先に生きるのを諦めてどうする!
 私の命は、私だけの物じゃない!
 士や、皆が悲しむ!
 なら、どんな目にあっても、生き延びなきゃ!
「もう一人、潜入者を捕らえたらしいな。」
 誰かの声が聞こえてきた。私はじっとしていた。もう一人・・・?
「フン。私は、最初からパスカードに頼るなど、馬鹿げていると言ったのだ。」
 この声は、さっきの上司だ。そして、部屋に入ってきた。
「この女か。・・・気の強い目をしているな。」
 もう一人は、切れ長の眼をしていた。仲間だろうか?
「ゼリン。これは、一つ貸しだぞ。」
 ・・・切れ長の眼をした人が、ゼリン・・・。もしかして、ゼハーンさんの話に
出てきた、ゼリン=ゼムハードって、この人!
「分かっている。直ぐに返すさ。用事が済んだらな。」
 ゼリンは、上司を軽くあしらう。それを見て、上司は満足したのか、持ち場に戻
った。すると、ゼリンが私に近付く。
「さて、随分と、無謀な真似をしたね。」
 ゼリンは、私を射抜くような眼で睨む。
「そのミサンガ、通信手段も備えた優れ物の様だが、まさか腕から外れないとはね。」
 腕にピッタリ填まるように、士がデザインしたのだ。外れる訳が無い。
「そんな君に朗報だ。テレビ局の男を捕まえたよ。」
 ・・・え?ま、まさか・・・!
「つ、士!!」
 私は、ついに声を上げてしまう。
「やはり仲間か。残念だったね。恐ろしい暴れ方をしてたが、さっきの君の上司と、
私が二人掛かりで、やっと取り押さえた。危なかったよ。」
 ・・・くそ!私のせいで!!
「しかも、君も、その仲間も、『ルール』に目覚めていたとはね。驚いたよ。」
 ゼリンは、『ルール』をバラ撒いた側だ。当然知っているのだろう。
「ま、目的を話してくれると、助かるんだけど?」
「私が、そう簡単に、口を割ると思ってるのカ?」
 私は、ゼリンを睨み付ける。私だって、覚悟は出来ている。
「お仲間が、痛めつけられても、同じ事が言えるかな?」
 ゼリンは、これ以上無い程、残虐な笑みを浮かべる。
「や、止めてヨ!士に、酷い事なんてしないデ!」
 私なら良い。でも、士にそんな事しないで欲しい!
「安心しなさい。私は鬼では無い。君が、目的を喋ってくれれば、無体な事は、し
ない。そんな趣味は無い物でね。」
 ゼリンは、余裕な口振りだ。くそ!私じゃ、どうする事も出来ないのか!
「・・・ほう。黙ってるって事は、嘘だと思っているのか?」
 ゼリンは、私が黙っていると、気に食わなかったのか、部下に合図を送る。
 すると、手を縛られた士が突き出された。
「つ、士!!大丈夫!?」
 私は、つい、近寄る。しかし、部下に拘束されて、動けなかった。
「チィ・・・。参ったな。こうなると、予測出来なかった訳じゃあねぇが・・・。」
 間違いなく士だ。でも、眼が紅くなっていた。グロバスさんを出した跡がある。
それでも勝てなかったって言うの?
「君には驚いたよ。私と、ミシェーダを2人相手に、あそこまで暴れられるなんて
ね。君の中に居る、魔族にも驚かされたがね。」
 士ったら、グロバスさんを発動させてまで、闘ったってのか。
「だが、私の『ルール』と、ミシェーダの『ルール』が加われば、さすがに勝ち目
は無かったな。君は良くやったよ。今は魔族も、大人しくしている様だがな。」
 グロバスさんを発動しても、勝てなかったんだ・・・。さすがに『ルール』が使
えないのは、大きいみたいだ。
「さて、口を割らないとなると、割れるようにしなきゃならんな。」
 ゼリンは、邪悪な笑みを浮かべた。これは、やばい・・・。
「・・・む?・・・これからって時だったのだが・・・。」
 ゼリンは、残念そうにしていた。どうしたのだろう?何か水晶を取り出す。
「急用が出来た。君達の拷問は、違う者に任せるか。ま、この道のプロに任せるの
が、一番か。私には、そのような趣味は無いしな。」
 ゼリンは、本当に、そんな趣味は無いらしい。指をパチンと鳴らすと、軍服の兵
士が出てくる。しかし、この血の臭い・・・。人斬りだ。
「出番ですかい?」
 ・・・この声!確か、この前のサン農場で、聞いたあの時の!!
「『荒神』君だったか?君は、拷問の経験があるのだろう?この者達から、ここに
潜入した、目的を聞き出して欲しい。」
 やはり、『荒神』!『ダークネス』の奴等も居たのか!
