NOVEL Darkness 4-5(Second)

ソクトア黒の章4巻の5(後半)


 ・・・俺は、この手で、センリンを守れなかった・・・。
 ゼハーンには、本当に感謝している。
 俺は、ミサンガに緊急のランプが点いた時、真っ先に向かった。
 その動きが、おかしいってんで、センリンを捕らえたって言う上司に会った。
 その時、グロバスが、ミシェーダだって気が付いたんだっけな。
(済まぬ。士・・・。我まで逆上してしまった・・・。)
 お前だけのせいじゃねぇ。俺も、止まれなかったさ。冷静な判断なんて、してな
かった。ミシェーダだけなら、まだ勝ってたかも知れない・・・。
 だが、あの時は、ゼリンまで来やがった。こっちは、いくら、グロバスが居ると
は言え、『ルール』を封じられていた。アイツ等は、何故だか知らないが、『ルー
ル』を使ってきた。
 そんな状態で、勝てる訳ねぇ・・・。なのに、俺は、がむしゃらに暴れる事を選
んじまった・・・。
(我も、恥ずかしい・・・。同じ相手に2度も負けるなど・・・。)
 ああ。そのせいで、センリンに、あんな目に・・・。
「士・・・。」
 ああ。センリンが、声を掛けてくれる。心配してるんだろうな・・・。
「センリン・・・。済まない・・・。俺のミスだ・・・。」
 俺は、悔やみ切れない。あのままでは、センリンは、あの下種な奴等に、何をさ
れたか・・・いや、何をされたか、なんて決まっていた・・・。
「士、悔しイ?」
 センリンは、優しい目で、尋ねてきた。
「ああ。・・・そして、お前に、顔向け出来ん・・・。」
 俺は、悔し涙を流していたのだろう。こんな事は初めてだった。
 パンッ!
 ・・・気が付くと、俺は、センリンに頬を叩かれていた。
「これで、チャラだヨ!だから、もう苦しまないデ!」
 センリンは、涙を溜めていた。・・・こんな、こんな俺の為に、お前は・・・。
お前は、いつも元気をくれるんだな。
「・・・ありがとう。センリン。・・・目が覚めたよ。」
 俺は、センリンを抱きしめていた。お前のような素晴らしい恋人を、守る為には、
逆上して切れてまで暴れて助けるのは、馬鹿のする事だって、気付いたよ。
「俺は・・・もう二度と、暴走したりしない。」
 そうだ。俺が出来る誓いは、それだけだ。全ては、センリンを守る為、そして、
仲間達を、守る為に、尽力する事を誓おう!
「それで良イ。それで良いんだヨ。士!」
 センリンは、満面の笑顔を向ける。ああ。俺は、この女を選んで良かった。本当
に、君じゃなきゃ、俺は、いつか潰れていた・・・。
「皆が、待ってるヨ。そろそろ、行こウ?」
 センリンは、女神のような笑顔で、俺を促す。
「ああ。悔やむより、まずは、ゼハーンに感謝・・・だったな。」
 俺が言ったんだ。俺が、仲間の証にミサンガを配ったんだ。なら、仲間に助けら
れたのなら、こんな悩んでる姿を見せるなんて駄目だ。感謝して、俺が今度は、助
けてやる!それが、誓いだ!!
 俺は、前を向きながら、店の中に入る。すると、皆、心配そうな顔で、集まって
いた。こんな俺を、心配してくれるんだな。
「士、大丈夫か?」
 ゼハーンが、駆け寄ってくる。
「らしくねぇ所、見せちまったな。ありがとよ。ゼハーン。」
 俺は、ゼハーンの目を見て、感謝をする。そして、握手をした。
「良かった。ウチ、このまま、暗いままなんじゃないかって!」
 アスカは、泣いてくれていた。こんな俺の為に。
「士さんだぜ?絶対復活するって、信じてたぜ!!」
 ジャンも、私の肩を叩いて、励ましてくれた。
「士殿!いつかの言葉を返そう!我等は仲間だ!助けられた事に遠慮はしないで欲
しい!これは、貴方から教わった事だ!」
 ショアンは、いつか、俺が言った事を返してくる。
「ほラ!士!皆、士が落ち込んでたら、元気が出ないんだヨ!」
 センリン・・・。ああ。俺は、幸せ者だったんだな。
「お前達、俺は、馬鹿だった・・・。全部自分で何でも出来ると信じてた。でも、
それは、仲間を信用しないってのと、同じだったんだな。」
 そうだ。俺がこれから出来る事は、コイツ等を守ると同時に、信じる事だ!
「じゃ、改めて・・・。ゼハーン。お前は、俺とセンリンの、恩人だ。依頼人なの
に、逆に助けられちまった。この恩は、一生忘れん。」
 俺は、ゼハーンに一礼する。それが礼儀だ。
「士。私の方こそ、感謝する。私は今、一番生きていると言う実感がする。お前の
為に、尽力出来た事は、私の誇りになりつつある。」
 ゼハーンは、今まで、罪を背負って生きてきた。そして、息子の為にのみ、人生
を捧げてきた。だが、俺との絆で、生きている実感がするのだろう。
(これが・・・これが、人間の絆の力か・・・。)
 グロバス・・・。そうだ。俺達の力の起源だ。
(我は、こんな力に勝とうとしていたのか・・・。無理な筈だな。)
 ああ。何度でも俺を奮い立たせてくれる。この力は、誰にも負けないさ。
(理解した。我は、この感情を理解したぞ!士、我も目が覚めたぞ!!)
