3.5. ハードな課程

雨がしとしと降っていた。担当の指導員は温厚なチャーリーである。

大きな石をコンクリートで固めて作ったガレ場に、立ち姿勢でゆっくりと進入させられる。教習中に足首を骨折した人がいたと聞かされていたが、もしかしたらここで?怖くてつい、座ってバイクにしがみついてしまう。

「立っているのと座っているのとで、どちらが安定していると思いますか。」

そう尋ねられ、自信を持って答える。

「重心が低い方が安定します。」

間違い。立っている方が安定する、というより、安定させることができるのだそうだ。人間よりもバイクの方がずっと重いので、立ってもトップヘビーにならないということか。

この練習、立ったまま進める距離が伸びてくるにつれて、だんだん楽しくなってきた。

「では、立ち姿勢でバランスを取る練習です。前輪を縁石に当てて、そのまま立ち姿勢を保ってください。」

チャーリーはなにやら準備でもあるのか、その場を離れた。雨に打たれながら、一人ポーズを決めていると、なんだかモデルか女優になったような気がしてきた。グラビア撮影中の白石美帆になったつもりで、笑顔を作ってみたりして。

どうですか、とチャーリーが戻ってきたので、思わず、モデルか女優になった気分です、と笑顔で答えてしまった。

きつい教習のはずだったのだが、いつからこういうことになっちゃったんだろう?

「こうやって練習するのは、つるばらさんにとっていいことなんだけど、ここではこれでおしまいです。」

私があまりに楽しみすぎたためか、ちょっと変わった終了の言葉を言われた。

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