「得意じゃあねぇ。ま、だが任せな。」
 『荒神』は、こちらを見て、ニヤリと笑う。
「頼むぞ。私は、これからガリウロルに行かなければならん。」
 ガリウロルに?また急だな。・・・何か用事があるのだろう。しかも、私達を放
って置いてでも、行かなければならない用事が。
「ま、3時間程で戻る。それまでに、聞き出す事を期待している。」
 ゼリンは、そう言うと、いきなり空間を引き裂いて、扉を作る。どうなってるん
だ?あれは・・・。
「古代魔法の・・・『転移』だと・・・?」
 士は、知っているようだった。
「フン。人使いの荒い事だ。まぁ良い。」
 『荒神』は、こっちを見る。
「ま、依頼人からのお達しだ。てめぇらの目的を聞こうか?」
 『荒神』は、剣を抜いて、私の喉元に突きつける。
「止めろ!それ以上、手を出すんじゃない!!」
 士が、燃え滾るような眼で、こちらを見る。
「立場が分かってないようだな。押さえ付けておけ。」
 『荒神』が、命じると、私と士は、部下達によって、押さえ付けられる。『ダー
クネス』の奴等も、結構潜入しているようだ。
「ま、ここは、女の体に聞くのが、一番手っ取り早いな。」
 『荒神』は、部下達に合図を送る。・・・やっぱり私か・・・。
「止めろ!!貴様等!!!!」
 士が、暴れまくるが、4、5人に押さえられてる上に、『ルール』も使えない。
その状況では、何とか出来る筈も無い。
「私は、良いのヨ・・・。でも、お願イ・・・。見ないデ・・・。」
 私は、怖い。本当に怖い。でも、その姿を、士にだけは、見られたくない。
「俺は・・・俺は、こんな無力なのか!!!くそ!!くそ!!!」
 士は、口から血が出る程、歯軋りをしていた。
「ヒャッハッハ!!久し振りだなぁ。この感覚!!」
 部下達は、喜びの声を上げる。
 私は、衣服を破り取られた。ああ・・・。もう駄目か・・・。
「センリン!!クソ!!貴様等、止めろぉぉ!!!」
 士が叫ぶ。士・・・。私の愛しい人・・・。嫌だ・・・。嫌だよう・・・。
 バンッ!
 誰かが出てきた。コイツ等の、仲間だろうか?軍服を着ている。
「なんだ。アンタか。混ざりにでも来たのか?」
 『荒神』が声を掛ける。やっぱり仲間か・・・。
「貴様等・・・。・・・この非道共が!!!」
 ・・・え?こ、この声は。
「グギャアアアアアア!!」
 私を押さえ付けてた部下が、一瞬の内に斬られた。そして、間髪入れずに、士を
押さえ付けてた部下達の手を、一瞬の内に斬る。
「・・・て、てめぇ・・・!!」
 『荒神』は、顔面蒼白になっていた。そして、私と士の腕の戒めを、一瞬の内に、
斬ってくれた。やっぱりゼハーンさんだ!!
「てめぇ、ソイツ等の仲間だったのか!!」
 『荒神』は、ゼハーンさんを仲間だと思ってたらしい。
「非道に、話す言葉など無い!」
 ゼハーンさんは、本気で怒っていた。あんな血走るような眼は、見た事が無い。
「センリン。これを着てろ。」
 士が、軍服を渡してくれた。私は、手早く着替える。このままの格好じゃ恥ずか
しいしね。有難い。
「ゼハーン。本気で感謝する。・・・だが、悪いが、俺にやらせろ・・・。」
 士は、怒りで、前が見えなくなっているようだった。
「士!!我を見失っちゃ駄目ヨ!!」
 私は、士の暴走だけは、止めないと、いけないと思った。このまま戦わせたら、
士は、止まらないかも知れない。
「・・・お前は、優し過ぎるな。センリン。」
 士は、元の優しい目に戻る。良かった・・・。間に合った。
「・・・士。ここから出るぞ。今のままでは、追っ手が来る!」
 ゼハーンさんは、士に押さえるように言う。
「てめぇら、逃げられると思ってるのか!?ここが何処だと思ってやがる!それに、
俺様を無視するんじゃねぇ!!」
 『荒神』は、自分が無視されたのが、悔しいようだ。
「喧しい男だ。この状況じゃなきゃ、貴様を斬っていた物を・・・。しかし、覚え
て置くが良い。俺は、貴様等を絶対に許さん。その内、行ってやるから、覚悟して
おけ。その時に、存分に斬りあってやる。」
 士は、私とゼハーンさんのために、怒りを抑えているだけだ。この場は、去らな
ければ、ならないからだ。
「てめぇ、この期に及んで、何を!んな!!」
 『荒神』は、驚いていた。私達が、窓を開けたからだ。
「ここを、何階だと思ってんだ!?嘘だろ!?」
 『荒神』は、信じられないようだ。しかし、私は信じる。この状況で、士が失敗
する筈が無い。
 私達は、士にしがみ付く。そして、士は迷い無く飛び降りた。
「・・・フゥゥゥゥ・・・。よし!使えそうだ!」
 士は、『ルール』が、空中で使えるようになったのを確認する。
「『索敵』!!」
 士の『索敵』のルールで、空中で制御しながら、地上50メートルの所を見極め
て、一気に地面に着く。さすがにタイミングは完璧だ。そして、ミサンガで、合図
を送る。すると、周囲で爆発が起こった。
「士殿!!」
 そこには、待ち構えたように、ショアンさんが居た。さすが、タイミングは完璧
だ。さっきの爆発は、眼を眩ます為の、ジャンさんの『ルール』だ。
 そして、今度は、ショアンさんに捕まると、バー『聖』に向かって、『追跡』の
ルールを発動させる。すると、一瞬の内に、私達は、バー『聖』に戻っていた。
 そして、同時にタウンの検問所の辺りで、騒ぎがした。アスカが、騒ぎを起こし
ているのだ。私達に、目を行かせない為の工作だ。
 ああ。仲間が居る・・・。私達には、仲間が居るんだ!