 初めて、力に触れた子供みたいな事を言うな。アンタにとっては、新鮮かも知れ
ないがな。ま、俺にとっても新鮮だがな。
「んじゃ、気を取り直して、報告ヨ!」
 センリンは、努めて明るく答える。本当は、泣きたいのは、センリンだろうにな。
 それから、報告しあった。俺は、まず、テレビ局で手に入れた情報を明らかにす
る。テレビ局では、噂話で持ち切りだった。
「俺が聞いた話では、『ダークネス』の情報ばかりだった。今回の護衛に『ダーク
ネス』が付いた理由は、『オプティカル』がゴタゴタしてたからだ。」
 それは、間違いないだろう。今回、本来なら、『オプティカル』に護衛を頼む所
だったらしい。だが、アスカが居ない『オプティカル』は、依頼を受けられるよう
な状態じゃなかったらしい。
「でだ。『ダークネス』のボスが、元老院の一人だって話だ。」
 とんでもない情報だった。『ダークネス』のボスは、今、セントを牛耳ってる元
老院の一人だったって話だった。
「そりゃ、おっかねぇ話だな。それじゃ、政府と人斬りが、手を組んでたってか?」
 ジャンは、肩を竦める。まぁ、そうなるのかもな。
「じゃぁ、『オプティカル』に頼んだのは・・・。」
 アスカは、体を震わす。
「ああ。罠だった可能性が高い。いつか、殺すためのな。」
 アスカにとっては、人事じゃなかった。罠を張っていた可能性が高いのだ。
「恐ろしい話だな・・・。『ダークネス』め・・・。」
 ショアンは、やり口が気に入らない様だった。
「・・・私は、『荒神』に声を掛けられた。さっき士が話してた内容と同じで、今
回から、『ダークネス』に仕事が回ってきたとか言ってたが、それも、パフォーマ
ンスだったって事だな。」
 少しずつ、『ダークネス』に慣れさせるための仕事だったのだろう。
「元老院の一人なら・・・私達を狙った事についても、知っているかも知れぬな。」
 そうだ。ゼハーンさんの依頼は、伝記の末裔を、狙った目的を知る事だ。つまり、
メトロタワーへの侵入が、きついのなら、『ダークネス』に乗り込むのも手だ。
「なる程。で、センリンは、何か掴んだか?」
 俺は、一応聞いてみる。
「私が真っ先に捕まったのは、色々情報を手に入れたからネ。ここに戻ってきたか
らには、無駄には、しないヨ!」
 センリンは、さっきの記憶を、振り払いながら、話す。辛いだろうにな・・・。
強い女だ。本当に、俺には勿体無いくらい良い女だ。
 そして、話した内容は、衝撃的だった。それは、遠い計画の話。ソーラードーム
の設計に関わった男の極秘資料だった。およそ400年掛けて、ソーラードームは、
完成に至ったのだ。しかし、その代償として、クワドゥラートの魔人と聖人は、姿
を消したのだった。人を電池のように扱い、莫大なエネルギーを使って、『無』の
壁を精製していたのだ。
 そして、『無』の力の真実も知った。『無』は、純粋なるエネルギー。全ての感
情を空虚にする事で、『無』が発現できる。それは、感情を完璧にコントロールし
なければならない。その境地に至ったのが、勇士ジークだった訳だ。
 しかし、限り無く近いエネルギーを、精製する事が出来るのだと言う。それこそ
が、『神気』と『瘴気』を掛け合わせる事だった。すると、相反するエネルギーが、
互いを打ち消そうとして、『無』の力に、目覚める事が出来るのだとか。
 その方法で手に入れたのが、クラーデス、ラジェルド辺りらしい。
(思えば、奴等は、それぞれ『神液』、『魔性液』を飲んだ事で、『無』の力を手
に入れていた。そこで、気付いたのか。)
 そう言う事だな。しかし、この原理を知っている敵ってのも、恐ろしい話だな。
(・・・我にも出来ると言う事か・・・。)
 そういや、元破壊神で、瘴気まで手に入れたアンタなら、出来るのかも知れんな。
(情けない・・・。こんな身近な力だったとは・・・。)
 そう言うな。普通は、掛け合わせるなんて思わないだろ。
(そうだがな・・・。だが、今からでも、磨いておこう。いざとなった時は、使え
るようにしないとな。さっきのような無様な姿だけは、避けたい。)
 気にしてるな。俺もリベンジする気満々だぜ。だが、それは、逆上しての事じゃ
ない。冷静に、勝てるように努力するんだ。
(分かっている。あの失敗は、我にも原因がある。)
 そうだ。絶対に負けない為に、やれる事は、やろうぜ!
「あの空間に、クワドゥラートの者達が居たとは・・・。」
 ゼハーンも、ショックを受けているようだ。
「ちょっと許せないな。やり過ぎだぜ。メトロタワーの連中はよ!」
 ジャンさんまで怒っていた。
「だが、メトロタワーに近付くのは、今は無しだ。」
 俺は宣言する。
「らしくないですな。理由は?」
 ショアンが理由を聞いてくる。当然だな。
「行ったから分かったのさ。あのメトロタワーでは、相手は『ルール』が使えるの
に、俺達は使えない。そんな状態じゃ、次行っても同じさ。」
 そうだ。冷静になれば、今あそこに行っても、勝ち目は無いのだ。
 そして・・・後もう一つ、言わなきゃならない事がある。しかし・・・。
「なら、次は、『ダークネス』だな?手掛かりは、今は、あそこしかないしな。」
 ゼハーンは、『ダークネス』に乗り込む気満々だった。
「そうだな。次の仕事は、かなり危険になるな。」
 俺は、危険を伝えながら、別の事を考えていた。
 俺には・・・まだ言えなかった・・・。


 もう駄目かと思った・・・。
 私は、自分の無力さを感じていた。
 汚されていく姿を、せめて、士には見られたくないと思っていた。
 でも、ゼハーンさんが助けてくれた。
 本当に感謝し足りない。
 私は怖かった・・・。
 でも、皆が付いている。
 だから、次の仕事だって、出来る。
 そして、バー『聖』を通して、仲間が集まっていた。
 掛け替えの無い仲間達が、勇気をくれるんだ!
 でも、士の様子がおかしい。
 さっき、自分を取り戻していたから、安心したのに・・・。
 何だか苦しそうだ。
 また、何か悩んでいるんだろうか?
「士・・・。どうしたノ?」
 私は、我慢出来ずに聞いてみる。士が苦しんでいる姿は、見たくない。
「センリン。俺は、恵まれていたんだな。」
 士は、本当に安心した笑顔を見せる。
「そうだネ。あんな良い人達が仲間だなんてネ!」
 今は、誇りになりつつある。
「俺は、お前に居場所と愛を貰って、奴等に信頼を貰った。」
 士は、本当に感謝をしている眼をしていた。
「バー『聖』・・・。良い所だよな。」
 士は、しみじみと、この場所を見渡す。何処をとっても、私達の生活の跡がある。
バー『聖』は、私達の軌跡だった。
「遣り甲斐があるヨ。」
 私は、お客さんを楽しませる事が出来、生活を得られた。
「・・・済まん・・・。」
 士は、急に謝りだした。どうしたんだろう?
「どうしたノ?まだ・・・気にしてるノ?」
 急に謝るだなんて、士らしくない。
「センリン・・・。俺も、ここが好きだ。お前が好きだ!!」
 士は、私を抱きしめて、震えていた。どうしたんだろう?
「だけど・・・ここを・・・閉めなきゃならない・・・。」
 士は、涙を流しながら、そう言う。・・・え?
「ここを・・・閉める・・・?」
 私には、何の事か、理解出来なかった。ここを閉める?ここを・・・閉める?こ
こ・・・閉店?閉店する・・・の?
「エ?・・・何で・・・なノ?」
 私は、つい聞き返す。ここを閉めるだなんて、冗談だよね?
「メトロタワーの連中に・・・この場所がバレたんだ・・・。」
 士は、そう言うと、紙切れを渡す。
『各自
 これより、『司馬』迎撃作戦を開始する。
 場所は、タウンとスラムの検問所の近くのバー『聖』。
 敵の数は6名。各自、用心されたし。『創』 』
 ・・・こう書かれてあった。
「う・・・そ?」
 私は、愕然とする。これは、『ダークネス』の命令書だ。『創』のコードネーム
がある。これは、『ダークネス』のボスの書類だ。
「色々考えた・・・。だけど、駄目なんだ・・・。」
 士は、どうやって揉み消すか、考え抜いたのだろう。だが、思いつかなかったの
だ。バー『聖』は、消えてしまうの?
