5.2.     卒検

検定当日、集合場所の教室に行ってみると、シミュレータの教習で一緒だった女の子がいた。彼女は、実は2回目の卒検だという。

「どうしてうまくできなかったの?って聞かれて、いつもシートの低いのを使っているんだけど、今回普通のだったから慣れなくて、って言ったら、どうして先に言わなかったの、って・・・。頼めば34号車使わせてくれるそうです。」

「検定員は、あのー、大きい先生。あ、あそこにいます。1回だけ教習でも当たったことがあったなあ。」

いろいろ話を聞かせてくれた。

夫の話によると、教習所には、検定の時だけ現れる「検定おやじ」というのがいるらしい。その期待を裏切ることなく、「検定おやじ」が出てきた。検定おやじは、二輪教習の指導員と同じジャージを着ているが、指導員よりも年配である。

朝から、降ったりやんだりの小雨が続いていた。検定おやじが、一番年配の受検者に尋ねる。

「今日はウェットでしょうか、ドライでしょうか。」

「ウェットでしょう。」

「では、こちらの方がウェットとおっしゃるので、今日はウェットとします。急制動は、14m以内で停止してください。」

しかし、そのうちに雨は上がり、道路はあっという間に乾いてしまった。

「これだとドライですね。」

検定おやじが訂正する。

検定おやじの一般説明の後、いよいよ検定が始まった。大型二輪の検定員は、とても小柄な「小さい先生」だった。

「お二人は、34号車を使ってください。」

小さい先生に指示され、私たち女性二人は、顔を見合わせて喜んだ。

でも、本当は、ノーマルな車両で受検したかったな。あの事故が起こらなかったら、きっと今も強気のまま、卒検に臨んでいたことだろう。

検定は、普通二輪、大型二輪とも1台ずつ行われる。大型の方は、小さい先生と、なぜかもう一人の先生がついて走る。小さい先生は、後に1台ついてきますが気にしないでください、と言っていた。検定おやじ見習いか何かなのだろうか。

この日の検定は、私の得意な方である「コース2」だった。ヤマは当たったわけだ。

「検定中」と書かれた白いゼッケンを付け、一人ずつ、リレーのようにコースを走る。私は6人中5番目だったので、前の4人の受検者をじっくり観察した。みんな上手い。もう一人の女性は、波状路で後輪が脱輪したのではないかと気にしていたが、そうでないことはしっかり目撃していたので、大丈夫だったよ、と証言しておいた。

私の番が終わり、ゼッケンを片付けながら、検定おやじと話をした。なんとなく聞いてもらいたかったので、事故のことも話してみた。検定おやじは一瞬真剣なまなざしで、何したの?と聞いたが、説明すると、ふーん、と安堵したようだった。

「しかし修理代がそんなにかかるとはね。体より高いね、それじゃ。」

「私のカラダはもっと高いですよ〜。」とちょっとおどけてみせる。

「でも、久々の乗車で、ちょっとビビりましたね。」

そう言うと、ちょうどそのときそばに来た幹部が、ビビリましたか?と声をかけてくる。

結果に対する不安をごまかすようにして、コースを後にした。

検定は、不合格だった。減点されたのは、急制動の急ブレーキ、波状路(時間不足)、スラローム(時間オーバー)、平均台(時間不足)、交差点での発信手間取り(1回)。小さい先生が成績表に書いた評価は、以下の通りである。

−急制動でのブレーキ配分、課題走行での低速コントロールを練習しましょう。

やはりダメだった。でも、ただ一つ、良かったのは、検定で乗車してみて、バイクに乗りたい、という気持ちを取り戻せたこと。事故以来、何かイヤな感覚が、苦いような味が、心の中に残っていたのだが、それが消えた。

もう一度、頑張ろうと思った。

私の秘めやかな決意とは関係なく、教室では幹部が、もう一人の女性他合格者のみなさんに名刺を渡していた。

「私の名刺です。ご家族やお友達で、免許を取りたい方がいたら、紹介してあげてください。割引します。」

実用的な名刺である。あれをもらえる日を目指して頑張ればいいのだな。

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