 こうして、私達は、何とか帰ってこれた・・・。疲れた・・・。


 アイツ等、何者なんだ!!!
 あんな高い所から、迷いも無く降りやがった・・・。
 信じられねぇ・・・。
 能力で、着地したんだろうが、それにしたって、信頼し過ぎだろ。
 おかげ様で、俺の信用はパーだ。
 ボスから、降格の通知を受けた。
 アリアス辺りも、蔑んだ目で、俺を見てやがった。
 許せねぇ・・・。
 俺の輝かしい実績を、よくもぶち壊してくれたな・・・。
 しかも、生意気にも、その内、行くとか言いやがったな。
 その時に、存分に殺してやる!!
 俺の恐ろしさを、その身に、刻み込んでやる!!
 アイツ等の正体は、『司馬』だった。
 やはり・・・そうだったのか!!
 あれから、メトロタワーからの依頼がねぇ。
 チャンスを不意にした事で、信用が無くなったのかも知れねぇ。
 何でこうなった!!
 俺の実力が足りなかったってのか?
 そんな筈はねぇ!!!
 ・・・良いさ。
 その内、来ると言うなら、来てみやがれ・・・。
 俺の手で、嬲って!!殺してやる!!
 俺が、生き残る手は、それしかねぇ・・・。
 その為なら、悪魔にだって、魂を売ってやる!!!


 私達は、無事に帰ってきた。
 無事に・・・か・・・。
 果たして、本当に無事かどうかは、言い切り難い。
 特に、センリンと士は、心に大きな傷が付いたようだ。
 帰った後、2人は、倒れこむように、自分の部屋へと行った。
 その時の覇気の無い眼は、見てられなかった。
 翌日も、奴等は、出て来なかった。
 センリンにだけは、多少は、話が出来た。
 話によると、士は、罪の意識に苛まれている様だ。
 センリンを守れなかった事でだろう。
 グロバスまで、悔やんでいるようだ。
 全く・・・何とかならぬ物か・・・。
 私は、それを、皆に話した。何が起きたかも、一応言って置いた。
「そんな事が・・・。『ダークネス』め!!」
 ショアンは、本気で怒っていた。仲間を傷付けた奴を、許せないのだろう。
「間に合ったのに、あの状態って事は・・・。自分を責めてるんだね・・・。士さ
ん・・・。センリンさんを、あんなに、愛してたからね・・・。」
 アスカは、溜め息を吐く。仲間を心配している。
「ゼハーンさん、間に合ったじゃねーか!」
 ジャンは、納得出来ないような顔をしていた。
「自分の手で、守り切れなかった事を、後悔してるんだ。奴は、そう言う男だ。」
 私は、説明してやる。その気持ちは分かる。私も、シーリスを守り切れなかった
のだからな。それどころか、寿命を縮めたのは、私だ。
「バッカヤロウ!!仲間を頼って、何が悪いんだよ!!ここは安心する所だろ!!」
 ジャンは、士に対して怒っていた。士は、自分を責めているのだと言う。それは、
私達の助けを借りた事による、後悔なのか?
「もう・・・駄目かも知れない・・・。」
 アスカは、弱気になっていた。
「姐さん!!弱気になる所じゃねぇ!!ここは違うよ!」
 ジャンは、否定する。ここで、私達が弱気になっては、いけないと。
「でも、ウチ、あんな士さんの姿、初めて見た・・・。」
 アスカは、士の打ちひしがれた姿を見て、ショックを受けたのだろう。
「士殿は、いつも、安心を与えてくれたからな・・・。」
 ショアンは、唇を噛んでいた。悔しいのだろう。
「何を言ってるんだ。奴は、これくらいで、参る男では無い!!」
 そうだ。私は知っている。奴は、センリンを守る為に、どれだけの事をしてきた
のか!それを無にするような男では無い!
「ゼハーンさんの言う通りだ!士さんだぜ?信じなきゃ駄目だろう!?」
 ジャンは、私に同調する。そうだ。今は信じるのだ。
 士・・・。私は、ここで駄目になるような奴を、助けた訳では無いぞ!!



ソクトア黒の章4巻の5後半へ

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