「・・・俺は、何て役立たずなんだ・・・。」
 士は、こんな事しか言えない、自分が悔しいのだろう。そうだ。私だって苦しい
が、士だって、この店を愛していた。だから、死ぬ程、苦しい筈なのだ。
「士・・・。悔しいよネ。苦しいよネ。」
 私は、士の頭を抱いてやる。
「でもサ。生きてれば、やり直せル。辛いけど・・・サ。」
 私は、笑う。この店も大事だ。だけど、それ以上に、士が大事だからだ。
「そんな言葉を、お前に言わせる俺が悔しい・・・。」
 士は、本当に苦しそうだった。私が、この店を愛しているのを、知っているから
だ。士だって、同じだ。
「士。私は良いヨ。店を閉めよウ?」
 私は、飛び切りの笑顔を見せる。しかし、自然と涙が伝う。
「センリン・・・。済まない・・・。」
 士は、嗚咽していた。涙を見せない筈の士が、本気で涙を流していた。私と、こ
の店の為に、涙を流していた。
 しょうがないよね・・・。


 予想は出来ていた。
 メトロタワーへの潜入。
 そして、見つかった時から、この結末は、予想出来ていた。
 しかし、実際に言われると、辛い物だ。
 士から皆へ、話があった。
 その結末は・・・。
「済まん。どう考えても、この店を捨てるしかない。」
 だった・・・。私のせいかも知れぬ。メトロタワーへの潜入など、頼まなければ、
この店を失う事も無かったのだ・・・。
「私は、辛いけど、しょうがないヨ。だって、幸せだったかラ。こんな幸せをくれ
たからこそ、お別れもしなきゃサ。」
 センリンは、笑顔だった。涙も見せたのだろう。しかし、笑顔だった。この店を
誰よりも愛していたからこそ、閉めなきゃならないのを、誰よりも感じていたのだ。
「本当に・・・手が、無いの?」
 アスカは、悔しそうにしていた。アスカも、すっかりここの一員だな。
「姐さん。・・・客が居る時に、ここを襲われる時だってある。それを考えたら、
閉めるしか無いんだと思うよ。・・・オレだって辛いけどな。」
 ジャンは、分かっていた。ここが襲撃されるのは、時間の問題だと。
「一番辛い士殿と、センリン殿が、その決断をされたのなら、従うで御座る。」
 ショアンも辛いのだろう。だが、仕方が無い事だと分かっているのだ。
「私のせいか?・・・私の・・・。」
 私は、申し訳が無かった。メトロタワーの潜入が・・・。
「阿呆。それを承知で、俺は、依頼を受けたんだ。お前一人のせいにするんじゃね
ぇ。見損なうなよ?ゼハーン。」
 士は、もう吹っ切れていた。私のせいでは無いと言い切った。
「そうだネ。それは、さすがに思い上がりだヨ。私達は、ゼハーンさんの話を聞い
た時から、覚悟はしてたヨ。」
 センリンも同調してくる。何て、奴等だ・・・。私の事を、責めないどころか、
励ましに来るなんて・・・。
「そうか・・・。よし。切り替えた。」
 私は、クヨクヨする事を止めた。いつまでも私が気にする事こそ、士とセンリン
を苦しめるのだ。ならば、切り替えるしかない。
(フフッ。それで良いんですよ。切り替えは、早い方が良いです。)
 清芽殿。私は、頑固だが、仲間の為なら、その頑固さを捨てるぞ。
(安心しました。ゼハーンさんは、良い子ですね。)
 ・・・子ども扱いは、さすがに照れるのだが・・・。
「よし。オレも覚悟した。・・・で、これから、何処に行くんだい?」
 ジャンも切り替えたらしい。この男は、切り替えが早いな。
「そうだな。実は、予定が無いんだ。」
 士は、ちょっと困った顔をしていた。そりゃそうか。そう簡単には、見付からぬ
な。住む所だからな・・・。
「ウチの組織は、今更だしなぁ・・・。」
 アスカも腕組をしている。さすがに『オプティカル』には、行けぬだろう。
「姐さん、それは、さすがに有り得ませんって。」
 ジャンも困った顔をしていた。そりゃそうだろう。
「我等は、世捨て人も良い所だったで御座るな。」
 ショアンも困り果ててた。世捨て人とは、良く言った物だ。
 住む所の確保は、難しいな・・・。って待てよ・・・。
「士。住める所ならば、何処でも良いのか?」
 私は、尋ねてみる。まだ一つだけあったな。
「まぁ、贅沢は言わん。」
 士は、何処にでも住む覚悟があるようだ。
「私の実家があった。あそこは、手入れしかしてないが、6人くらいなら住めるぞ。」
 そう。ハイム=カイザード家があった。シティのお屋敷だ。買い物とかが、かな
り面倒臭いが、住むだけなら出来る筈だ。
「また、アンタの世話に・・・。依頼人だってのに、アンタに頼りっぱなしだ。」
 士は、頭を掻く。確かに、私が世話してばっかりだな。
「人の厚意は、受ける物だ。それにな。私は嬉しいのだ。お前達のような仲間が出
来て、更に役立てる私がな。」
 そうだ。私は、常に罪を背負う生活をしてた。それが、いつも間にやら、誰かに
頼られている。こんなに充実してる事は無い。
「なら、お世話になりまス!」
 センリンは、迷う事無く受け入れる。それが、仲間だと思っているのだろう。
「今度は、ゼハーンさんの家かぁ。何だか、ワクワクするね。」
 ジャンは、新しい生活を思い描いているようだ。
「ウチは、まだ、切り替えられないけど・・・。皆、一緒なんだよね。」
 アスカは、この店に名残があるようだ。仕方の無い事だ。
「なら、ウチ、何処へ行っても、怖くない!」
 アスカは、そう言うと、満面の笑みを見せる。何だか照れるな。
(アスカさんには、ジャンさんが居ますよー?)
 わ、分かっている。茶化さないで欲しい。
「でも、別れの挨拶だけは、しなきゃいけませんな。」
 ショアンは、仕入先を見ながら言っていた。そうだな。黙って去るのは、良くな
い。特に、サン農場とは、結構深く関わったしな。
「ああ。それが寂しいな。」
 士も、あの爺さん婆さんには、思う所があるようだ。
「それにしたって、キャンピングカーの購入時期、出来過ぎじゃね?」
 ジャンさんは、キャンピングカーを指差す。確かにな。これと、搬入用のトラッ
クがあれば、かなりの荷物を運べる。引越しするには十分だろう。
「色々便利だからな。それを考えての事だ。と、言いたいけど、偶然だな。」
 士は、笑いながら答える。どうやら、冗談が言えるくらいまで、回復しているよ
うだ。これなら、大丈夫だろう。
「よし。なら、善は急げだ。どうせ、ここは割れてるんだ。引越しの用意だ。んで、
用意が出来次第、移動するぞ!」
 士は、前を見ていた。一からやり直すために、移動するのだ。だから、夜逃げで
は無い。出発のための移動だ。
 私達は、新たな一ページを刻むために、用意をするのだった。


 いつものように起きて、朝飯を食べて・・・。
 平和だった・・・。
 店を開いて、お客さんと話す日々。
 幸せだった・・・。
 隣に士が居て、仲間が増えて・・・。
 日常が堪らなく嬉しかった・・・。
 でも、日常は変わった。
 いつか、この日が来ると思っていた。
 人斬りとして、仕事を請け負っている以上、いつかは来ると思っていた。
 だけど、目の前にすると、きついなぁ・・・。
 でも、愛する人が居る。
 そして、仲間が居る。
 だから、前に踏み出せる。
 今までが、恵まれていたのだ。
 だから、これからの事を考えよう。
 ・・・ありがとうね。
 ・・・バー『聖』・・・ありがとう・・・。
 私達は、まず、消印『48』の事について、処理をした。
