5.10.  卒業証明書

合否発表後、合格者は教室に集められ、卒業証明書ができるまでの間、待たされる。

安全運転協会のパンフレットやら、教習所特製交通安全お守りやら、いろいろ渡された中に、アンケートと便箋みたいな用紙が入っていた。鉛筆とペンが教卓のケースに入っていたので、ペンで書くんですか?と聞いたら、上機嫌の検定員が、そうですね、ディスイズアペンですね、と、この問いに対する回答としては間違った英語を言う。

アンケートに「感動したことがありましたら、なるべく具体的に書いてください。」というような質問があったので、大きい先生の捨て身の指導のことを書いた。

便箋の方は、宛名を書く欄が「〜へ」というようになっていて、書けば、特定の職員に渡してくれるようだった。迷わず書きそうになったが、よく見ると、最後に、住所と氏名を書く欄がある。もしかしたら、この手紙をもらっちゃった人は、返事を書かされるのかもしれない。そんな間接作業をさせるのは悪いので、宛名は「お世話になった指導員の皆様へ」としておいた。感謝の意を丁寧に書き記した。

でも、本当は、子どものように素直に、こんな手紙を書いてみたかった。

「いつも親切に、たくさんのことを教えていただいたのに、上手にできるようになったことは少なくて、そのことを思うと、胸がいたいです。」

最後に管理者(校長?)から講話があり、私は卒業証明書を手にしたのだった。

玄関を出ると、コースから引き上げてくる幹部がいた。

「さようなら。」

挨拶をすると、お疲れ様でした、と返された。これが、たぶん、この教習所での最後の挨拶だろう。幹部にしてみれば、深い意味はなかったに違いないが、私の教習所生活を締めくくるにふさわしい、別れの言葉だったと思う(・・・あ、名刺もらうの忘れた)。

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