3.8. 見極め

世間は花の金曜日だが、この日も会社を17時前に抜け出し、18:40からの教習を受けに行った。フロントで配車券を受け取ると、今日の担当は・・・うっ、ジョーカー引いてしまった!班長か!怖い・・・。あの厳しい班長では今の私に見極めなんて、絶対くれないだろうと思う。

「前回はどんなこと言われた?」

と聞かれ、正直に答える。

「加速を怠けるなと言われました。」

「怠けるな、か・・・。」

指導員はふふふと低く笑い、もう一人の教習生は居心地悪そうにもじもじした。

走行中、交差点なんかでモタモタしていると、追いつかれてイタイことを言われるに違いない。できる限り急いでコースをぐるぐる回ることにした。

課題走行のエリアでライン取りに失敗し、そのまま転倒してしまった。まずい、班長が追いついてくる前に復旧しなきゃ、と焦った私は、自分でもびっくりするような速さでバイクを起こし、再び走り出していた。

波状路を抜けたら、ターンしてスラローム。もっとうまくできるはず。もう一度、もう一度、といつのまにか夢中になっていた。ふと気が付くと、班長が近くに来ていた。

「平均台を渡って、ゴールすることを考えてください。」

と注意される。しまった、コース走行の途中だった。思わず

「すみません、波状路が好きなんです。」

と、ボケてしまう。うはは、と近くにいた別の指導員は笑ったが、班長からは

「好きなのはいいことですが、最後まで行ってください。」

と大変もっともなお叱りを受けた。

妙に疲れる教習が終わり、班長、もう一人の教習生と一緒にバイク置き場にもどった。

「つるばらさんは、甘えてるっ!」

班長の唐突な指摘に、え?ええ?とうろたえつつ、頭の中はフル回転する。私が?この人に?じゃなくて?どういう意味だ?まさか・・・

取り乱してしまったが、説明によると、要するに、運転動作のひとつひとつがいいかげんになっているということだった(前にも同じこと、言われたっけ)。夢の中じゃないんだから、手を抜かないように、と注意を受けた。これは今日もダメだ、次の予約は明日だっけ、なんて考えていると、鋭い声が飛んだ。

「現実の世界に行ってください。検定!」

「ええっ!!」

我ながら、あんまりな反応をしてしまった。もう一人の教習生も見極めをもらっていたが、こんなやりとりを目にしたせいか、すっかり色をなくしていた。

でも・・・。毎回怖かったけど、私はストレートな班長が好きだった。結局一度もほめてはもらえなかったが、この指導員から見極めをもらえて、素直にうれしいと思う。

「見極め後、3ヶ月以内に検定に合格しないと、今までの教習は全て無効になります。」

「検定では、質問は全員で集合している時にしてください。後からでは、判断力がない、という風に見なされます。」

注意を受け、最後となるべき教習は終了となった。第2段階では、普通7時間で終わるところを16時間かかってしまっていた。

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