 いつか、こういう日が来ると思っていたので、連携している郵便局員には、電報
一つで、こっちが辞めるって事を、報せるようになっている。
 そして、偽造手形を作ってくれたオッチャンにも、電報を送る。あちらも了承し
てくれた。こっちの仕事を分かっているから、話は早かった。
 タウンの、喫茶『希望』のマスターにも挨拶しておいた。これは、直接出向いた。
マスターは開店前だったが、私達の風貌を見て、気が付いたのだろう。
「寂しくなるね。でも、楽しかったよ。」
 と言ってくれた。こんな日が来るって分かってたんだろうね。
 そして、タウンの卸売り場に行く。ここの、おやっさんとも、知り合いだからね。
いつものように仕入れかと思ったらしいが、仰々しい荷物を見て、寂しい顔になっ
た。親しかったからね。
「せっかくの、大口だったんだがな。ショーもゼフも、やっと、一人前になったと、
思ってたんだがよ。まぁ、しゃあねぇわな!」
 おやっさんは、残念そうだったが、肩を叩いて、励ましてくれた。
「おやっさんの、優しさは、忘れませぬ。」
 ショアンさんは、感極まっていた。仕方ない事だ。
「泣くなよ!こっちまで泣けてくるだろ?」
 おやっさんも、感涙しそうだった。
「貴方には、感謝している。」
 ゼハーンさんは、落ち着いて挨拶する。さすがだな。
「あー。もう、こう言う湿っぽいのは、嫌いなんだ。・・・ああ。そうだ。」
 おやっさんは、何かを思い立ったのだろう。店の奥から、何かを持ってくる。
「持って来な。餞別にくれてやるよ。」
 おやっさんは、そう言うと、ショアンさんと、ゼハーンさんの、ネームプレート
を持ってくる。卸売り場のネームプレートは、一人前に競りが出来る証だった。シ
ョアンと、ゼハーンドと書かれていた。
「お、おやっさん!!」
 ショアンさんは、涙ながらにネームプレートを貰う。
「全く・・・。おやっさんも、ニクイ心遣いをしてくれる・・・。」
 ゼハーンさんも、本当に嬉しそうに貰っていた。
「行きな。お前さん達に、魂は渡したぜ?」
 おやっさんは、そう言うと、振り返りもせずに、競りに向かった。
 本当に気の良い人達だ・・・。私達も、参っちゃうなぁ。
 そして、最後は、サン農場だった。ビレッジに入って、いつも使っている道に入
る。そして、農場が近付いてきた。ああ。元気そうにやってる・・・。
 私達は、農場の入り口に着く。ああ・・・。良い農場だ。本当に良い農場なんだ。
「いらっしゃい!今日は、全員で来たの?」
 お婆ちゃんが、挨拶に来た。
「お?これは、豪華に全員かの?」
 お爺ちゃんも、優しい笑顔をしていた。
 ああ。辛い・・・。この別れが一番辛いかも・・・。
「・・・どうしたの?何だか、辛そうよ?」
 お婆ちゃんが心配してくれてる。
「お婆ちゃン!!」
 私は、我慢出来ずに、お婆ちゃんの胸の中に飛び込む。だって・・・。10年間
も使っていたんだよ?我慢なんて出来ない!
「センちゃん。・・・そう。・・・寂しくなるわね。」
 ・・・!!な、何も言ってないのに!お婆ちゃん、気付いたの?
「外の荷物の量を見れば、分かるぞな。止むを得ない事情なんじゃろ?」
 お爺ちゃんも、優しい笑顔で返す。
「ウチ、まだ、知り合って間も無いのに・・・。グッ。」
 アスカも、泣いていた。お婆ちゃんは、アスカの頭を撫でる。
「爺さんさ。オレ等は、本当に、ここ使って良かったと思ってたんだよ。」
 ジャンさんも、知り合って間も無いが、思い入れがあるのだろう。
「いつでも来なさい。待ってるぞい。」
 お爺ちゃんは、笑顔のままだった。
「悪いな・・・。こんな突然でさ。」
 士も、肩を震わせていた。
「良いのよ。だって、皆、孫みたいな物だし・・・。巣立つのよね?」
 お婆ちゃんは、私の眼を見て言う。お婆ちゃんは、深い眼をしていた。
「ああ。我等は、これからの生活の為に、店を閉めます。」
 ゼハーンさんが、纏めてくれた。
「私は、寂しい・・・。でも、ここの事は、忘れませぬ!」
 ショアンさんも、涙を流していた。
「うんうん。なら、何も言わないよ。頑張るんだよ。挫けないようにの?」
 お爺ちゃんは、それだけ言ってくれた。何て優しい・・・。
「何も返せぬ俺達を、許してくれ。」
 士は、深々と礼をする。
「何を言ってるんじゃ。ここを守ってくれたんじゃろ?」
 ・・・え?な、何で・・・。
 私だけじゃない。皆がビックリしていた。
「・・・やっぱり、士ちゃん達だったのね?」
 お婆ちゃんは、深々と礼をする。・・・し、知ってたのか?
「おかしいと思ったんじゃよ。急にクルセイが、何も言ってこなくなったしの?」
 お爺ちゃんは、クルセイから、嫌がらせのように毎日、農場の権利を迫られてい
た。しかし、私達の仕事の後、ぱったり止んだのだろう。それはそうだ。後始末に、
士がクルセイを殺したのだから。
「だって、アスちゃんが夜に来た後、ずっとなんですよ?」
 ああ。そうか・・・。あの時は、誤魔化せても、その後、何も無ければ、気付く
か。そうだよね。
「クルセイは、ワシ等の、従業員にまで、手を出していた。もう、この農場を渡す
しかないって、寸前だったんじゃよ。」
 お爺ちゃんは、苦い顔をした。そうだったのか・・・。
「アスちゃんが、一人で、来る訳無いと思ったから・・・。あの夜、何かしたんで
しょ?だって、それしか、考えられないじゃない。」
 ・・・私達は馬鹿だ。気付かせないように、終わらせるなんて、綺麗事を言って。
気付かない訳無いんだ。
「気付かれたんじゃ、しょうがないな。」
 士は、そう言うと、手を差し出す。ま、まさか!
「爺さん、婆さん。俺達は、その仕事から、足を洗うから、ここに来たんだよ。」
 士は、そう言うと、二人と握手する。・・・握手だったのか。
「うんうん。それがええ。何の仕事だったかは、聞かん。でも、これからは、幸せ
になるんじゃ。じゃなきゃ、ワシと婆さんが、許さんぞ。」
 お爺ちゃんは、まだ笑顔だった。何て強い笑顔・・・。
「お爺ちゃン!ゴメンネ!!」
 私は、涙でクシャクシャになりながらも、お爺ちゃんの胸で泣いた。
「センちゃん。頑張れよ!」
 お爺ちゃん、ああ。何て優しい・・・。
「爺さん、婆さん、我等は、必ず幸せになってみせる。今までありがとう。」
 ゼハーンさんは、深々と礼をすると、車に乗り込んだ。
「私は、忘れませぬ!お二人の事、忘れませぬぞ!!」
 ショアンさんは、肩を震わせながらも、車に乗り込んだ。
「ウチ、ジャンと、幸せになる!だから、安心してよ!」
 アスカは、飛び切りの笑顔を見せた。
「爺さん、婆さん。オレも忘れないよ。アンタ等の笑顔をさ!」
 ジャンさんは、そう言うと、アスカの肩を抱きながら、車に乗り込んだ。
「今まで、ありがとウ!私、楽しかっタ!楽しかったヨ!」
 私は、お爺ちゃんと、お婆ちゃんと、最後の握手を交わした。
「ここの野菜、美味かったぜ。ソクトア一の野菜を、ありがとうな!」
 士は、そう言うと、私の手を握って、車に乗り込む。私も乗り込んだ。
「貴方達の、素敵な関係を、忘れませんからねー。」
 お婆ちゃんは、そう言って、手を振ってくれた。
「これから、ガッツじゃ!頑張るんじゃぞ!!」
 お爺ちゃんが、力拳を握って、応援してくれた。
 後始末は終わった。皆との挨拶・・・。
 寂しかった・・・けど、これで良かった・・・。
 これから、あの人達の分まで、頑張るんだ!


 まさか、ここに、戻ってくるとはな。
 不動真剣術のユード家に行く時、もう戻ってこないと思ったのだがな。
 人生、何が起こるか分からぬ物だ。
 戻る前に、連絡をしたら、執事が、応対していた。
 親父殿が死んで、もう20年以上経つのだが・・・。
 未だに、この家を守っているとはな・・・。
 忠義と言えば、それまでだが・・・。
 何が、奴を支えているのだろうな。
 ユード家に行くと伝えた時、少しだけ険しい顔をしたっけな。
 しかし、行く時は、出迎えをしてたっけ・・・。
 その家に・・・戻ってきた。
 婿入りしたのが20年前だから、20年振りか。
 いや、ここ最近でも、顔を見せに行った事はある。
 キャピタルに潜入すると伝えたのが最後だったか。
 その時、少しだけ、心配されたっけな。
 その家に・・・戻ってきたのだな。
「ここだ。」
 私は、皆と共に、我が家を案内する。ちょっとしたお屋敷だ。
「おい。ここ、6人どころじゃないだろ。広いじゃねーか。」
 士は、驚いていた。まぁ、私としては、余り、好きな家じゃないんだがな。
「何か、生家を思い出すヨ。」
 そう言えば、センリンも、元は、良い所の出だったな。
「まぁ、一応は、屋敷だからな。」
 私は、改めて、お屋敷を見る。確かに大きいな。
「旦那様で、御座いますか?」
 ・・・その声は・・・。我が家の執事か。
「アランか。また、世話になる。」
 私は、会釈する。執事の名は、アラン=スフリト。初老の男性だ。執事としての
腕前は、かなりの物だ。女だったら、ナイアに匹敵するのでは、ないか?と思う程
の腕前だ。ご奉仕メイド大会は、女しか参加できないからな。
「お帰りなさいませ。旦那様。ご友人も一緒で御座いますね。」
 アランは、仲間に挨拶をしてくる。
「あ。よ、宜しくお願いします。」
 アスカは、畏まっている様だ。皆も、どことなくギコちない。
「どうした?遠慮せんで良いぞ?」
 私は、不思議そうな顔をしながら、皆を見ていた。
「いや、こんなお屋敷に入るの、初めてでよ。」
 ジャンも、ビックリしてるみたいだな。そう言われてもな。
「よ、宜しくお願いするで御座る。」
 ショアンまで・・・。どうしたのだ。皆?
「アンタ、良い所の出だったんだな。」
 士は、呆れ顔だ。良い所の出と言われても・・・。私は変わらぬぞ。
「アランさン。この度は、私達を受け入れて下さって、感謝しまス!」
 センリンは、慣れた手付きで、挨拶をする。
「これは、ご丁寧に。ハイム=カイザード家は、歓迎致します。」
 アランは、丁寧に挨拶をする。フム。慣れてくれると良いがな。
「アラン。この荷物、頼めるか?」
 私は、アランにトラックと、キャンピングカーの荷物運びを命じる。
「了解致しました。部屋番号は?」
 アランは、運び入れる部屋番号を聞いてくる。
「そうだな。とりあえず、大広間に置いてくれれば良い。後の振り分けは、各自で
やる。私の荷物は、書斎で良いぞ。」
 私は、指示する。私は、書斎に、荷物を入れる事にした。
「40分程、戴ければ。」
 アランは、荷物を計算する。40分か。アランなら、そんな物かな。
「じゃぁ頼む。私は、仲間達に紅茶を振舞いたい。セットは、いつもの所か?」
 私は、家事は出来ないが、紅茶だけなら、かなり炒れた事がある。
「はい。旦那様の物は、寸分違わず保管してあります。」
 アランは、そう言うと、嬉しそうにしていた。さすがだな。
「じゃぁ、行こうか。案内する。」
 私は、玄関を開けて、仲間達を促す。
「って、ゼハーンさん。荷物、本当に、この人に任せて良いのか?」
 ジャンは、ビックリする。アランの荷物運びの凄さを知らないからな。
「任せて置いた方が良い。アランは、荷物運びのコツを心得てるからな。」
 私も、初めて見た時は、驚いた物だが。
「お褒め預かり、光栄に御座います。」
 アランは、恭しく礼をする。相も変わらず、完璧だな。
「どうぞ。御寛ぎ下さい。」
 アランは、そう言うと、私達が家に入るのを見送ってから、荷物運びに行く。
 そして、私は、客間に案内する。・・・変わっておらぬな。しかも塵一つ、落ち
ていない。アランには感謝し切れぬな。
 私は、いつもの所に、紅茶セットがあるのを確認すると、士達を客間の椅子に座
らせて、紅茶を炒れる用意をする。
「いやぁ・・・何だか、何から何まで、ビックリだよ。」
 アスカは、まだ、夢見心地のようだ。
「フッ。私には似合わぬか?」
 私は、紅茶を炒れて、皆に振舞う。
「いや、そうじゃねぇけどさ。もっと、道場っぽい所かと思ったんだよ。」
 ジャンは、私の家が、思っていたのと違うようで、戸惑っているようだ。
「お。これ、美味いな。何だよ。ゼハーン、美味く出来るじゃねぇか。」
 士は、紅茶の味で驚いているようだ。まぁ、家事では不覚を取ったからな。
「紅茶だけは、自分で炒れてたからな。さすがに慣れたよ。」
 私は、慣れた手付きを見せた。
「作法も完璧ヨ。凄いネ。」
 さすが、センリンは、良く知っているな。
「ゼハーン殿が、気軽に言うので、お屋敷だとは思いませんでしたぞ。」
 ショアンは、緊張してるようだな。
「実際に生活するのは、20年振りだ・・・。アランには、悪いと思っている。」
 私は、目を閉じる。アランには、世話になりっぱなしだと言うのに、出て行った
のは、私の方だ。なのに、帰ってきたら、あの忠義だ。
「なら、あの態度は何でだ?とても、悪いと思ってるような態度じゃ無かったぞ?」
 士は、さっき、私が命じている姿を見て、そう思ったのだろう。
「アランが望んだのだ。私は、顔を出した時、紳士的にアランと話をしたら、悲し
い顔をされてな。理由を聞いてみたのさ。」
 私は、アランに、いつもの私と変わらぬ態度を見せた。しかし・・・。
「『私にとって、貴方は旦那様で御座います。そのような態度は、却って私に失礼
です。主人としての、態度を崩さないで下さい。』って言われてな。」
 私は、アランの忠義に、感謝しているのは間違いない。
「それで、あの態度か・・・。納得だ。」
 士は、納得してくれたようだ。
(貴方に似て、頑固者ですね。)
 全くだ。アランは、私以上の頑固者だ。
「アランは、今回、お前達の事を話したら、嬉しそうな声を出していた。」
 私は、あのように嬉しそうなアランの声を聞いた事が無かった。
「頭が上がらんな。あの執事さんには。」
 士は、アランの忠義に、ただただ感心してるようだ。
「もしかして、今日の食事も、アランさんガ?」
 センリンは、そっちの方が気になっているようだ。
「腕によりを掛けると、言っていた。楽しみにしてると良い。」
 アランも、恐ろしい程の腕だからな。
「こりゃ、厨房に入るなんて出来ないか?」
 士は、いつも料理をしているだけに、残念そうだ。
「別に良いんじゃないか?アランは、手伝うのを嫌がったりしないぞ。」
 私が、厨房に行った時は、快く入れてくれた気がした。
 そんな事を話していると、アランがノックしてくる。
「どうした?」
 私は返事をした。まぁ、大概予想は、ついているが・・・。
「お荷物の整理が終わりました。失礼ながら、大広間に集めて御座います。」
 どうやら、荷物の運び入れが、終わったようだ。
「ご苦労だったな。」
 私は、労いの言葉を掛ける。アランの仕事は、速くて助かる。
「ア。アランさン。今日の夕食は、もう作ったのですカ?」
 センリンが、尋ねてみる。
「今日は、今から作る予定ですが、子牛の内臓を使ったテリーヌと、季節の野菜を
使ったカルパッチョ、ルクトリア産チーズを使ったオレンジ和えと、赤葡萄のワイ
ンとなっております。後は、お好みで、苺のタルトか、リンゴのすり潰したケーキ
を、お選び戴こうと思っています。」
 アランは、簡単に答えるが、相当手間が掛かっている料理なのは、分かる。私が、
ルクトリア風のフルコースが好きなのを知ってるから、それに合わせたのだろう。
「そんなニ・・・?見せて貰って良いですカ?」
 センリンは、驚いているようだ。確かに、手間が掛かる事だな。
「私程度の料理で良ければ、是非、御覧になって下さい。」
 アランは、笑顔で答える。
「ま、ここは、全員で見に行こうではないか。」
 私は、全員で厨房に行く事を勧めた。アランの仕事振りも見たいしな。
 全員で厨房を覗くと、アランは、材料を見せてくれた。
「・・・すげぇ・・・。」
 士は、一発で凄い食材だと見抜いたようだ。
「今日は、旦那様が、お帰りになる日。業者に頼んで、厳選致しました。」
 アランは、軽く厳選したと言っているが、どれくらい容赦が無かったのだろうか?
「食材が、光り輝いて見えるなんて、凄いネ。」
 センリンは、毎日のように食材を見ている分、ここにある食材の凄さに、驚いて
いるのだろう。アランは、そんな食材を、当たり前のように発注していたのか。
「む・・・。この魚、プサグル近海で取れる、本マグロではないか。」
 私は、最近、目利きをしてたので気が付いた。凄い上品な脂が乗っている。
「旦那様、いつから、そのような目利きを?」
 アランは、驚いているようだ。
「電話で話した、店を手伝いする時に、仕入れをやらせて貰ったからな。」
 私は、あの時の記憶は、中々忘れない。そして、タウン卸売り場のネームプレー
トを見せた。アランは、それを見て、震えていた。
「旦那様が、そのような大事なお仕事を・・・。このアラン、旦那様の成長を、心
より、お喜び申し上げます。」
 アランは、感動しているようだ。いや、そこまで感動されてもな・・・。
「ゼハーンの仕事は、着実に進んでいる感じが良かったな。」
 士は、褒めてくれた。まぁ、覚えるのは、結構必死だったがな。
「士様。旦那様に、素晴らしい仕事を回して頂いて、感謝します。」
 アランは、士にまで、感謝の意を示す。
「俺は、てっきり怒られるかと思ったぜ。ここの主人に、仕事を頼むなんてな。」
 士は、逆の事を言われると思ったのだろう。
「旦那様の成長は、私の喜び。嬉しく思います。」
 アランは・・・本当に、私の事を、想ってくれてるんだな・・・。
「いや、それにしても、ここの調理場すげーな。」
 ジャンは、調理場の見事さに見惚れていた。
「ウチ、こんな手入れが完璧な調理器具、初めて見たよ。」
 アスカは、調理器具の手入れを任されていたので、凄さが分かるようだ。
「野菜も、サン農場と比べても、遜色無いで御座るな。」
 ショアンは、サン農場の爺さんや婆さんを、思い出してるようだ。
「サン農場を御存知なのですか?」
 アランは、意外そうな口調で言う。と言う事は・・・。
「ここの野菜は、サン農場から送られてます。皆様、ご存知だったとは。」
 さすがアランだ。あそこの農場に目を付けるとは・・・。
「セントの中でも、抜群の鮮度を誇るサン農場は、素晴らしいの一言に尽きます。」
 アランは、野菜をべた褒めする。やはり、あそこの野菜は、凄いのか。
「意外な所で、俺達と繋がってたんだな。」
 士は、嬉しそうだった。私も嬉しい。やはり、知っている所を、褒められるのは、
気分が良い。あそこの野菜は、好きだったしな。
「皆様は、良い店をお持ちだったのですね。」
 アランは、飾らない言葉で、褒めてくれる。気持ちの良い返答だ。
「私達の誇りだヨ。でも、これからだって、この仲間となら、何だってする事が出
来るって、私は、信じてるヨ。」
 センリンは、店の事を思い出したが、もう切り替えは、済んでいた。
「そうだな。何だって、やってやるさ。生活は、変えなきゃならなかったが、替え
難い仲間が出来た。なら、ソイツを守るのが、俺の役目だ。」
 士は、今度こそ、守ってみせると、意気込んでいる。メトロタワーの時は、失敗
した。だが、もう失敗はしないと、思っているのだろう。
「旦那様が、御友人と言わずに、『仲間』と仰ってるのが、私にも理解出来ました。
確かな絆が、この私にも見えます。」
 アランは、私の言葉を覚えていたようだ。敢えて『友人』と言わずに、『仲間』
が来ると、言ったのだ。
(私にも見えますよ。確かな絆が・・・。)
 清芽殿。貴女にも、見えますか。
 それから、アランの仕事を見せてもらった。改めて見るが、恐ろしかった。何だ?
あの速さは・・・。素材を扱う速さは、恐ろしく早く、火の掛け方、飾り付けなど、
完璧だった。待ち時間なども考慮に入れて、先に先に、行動している。
「何で、皮剥き、あんな早いんだ・・・。」
 ジャンは驚いていた。ジャンも、それなりに出来るようには、なっていたが、ア
ランの速さは、別格だった。
「火加減が、完璧に頭の中に入ってるとしか思えない・・・。凄いなぁ。」
 アスカも、溜め息が出る程、素早い動きだった。
「しかも、何と楽しそうに・・・。凄いですな。」
 ショアンも見惚れている。料理が出来ない私ですら、流れる動きに見える。
「芸術だな。あれは・・・。」
 士が、最大級の賛辞を送る。私は、当たり前のように料理を食べていたが、いつ
も、あんな感じだったのか・・・。恐ろしいな。
 その後、夕食を食べたが、それはそれは、絶品のフルコースであった。


 ウチは、結局、ジャンに付いて行って、ここまで来ちゃったなぁ。
 ジャンと一緒に居れば良いやと思っていたが、居心地良くてね。
 だって、本当に仲間と言える人達が出来たんだ。
 ジャンは、仲間であると同時に、恋人だけどね。
 組織に居た頃より、強い絆を感じる。
 ウチは、夢なんじゃないかと思える程、嬉しい。
 ジャンを愛せて、愛してくれて、仲間と一緒に居る。
 バー『聖』の事に付いては、残念だけどさ。
 こんなに恵まれてるんだし、我慢しなきゃならない。
 ジャンは、組織に居た頃より、ウチを愛してくれてる。
 組織に居た頃は、どこか、行っちゃうんじゃないか?と思った。
 今は、離れる事すら考えられない。
 いつしかジャンは、『自由』と言う言葉を、口にしなくなった。
 あんなに、『自由』に拘っていたジャンが、口にしなくなった。
 ウチの事を、本気で守ろうとしてくれてるのが分かる。
 だから、『自由』と言う言葉で、逃げようとしない。
 ・・・確かに、最初に、ジャンから意図を聞いた時はショックだった。
 ウチが仲間に入った時に、正直に話してくれたんだ。
 『オレは、あの幹部2人から、姐さんを守れる自信が無いから、逃げたんだ。』
 『姐さんを、あの2人から引き離すのを諦めて逃げたんだ!』
 『オレは、誰に対しても、本気で愛せた事が無かった・・・。』
 『姐さんが想っている程、オレは、出来た人間じゃ無いんだ。』
 『情けない人間だと思ってくれて良い。でも姐さんには、知って欲しかったんだ。』
 何て言ってね・・・。
 でも何故か、ウチは、嬉しかったんだ。
 ジャンが、本気になれてないのは、何となく知ってたし・・・。
 それを承知で、ウチに、こんな事を話してくれるって事は・・・。
 誠意を見せたかったんだな・・・って思った。
 だからウチは、ジャンに言ってやったんだ。
 『全部知ってたさ。ウチは、それでも、ジャンが居てくれるだけで嬉しい。』
 それが、ウチの本心だった。
 そしたら、ジャンは、これまでに無い程、抱きしめてくれたっけね。
 泣いてたけど、あんなに愛のある抱擁は、無かったなぁ。
 ウチ、それだけで幸せになっちゃってさ。
 ショックなんて、吹き飛んじゃったんだよね。
 それから、ウチは、幸せな日々を送っている。
 『ルール』の事については、少し怖いけど、ジャンが居るしね。
 今は、ゼハーンさんの実家のお屋敷に居る。まさか、こんな大きいお屋敷だとは、
思わなかった。ウチは、世間知らずって事になってたけど、それにしたって、この
家は大きいと思う。
 執事のアランさんは、『オプティカル』の、あの馬鹿共2人を思い出すような忠
義だと最初は思ったけど、中身は全然違っていた。あんなに主人想いの人は居ない。
ゼハーンさんは、やっぱり恵まれている。
 そのアランさんに、この近くに、『華』のワインを、扱っている店があるって聞
いたので、行ってみる事にした。あのワインは、舌触りが好きでね。アランさんが、
用意してくれた、赤葡萄のワインも美味しかったけどね。
 運良く、2本程、残ってたので購入した。
 不機嫌な時に、『華』のワインを飲む事が多かったから、ジャン辺りに、これを
見せたら、心配されそうだね。
 それにしても、静かな良い所だ。シティは、高級住宅街が多いと聞いていたが、
本当みたいだ。これなら、キャピタルに2年で行けると言うのも、判る気がする。
 店からハイム家まで、歩きで20分程だ。商店街でも、ハイム家の噂は聞いた。
この辺を治めている領主だったのだが、ユード家にゼハーンさんが行った所で、影
響力は無くなったのだとか。それでも、まだ慕っている人は多かった。最も、例の
ユード家の反乱以降は、大っぴらに支持する人は少ないのだと言う。セント反逆罪
に、なりたくないのだろう。各言うウチだって、なりたくない。
 アランさんは、ハイム家存続の為、泣く泣くゼハーンさんとは、縁を切ったと、
セントに報告しているらしい。セントは、その頑固な態度に、訴追は、してないの
だとか。なので、ハイム=ゼハーンド=カイザードと言う、セントの国民章は、ア
ランさんが、ハイム家存続の為に、使用していると言う扱いになっている。だから
未だに、この国民章は有効なのだと言う。
 商店街からハイム家までは、静かで良い所だ。
「・・・?」
 ウチは、気配を感じた。ウチの後を尾行している感じだ。
 ウチは、適当な所で、路地裏に入る。高級住宅街の私道だが、人通りは少ない。
「・・・誰か?」
 ウチは、気配に向かって、鋭い視線を投げ掛ける。
 すると、気配の正体が分かった。と言うより、観念して出てきた。
「・・・ギル!!」
 ウチは、ついその名を口にする。間違いない。ジラード兄弟のギルだった。士さ
んの誓約の紋章で、『司馬』の事は、調べられなかった筈だ。
「お嬢。捜しましたよ。」
 ギルは、まだ、恭しく礼をする。
「『司馬』が職を辞したと噂がありましてね。その瞬間、胸が軽くなったんですよ。」
 そうか。バー『聖』を閉めた時に、『司馬』の事についても、清算したから、ギ
ルへの誓約も無くなったのか。
「ウチに、今更、何の用だい?」
 ウチは、問い質す。ウチは、もう『オプティカル』に戻る気は無い。
「『オプティカル』は、存亡の危機です。お嬢が居ないと駄目なんですよ。」
 ギルは、泣き言を言ってきた。今更、何を言うのか。
「ウチは、戻る気は無いと、前にも言ったけど?」
 そうだ。特に今は、士さん達の仲間だ。『司馬』と言う括りが無くたって、絆を
感じられる仲間なんだ。
「『司馬』が無くなったんなら、もう義理立てする必要も無いでしょう?もう、戻
って来て下さい。存分に自由を味わったでしょう?」
 ギルは、ウチが、義理で仲間をやってたとでも、思っているのだろうか?
「黙りな。ウチは、もう皆を仲間だと思っている。組織に居た頃とは違うんだ。」
 ウチは、ハッキリ告げてやる。
「今度は、仲間ごっこですか?」
 ギルは、溜め息を吐いた。
「・・・アンタ、今の仲間を『ごっこ』だと言うのかい?」
 ウチは、怒りを抑えながら尋ねる。
「お嬢の居る場所は、我等の傍です。」
 ・・・ふざけやがって!ギルは、まだ、こんな事を言っているのか!
「アスカ殿を連れ戻しに来たのか?だが、残念ながら、アスカ殿は、我等の仲間で
す。それ以上は、止めて戴きたい。」
 この声は、ショアンさんだ。ウチの事を、憚らず仲間と言ってくれた。
「貴様は、『剛壁』か。お嬢。このような敵の讒言を信じるのか?」
 ギルは、ショアンさんを睨み付けていた。
「讒言は、アンタの方だよ!ウチはね。もう今の仲間から離れるつもりは無いよ!」
 ウチは、もう今の絆を失うつもりは無い!
「聞き分けの無い・・・。仕方が無い。」
 ギルが、指を鳴らすと、周りから『オプティカル』の凄腕の連中を集めた集団が
現れる。何て用意が良い・・・。
「行け!!」
 ギルは、ウチを捕まえてでも、戻すつもりだった。
「舐めるんじゃないよ!!」
 ウチは、『舞踊』のルールを発動させる。
「狼藉者め!許さぬ!」
 ショアンさんも、槍を持って、応戦する。
 凄い数の凄腕を揃えていた。だが、ウチの『舞踊』のルールは、士さんとゼハー
ンさんの激しい動きにさえ、付いて行けるレベルだ。
「・・・お嬢!腕を上げたか!!」
 ギルは、次々と仲間が減っていくのを見て、驚いていた。組織に居た頃の、お飾
りのウチとは、違うんだ!
「さすがは、アスカ殿!」
 ショアンさんも、『追跡』のルールで、石を投げつけている。正確にテンプルに
当てて、気絶させている。さすがだ。
「さぁ、もう諦めな!!」
 ウチは、そう言うと、ギルに剣を突きつける。決まったかな?
「お嬢、成長しましたね。凄い強さです。でも・・・!」
 ギルが、そう言った瞬間、後ろから誰かに羽交い絞めされた。だ、誰だ!?
「お嬢・・・組織・・・存続のため。」
 この声は、イル!!そうか。今まで、居なかったのは、隙を狙ってたのか!ウチ
の首にナイフが突きつけられる。
「縛れ!」
 ギルの掛け声と共に、ウチは、あっと言う間に縛られる。ショアンさんは、ウチ
に、ナイフを突きつけられていたので、動けないようだ。
「ほう・・・。仲間ごっこも、随分長かったようだな。」
 ギルは、ショアンさんが、動けないのを良い事に、足を斬り付ける。
「ショアンさん!!ウチの事は気にせず、切り抜けて!!」
 ウチのせいで、ショアンさんが傷付くなんて、嫌だ!
「そうは行かぬ。私は、やっと絆を信じれる仲間が、出来たのだ。ここで、見捨て
るようでは、仲間に叱られるで御座る!」
 ショアンさんは、腹に力を入れて、耐えている。
「『ダークネス』の『剛壁』が、仲間だぁ?笑わせるな!」
 ギルは、『ダークネス』を毛嫌いしている。ウチだって嫌いだ。だけど・・・。
ショアンさんは、もう縁を切ったんだ!!
「ショアンさんは、もう『ダークネス』なんかじゃない!!」
 ウチは、叫ぶ。ショアンさんは、色んな所を斬られて、全身が真っ赤だった。な
のにも関わらず、一歩も動かなかった。その内に、気絶した凄腕達が、起き上がる。
そして、ショアンさんとウチの状態に気が付くと、恨みを込めて、ショアンさんに
殴る蹴るの暴行を加えた。
「止めて!!!止めてよぉ!!」
 ウチは、強引に縄を解こうとする。もう見てられない。ウチは、舌を噛もうとす
る。このままじゃ、ショアンさんが、死んじゃう!
「駄目・・・で御座・・・る。・・・ジャ・・・ン殿が・・・悲し・・・む。」
 ショアンさんは、自分の心配より、ジャンの心配をする。
「駄目ぇぇぇ!!」
 ウチが叫ぶと、縄が急に解かれた。これは・・・『念力』のルール!
 そして、後ろの方で叫び声がした。凄腕達が、どんどん薙ぎ倒されていく。
「貴方達、許さないヨ・・・。」
 眼に恨みを込めて、センリンさんが、立っていた。
「私の仲間に手を出すとは・・・。許せぬ!」
 ゼハーンさんが、『魂流』のルールで一人ずつ仕留めていく。
「本当に、良い度胸だな、貴様等。死にたいらしいな。」
 士さんは、冷静な眼で凄腕達を見る。そして、私達を『索敵』のルールで、手早
く回収した。怒っては居るが、冷静さを失っていない。この前のセンリンさんの件
が生きているみたいだ。
「てめぇら・・・ショアンさんに姐さんを・・・。許せねぇ!!」
 ジャンだ!ジャンも来てくれた!『爆破』のルールで纏めて敵を倒していた。
「クッ!ズラかるぞ!!」
 ギルとイルは、退却を命じる。確かに形勢は逆転している。しかし、逃がしたら、
また、手を出してくるかも知れない。
「いけませんな。御客人に手を出すとは・・・。」
 この声は・・・アランさん!?
「邪魔だ!どけ!!」
 ギルとイルは、アランさんに襲い掛かる。危ない!
「チッ!!」
 士さんが、『索敵』のルールを発動させようとしたが、ゼハーンさんが止めた。
「大丈夫だ。・・・アラン。遠慮は要らんぞ。」
 ゼハーンさんが言うと、アランさんは、警棒のような物を取り出す。
「旦那様のお仲間様に手を出す輩は、成敗が必要ですな。」
 アランさんは、ギルとイルの攻撃を、警棒1本で弾いていた。ギルが、隠しナイ
フを取り出す。イルは、殺しの時に使う矛を構える。
 物凄い攻撃の嵐を、アランさんに浴びせる。他の凄腕達は、既にジャンが中心に
なって、倒されていた。あんなに怒っているジャンを、ウチは初めて見た。
 ギルは、回転する様にナイフを扱う。回転の力で敵の武器を弾いて、相手に止め
を刺す、ギルの必殺技だ。しかし、アランさんは、回転の軸を見極めて、ナイフを
警棒の柄で受け止めた後、警棒の先で叩き壊す。
 その間に、イルが、矛で連続する突きを繰り出す。それを、アランさんは、突き
全部に対して、警棒の先で受け止めて、最後は矛を壊してしまった。凄い動きだ。
あんなに攻めているのに、常に攻撃を受け流す事を忘れない。この動きは・・・。
「まさか、アランも、天武砕剣術を?」
 士さんが、気付いていた。あの動きは、ゼハーンさんの動きに似ている。
「当然だ。アランは、私の師だぞ。」
 ゼハーンさんの師?それは、凄い筈だ。アランさんは、それぞれの武器を叩き壊
した後、警棒の柄で、ギルとイルの延髄に打撃を加えて気絶させる。・・・ああ見
えても、『オプティカル』では幹部だったんだけどなぁ・・・。
 全員を縛り上げると、ショアンさんと一緒に、ハイム家に向かう。ハイム家なら、
色々応急処置も出来るからだ。
「・・・ショアンさん・・・。」
 ウチは、ショアンさんの怪我を見る。酷い怪我だ。容赦無くやりやがって・・・。
「ウチが、買出しに行ったから・・・。ゴメン・・・。」
 ウチは、涙が出てきた。ウチの迂闊な行動が、ショアンさんに、こんな怪我を。
「姐さんは、悪くねぇ。悪いのは、アイツ等だ。」
 ジャンは、『オプティカル』の面々を指差す。
 そして、ハイム家に着くと、ショアンさんは、真っ先に医務室に向かわせる。ア
ランさんが、処置を施しているようだ。凄いなぁ。何でも出来るんだ。あの人。
「後は、アランに任せれば良い。さて・・・。」
 ゼハーンさんは、『オプティカル』の連中を睨み付ける。
「懲りない、この者達を、どうするかだな。」
 ゼハーンさんは、手を青白く光らせる。『魂流』のルールだ。
「私は、このまま帰すなんて、反対だヨ。」
 センリンさんまで怒っている。それだけ本気だって事だ。
「オレもだ。手を出してこなきゃ、黙ってようかと思ったが、もう限界だぜ。」
 ジャンも、本気で怒っている。ウチも、許せない。
「ま、さすがに2度もやられたら、俺にだって考えがある。」
 士さんは、誓約の紋章の用意をする。
「誓約が甘かったから、問題だったんだろ?なら、決まりだな。」
 士さんは、ここに居る『オプティカル』の面々全員の心臓に、針を刺す。
「『俺達6人に近付いたら、容赦無く心臓が、内臓破裂します。』っと。」
 士さんは、より強い誓約を埋め込ませた。そして、『索敵』のルールを使用して、
縛っている全員を移動させる。そして、一瞬で戻ってきた。どうやら、適当な所で、
解放したのだろう。
「良いのか?来るかも知れんぞ?」
 ゼハーンさんは、士さんに尋ねる。
「今度のは、強力だからな。大丈夫だ。俺達に近付くだけで、心臓に激痛が走るよ
うにしてある。前のは甘かったみたいだからな。」
 士さんは、鬼のような顔を浮かべる。どうやら、相当強い誓約を掛けたらしい。
この表情を見る限り、大丈夫なんだろうな。
「後は、ショアンさんだな。・・・頼む。アランさん!」
 ジャンは、ショアンさんの為に祈っていた。ウチも、それに併せて祈る。
 こうして、『オプティカル』は撃退した。しかし、ウチ達は、大きな傷が出来た
のであった。



ソクトア黒の章4巻の6前半へ

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